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「暁の寺」 [┣本・映画・テレビその他エンタメ紹介]

三島由紀夫の「暁の寺」を読了した。



豊饒の海 第三巻 暁の寺 (あかつきのてら) (新潮文庫)

豊饒の海 第三巻 暁の寺 (あかつきのてら) (新潮文庫)

  • 作者: 由紀夫, 三島
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1977/11/01
  • メディア: 文庫



この作品は、三島の絶筆『豊饒の海』全四巻の三番目に当たる。
起承転結の“転”に当たる本作では、松枝清顕⇒飯島勲と続いた生まれ変わりの先が、タイのプリンセスになっている。生まれ変わり、20歳で死に、また生まれ変わる…という基本的な流れは変わらないが、相手が外国の少女になったということで、本多の思いも大きく変わる。三巻にして初めて、本多が生まれ変わりの対象に恋をする。
また、本多は、弁護士報酬として濡れ手に粟の大金を手にしたりするし、その一方で、ピーピングトムをやっていたりする。もう爽やかな本多のかけらも残っていない。


でも、読みながら、この本多こそ、珠城りょうに演じてほしい…と思った。まあ、ありえないんだけど。
なぜだろう。素敵でかっこいい役じゃなくて、人生の悲哀を感じられる役を演じる機会があったら、それこそ珠城りょうがトップであった証になるのでは…という気がした。ショーでは「BADDY」という珠城ならではの作品があるが、芝居もね…下級生時代の「月雲の皇子」「春の雪」に匹敵するような、野心的な作品がほしかったな。(「春の雪」があるのに「暁の寺」で画期的かと聞かれるだろうが、それでも画期的です、と言える。)


以下、印象に残った部分を少し。
「思いもかけぬ金が入ったとき、本多は自分の快楽に役立てようと人並に考えたが、そのときすでに彼のもっとも本質的な快楽にとって、金は不要になっていた。参与すること、世話をし、保護し、所有し、独占することには、金もかかるし、金も有用だが、本多の快楽はそれらすべてを忌避するのであった。」
哲学的な文章だが、大金持ちになった本多が本当に快楽を得られるのは、その金を以て女を手に入れることではなく、それでもなお、「覗き」をやることだった。金を使うとしたら、覗くための部屋を仕込んだ別荘を建てることだった。
最後に、その別荘は、彼が覗きの果てにプリンセス・ジン・ジャンの生まれ変わりの印(脇腹の三つ並んだホクロ)を確認した夜半、失火によって消失する。そして帰国したジン・ジャンは20歳になった時、コブラに噛まれて死んだ…という後日談が最終頁で語られる。
「生まれ変わり=脇腹のホクロ=20歳で死ぬ」は、これで決定事項となり、最終章に進んでいく。
また、この第三部の中で、日本が戦争に突入し、終戦を迎え、朝鮮戦争によって復興が加速していく。戦争中の四年間、本多は読書三昧の日々を送る。輪廻転生について、古今東西の書籍を読み漁り、唯識、阿頼耶識などの概念にたどりつく…それが本多の戦時だった、というのが、人を食ったような話だと思ったが、開戦の時の周囲の浮き立つような雰囲気と日比谷の晴れ晴れとした空気から、空襲を受けてすっかり焼け野原になった東京を歩く場面まで、本多の描写が精神世界だけだった…というインパクトはすごかった。(本多は、疎開もせず、東京に住んだまま終戦を迎えている。)


最終章が楽しみだ。



豊饒の海 第四巻 天人五衰 (てんにんごすい) (新潮文庫)

豊饒の海 第四巻 天人五衰 (てんにんごすい) (新潮文庫)

  • 作者: 由紀夫, 三島
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1977/12/02
  • メディア: 文庫



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