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宝塚月組東京公演「桜嵐記」観劇 [┣宝塚観劇]

ロマン・トラジック
「桜嵐記」


作・演出:上田久美子
作曲・編曲:青木朝子、高橋恵
音楽指揮:佐々田愛一郎
振付:若央りさ、麻咲梨乃
殺陣:栗原直樹
装置:新宮有紀
衣装監修:任田幾英
衣装:薄井香菜
照明:勝柴次朗
音響:実吉英一
小道具:下農直幸
演技指導:立ともみ
所作指導:花柳寿楽
歌唱指導:ちあきしん
演出助手:熊倉飛鳥
舞台進行:安達祥恵


珠城りょう・美園さくらコンビのサヨナラ公演。
大劇場で、置いて行かれたまま、東京公演でも、悲劇に没入できずにいる。原因は、おそらく、SNSに流れる「号泣した」感想の数々。それでハードルが自然に上がってしまった。勝手に、ものすごい悲劇を想像して、そのわりに、納得性の低い展開だったので、白けてしまったんだろうと思う。
もちろん、納得性の高い悲劇にしなかったところに、上田先生の深いこだわりがあるのだろう…とは思いつつ。
人は、(特にサヨナラの時は)うまく騙されて号泣したい贅沢な生き物なのですよ。


幕が上がると、この時点では正体を隠した、壮年の楠木正儀(光月るう)が登場する。そして、客席に向かって、「南北朝をご存じですか?」と呼びかける。
そして、ものすごく雑に南北朝時代というものについて解説を始める。武士政権の腐敗、楠木正成(輝月ゆうま)の登場と鎌倉幕府の滅亡、後醍醐天皇による建武の新政の失敗(武士を排除して公家だけで政治を行おうとしたため)…でもさ、倒幕は、足利高氏(のちの尊氏)なくしては成しえなかったはずなのに、そこ外して、正成ですか[exclamation&question]とは思う。
主人公の父親である楠木正成の活躍を強調したかったからだろうか。
でも、倒幕の立役者=尊氏(風間柚乃)だからこそ、その後の歴史の流れにつながるので、この解説はちょっとな…。
まあ、そもそも、南北朝時代が生まれる背景として、後醍醐天皇という、日本史の中でも相当クセの強い天皇(一樹千尋が怪演[ぴかぴか(新しい)])の存在は不可欠で、この人が、「治天の君」になりたいと思わなければ、こんなことにはなってないわけで、それを公家が政治を取り仕切ったからうまくいかなかった…という纏め方は、あまりにも乱暴だなーという気がした。もちろん、それまで政権担当してなかった人が政治の中心になれば、混乱はあるだろうけど、それだけで、歴史の流れは止まらない。現に、明治維新は、同じような混乱を乗り越えられた。
歴史が動くには、様々な要因があり、でも、その様々な要因を「大きな流れ」が、最終的にひとつの方向へ押し流していく。それが正行の言う「流れ」であるなら、流れに至るまでの物語を、雑に纏めないでほしかった。
流れは、ここから始まるものもあれば、ここまで続いてきたものもあるのだ。ここから始まった物語が、美しければ美しいほど、ここまで続いてきたはずの物語への扱いの雑さが気になる。
上田先生も、「見せたいものしか語らない」「作者都合で歴史を捻じ曲げる」人になっていくのだろうか。この不安が杞憂であることを祈りたい。


珠城りょう、鳳月杏、月城かなとの演じる楠木三兄弟の美しい若武者ぶり、登場人物の一人一人が、演技者として、最大限に力を発揮できるように、そして、絵巻物のようにどの場面も美しく印象に残るように…と、細部までこだわった舞台作りはさすがで、感情移入という部分を除けば、美しい舞台を見せてもらった、珠城らしいサヨナラ公演であった、と、満足している部分は、もちろんある。
特に、南北朝時代、冒頭に説明が入るくらい、宝塚の舞台で馴染みがないわけで、衣装などは、主役以外は別時代のものをアレンジして使ってもいたが、太刀や、正儀が使用する長巻などは、この時代のものに寄せて作っていて、宝塚の本気を強く感じた。
まあ、サヨナラ公演というのは、頭が痛くなるくらい泣くものなので、物語に納得いかない方が、頭痛もなく、美しさを堪能できたので、よかったのかな…と思った。


出演者感想です。
珠城りょう(楠木正行)…美しい、かっこいい、潔い。ありがとうございます。その姿を眺めるだけで、少しずつ、自分が成仏していくように思いました。


美園さくら(弁内侍)…就任以来、毎公演、苦手度が増してくる娘役さんだったので、現状、最大限に苦手です。セリフの声が苦手なのかな、特に。


月城かなと(楠木正儀)…正行からこの先を託される正儀に、組を託される月城が重なる。そんな重さを吹き飛ばすような、明るく、力強い若武者姿が良かった。


一樹千尋(後醍醐天皇)…アモナスロさん以来のヤバい権力者来た~[あせあせ(飛び散る汗)]生きてる時からヤバかったけど、死んで亡霊になったら、もう恐くて…本当に怪演でした[黒ハート]


光月るう(老年の楠木正儀)…冒頭の説明台詞の明確さ、本編ラストの深み、どれも、さすがでした。


夏月都(老年の弁内侍)…弁内侍が、あの後、どんな風に年月を重ねてきたのかが伝わる、見事な姿だった。ふとした場面で、美園演じる弁内侍を彷彿とさせるところもあり、なのに、苦手に思わないのは、声質の差なのかな。


紫門ゆりや(高師直)…何度見ても紫門に見えない。本当にすごい役者魂を感じた。ちなみに、顔が怖くて、女性にだらしないだけで、別に悪人じゃないですよね、今回の師直。


千海華蘭(ジンベエ)…本作品の中で、一番、人として信用できるキャラクターだと思った。長生きしてください。


鳳月杏(楠木正時)…戦いより飯炊きと妻が大好き…という、キャラが立っていてわかりやすい役。すっと立っている時の美しさにため息が出た。


輝月ゆうま(楠木正成)…解説と回想の中にしか登場しない難しい役どころだが、有名な武人、楠木正成として、作品世界そのものになっていたと思う。


海乃美月(百合)…夫の正時を愛し抜く妻。二人のラブラブな場面は、見ているこちらもニマニマしてしまった。


暁千星(後村上天皇)…尊かった…[ぴかぴか(新しい)]出陣式の歌がたまらなかったです[もうやだ~(悲しい顔)]


風間柚乃(足利尊氏)…素晴らしかったです。背中に室町幕府が見えました[ぴかぴか(新しい)]


春海ゆう(大田佑則)、英かおと(大田百佑)…百合の父と弟。コミカルな場面、涙を誘う場面、この二人の安定した力があればこそだな…と思う。


白雪さち花、晴音アキ…師直の愛人や吉野朝廷の貴族(男)など、八面六臂の大活躍。マジうまい[ぴかぴか(新しい)]


香咲蘭(楠木久子)…楠木正成の妻らしい、心の広い、温かい女性というのが、豪快な芝居の中に伝わる。今回で卒業するが、ご褒美にとどまらず、印象を残している。


楓ゆき(阿野廉子)…吉野まで同道した後醍醐天皇の寵姫にして、後村上天皇の実母。美しい…そして、強い…笑顔の素敵なが、笑顔を封印する役だったのは、悲しいが、サヨナラにふさわしい重厚な芝居が忘れられない。


佳城葵(北畠親房)…後醍醐天皇の側近。いやみな物言いが最高でした[黒ハート]でも、息子を亡くしたり、翻弄されてもいたんだよね…後醍醐さんに。


夢奈瑠音(北畠顕家)…本役での登場はたった一場面だったけど、本当に素敵でした[黒ハート]見事な武士像[ぴかぴか(新しい)]


蓮つかさ(高師泰)…高師直の弟。印象に残る場面はあまりもらえてない印象だが、口跡よく、印象に残った。


天紫珠李…後村上天皇の中宮顕子は、との並びがひな人形のように美しく、冒頭の解説シーンの光明天皇は、一瞬の出番だったが、元男役ならではのきりっとした姿も見られた。


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