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「表現者ノマド」-11(リモート版) [┣大空ゆうひ]

5月に朝日カルチャーセンターのリモート講義「朝カルオンライン」(ヤマカズトークセッション)にゲストで登壇したゆうひさんですが、いよいよ「表現者ノマド」も朝カルオンラインに登場しました[exclamation×2](本来だったら4月に新宿で開催されていた回を延期して、オンラインとして再スケジュール[ひらめき]
今回も、日本中から参加が可能なZOOM配信だったので、ファンの皆さんはご覧になれたハズ。なので、リポートではなく、私の感想中心にお届けしたい。


オンラインとはいえ、出席者のお二人(ゆうひさんとゲストの岸本佐知子さん)は、同じ会場でお隣同士で並んでいて、お二人の間での時差みたいなものはない。無粋なアクリル板はあったみたいだけど…[爆弾]
まず、お二人の朗読から、講座は始まった。
ゆうひさんは、岸本さんが翻訳した、短編集「掃除婦のための手引き書」(ルシア・ベルリン)から、「わたしの騎手(ジョッキー)」を。岸本さんは、ご自身の随筆を読まれた。
作家の平野啓一郎さんがゲストだった時は、二人で平野さんが新聞連載中だった「マチネの終わりに」を読んでくれたが、執筆系のお仕事をされている方の場合は、「朗読」がセットなのかな。岸本さんも、書店イベントなどで朗読することもあるそうで、海外の作家は、わりとそうしたことが好きだ…という話も出てきた。
「わたしの騎手」は、2ページ(見開き1枚)の小品で、救命救急室の看護師の一人称で書かれている。落馬して、鎖骨と肋骨を折ったメキシコ人騎手を診察してレントゲンを待つというだけの話なのだが、その筆致がめちゃくちゃセクシーで、これからなにか始まるんじゃないか…と不安になるレベルの物語。
載っている「掃除婦のための手引き書」は、ルシア・ベルリンという女性の作家の短編集で、作品ごとに色が違って面白い。ゆうひさんの朗読で気になった方は、ぜひ、購入されることをお勧めしたい。



掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集

掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/07/10
  • メディア: 単行本



番組内で岸本さんもおっしゃっていたけど、この表紙の方が、著者です。美人すぎ~[黒ハート]


さて、ゆうひさんが「翻訳」というものに興味を持ったのは、サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」(私はこっちのタイトルの方がなじみがある…)を10代の時に読んで持っていたイメージと、後日読んだ時とでは、まったく印象が違っていたことだったそうな。
10代…とか言ってたけど、小中学生じゃないかなー、あの口ぶり…[爆弾]最後まで読んだだけでも、すごい…[たらーっ(汗)]
ちなみに、後年読んだ方は、こっちですね。村上春樹訳。



キャッチャー・イン・ザ・ライ (ペーパーバック・エディション)

キャッチャー・イン・ザ・ライ (ペーパーバック・エディション)

  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2006/04/01
  • メディア: 新書



もちろん、10代と30代では、感性がまるで違うから、感想が違うのは当然として、主人公のキャラクターが全然違っていた…というのは、「翻訳って…」と思うキッカケになるだろうな、たしかに。そして、主人公のキャラクター次第で、読書を続けられるかどうかが決定づけられるような気もする。
「ライ麦畑でつかまえて」(「キャッチャー・イン・ザ・ライ」)を例に出すところに、ゆうひさんの感性を感じる。


さて、そんな翻訳のお仕事ってどんな感じか…というと、岸本さんは、「これ訳したいんです」みたいに、出版社に売り込んだりするそうだ。
翻訳者と俳優は似ているか、が、今回のテーマだけれど、岸本さんのお仕事は、プロデューサー的でもある。
岸本さんも、ゆうひさんも、「小説を書いてみたらいいのに…」とよく言われるそうだが、それはそれで、ちょっと違うらしい。誰かが書いたものを「訳す」「演じる」のがいいらしい。
ゆうひさんは、よく、自分の読み方が「違う方向に行ってしまう」(方向音痴)と言っていた。演出家に、おいおい、それは違うよ、みたいに言われるとか。
岸本さんは、日本初訳の場合、日本中で、誰もその作品を読んでいないから、間違っても誰も気づかない…と。編集者は、忙しいので原書を読んでいない。とはいえ、演劇に例えると、演出家は編集者ということになるのかな…と。読んでないのに演出できる編集者…ツワモノである。
(岸本さんみたいに売り込んでくる本ばかりではないので、出版社編集部は、原書を素読みして内容を要約する仕事を翻訳者の卵に依頼しているらしい。…と、こちらは別口の情報。)
そして、二人は、「自分は筒」という言葉で大いに意気投合するのだった[exclamation×2]
自身が“空”だからこそ表現できるもの、その表現の楽しみは、ゼロから何かを生み出すよりも、刺激的だということだろうか。ゆうひさんは、「生身のまま人に会うのが苦手で筒のほうが楽」とまで言っていた。
“筒の快感”は、「自分がなくなる感じが心地いい」んだとか。二人は、どこまでも、筒の話を続け、楽しそうだった…[あせあせ(飛び散る汗)]
でも、筒とはいえ、どの筒でも同じわけではなく、たとえば、同じ役をダブル、トリプルで演じた場合、まったく同じ演出を受けても、やはり出てくるものは違う。そこが筒の面白さだという。意気投合する二人(笑)
私は、咄嗟に「飛鳥夕映え」の鎌足役を思い出していたが、岸本さんは、ベネディクト・カンバーバッチの話をしていて、震えた。国際的[exclamation]
と言いながら、「こいつ絶対童貞」とか「パリピ」とか、彼らが演じる役のことを端的に評価する岸本さん。
あ~面白い[黒ハート]岸本さん、なんて魅力的な女性なんだろう。


そんな岸本さんのエッセイもまた、サイコーに面白い。
ゆうひさんが、絶対に電車の中で読めない…と言っていたが、発想がものすごくユニークで、でも、そういうこと、ちょっと考えたことあるかも…というあたりの絶妙なさじ加減がいい。たぶん、そういうこと(この世界は誰かが作ったもので、私たちがあくせく動いているのをどこかから覗いている…みたいな)は、子供の頃にちょっと考えたりするけど、そういうふとした考えを紙に書いたり、その続きを考えたりすることで、エッセイやらショートショートは作られていくんだろうな…と思う。
岸本さんは、向いていなかった会社員を辞めた後、スケッチブックを買って、夢の記録を書いていったとか。それが、豊かな発想に繋がっているんだろうな。


そんな岸本さんなので、「ご自身で小説を書いてみないか」というお誘いは、当然あるらしく、でも、そこは違うとおっしゃる。自分は、翻訳(筒になって誰かの小説を訳す)+随筆(ホントのことや夢のこと)を書いていきたいらしい。
※とはいえ、岸本さんの随筆は、ほぼショートショートのものもあるので、ご自身の意識はともかく、そっちもイケるのではないか…と思っていたら、SF誌に作品が載っていた。(「ベストSF2020」(竹書房)に「年金生活」掲載)これからは、作家としても活躍されていくかもしれない。(8月追記)
ゆうひさんは、作詞さえ、自分の言葉を「うそくさっ!」と思ってしまってダメだったとか。
たしかに、ゆうひさん、過去にたくさんDS(退団してからもライブとか…)やっているけど、一度も作詞していないから、ホントにいやなんだろうな…と思う。でも、「群像」誌に二度、短い文章を載せていて、それは楽しかったそうだから、そのうち、文豪になるかもしれない。楽しみに待ちたい。


岸本さんは、「翻訳虎の穴」みたいなところで勉強してこられたとか。
“虎の穴”が現代にどこまで通用するかわからないが、タイガーマスクを育てた悪役レスラー養成所のこと。スパルタ教育で世界中の孤児たちを鍛え、生き残った数少ないものだけが、世界中のリングで活躍できる…という設定。なので、相当厳しい学校だったのではないか、と推察した。
そんな岸本さんのターニングポイントは、「光る」という動詞がいっぱいある作品を訳した時。英語は、簡単に動詞を作る…とか。それに対して、日本語は、「光る」は変えずに形容詞やオノマトペを動詞と併用する。その辺で、面白さとか大変さを意識したのかな。
もうひとつ、リディア・デイヴィスを自分で訳したいと思った時。(2005年「ほとんど記憶のない女」)
この時、初めて、自分で出版社に売り込む…ということをしたらしい。プロデューサー・岸本佐知子の誕生だったわけですね。


岸本さんに聞かれ、ゆうひさんは、自らのターニングポイントを「上級生の休演で代役を演じたこと」って言ってましたね。
ものすごい怖い上級生が右大臣左大臣みたいなポジションで、自分が命令する立場」
というところで、崩れるほど笑った古いヅカファン(笑)
※新しいファンのために追記すると、1999年1月、「黒い瞳/ル・ボレロ・ルージュ」東京公演の舞台稽古で2番手スターの紫吹淳がケガをして休演が決まった。その時、芝居の方の代役は、新人公演で紫吹の役を演じていた大空祐飛が演じることに。(ショーは場面ごとに初風緑、汐美真帆が代役)ちなみに、右大臣左大臣とは、大空演じるプガチョフの左右に控えていたベロボロードフ(真山葉瑠)、フロプーシャ(卯城薫)のこと。


岸本さん、翻訳するための本を探す方法が「ジャケ買い」なんだそうで。表紙は大事…ですね。
ゆうひさんは、書店で本を選ぶ時、書店で1ページめを読んだ時の感覚で決めるそうです。冒頭の文体で決めるんだとか。
岸本さんによると、「小説の魅力は冒頭に凝縮されている」と虎の穴の先生もおっしゃっていたそうなので、この選び方は理にかなっているそうです。私もわりと最初の方を読んで決めるので、納得[exclamation]


素敵なお二人の魅力溢れるトーク。今回だけではもったいないくらい、どこまでもネタがありそう。パート2を企画してほしいなぁ[黒ハート]


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