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「メアリー・ステュアート」観劇 [┣演劇]

unrato#5
『メアリー・ステュアート』


作:ダーチャ・マライーニ
翻訳:望月紀子
演出:大河内直子
美術:石原敬
照明:大島祐夫
音響:早川毅
衣裳:小林巨和
音楽:鈴木光介
振付:前田清実
擬闘:栗原直樹
ヘアメイク:武井優子
舞台監督:齋藤英明
企画・製作:unrato/アイオーン


同時期に東京で同タイトルの芝居が2本上演されるというのは、とても珍しい。
間違わないように…ということか、世田谷パブリックのシラー作のものは、「メアリ・スチュアート」というタイトルで、本作は、「メアリー・ステュアート」というタイトルで上演された。こちらは、イタリアの劇作家ダーチャ・マライーニの脚本による二人芝居。
ややこしいのは、マライーニの脚本がシラーの戯曲を基に書かれているということ。(史実をシラーとは別の視点で描くのではなく…)
なので、先にシラー作の世田パブ版を観ておいたのは、とても良かったと思う。
いきなりモーティマーのメアリー救出劇の話が出てきても、ああ、りょん(三浦涼介)のアレね…とか、ポーレットの悪口が止まらなくても、ああ、あのおっさん(山本亨)のことね…と思えて、事前の勉強をしなくても、問題なく物語の中に入れた。


メアリー・ステュアート(霧矢大夢)と、エリザベス1世(保坂知寿)は、同じような生成りのドレス姿。現代から見ると骨董品の山に囲まれた化粧前に座り、開演の時を待っている。この、それぞれの化粧前と狭いフリースペースが彼女たちの演じる空間だ。
二人芝居ではあるが、彼女たちは本役だけでなく、それぞれの侍女など、会話の相手役をも演じる。男役も、女役も。メアリーの侍女・ケネディは、シラー版にも出てきたが、母親の愛に飢えているメアリーにとって、母親を思わせるような存在。一方、エリザベスの侍女・ナニーは、エリザベスの無理難題に耐え、いささか同性愛めいた接触も持つ。また、エリザベスの寵臣、ウォルター・ローリーが女官と結婚した時には、その女官を呼び出し、折檻する。
そんな女性同士の様々な関係が、とてもセクシーに見えた。


シラー版を底本にしながら、大きな違いがあったのは、処女王と呼ばれるエリザベス1世を「本当の処女」に設定したことだろう。歴史研究家の間では、結婚こそしなかったものの、エリザベスは、多くの愛人を持っていたと認識されているし、シラー版でも、1幕の終わりに、激しいラブシーンが用意されている。
しかし、マライーニ版では、それらの寵臣たちを「精神的な恋愛の相手」とし、肉体的には処女であったエリザベスの、それだからこそ…の性への興味、恐怖、国家への責任もなく、自由に結婚できる者達への憤りなどが、端的に伝わり、史実とは違ったとしても、ドラマとしての面白みが増したと思った。
そして、このマライーニという現代女性の脚本を、女性が翻訳し、女性が演出した、女性二人による二人芝居だからこそ、この禁断ともいうべき、エロティックな空気感が伝わったのかな…と思った。在団中、どちらかというと健康的なキャラだった霧矢が、まさか、このようなエロティックな空気感を纏うようになるとは…[あせあせ(飛び散る汗)]


メアリーの最後を語るケネディ(保坂)の姿は、鬼気迫るものがあり、素晴らしい独白だった。処刑を異常なまでの興奮を帯びて語る冒頭のナニー(霧矢)を思い出すと、霧矢の演じるメアリーの斬首シーンなので、皮肉な感じ。
当時の斬首の残酷な場面を聴くにつけ、ギロチンって、本当に人道的な処刑道具だったんだな…と思ったりして。三度も斧を振り下ろされたメアリーの残酷な最期に胸が痛くなった。


観ることができて、本当によかった。素晴らしい舞台でした[黒ハート]


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