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「グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~」 [┣本・映画・テレビその他エンタメ紹介]

2月に舞台版(生瀬勝久演出)を観劇して、けっこうボロカスに感想を書いたが、映画版はどうなんだろう[exclamation&question]と思って、見に行った。予定はなかったが、舞台「サンセット大通り」が中止になってしまったので。
3月中旬、まだ映画館は普通に営業していて、しかも、公開から日数も経っていたので、それほど混雑していなかった。座席もそれぞれが離れて座れる感じで、危険は感じない。…ということで、安心して物語に没入することができた。
舞台版の方にあらすじは書いてあるので、こちらをご覧ください。


映画版もほぼストーリーは、舞台と同じ。映画らしく、追加されているのが、物取りに遭って以降の田島(大泉洋)の人生をしっかりと追っているところ。舞台版では、田島が死んだらしい…というところから、一気に一周忌に飛んでしまったから。この辺で、視点を完全に田島側に移したのが、結果的にうまく作用していると思った。
この「グッドバイ」という芝居の、一番の難しさは、ラストのハッピーエンドを観客が受け入れられるか、という部分にある。勧善懲悪ではないが、田島のような男がハッピーエンドでいいのか[exclamation&question]と、観客は考えてしまう。なにしろ、整理する愛人に対して、誠意の欠片もないわけだから。
これに対して、監督の成島出は、グッドバイ行脚の日々については、神の視点で映画を撮っていて、謎の占い師(戸田恵子)が登場する辺りで田島の視点に切り替えている。(映画なので、完全に田島の目から見た景色というわけではない。)
その後、物取りに遭って倒れた彼が意識を取り戻すと、そこは、別世界。これまで知っていた人物は田島しかいないので、観客は、田島の動きを追ってしまう。そのまま、一周忌、清川(濱田岳)との対決、ウェディングドレス姿のキヌ子(小池栄子)を見つける場面…と、元の登場人物が再び登場する場面になってからも、こちらの視点は、田島サイドに残ってしまっている。ここが上手いな、と思う。
舞台というのは、どのサイドに自分を置くか、ということを、演出家が誘導するのはなかなか難しい。しかし、映画には、このような演出方法があるのだ…と、深く納得。気がついたら、よかったね[黒ハート]とか思ってしまっている。ちょろいわ、私。
そして、配役の妙、というのは大きい。


田島を演じる大泉洋の飄々としたキャラがいい。太宰治が原作なのだから、ちょっと女々しいくらいの見た目がいい。たくさんの愛人がいると言っても、決してマッチョにものを言わせて我がものとしたのではなく、女性が寄って来てしまうが、断る勇気もない男という役作りが大正解。あと、愛人がいっぱいいるのに、女心が全然わかっていないというところも、「さいてー」じゃなくて「可愛い」に思える。なんだろう、天性の魅力なんだろうか。
(ということは、大泉さんにも多数の愛人が…[exclamation&question]いやいや、役者ゆえでしょう。)
そんな超好演の大泉をかる~く食ってしまっているのが、小池栄子。てか、小池栄子が出るだけで、作品の魅力が10倍アップするとか、ズルいわ。あと、この映画では、「いつから好きだと気づいたか」というポイントがとても重要になってくるんだけど(なんで好きなのか、にも繋がることだから)、胃痛を起こした田島を心配している姿を大櫛先生(水川あさみ)に指摘されたところの表情が絶妙で、すべて物語ってるな…という感じ。感服しました[exclamation×2]ちゃんと好きになっちゃったと分かれば、あとは応援しちゃうものね、そんな風に魅力的なキヌ子さんでした[exclamation]
田島の妻を演じたのは、木村多江。田島の妻として、小池栄子に対峙できる配役…と考えると、木村多江というのは、すごくいいバランスだな~と思う。田島ともキヌ子とも、会話のテンポが違っていて、それがすごくよかった。田島さん、奥さんの良さに気づかなかったのは、すごーく、バカだなーと思うけど、でもそのおかげで、連行さん(松重豊)と出会えたのは、良かったね~[黒ハート]
愛人たちについては、まず、何と言っても青木さん(緒川たまき)。原作と違って(舞台版も原作と一緒だったのに)、花屋さん。まあ、花屋さんの方が、仕事上で出会った人に好かれてしまった感は作りやすいかな。(映画だから、ほんの少しでも田島を悪いヤツに見せないための努力がなされているっぽい。)もう、異常[exclamation×2](褒めてます[揺れるハート])田島とグッドバイした後、自殺未遂を繰り返すのだけど、それがすべて、喜劇的になる、というのが、緒川の才能。だって、自殺未遂って重いし、だからこそ緒川じゃなきゃ、ダメだったんだな…と思った。
大櫛先生は、現役の愛人なのに、自分を客観視できる面白い人。舞台版より少し引いた感じが、これも田島を悪人にしない感じでよかった。最終的に、キヌ子を後押しするしね。
水原さん(橋本愛)は、エキセントリックなキャラで、お兄さん(皆川猿時)もエキセントリック。とはいえ、青木さんが派手過ぎて、水原さんが可哀想なイメージは半減してるかも。でも、可愛かったし、印象は残していた。
田島の編集部に所属する清川は、舞台版では、水原に恋をする…という展開だったと思うが、映画版では、清川はキヌ子に求婚する。しかも、その時、彼は大金持ちになっていた。この辺で、田島の焦りとか、キヌ子の追い込まれ寒とかが伝わる。この辺も映画版のうまいところだろう。


そんなわけで、舞台版「グッドバイ」の残念な部分がすべて回収(小池栄子の立ち姿は堂々としていて、かっこよかった[手(チョキ)])されたので、映画は気分よく楽しむことができた。太宰色を極力排し、枠組みと背景世相だけを利用したことで、ケラさん原作の新しい映画を見た気分。それが良かった。
映画としての面白さを十分に感じられたし、ラストシーンもすごくステキ[黒ハート]


池谷のぶえさんは、主な配役にクレジットされている役だったが、出番は一場面。余裕の面白さだった。
編集部にスタジオライフの曽世海司さん、発見[exclamation×2]今年は、映画でライフの人、見つけるなぁ[わーい(嬉しい顔)]


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