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「グッドバイ」観劇 [┣演劇]

KERA CROSS第二弾
「グッドバイ」


原作:太宰治(「グッド・バイ」)
脚本:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演出:生瀬勝久


美術:石原敬
照明:松本大介
音響:大木裕介
音楽:瓜生明希葉
衣裳:坂東智代
ヘアメイク:中原雅子
振付:林希
演出助手:伊達紀行
舞台監督:菅野將機、宇野圭一


ゆうひさんが「グッド・バイ」という芝居に出てから、高校生以来の太宰熱が復活し、短編小説を中心に乱読している。そんなわけで、今回のこの作品もとても楽しみにしていた。ゆうひさんが出た「グッド・バイ」と同じ原作の芝居にまとぶんが出るとか、すごいファンタジーじゃないですか[るんるん]
この「KERA CROSS」というシリーズは、人気劇作家・演出家であるケラリーノ・サンドロヴィッチの戯曲を別の人物が演出するシリーズということらしい。今回の演出家は、出演も兼ねる、俳優の生瀬勝久


原作となる、太宰治の「グッド・バイ」は、新聞連載中に太宰が自死を遂げたため、未完となっている。未完というか、かなり最初の段階で終わっている。
ゆうひさんが出演した「グッド・バイ」は、そうとう拗らせた太宰ファンであろう脚本の山崎彬が、尻切れトンボの「グッド・バイ」に、太宰の他作品や太宰自身の人生を重ねて一つの作品に仕上げていた。
一方、ケラさんの「グッドバイ」は、冒頭の原作使用部分は太宰の「グッドバイ」をほぼそのまま使いながら、その後については、自由に話を膨らませている。冒頭だけを借り、残りは自由に創作したケラさんによる二次創作的作品に感じられた。さらに、演出が生瀬勝久となり、作品としての面白さ、首尾一貫…みたいなものに重点が置かれた気がする。


結果、楽しい作品になった…のかもしれないが、太宰ファンとしては、とうてい受け入れられない一品を観たような気分…ソニンちゃんのファンなのに、悲しい気分になった。(個人の感想です)


戦争が終わって3年、雑誌編集者の田島(藤木直人)は、そろそろ疎開先から妻子を呼び戻す必要があると考えていた。それにあたっては、現在10人を超えている愛人を整理しなければならないだろう。それを考えると田島は憂鬱だった。たまたま、大御所作家の葬儀で出会った、文士の先生(生瀬勝久)に、とびっきりの美人を妻だと言って連れて行けば、愛人は整理できると言われ、その気になる。
しかし、そんな美人がいるだろうか…と探していると、闇市でカツギ屋をやっている怪力の永井キヌ子(ソニン)が、実はものすごい美女だったことに気づき、大金を払って彼女を雇うことにする。
こうして、次々に女と別れていこうとする田島だったが、予期せぬ出来事が起きる。妻の静江(真飛聖)が、別れたいと言ってきたのだー


二次創作として、この作品を観ると、太宰ならこういう話は書かないんじゃないか…という気持ちが強くて、とても受け入れられない。
まあ、実際は、「喜劇」として書きはじめられた太宰の「グッド・バイ」を下敷きにして、ケラさん流の「喜劇」を書いたということなのだろう。どうして、受け入れられないのかな…と考えるに、私がフェミニストだから…なんだろうな、と思った。
太宰という作家には、かなり女性的な部分があって、どうしてこんなに女心がわかるんだろう[exclamation&question]と思う。
そんな太宰が、新たに打ち出したヒロイン、永井キヌ子は、とても魅力的なキャラクターだった。豪快で、生命力に溢れて、男に媚びない女丈夫。
ウィキペディアによると、田島は妻に捨てられる構想だったそうだから、その辺りの設定は、太宰の構想通りということになる。あとは、キヌ子と田島が最後にどうなるか…という部分だが、自身を投影したようなダメ男である田島が、最後にハッピーエンドを迎える結末は、太宰らしくない。
しかし、演劇という多くの観客になんらかの幸福感をもたらしたい興行においては、あえてハッピーエンドを作り出すこともアリだと思う。
それはもう太宰じゃないけど、書いた人の創作物として、納得させてくれるのであれば、文句はない。
その中で、じゃあ、田島とキヌ子が、どんな風にラストのハッピーエンドを手繰り寄せるのか…というのは、すごく重要になってくる。一度、田島が死んだことにして、もう死んでしまった田島に対して、女たちが、それぞれ、自分の感情をぶつける…という設定はうまい。
そして、キヌ子が、青山墓地に彼のでかい墓を作る…というのは、不器用なキヌ子らしい、と感じる。
でも、最後の最後に、生きていた田島への告白がすべてをぶち壊しにする。
好きな男性への接し方がよくわからなくて、あんな風にぶっきらぼうにしてしまった…という、ブンガクでもエンゲキでもない結末。しかも、キヌ子の態度(姿勢)が、とっても、おどおどしているのだ。
そもそも、キヌ子は、カツギ屋をやっている時は、汚いかっこうをして、怪力を誇っているが、休日になると、美しく装い、背筋を伸ばして街に繰り出す女性だ。それは、彼女のような美人が、中途半端な姿勢を見せた途端、男達が寄って来ることにも起因していると思う。
男が寄ってこないほど、汚くしているか、男が近寄れないほど、完璧な美女になるか、それがキヌ子の身をを守っていた、と考えられる。
それは、ものすごい気力の連続で、だから、おどおどして、初めての恋を前にどうしたらいいかわからなかった…なんて言って、ハッピーエンドを迎えるようなラストシーンは、キヌ子じゃないし、「グッド・バイ」じゃないし、太宰じゃない。普通の男にとっての、平凡な「可愛い女」がそこにいる。
そういう物語じゃないと思っていた「グッドバイ」の意外なラストに残念さが募る。
そういえば、キヌ子、最初から、美しい衣装を着ても、姿勢が悪かったような、とか、あんまり美人じゃなかったよな…とか、もはや、別モノ感が強すぎて、私としては、無理だな、これ…という感じ。
ケラさんのせいなのか、生瀬さんのせいなのか…ソニンちゃんのせいではないと、思うけれど。


真飛聖、朴璐美は、凛としたキャラクターがステキだった。
二段組のセットや、配役の紹介方法、ヴァイオリン演奏(杉田のぞみ)などの演出は、良かったと思う。


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