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「FOCUS ON」シリーズの続き [┣宝塚作品関連本等の紹介]

以前、新しい写真集のシリーズについての記事を、かつての「My Style」シリーズと比較して書いた。
その後、順調にシリーズは刊行されるようで、すでに第3弾まで発表されている。さすがにここで終わりそうな企画ではないので、あの縁起の悪さは払拭されたような気がする。
お気に入りの鳳月杏さんの発売が決まったので、第2弾、第3弾をまとめて紹介します。


第2弾「彩凪翔」
海辺で遊ぶ青春まっただなかの瑞々しい若者、大人の魅力を感じさせる精悍な青年、さらには、洋館にたたずむスーツ姿のダンディーな男性などのポート、紛争写真、日々の様子を稽古や公演の合間に彩凪自身の手で書きつづったブログ風コーナー、ゲストは、雪組トップスターの望海風斗と、2番手スターの彩風咲奈。


第3弾「鳳月杏」
クラシックな洋館にたたずむ端正な黒燕尾の青年、ダルマ燕尾の妖艶な女性、そして満開の桜の下に幻のように現れた着流しの男などのポート、ゲストは、花組トップスターの明日海りおと宙組2番手スターの芹香斗亜。本人はもとより、演出家、振付家、共演者達へのインタビューも。


おそらく人選としては、2番手スターより上級生の新公主演経験者で、かつてパーソナルブックを出していない生徒…ということになるのではないか、と推察。全部で5冊程度になるのかな。
どうか、これが登場するみんなの飛躍のきっかけになりますように。


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「原作のフェルゼン」名セリフ集 [┣宝塚作品関連本等の紹介]

宝塚歌劇「ベルサイユのばら」には、大きく分けて、

  • オスカルとアンドレ編
  • オスカル編
  • フェルゼンとマリー・アントワネット編
  • フェルゼン編

の4種類がある。
この中で、「フェルゼン編」は、原作におけるフェルゼンの登場シーンがそれほど多くないため、“盛り上がるのが難しい”と、もっぱらの評判である。←脚本を真似てみた[爆弾]

しかし、本当にそうだろうか?
原作を丹念に見ていけば、フェルゼンのかっこいいシーンはいっぱいあるし、名ゼリフだってめちゃくちゃある。
ぜひぜひ、ホンモノ(?)のフェルゼンの素晴らしさを知ってください[ぴかぴか(新しい)]
※フェルゼンのセリフを『 』で引用し、状況等は私の言葉で解説させていただきます。

『悪いのはアンドレではない。わたしも正義のために死ねるぞ、オスカル』
アンドレが不注意から王太子妃時代のアントワネットに怪我をさせた時、死刑になりかかったアンドレのために、オスカルが命をかけて国王に掛け合おうとする。その時、フェルゼンも国王の前に膝をついて加勢するのだった。
男らしい[exclamation×2][いい気分(温泉)]
この時、たしかに、オスカルもすっごいオトコマエだった。
後に、この時のことを思い出して、アンドレは、オスカル毒殺を思いとどまる。それくらいインパクトのある場面だった…。
でも[exclamation×2]オスカルはアンドレの主人、冷静に考えれば、庇うのは当然っちゃー当然。
赤の他人のために、正義を貫くフェルゼン、惚れます[かわいい]

『では……愛していれば………愛してさえいれば結婚できるのか………?』
フェルゼンのこんなストレートな男らしさに、アントワネットだけでなく、オスカルが惹かれたとしても、無理はない。しかし、女であることを封印して、軍人として生きているオスカルゆえに、自分の女心に気づくのは遅かった。
ってなわけで、まだ恋心を自覚する前、オスカルはフェルゼンの結婚話に、無意識に反対意見を述べる。政略結婚に乗り気なフェルゼンに、“愛してもいないのに、結婚するのか?”とオスカルが激昂する。それに対して、フェルゼンが押し殺したように言い返したのがコレ。
「ベルばら」の中でも10本の指に入る名台詞だと思います[ひらめき]
フェルゼンが政略結婚を積極的に受け入れようとした裏には、王妃以上に愛せる女性に巡り会うことは、一生ないだろうという、彼の深い思いがある。
それを思うと、さらに味わい深いセリフです[グッド(上向き矢印)]

『愛している…と……王后陛下を愛してしまったと、どうしていえる!?』
こちらは、その政略結婚話が進行中、そのことを正直にアントワネットに話してしまったフェルゼンに、オスカルが、“なぜ言った?”と問い詰めた時のフェルゼンの答え。
その時点で、オスカルは既に王妃の心を知っていて、フェルゼンの言葉を聞いて涙を流す王妃を見て、そんなデリカシーのないヤツだったのか!と、直談判に行く。
そしたら、フェルゼンも苦悩していて、このセリフですよ…[もうやだ~(悲しい顔)]
アントワネットは、わりと単純なキャラなので、彼女の“好き”は分かりやすい。でも、フェルゼンの“好き”は、もっと複雑なので、オスカルも彼の思いがどこまで真剣なものか、熱いものか、計りかねていた部分があったんじゃないかな。苦悩するフェルゼンを見て、オスカルの心も乱れる。そこまで本気だったのか…と。
で、私のハートも乱れました[揺れるハート]

『フェルゼンは…ただいま、ここで、この首をうたれようとも、後悔はいたしますまい…』
愛し合う二人の気持ちは、とうとう抑えることのできないものになり、フェルゼンとアントワネットは、ほぼ同時にお互いへの愛を告白、両想いを確認し合う。
初めてのキスを交わした時のフェルゼンのセリフです。
情熱的[いい気分(温泉)]

『だからわたしは一生、だれとも結婚はしない!!神がそのようにさだめられた…』
アントワネットと気持ちを確かめ合ったフェルゼンは、その後婚約を解消し、生涯独身を通す決心を固める。
それを聞いて、オスカルは、個人的にショックを受ける。フェルゼンの想いの深さに感動しつつも、自分の想いが叶わないことを宣告されたようなものでもあるから…。
アントワネットには夫がいて、国家のために子どもを産むという義務を負っている。
それを許しながら、自分は彼女のために、人生を捧げようとする。その無償の愛に、じーん[いい気分(温泉)][グッド(上向き矢印)]

『オスカル!すまないがわたしは逃げる…逃げるぞ!』
でも、燃え上がる二人の心は、だんだん周囲にも隠せなくなり…フェルゼンは、アメリカの独立戦争に参加することで、アントワネットと距離を置き、噂の鎮静化を図ろうとする。
命の危険を冒してまで、愛する人の立場を守ろうとする…なのに、台詞はこれ[ひらめき]
なんと奥ゆかしいのでしょう[ぴかぴか(新しい)]
こういうところが、舞台との一番の違いかも[exclamation&question]

『わたくしのこの愛がそう命じるのです。もはやけっして…けっしておそばを、はなれますまい。ともに地獄におちようとも、おともつかまつります!』
独立戦争が終わった後、アメリカで熱病に罹り、九死に一生を得たフェルゼンは、再び王妃のもとに戻ってくる。
その時、アントワネットはすでに二人の子の母となっていたが、そんなの関係ねーとばかりに、一気に盛り上がる二人[グッド(上向き矢印)][グッド(上向き矢印)][グッド(上向き矢印)]
その裏側で、フェルゼンは、ある種の覚悟を決めたのかもしれない。
すでに何もかもが遅いのだとしたら、(革命までは予想してないにしても)なにかあったその時は、本当に地獄まで共に行こうという決意。
なんという情熱…[ぴかぴか(新しい)]

『おまえがニコラスとジャンヌを討ちとりにいくと、きいたとき、どれほど、いっしょにいってやりたいと、思ったかしれない』
王妃の愛人という目で周囲から見られているフェルゼンは、表立った行動をとることが難しい。危険な仕事は、いきおい、王妃の近衛兵であるオスカルに回る。
そんなオスカルの身を、親友として、誰よりも気遣っているのがフェルゼンだったりする。
でも、向こうは親友のつもりか知らんが、こんな言葉を好きな人に言われたら…
残酷だわ…[バッド(下向き矢印)][爆弾][爆弾][爆弾]

『美しい人で……あなたのようなみごとなブロンドの髪をして……心やさしく教養も高い。そう……自分の思想のためには命もかけるような……そんな人で……。美しい人なのです。だが……金モールの軍服にかおる肌をつつみ、さながら氷の花のように男性のまなざしをこばむ……』
とうとうオスカルは、フェルゼンへの思いに決着をつけるべく、ドレスを着て、化粧をして舞踏会に出掛ける。
フェルゼンは、オスカルにダンスを申し込み、あまりによく似ているので、つい、オスカルのことを語ってしまう。それを聞いて、オスカルはフェルゼンを諦める決心をする。
美しいっていう以外は、とりたてて女性として褒めてるようでもないけど、人間としての美点を言ってくれたフェルゼンの言葉が嬉しかったんだろうなーと思うと、オスカル、切ないぞ[もうやだ~(悲しい顔)]

『オスカル!もう……もう永久に…あうことはできない…な…』
でも、やっぱり、ちょっと化粧したくらいでは、バレバレで…後日、フェルゼンはそのことに気づいてしまう。“もしかして、君は僕を?”とか間抜けな質問をすることもなく[爆弾]フェルゼンが発した言葉がこれ。
親友として、行き来しあって来た二人だったが、その思いを知ってしまった以上、これまで通りの交際を続けることはできない。原作ではここでスウェーデンに帰るわけではないので、同じベルサイユにいながら、会わない決心をする切ない場面。
もちろん、偶然に会ってしまうことは、その後、何度かあったりするわけだが、その時は、お互い、親友としてのポジションでしっかりと目を見て話す。そういうところも素敵な二人だなー[決定]

『暴民ども!!耳の穴かっぽじって、しかときけい。わが名は……わが名は、ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン』
オスカルが平民に襲われているところに行き会ったフェルゼンは、部下を引き連れて、彼女を救い出すが、オスカルは、“わたしのアンドレ”がそこにいると言って、一人で逃げようとしない。
そんなオスカルの思いを知って、フェルゼンは、アンドレを助けるために、もう一度平民たちのところに戻って、声高らかに宣言する。
フェルゼンを窮地に残して、アンドレを救い出し、脱出するオスカルが、自分の思いを少しずつ認め始める重要なシーンだったりするのだが、友人を救うために、これだけのことをしちゃう人、なんてかっこいいの[exclamation&question]

『どんなところ!?かのロココの夢のこす、香わしきフランスの地。父上のあんなに愛でられたフランスでございます』
前述のシーンは、スウェーデン国王の命令で帰国する途中の場面だった。その後、ロシアとの戦争などがあって、一時的に実家に帰るも、フランスの国情が騒がしくなり、フェルゼンはさっそく戻る決心をする。その時、父上に“お前の行こうとしている国がどんなところか…”と怒鳴られ、こう返す。
フェルゼンの父親は、フランス贔屓だったそうなので、複雑だったでしょうね。
この後、弟や妹とも別れの言葉を交わし、じいや一人を連れて、ふたたび彼はベルサイユを目指します。熱いわ…[どんっ(衝撃)]

『い…急げパリへ』『ではどけ!』
旅の途中で、革命騒ぎの真っ最中という話を聞いて御者が難色を示した場面がここ。
パリへ行きたくないという御者に、フェルゼンの反応は早かった。馬車ジャック[exclamation]
でも、この時、すでにオスカルは落命していました…合掌[もうやだ~(悲しい顔)][もうやだ~(悲しい顔)][もうやだ~(悲しい顔)]

『お忘れでございますか、王后陛下。ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン、たったいまベルサイユに到着いたしました』『ともに死ぬためにもどってまいりました…。あなたの忠実な騎士(ナイト)にどうぞお手を…』
革命が起き、貴族たちはどんどん亡命していく。
一人残されたアントワネットのもとに帰ってきたフェルゼンの台詞がこれです。
かっこいいっ[グッド(上向き矢印)][グッド(上向き矢印)][グッド(上向き矢印)]

『わたくしがやりましょう!』
国王一家を海外に逃がす計画が立てられたが、誰も中心に立って行動しようとしない。
その時、声を上げたのがフェルゼンだった。
どこまでもオトコマエ[ぴかぴか(新しい)][ぴかぴか(新しい)][ぴかぴか(新しい)]

『命よりだいじな女性(ひと)の危機に…きみなら休んでいられるか…?』『神よ、神よ…!いますこしの力をあたえたまえ。わたしの命とひきかえでもいい。あの方を…あの方の夫を、あの方の子どもたちを…』
たった一人ですべての計画を管理しようと、フェルゼンは不眠不休で頑張る。
倒れそうになったフェルゼンに、少し休んでは?と周囲が止めるが、その時、フェルゼンはこう答える。
後半はフェルゼンの独白。
私、この台詞がすごく好きなのです。“あの方の夫を”って。
フェルゼンの愛は、アントワネットの属する世界のすべてを守ろうとしている。
そこがたまらない![グッド(上向き矢印)][グッド(上向き矢印)][グッド(上向き矢印)]

『あなたの肩に未来のルイ17世の命がかかっているのです!!』
でもアントワネット的には、恐ろしい逃亡だったと思います。
怯えるアントワネットには、叱咤の声をかける、フェルゼン。
決して甘やかすだけの愛ではない[黒ハート]

『おまえに……命をかけた愛というものを見せてやろう……。もとより生きてパリから帰れるとは考えていない。愛の狂気にとらわれた者の死にざまを見るがいい』
しかし、ヴァレンヌで逃亡は発覚。
ベルギーに亡命したフェルゼンは、再びフランスを目指す。
もちろん、彼の首には、賞金がかかっている。それでも、彼は躊躇せずにフランスを目指す。
これだけの愛のドラマってなかなかないと思うのですが[ひらめき]

『わたしが殺されたら、あなたがあとをついでください……』『わたしは昔、このフランスに生涯最高の友をひとりもっていました。オスカル・フランソワ…ふしぎなものです。彼女は革命に生き…わたしはこうして最後の貴族、王党派として生きている……』
そして、フェルゼンは、新しい逃亡計画のためにジャルジェ将軍を訪ねる。
その時、フェルゼンがジャルジェ将軍に言った言葉がこれです。
生涯最高の親友同士が、選んだ別々の道…このセリフを言って涙するフェルゼンに私も泣きました[もうやだ~(悲しい顔)]

『マリー・アントワネット、わが女王…』
テュイルリー宮殿に忍び込んだフェルゼンは、見張りの兵隊を殺して、王妃の部屋を訪れる。
その、罪を犯す時の言葉がこれ。
命を懸けるだけでなく、人殺しも辞さない。不退転の思いがこの一言に込められている[爆弾]

『…フェルゼン家の紋章がほってございます。未来永劫、わたくしの妻は、あなたひとりです』
二人が過ごした一夜、フェルゼンはアントワネットに指輪を渡し、二人はここで初めて結ばれたという設定になっている。
でもそれは、アントワネットにとって、永遠の別れの挨拶だったようです。
国王は、もう逃げないという国民との約束を守ろうとし、アントワネットは、マリア・テレジアの娘として毅然として死を待つ覚悟を告げる。
20年近い愛の結末を前にフェルゼンの思いは、どんなだっただろう…と思うと切ないですね。

『のろわれるがいい。いまわたしが呼吸しているこの空気よ。愛する人におくれて生きながらえているこの身よ!!』
アントワネットが断頭台の露と消えた日、フェルゼンは、こう泣き叫んで我が身を呪う。
どこまでもドラマチック・フェルゼン[exclamation×2]

そして、その誓い通り生涯独身を通したフェルゼンは、みずからの罪の日として決して忘れはしなかった、ヴァレンヌ逃亡発覚の日=6月20日(1810年)に、スウェーデンの民衆によって虐殺されたとか。
愛するアントワネットと、同じ形の死を迎えたということも、フェルゼンらしいなぁ~[揺れるハート]と。まぁ、これは史実ですが。

いかがでしたでしょうか?
フェルゼンって、本当は、ステキ男子なんですよ。
どうして、40年間、ずっと不遇なのかしら[もうやだ~(悲しい顔)][もうやだ~(悲しい顔)][もうやだ~(悲しい顔)]


5組トップ、互いを語る! [┣宝塚作品関連本等の紹介]

家庭画報9月号に宝塚歌劇の特集記事が載っている。

家庭画報 2010年 09月号 [雑誌]

家庭画報 2010年 09月号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 世界文化社
  • 発売日: 2010/07/31
  • メディア: 雑誌

 

でもって、中身は、各組トップスターの舞台写真とオフショットを篠山紀信氏が激写していて、少々インタビューらしきものもあり、その中で、トップスターがお互いの印象を一言で語る、というのがある。これが面白い。

もちろん、TCAなどではお話をしたりしているだろうが、やはり、同じ組で一緒に作品を作った関係と、そうでない間柄には具体性に差があるんだなーと思ったり。
家庭画報では、その人が他の4トップをどう思っているか、という感じで編集されていたので、そのトップが他の4トップにどう思われているか、という視点で書いてみよう。

水夏希(雪組)…魅惑。神秘的。by真飛
          公演中も稽古に励む追求心のある方by柚希
          何でもスマートにこなす人。by大空
          熱い氷by霧矢

真飛聖(花組)…美しい。by水
          いろいろと教えてくれるお兄ちゃんのような存在by柚希
          細やかな気遣いのできる人。by大空
          凛とした華やかさby霧矢

柚希礼音(星組)…熱い。by水
           草原を走るライオン。by真飛
           ダイナミックな人。by大空
           大地を揺るがすエネルギーの塊by霧矢

大空祐飛(宙組)…クール。by水
           クール&キュート。by真飛
           大人で余裕がある感じ。by柚希
           Sophisticated&Natural by霧矢

霧矢大夢(月組)…正統派。by水
           正義感の強いヒーロー。by真飛
           ものすごい研究熱心で努力家。by柚希
           わんぱくな愛されキャラ。by大空

そして、大空さんと霧矢さんが過ごした年月の長さと、なんだかんだ言って祐飛さんが上級生だったんだなーというのが、一番大きな感想。
重いので、近くの本屋さんで購入することをおすすめします。観劇のついでに劇場で買うとえらいことになりますよん。             


ルノーが好き [┣宝塚作品関連本等の紹介]

「カサブランカ」の初日が近いので、映画版のDVDを見て勉強している。

カサブランカ [DVD] FRT-017

カサブランカ [DVD] FRT-017

  • 出版社/メーカー: ファーストトレーディング
  • メディア: DVD

カサブランカは、モロッコ最大の都市。
ただし、この映画の時代には、フランス領となっている。

パリ陥落の戦禍を避けてアメリカに逃れようとすると、ポルトガルのリスボンが中継地となる。
が、パリからリスボンに直行するのは難しく、陸路でマルセイユまで行き、そこから、地中海を渡ってオランへ。そして、列車でフランス領モロッコのカサブランカに行く。ここで、リスボンへの出国ビザが手に入れば、アメリカに行ける。
それ以外の人々は、ただ、この地で待つしかなかった。

戦時中のカサブランカはそんなわけで、雑多な人種の坩堝と化している。
そこで、人の弱みにつけこんで私服を肥やす人もいる。危険な仕事に手を染めて、大金を得ようとする人もいる。
そんな中、「リックの店」は、今日も多くの外国人で賑わっている。
「Rick's Cafe Americain」という店名だったと思う。カフェだけど、夜は普通にお酒を出している。
看板は、ピアノを弾いて歌う黒人のサム。
でも、本当のウリは、奥のカジノ。そこへは、リックが了解した人物しか入れない。

冒頭、一人のドイツ人官僚が殺害されたというニュースが入る。
そして、その男は、フリーパスの通行証を奪われていた。
この事件を追って、ドイツからシュトラッサー少佐が派遣される。フランス領カサブランカは、ドイツの占領下にあるわけではないが、本国の首都が押さえられている現状では、フランス人のルノーは彼のご機嫌をとるしかない。

出国ビザを高く売って荒稼ぎをしているウガーテをリックは軽蔑しているが、だから信用できる、とウガーテはリックに、通行証を預ける。
彼が今日会う予定だったのは、フリーパスの通行証でもなければ、とても出国できないだろう人物-レジスタンス組織のリーダーであるラズロだった。が、ウガーテは逮捕され、死んでしまう。

ラズロは、イルザという女性とともに、リックの店を訪れるが、イルザはそこでサムを見て、声を掛ける。イルザこそ、リックが唯一愛した女性、そして、その突然の失踪に心をかき乱された女性だった。
「あの曲を弾いて」
イルザのリクエストにサムは、封印していた曲を歌いはじめる。
“As Time Goes by”
「サム、その曲は弾くなと言ったはずだ」
飛び込んできたリックとイルザ、そして事情を知らぬげな、ラズロ。

レジスタンスのリーダーは無事出国することができるか?深く愛し合うリックとイルザの恋の行方は?そして、ルノーは、シュトラッサーとリックのどっちに付くのか?

ラブロマンスにサスペンスが巧みに織り込まれた見事な映画で、主人公のリックも、かっこいいだけじゃなくて、女々しいとこもあったりする人間くさい人物。こういう役を演じられるなんて、大空祐飛は、なんて運がいいんだろうと思う。

しかーし!
私の好みは、ボギーでもヘンリードでもなく、ルノーさんなんである。
「歌劇」の座談会で祐飛さんもルノーがいいと言っているが、そういう意味ではなく、完璧に好みのタイプなの。ちょっと背が低いけど、顔も含めて一番ステキだと思う。
多少丸いかもしれないけど、肉布団入れるほど太ってないと思うんですがね、みっちゃん!
二枚目な、ルノーさんが見たいよー。

ちなみに、DVDの写真、右はじの方です[ハートたち(複数ハート)]


小説で知る「銀ちゃんの恋」背景 [┣宝塚作品関連本等の紹介]

「銀ちゃんの恋」の原作は、「蒲田行進曲」。
「蒲田行進曲」は、映画・舞台・小説…と様々に展開しているが、実は、これらの間のタイムラグはほとんどない。
1980年 劇団つかこうへい事務所にて初演。
1981年 小説を「野性時代」に発表。直木賞受賞。
1982年 映画化。劇団解散公演として再演。
ウィキペディアによると、こんなタイトな時間で、「蒲田行進曲」は広まった。ちなみに沖雅也自殺で話題となったテレビドラマは1983年の放映らしい。

錦織一清を中心に再演されるのが1999年なので、実は、宝塚の「銀ちゃんの恋」(1996)は、名作を掘り起こしたことになるのかもしれない。

小説版「蒲田行進曲」は、前半を「ヤスのはなし」、後半を「小夏のはなし」として、それぞれ一人称で語られる。バトンタッチの場面は、ヤスのアパートに小夏を置き去りにしたあの夏の日だ。
「ヤスのはなし」では、ヤスの心情が、「小夏のはなし」では、小夏の心情が、舞台と違って100%本音で登場する。
もちろん、銀ちゃんの心情はどこにも吐露されていないが、一番身近にいた、ヤスと小夏の証言によって銀ちゃんの人物像も立体的に浮かび上がっている。
そして、小説だから、上演時間の決まっている舞台と違って、もっと詳細な情報を盛り込めたりする。

  • 「新撰組」は、銀ちゃんにとって、“初めての主演映画”
  • 橘は演技派のスターだが、実際にはマイホームパパ。年は銀ちゃんより若いけど、もう何本も主演映画を撮っているから、銀ちゃんより格上
  • 大道寺監督はテレビ出身で、東大出のインテリ
  • ヤスは日大芸術学部出身
  • マコトは中卒で集団就職で上京。東北出身
  • 銀ちゃんも中卒
  • 銀ちゃんは、新劇の「俳劇」にいたことがある。ヤスは劇団の後輩にあたるが、同時期に在籍していたことはない。ヤスは舞台での銀ちゃんを観たことがある。「かもめ」のトレープレフを銀ちゃん流に演じていたらしい
  • 主演はないが、銀ちゃんは「助演男優賞」なら2回もらったことがある
  • 銀ちゃんは33歳
  • ヤスは本当に小夏のファンで、そのため銀ちゃんは、ヤスには気を遣っていて、真夜中、銀ちゃんの部屋に呼びつけるのは、トメさんとかマコトとかに限定されていた
  • 銀ちゃんと小夏は、くっついたり離れたりしながら、3年ほどの仲
  • ヤスの実家は、熊本大学病院まで往復5時間かかるらしい
  • 小夏の実家は水戸。小夏の両親は15歳年齢差がある
  • ヤスには、その昔、主演映画の話があった。ところがその「当り屋」という映画で、本当に車に当たって怪我をしてしまったため、映画は中止になった
  • ヤスの母親から来た宅配便を送り返していたのは、小夏を敬愛している10歳下の弟
  • 「誰だ、こんなところに古釘置いたのは!」辺りは、ヤスの自作自演。撮影所の全員がそれに気づいている

なーんて情報を、ちょっとだけ頭の片隅に入れつつ、公演を観ると、また違った面が感じられるかも?


「愛と死のアラビア」原作に挑戦 その3 [┣宝塚作品関連本等の紹介]

「その3」になりました。ようやく、ヒロイン登場となります。

第22章 アノウドとの出会い
略奪の夜、我慢できずに街に出たトマスは、ひとりの女を助けた。父を殺され、家を焼かれ、自らも辱めを受けようとしていたところを助け、総督府に連れ帰った。
女は、左手の指を3本傷つけられ、うち1本をほとんど失いかけていた。
トマスは、少年兵のヤシムに命じて、手当の準備をさせた。そして、既に用をなさなくなった指を切断してやり、傷口を洗い、アラック酒で消毒した。
手当てが終わると、トマスは再び街へ出た。そして、女と出会った場所に行き、彼女の父親の死を確かめた。
翌朝、女は軍医の手当てを受け、ヤシムが彼女のための手伝い女を見つけてきた。トマスの指示通り、ガマのような老女だった。
手当てを受け、気を取り直した女と、正式に挨拶を交わし、事情を聞くと、女には既に身内はひとりもいないようだった。
「ならば、必要な時は私を兄と思って下さい」
と言うトマスに、女は、アノウドという自分の名を告げるのだった。

第23章 トマスの結婚
トゥスンが同じ日、メディナに乗り込んできた。
彼は、略奪の夜について、司令官のアーメドの責任を追及し、彼を解任する。
再会したトゥスンに、トマスはアノウドのことを話した。彼女が身内を持たないことをトゥスンは懸念する。嫌になった時に帰す里がないからだ。
また、トマスは、アノウドにも正式に結婚を申し込んだが、彼女も同じことを懸念した。が、トマスの出身には、嫌になった妻を離縁する風習がないことを知ると、もし必要な時は、二人目の妻を娶ってほしい、私はその方を妹として遇します、と伝え、父の喪が明けたらトマスの妻になると誓うのだった。

第24章 婚礼の夜
婚礼が終わり、夜が訪れた。
トマスは、男たちにはやされながら、“女の館”に入った。
イスラム社会では、新婚初夜においては、女は男にどれだけ抵抗してもよく、その抵抗に打ち勝つのが男の勤め、ということになっていた。事実、トゥスンも新婚の翌朝には、頬に爪痕があった。
一方、西洋の慣習からいけば、このような場合、まず、キスをして相手の緊張をほぐすものだろう。ところが、イスラムの世界では、女の身に付けているもので、唯一男が勝手に外してならないものが、顔を覆うヤシュマクなのだという。
静かに手を取り、傷痕が治っていることを確認し、帯を解こうとしたが、アノウドは抵抗を見せず、ヤシュマクも自分で外してくれた。
初めて見るアノウドの顔は決して美人ではなかったが、大きく表情豊かな口元をしていて、トマスは彼女の顔を気に入った。痩せすぎではあったが、肌の色は、恐ろしいほどに白かった。
初夜に当たり、新妻は、腋と下腹部の毛を毟り取られてしまうらしい。その痕が赤みを帯びていて、トマスは気の毒に思った。また、翌朝になれば、女達が、彼女がトマスのものになったという証を確認に来るらしい。もし、その<印>がなければ、アノウドは“お気に召さなかった女”か、“尻軽で槍が貫くべき壁がなかった女”と陰口を叩かれるらしい。
トマスの方も、イスラムの掟を守らなければならない。ことの後は、必ず沐浴して身体を清めなければならないのだ。冷たい水に身を浸しながら、トマスは、万物と強い一体感を感じていた。
2日後、トマスは、メッカへ向かった。トゥスンは、アノウドと結婚したトマスに嫉妬していた。そんなトゥスンに、トマスは、結婚したからといってトゥスンへの思いがなくなるわけではない、と明言するのだった。

第25章 メッカにて
ヨーロッパでは、ナポレオンがモスクワ侵攻に失敗していた。
ジッダ港には、ムハンマド・アリが来訪していた。
トゥスンから連絡をもらい、トマスは、一緒に鷹狩りをした。が、トゥスンは、心ここにあらずといった感じで、結果は散々だった。
理由を聞くと、父・ムハンマド・アリからひどい指示を受けたという。
ムハンマド・アリとメッカのガーリド大総督は、互いに相手の利を損なうことをしないと、コーランにかけて誓っていたが、実のところ、ムハンマド・アリはガリードを除きたがっていた。そこで、トゥスンにそのための謀略を命じたのだ。
丸腰でトゥスンのもとに訪れたガリードは、武装した兵士に包囲され、すべての権限をムハンマド・アリに移譲することに同意した。その卑怯な行為に加担したことを、トゥスンは悔やんでいた。

第26章 魔女ガリア
ガーリドの解任により、ムハンマド・アリは信用を失っただけでなく、人材も多く失い、同盟していたベドウィンはワッハーブ派に流れて行った。
1ヶ月後、ムハンマド・アリの命令により、トマスは、要塞の町、トゥラバを攻めることになった。
ところが、トゥラバは、未亡人で魔女が支配しているという噂があり、兵士たちの士気は落ちていた。また、ガーリドへの仕打ちに怒った部落民たちが、道々襲撃してくるという災難もあった。
トゥラバ最初の戦闘は手ひどい損害を被った。
兵士たちは、トゥラバ攻略を諦めきっていた。
トゥスン、トマスら将校が集まって会議を開き、トゥラバからの退却を決めた。
負傷兵のうち、ラクダの背に乗せて運ぶことすらできない者は、友人・親族の手によって、とどめをさされる。トマスは、前日見舞ったムーサのことが気になり、テントに行った。彼はまだ生きていた。トマスは友人として、彼にとどめをさした。

第27章 峠の攻防
翌朝、退却の前に敵の攻撃が始まった。彼らは口々に、解任された大総督の名を呼んでいた。
ベドウィン騎兵隊は、トマスの命令のもと、歩兵を庇うように敵陣との間に割って入った。
このため、退却は容易になったようだったが、斥候が敵兵はトマスたちが残してきた大砲をこちらに向けているとの情報を持ってきた。
トマスは斥候に、奇襲できる道を尋ね、奇襲作戦は見事に成功した。
大砲は、使用されないまま、そこにあった。味方が退却した後、それを追う敵兵に向けて、この大砲を撃つことをトマスは決意する。
神はトマスに味方し、大砲で敵兵を撃退することができた。また、敵の狙撃兵を銃で狙撃し、倒すこともできた。ターイフに後退するまであと少し。しかし、トマスもトゥスンも疲れ切っていた。

第28章 つかのまの安らぎ
トゥラバからの必死の退却から1か月、トマスは、ターイフとメッカの間を行き来する日々が続いていた。
そこで、トマスは、ターイフに家を借り、アノウドを住まわせることにした。
ターイフの下宿の中庭には、ダマスクローズが咲いていた。トマスは、アノウドのための、そのバラを1日1本摘んでもいい、という約束を大家と結んでいた。
トマスの新居には、トゥスンも訪れ、トゥスンとアノウドは姉弟のように親しむのだった。
一方、その頃、エジプト軍の敵、ワッハーブ派の指導者、サウド・イブン・サウドが死んだ。

第29章 メディナ総督
ムハンマド・アリは、最近死んだメディナ総督の後継として、トマスを据えようとしていた。それを聞いたトマスは、躊躇する。なぜなら、メディナは、メッカと並ぶイスラムの聖地。異人種である自分に務まるとは思えなかったのだ。
しかし、ムハンマド・アリは、そのようなことには頓着せず、トマスを総督に任じた。
一度、ターイフの家に帰り、アノウドにそのことを告げると、アノウドもトマスに吉報を告げた。トマスの子を身ごもったというのだ。

第30章 メディナ入城
トマスは総督としてメディナに入城したが、3日後には、すぐにナジュド遠征が控えていた。
数週間、カッシムでの戦闘が続き、そして、ムハンマド・アリからの指示によってトゥスンは父と合流、トマスはメディナに帰ることとなった。

第31章 カッシム侵攻の賭け
ムハンマド・アリの侵攻によりトゥラバも陥落し、凱旋したムハンマド・アリは、捕虜となったワッハーブ派の兵士のうち12人をメッカで串刺し刑に処した。この結果、ムハンマド・アリは部族民たちの同盟を多く失うこととなった。
そんな状況を放置して、ムハンマド・アリは再びカイロに戻ってしまう。ナポレオンが流されたエルバ島を脱出したというニュースのせいだった。スルタンがこの機に乗じてエジプトをムハンマド・アリの手から奪い去ろうとしている可能性があったのだ。
その結果、トゥスンは、ひとり放置されたも同然だった。彼は、解放されたメッカを守るために、ほとんどひとりでワッハーブ派に立ち向かわなくてはならない。(トマスは、メディナに帰らなければならない。)
もし、何かあったら、「千里の遠きにはせてでも」必ず行くから、と誓うトマスだった。

第32章 窮地に陥ったトゥスン
窮地に陥ったトゥスンからの使者がメディナに到着したのは、アノウドの出産がもう今日か、明日か、といった頃だった。使者は、かつて、部族民の中から、トマスにつき従ってくれた族長の息子、ユセフだった。彼はトゥスンからの伝言を伝え、死んだ。
サウドの息子、アブドッラー・イブン・サウドが出撃していた。
トマスは、トゥスンの意志がどうであれ、メディナ総督として、全兵を出すことはできなかった。自分を含め250騎で出撃する、それがトマスの決定だった。その中に、トマスはメドヘッドを入れた。
出発までの短い間に家に帰り、トマスは、アノウドと束の間の時間を過ごした。

第33章 トマスの危機
斥候が知らせたところによると、ワッハーブの兵は騎兵1000以上、歩兵3000以上だという。
もし、トマスが来ているなら…危険な賭けだが、成功すれば両軍で挟み撃ちにすることができる。
トゥスンは進軍を開始した。

第34章 最後の戦い
トマスもまた、同じことを考えていた。
ただ250騎で立ち向かう以上、トゥスンと合流できなければ、死しか待ち構えていない。
トマスはメドヘッドにメディナへの伝令を頼み、死地へと赴いた。
しかし、メドヘッドはアノウドへの伝言を伝えることはできなかった。彼女は、夫の異変を感じ取ったのか、早朝、突然跳ね起きて、階段を踏み外し、お腹の子供もろとも事故死していた。
アブドッラーは、トマスの遺体を前に、敵ながらその偉大さを称えるのだった。

その後の物語
トゥスンと疲弊したワッハーブ派は、講和を結んだ。
メッカ、メディナはスルタンの支配下におかれ、カッシムや北の牧畜部族はアブドッラーの支配下ということになった。
しかし、ムハンマド・アリは数ヵ月後にこの条約を破棄し、長男のイブラヒムを長官に任じて新たな遠征軍を組織した。左遷されたトゥスンは、伝染病にかかり24歳で没している。

壮大な物語でした[あせあせ(飛び散る汗)]
そして、実は、舞台が終わった後の物語が100倍面白かったのですが、そこには、イブラヒム様が出ないので、やっぱり、あの時点で終わりにするしかなかったのね、と都合のいいことを考えている大空ファンなのでした(汗)


「愛と死のアラビア」原作に挑戦 その2 [┣宝塚作品関連本等の紹介]

「原作に挑戦」のその2です。

既にお気づきのことと思いますが、「その1」の段階で、お芝居は終了します。
しかし、その時、原作本はまだ上巻の2/3辺りなのです。では、めげずに、書かれていないトマスのその後の人生です。

第11章 生への帰還
太守の奥方、アミナは、アッバス長官を自室に呼ぶと、一通の手紙を種にやんわりと脅迫を始める。そして、その秘密を守る代償として、トマスの命乞いをする。
アッバスは、そのことが逆に奥方の秘密を握ったように思いこみ、そのこともあってこの交換条件に応じた。
トマスは最後の朝を迎えた気持ちだったが、現れたイブラヒムは、彼に無罪放免を伝える。

第12章 トゥスンの結婚
2年前にアルバニア人の娘と結婚したイブラヒム・パシャには、まだ男児が生まれていなかった。
そのこともあり、トゥスンが初陣に出る前に結婚することが決まった。相手はカイロの族長(シャイフ)ミカルの娘。
トマスは花婿の友人として結婚式に参列した。とはいえ、結婚式には、新郎と新婦の父親しか出ない。
トゥスンは、自分が結婚したらトマスも結婚させ、二人の息子を兄弟のように育てたい、と夢を語るが、トマスは、顔も見たことのない娘と結婚することには、なかなか納得することができない。
しかしトゥスンは、会ってみて、好みの娘でなければ、いつでも離縁できるし、もう一人妻を迎えてもいい…と、気にしていない。
この結婚式の夜、トマスは、少々メランコリックな気分だった。独身の友人を一人失う気分、そして、結局、スーダン遠征への参加が太守に拒まれたこと、がその原因。
そんな時、トマスは、アジズの親友だったマムルーク、スレイマンが自分をじっと見ていることに気づいた。

第13章 誘惑の夜
トマスは30分ほどの短い時間だったが、ドナルドと再会することができた。
ドナルドも、トマスとおなじように、イスラム教に改宗していた。なぜなら、国に帰ったら彼は軍医ではないのに、ここでは医者として尊重されている。そして、もっといい身分を求めるためには、キリスト教でいるわけにはいかなかったから。
それでも、お互いが新しい世界を受け入れ、宗教を受け入れたことを祝福しあう二人。
そしてメドヘッドが新設されたアルバニア連隊の一つで副官になっていることも、ドナルドが教えてくれた。
それからしばらくして、メドヘッドがトマスを訪ねてくる。
彼は、トマスの部下になりたい、と言ってきた。トマスは、今の自分の仕事は訓練将校で、自分の部下になったら前線に行くことはできないのだ、と言う。そんなことは、どうにでもなるものだと思っていました、とメドヘッドは、屈託なく言い返す。
メドヘッドにとって神のごとき存在だった自分が、ちっぽけな人間であることを示し、メドヘッドを失望させたことがわかったので、トマスは落ち込む。
そして、ついナイリからの誘いに応じてしまう。
まだ少女のようなナイリだったが、シースルーの衣装を着て、不思議な香料を焚いた部屋で待ち構える彼女を見てトマスは欲望をそそられた。
しかし、彼女が教えてほしいと言い出した歌が、トゥスンに向けて歌った歌「乳兄弟」だったので、トマスは、ナイリを恐ろしく思い、目が覚めたようにその場を辞去した。

第14章 ナイリの奸計
スレイマンは、ナイリの愛人の一人だった。
アジズの復讐のためにトマスを殺害計画を練っている、というスレイマンに、うまくすれば、それをトゥスンの命令にすることができる、とナイリはアドバイスする。そして、自分が聴いたトゥスンの結婚式の夜のトマスの発言を悪く解釈してスレイマンに伝えるのだった。
ナイリはトゥスンを愛していなかったし、自分が得られなかったトマスの愛情を得ているトゥスンが許せなかった。
酔っている時に、讒言を聞かされたトゥスンは、とっさにトマスを殺してやると叫んだ。
これを聞いていた小姓のアリが、屋敷を抜け出して、トマスに緊急事態を告げた。トゥスンの酒癖が悪いのは有名だったので、このままでは、本当に暗殺隊がトマスを襲うと思ったのだった。
アリの発言を最初は信じられなかったトマスも、身を守るために武装して襲撃隊を待ち受けた。

第15章 刺客たちの襲撃
トマスは、10人の刺客に一人で立ち向かい、8人を殺した。(スレイマンともう一人が逃げた)
事前に計画が漏れていたことを知らずに襲撃してきたということはあるにしても、8人を一人で倒したのは大きな武勇伝だった。
親友を自らの命令で殺したと思い込んだトゥスンは落ち込んでいたが、生きたトマスに会え、その胸に顔をうずめて号泣した。その涙で、トゥスンが自分を買った日から、少しだけ残っていたわだかまりがすべて消えたことをトマスは知った。
ナイリは、この件でとうとう堪忍袋の緒が切れた母親によって、婚姻の計画が進められることになった。

第16章 マムルークの壊滅
ムハンマド・アリは、とうとうワッハーブ派に占拠されている聖地を解放する戦争を始めることにした。
ある日、太守の宮殿で、カイロのマムルークを招待した盛大な宴が開催された。
そしてその帰り道に、参加したマムルークは、太守の兵隊によって皆殺しにされた。ワッハーブ討伐のため、半数の兵隊がエジプトを後にしてアラビア半島に向かう。その時、マムルークがエジプトの実権を握ろうとする可能性は十分にあった。
必要なことだったとはいえ、卑怯なことでもあった。
トマスはこのことを聞いた時、吐きそうになった。マムルークは憎悪していたが。
今度の、戦争にはトマスはベドウィンの騎兵隊のうち二つの連隊を指揮することになっていた。そんなトマスのもとにメドヘッドがもう一度やってくる。今度は司令官になったトマスなので、自分を使ってほしいというのだ。
そしてメドヘッドは副官としてトマスに付くことになった。
一方オスマン医師となったドナルドは、カイロの大病院で働いている。もう戦地へ行きたくはないらしい。
アラビアに行く前に、トマスはドナルドに今生の別れを告げた。

ここから下巻になります。

血と砂 下―愛と死のアラビア (3)

血と砂 下―愛と死のアラビア (3)

  • 作者: ローズマリ・サトクリフ
  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2007/04
  • メディア: 単行本

第17章 アラビアへの遠征
トマスは、アラビア半島へ向かうため、スエズ港を出て紅海を下る。
ここで初めてこの小説のサブタイトル「愛と死のアラビア」が内容に沿うわけで、「その1」で終わったあの芝居が「愛と死のアラビア」なんてわけは、絶対にない。
まったくもってうんざりする。
途中、ヤンブーで上陸し、ヤンブー城に入城する。
トマスは破格の昇進により、アラブ人、トルコ人、アルバニア人の騎兵部隊全体の指揮官となっていた。一方、かつてトマスの上官だった(ええ、上官だったんですよ)ザイドは、その下でたった一つの騎兵連隊の指揮をとっていたが、そのことで二人の友情にひびが入ることはなかった。
ヤンブーに到着してわかったことは、戦況は決してトゥスンの側に有利ではないことだった。
しかし、賽は投げられた。メディナ攻略が決定した。

第18章 攻撃前夜
酒宴をもうけ、トマスとトゥスン自らが剣技を見せて、その勇猛さを見せつけたのに、周辺の部族は、エジプト軍、ワッハーブ派のどちらかに味方することを恐れており、情勢を見守りたいのが本音といったところだった。
エジプト軍の勝利が確定的になったら、後押しをすることはやぶさかでない、という雰囲気。
しかし、イエハイネ族の族長の身分の低い母を持つ息子、ユセフだけは、トゥスンとともに攻撃に参加すると言ってくれた。

第19章 ジェダイダの敗北
トゥスンの軍がメディナに向かう細い山道に達した時、アブドッラー・イブン・サウド率いるワッハーブ派の大軍が到着した。
すぐさま激しい戦闘になり、敗色は濃厚になった。
トマスは、退却の命令を出すが、トゥスンは、負けを認めるのが耐えられないかのように、前進し続ける。
ザイドにトゥスンの後を追うように頼み、トマスは、部下をまとめてからトゥスンの救助に向かう。トゥスンは、勇敢に戦い続けていたが、そこにザイドの姿はなかった。
アブドッラー・イブン・サウドは、この時、父親に、トゥスンとトマスの勇敢さを報告している。

第20章 メディナへ
ザイドの馬が帰ってきた。
主人を乗せずに。大量の血を浴びた馬は、そのまま繋がれた。
それから8か月。息子から報告を受けた太守は、軍資金や武器弾薬をヤンブーに送ってきた。増強部隊も派遣された。そして、副司令官として、アーメドが派遣された。
トゥスンは、アーメドがトマスの上官になることを、こころよく思わなかったが、トマスはそんなトゥスンをなだめた。
ジェダイダも無事に通り抜け、メディナに到着したが、そのぶ厚い城壁を見る限り、そこは難攻不落に思えた。
アーメドはトマスに、坑道を掘って城壁を爆破するように、という命令を下す。

第21章 メディナの略奪
激しい戦闘が一日あって、アーメドは街を落とした。
メディナ守備隊長は、条件付きで降伏し、アーメドは3日分の食料と水を持って市を出ることを許した。
しかし、その約束はその晩、反故にされる。
卑怯なアーメドからの夕食の誘いを断って、トマスは家に帰った。遠くで、女の悲鳴が聞こえる。無法な略奪が続く街の悲鳴を捨ててはおけず、トマスは夜の街に飛び出して行った。

ここでだいたい2/3が終わった。
次でようやくアノウドが登場する。
どんなに無理やりな芝居だったんだろう…というか、これ、宝塚に向いていたんだろうか?


「愛と死のアラビア」原作に挑戦 その1 [┣宝塚作品関連本等の紹介]

キャトルレーブでも簡単に購入できる原作本「血と砂-愛と死のアラビア-」なので、お読みになった方も多いと思う。そして、「原作と舞台は全然違う!」と呆然とした方もまた多いだろう。
とはいえ、大半のファンの方は、原作の膨大さに驚いて、読まずに舞台を見ているのではないだろうか?
私もそうなるところだったのだが、優しいファン仲間のTちゃんに原作を貸してもらい、読破した。
今日は、その原作のストーリーを紹介していきたい。

「血と砂(上)」(ローズマリ・サトクリフ)

第1章 エジプトの戦い
1807年4月20日、スコットランド高地78連隊は戦闘前のキャンプ地から物語は始まる。ここで、主人公トマス・キースと友人、ドナルド・マクラウドの出自が語られる。
ドナルドは、ルイス島出身。大柄な金髪の青年で、鼓手と看護兵を兼ねている。(軍医ではない)
トマス
は、エジンバラの出身だが、同じように大柄ではあるものの、ドナルドより華奢な体つき。色黒で黒髪。スペイン系らしい。目は灰色新式のベイカー小銃を支給されるほどの狙撃手。
トマスの祖父は、その主君(チャールズ・エドワード・スチュワート王子)に従ってフランスに渡り、フランス陸軍に奉職、20年後、恩赦で帰国した人。トマスに剣術と射撃とフランス語を教えてくれた。そして射撃に興味を持ったトマスを鉄砲鍛冶のもとに修行にやらせてくれた人でもある。
祖父の死後、トマスの父親は、その農場を売り払うことにしたが、そのことでトマスは、もうこの地にいる必要はないと感じてしまう。そして、軍隊に入る決意をして家出する。
鉄砲鍛冶としての経験が役に立ち、スコットランド高地78連隊の<火器係>の役につく。
そして、南イタリアでナポレオン軍に勝つが、その後、どういうわけか、エジプトに遠征することになった。
マムルークの支援部隊が来ないまま、取り残された78連隊は敗色濃厚となる。そして、トマスは、足に大きな怪我を負ってしまう。

第2章 捕虜
トマスと彼の治療・看護に当たったドナルドはカイロに送られた他の捕虜と引き離され、二人だけで過ごしていた。
ここエジプトは、数年前のナポレオンによるエジプト遠征以来、フランス語を話す者が多く存在した。敵の司令官、アーメドもその一人で、彼のフランス語の問いかけにトマスは無意識ながら応答することができた。
ドナルドは、村にいるアルバニア人負傷者の手当をしていた。そこにメドヘッドという少年兵が担ぎ込まれ、手当してもらうと、志願してドナルドの従僕になってしまった。そしてトマスの傷の手当をするうち、トマスの従僕にもなってしまった。
(芝居冒頭のトマスとドナルドのやり取りはこの辺に出てくる)
ここへ、フランス陸軍のデジュリエ大佐が登場する。フランス砲兵隊の将校で、エジプト太守ムハンマド・アリの軍事顧問という立場は、芝居と同じ。
ここに名前が出てくるアーメド司令官は、芝居には登場しない。なので、原作にある、太守が敵兵を生け捕りにしたものに賞金を出すと言っていたその額以上の金で、アーメドがトマスとドナルドを買った…という設定がズレてしまっている。よく考えれば、オスマン帝国のスルタンがエジプト軍の戦い方に注文をつけ、金を払ったりはしないだろうな、と思う。
とにかく、アーメド司令官は、自らの親衛隊に、軍医とフランス語を話せる狙撃手を買ったということらしい。しかもハンサムな。(ただしお稚児さんには年を食っているのでそっちの心配はないらしい)
それでも捕虜交換の機会に国に帰ろうと思えば、できないことはないだろうとのことだった。
こうして自分の立場がわかったトマスは、まず従僕のメドヘッドを相手に、英語とアルバニア語の相互理解を始める。

第3章 コーラン
トマスとドナルドはカイロに向けて出発させられる。
が、途中でドナルドは下船させられてしまう。
心細く思った所に、デジュリエ大佐が乗船、ドナルドがアーメド司令官の軍医になったことを教えてくれる。
そしてトマス自身はベドウィン騎馬隊と一緒に訓練を受けるのだという。もともと馬が好きだったトマスは、馬に乗れると思っただけで心が騒ぐ。
アスワンまで1000キロの旅は退屈だろうから、と、デジュリエはフランス語訳された「コーラン」を置いて行く。
「聖書」「コーラン」そしてユダヤ教の「トーラー」はそれぞれ各宗教の聖なる書であり、それらを持っている教徒は他の宗教とは一線を画す、だから理解はできるはずだと言いながらも、デジュリエは、キリスト教徒の宗教観と違い、イスラム教徒のそれは生活に密着している、という注意もして去っていく。

第4章 兄弟の絆
アスワンまでの旅の間、トマスは、コーランを2度読み通し、見張り役の兵士を通じてアルバニア語とアラビア語をだいぶ習得していた。
正規軍でないアラブ人の騎兵部隊2つとスーダン人のラクダ部隊1つをザイド・イブン・フセイン隊長が率いている、そこへトマスは派遣された。
そこで、トマスは騎兵としての通常の訓練のほか、幹部育成の訓練も受け、アラビア語のレッスンも受ける。
トマスは瞬く間にアラビア語を習得していく。そんなトマスにザイドは、薬指の長い者は外国語の習得に長けていると言う。(私は、薬指が異様に長いのだが、思い当たるフシはない)
トマスはザイドから太守、ムハンマド・アリについても教えてもらった。
一介のタバコ商から傭兵となり、エジプトの太守にのしあがった人物。アルバニア人なので、祖国から多くの兵を輸入している。なぜならエジプト人の歩兵には規律がなく、トルコ人もマムルークも騎兵しか存在しないから。
そんなザイドも、騎兵部隊の人々も、トマスと仲良くはしてくれるが、礼拝の時には揃って姿を消す。トマスはそれが寂しくなり始めていた。
ある日、第二部隊の馬が盗賊に盗まれた。トマスとザイドが第一部隊とともに盗賊の後を追い、見事に倒して、馬を取り返しただけでなく、彼らの馬も品物も奪い取ってくる。
戦利品のうち、十字軍が持っていたと思われる剣を、トマスはデジュリエ大佐にプレゼントしようと思う。もう一本の剣は雇い主のアーメド司令官に。馬はアブ・サランに。馬が不足しているだろうから。戦利品を分けてくれた従兵のジューバには、銃を。その時、アブ・サランに「贈り物はいいが、勝利の記念に自分も何かを取らないとだめだ」と言われ、ベドウィンの習慣の難しさを思いながら、最後に残ったナイフを手にする。
兵士たちからは、預言者ムハンマドの戦士の器なのに、不信心のために地獄に落ちるのがかわいそうだと言われ始める。

第5章 神はひとり
その頃からトマスは、改宗について考え始める。切り出すと、ザイドは嬉しそうだった。そして、イスラム教徒になれば、トマスなら出世も思いのままだが、キリスト教徒のままだとそうはいかない、というようなことを言う。それでトマスは、逆に、純粋な気持ちだけで改宗できなくなるような気がして悩む。
しかし、砂漠で一人、自然の中で思いをめぐらしているうちに、いかなる宗教(ただしここでは、あくまでもキリスト教とイスラム教の比較)であっても神は同じ神であり、祈る側の人間がそれをそれぞれの名で呼び、それぞれのやりかたで祈っているということに思い至り、改宗とは、神を変えるのではなく、祈る方法を変えるだけだ、との結論に達する。なにより、この砂漠では、イスラム教の方が、自身と神との関わりにふさわしいように思われた。
その後、デジュリエ大佐から、預言者ムハンマドの義理の息子アリ・イブン・タリフの生涯についての本を受け取る。そして、自分が、太守の息子のイブラヒム・パシャの護衛隊長として同行することを知らされる。

第6章 トゥスンとの出会い
トマスは改宗の決意を固め、デジュリエ大佐にそのことを報告する。そして大佐のすすめに従って、スコットランドの父親にそのような報告の手紙を送ることを諦める。
イブラヒム・パシャ背が低くずんぐりとした青年で、澄みきったびっくりするほど青い瞳を持っている。髭も金髪らしい。そして、すぐれた行政官となる能力をもっているこの青年は、ザイド隊長の報告を聞きながら、ザイドがただものではないことを見抜く。
そしてそのザイドとデジュリエ大佐の両方から好かれているトマスという人物に興味を持つ。
一方、トマスは、オスマン・アル・マリクと剣術の訓練をしていた。
そこに声をかけてきた少年がいた。それが太守の二男・トゥスンだった。短躯でずんぐりとした体つき、薄い褐色の髪の毛、そしてどんな女も参りそうな微笑みを見せる少年だった。
トゥスンのそばには、トマスにぶしつけな視線を投げるマムルークの青年がいた。それがアジズだった。アジズはそれまでトゥスンの親友の位置にいたのだ。
しかし、ほどなくトマスはトゥスンの親友の位置を占める。最も親しい友人と手を繋いで歩くという習慣のあるこの土地で、その日のうちにトゥスンはトマスの手を取って歩いた。

第7章 イスラム教徒
トマスのことが気に入ったトゥスンは、アーメド司令官に大金を積んで、トマスを買い取る。
親友に買われたことで、トマスとトゥスンの間にちょっとした軋轢が生じるが、トマスが心を大人にして、トゥスンから貰った剣の対価を払うという故郷の風習を持ち出し、トゥスンに一番安い硬貨を渡すことで表面上解決する。
トマスはカイロに馴染み、太守に謁見を許され、そして改宗する。
改宗に伴う割礼のおかげで3日間発熱したものの、改宗は終わり、トマスはイブラヒム・エフェンディと呼ばれることになる。
そして、太守の妻であり、トゥスンの母上にも謁見することになる。

第8章 後宮の宴
トマスは、トゥスンの母親に謁見をする。
その時、母親のそばにいる少女に気が付くが、女性をしげしげと眺めてはいけないので、それがトゥスンの妹、ナイリだろうと見当をつけながら、それ以上は見なかった。
イブラヒム・パシャは、ザイドの能力を評価したらしく、ザイドがカイロにやってきた。
そして、トマスはザイドとともに、母親の私的な宴に呼ばれた。ここでは、女達はヴェールをしていなかった。
ナイリは、幼い感じのする娘だった。そしてトマスに歌を所望する。
トマスの歌はとてもよかったので、ナイリはもう一度歌わせようとする。そんなナイリをたしなめ、もう一度歌ってくれるようにお願いしてきた太守夫人のためにトマスはもう一曲歌う。
その歌を聴いてナイリの心が動く。

第9章 決闘
トマスはスーダン遠征に際して、トゥスンに同道したい、ということを述べるために太守に謁見する。
そして、これにアジズが抗議して、トマスを侮辱し、決闘になるのは、芝居と同じ。ただし、トマスはキリスト教徒ではないので、ここでは変節者・脱走兵という風に罵倒される。
決闘に際し、トマスはトゥスンに貰った剣を使う。そして、トマスを殺そうとして襲いかかるアジズを倒す。
決闘が終わり、トマスはイブラヒム・パシャ、トゥスンとともに会食をする。その席に兵士がやってきて、トマスに逮捕状が出たことが知らされる。

第10章 死刑の宣告
トマスに死刑が宣告され、太守のところにトゥスンが泣きながら命乞いに来るところは、舞台の通り。
そんな弟を抱き起して、太守の私室から連れ出し、ザイドに引き渡し、自分が戻るまで、イブラヒムの部屋に入れて見張っていてくれるようにと、イブラヒムは頼む。
そして、長々と父上を説得しようとするが、失敗する。
イブラヒムは、とりあえず、眠り薬の入ったワインをトゥスンに差し入れ、今度は母上のところに行く。
そして、父上を動かせるとしたら、母上しかいないと訴える。
母は、父上ではなく、イスタンブールから到着したアッバス長官の心を変えることはできるかもしれない、と言う。そしてトマスにそのことを伝えるように、と言う。
イブラヒムは営倉を訪れ、いくつかのことをトマスに語る。
トゥスンは眠り薬で眠っていること、もし、起きていたら、必ずトマスを救出に現れ、そのためにトマスが即刻殺される可能性があったということ。たまたまアジズの死んだ数時間後に、オスマン帝国の大臣がやってきて、法を厳格に履行しろと要求されたこと。でも、まだトマス救出のために尽力している人がいること。エジプトの法では、あのような決闘では最初の血が流れるまでしか許されない。相手を殺す決闘には別の許可が必要だったのに、それが伝わっていなかったのが悔やまれること。(この説明が舞台でされていたら、理不尽な感じはだいぶ減ったと思う。)
トマスは死刑の方法を聞き、イブラヒムは剣による斬首だと答える。それを聞いてトマスは、自分の国ではそれは名誉の処刑だと答える。
そして、してほしいことはないか、と聞くイブラヒムに、トマスは、ドナルドとメドヘッドの後押しをお願いしたいと答え、コーランを持ってきてほしいとだけ伝える。

長くなるので、続きは後日。


原作ゲット [┣宝塚作品関連本等の紹介]

花組公演「愛と死のアラビア」原作本、『血と砂-愛と死のアラビア-』を友人・Tちゃんが貸してくれるというので、借りることにしました。
すごく分厚い本なので、読むのに時間がかかりそう。
なので、原作を読み終わる前に、とりあえず、舞台感想を一度仕上げたい。
原作を読むことは、舞台を見る者の義務ではないし、舞台は舞台として完成されているべきだと思う。原作と比べてどーのこーのではなく、まず舞台だけを見て感じたことを書いておきたいと思う。
それと原作読了後の感想がどれくらい違うか、今からとても楽しみ~!


ちょっとだけ古事記5 [┣宝塚作品関連本等の紹介]

「ちょっとだけ古事記」、ヤマトタケルの後編です。前回記事はこちらです。

さて、倭建命(やまとたけるのみこと)は、尾張の国の造の祖先、美夜受比売(みやずひめ)の家に寄り、すぐにも結婚しようかと思われたが、(この時代、天皇家の方々は一夫多妻です)戦の帰りに婚姻を結ぼうということを誓っただけで、東国へ下った。そこで、山河の荒ぶる神とまつろわぬ人々を平定していった。
相武(相模)の国に至った時、国の造が、
「この野の中に大きな沼があり、その中に住む神が『ちはやぶる』神なのです」
と言った。
倭建命は、それを聞いて野に分け入ったが、国の造は、いきなり野に火をつけた。
騙されたことに気づいた倭建命が、叔母から授かった嚢の口をほどくと、中には火打ちの道具が入っていた。そこでまず、身に帯びた剣で草を刈り払い、火打石で草に火をつけた。(向い火を炊いた)
こうして火を退けた倭建命は、すぐさま戻って国の造を斬り殺し、遺体に火をつけて焼いてしまった。それで、その地を焼遺(やきつ=現・焼津)という。ついでに、この時からこの剣は「草薙の剣」となった。

さらに進んで、走水の海(浦賀水道)を渡った時のこと。
海峡の神が、逆巻く浪を起こし、船は進路を進むことができなくなった。そこで、后である弟橘比売命(おとたちばなひめのみこと)が、
「私が、御子の代わりに海の中に入りましょう。御子は、つかわされたその政を成し遂げてください」
と言って、菅畳八重、皮畳八重、キヌ畳八重を敷き、その上に下りて座った。
「さねさし 相模の小野に 燃ゆる火の 火中に立ちて 問ひし君はも」
(相模の野の燃える火の中で私の名を呼んで下さったあなた)
と歌う間もなく、后は波に呑まれた。
すると、波は静まり、船は無事に進むことができた。
七日後、后の櫛が海辺に流れ着いた。倭建命は、その櫛を御陵に葬った。

この時代、「后」という文字は、天皇の妻にしか用いられていないらしい。
倭建命が、古事記の中でいかに重く書かれているかの証明になることだ。

そこから、さらに上って、ことごとく荒ぶる蝦夷を言向け、山河の荒ぶる神を平定して、足柄の坂本に至って食事をとっているときに、白い鹿がやってきたので、それが荒ぶる神だと知った倭建命は、食べ残しの野蒜の片端をとって投げつけ、退治した。
その後、坂の上に立ち、倭建命は、「あづまはや」(わが妻よ)と言った。そのため、その国を「あずま」という。

さらに甲斐に行き、酒折の宮にいらした時、
「新治、筑波を過ぎて 幾夜か寝つる」と倭建命が言ったら、御火焼きの翁が、こう歌い継いだ。
「日々並べて 夜には九夜 日には十日を」(日を重ね、夜は九日、昼は十日を過ぎました)
倭建命は、この老人をたいそう賞めて、すぐに東の国の造の地位を与えた。

信濃の神を言向け、尾張に戻った倭建命は、美夜受比売のもとにお入りになり、ようやく婚姻を結ぶことになった。
倭建命に酒を献った比売の着物の裾には、月のものの血がついていた。
倭建命がそれを歌で指摘すると、比売は、「あなたを待ちかねている間に月のものが来てしまいました」と歌い、月経中でもかまわない、と言う。
そんな美夜受比売の言葉に、倭建命は、彼女と夜を共にし、その枕辺に「草薙の剣」を置いていく。

伊吹山の神を退治するために出発した倭建命は、そこで、白い猪に出会った。
それで「この猪は、山の神の使者だろうから、今殺さなくても、帰る時に殺そう」と言って山に登った。
しかし、その猪は、山の神の使者ではなくて、山の神自身だったから、これを聞いて激しい氷雨を降らせた。
「コトアゲ」とは大声で言い放つこと。ただし、これは神に対しては禁忌であり、また内容が事実と異なるときは、力は逆にはたらいて、みずからが罰を負うのだという。
こうして、倭建命は、氷雨を受けて心身を病み、足ががくがくして(たぎたぎし)動けなくなった。それで、その地を当芸(たぎ)という。岐阜県養老郡あたりの地名である。
さらに出発して、歩いていくが、杖なしでは動けなくなり、三つ重ねの勾り餅のような足になってしまった。そこで、その地を「三重」という。
とうとう能煩野(のぼの)に辿り着いた時、国を偲んで有名な歌を歌う。(鈴鹿山脈の辺りか?)
倭(やまと)は 国のまほろば
たたなづく 青垣
山籠(やまごも)れる
倭(やまと)しうるはし

しかし病状にわかに悪化し、
「嬢子(をとめ)の 床の辺(とこのべ)に
我が置きし 剣の大刀(つるぎのたち)
その大刀(たち)はや」
と言い終えると同時に亡くなった。
美夜受比売の枕元に置いた、草薙の剣を気にしつつ亡くなったわけだ。

「草薙の剣は、命(みこと)の大切なお命、必ず守るであろう」という歌をアマテラスとヤマトヒメがデュエットしていたが、これは裏から読むと、「草薙の剣が側にない時には命の危険がある」ということだ。
そして、その通りになってしまった。

倭建命の死を聞き、后たち、御子たちは、能煩野まで下向し、御陵を作り、葬儀を行う。
その時、倭建命は、八尋の白智鳥(しろちどり)となって、天に翔り、浜に向って飛んで行った。后や御子はそれを追ったけれど、追いつかなかった。
鳥は、河内の国の志畿(しき)にとどまったので、そこに御陵を作り「白鳥の御陵」と呼んだが、白鳥は、そこからまた天高く飛び去ってしまった。

倭建命は、天皇の子ではあったが、天皇ではない。
子供も当時としては多くない。6人の御子がいる。が、その中から、仲哀天皇が生まれている。
仲哀天皇は、神功皇后の夫で、応神天皇の父であるが、応神が生まれた時には、亡くなっていた。妻と子は有名なのに、ちょっと可哀想な天皇だし、しかも彼は九州の地で不可思議な死を遂げている。
親子二代の悲劇ってことかな?

ちなみに、古事記では、ご覧の通り、白智鳥―白鳥という表現になっている。白鷺というのは、日本書紀の記述のようだ。
ところで、白い鳥になって飛び去ったという伝説を持つのは、ヤマトタケルだけではない。
天智天皇(中大兄皇子)も山科の森から、白鳥になって飛び去ったという伝説がある。宝塚の主人公になる人っていうのは、そういうタイプでなきゃ…ということなのかもしれない。

長い間、お読みいただきありがとうございました。

参考文献はこちらです。(↓)

神と歌の物語―新訳古事記

神と歌の物語―新訳古事記

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 2005/10
  • メディア: 単行本

【去年の今日】

大劇場公演の集合日。「パリの空よりも高く」…すごい作品だったな。


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