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「イザボー」観劇 [┣ミュージカル・音楽劇]

ミュージカル
「イザボー」


作・演出:末満健一
音楽:和田俊輔
美術:松井るみ
照明:関口裕二
音響:山本浩一
衣裳:前田文子
ヘアメイク:宮内宏明
音楽監督・編曲:桑原まこ
歌唱指導:西野誠
振付:三井聡、港ゆりか
アクション指導:星賢太
演出助手:渋谷真紀子、高橋将貴
舞台監督:幸光順平
宣伝美術:岡垣吏紗
宣伝写真:中村理生


<出演>
イザボー・ド・バヴィエール…望海風斗
シャルル七世…甲斐翔真
シャルル六世…上原理生
ジャン(ブルゴーニュ公)…中河内雅貴
オルレアン公ルイ…上川一哉
ヨランド・ダラゴン…那須凜
ブルゴーニュ公フィリップ…石井一孝


イザベル…大森未来衣
ヴァレンチーナ…伯鞘麗名


フランス史上最も悪名高き王妃と言われる(らしい)イザボー・ド・バヴィエールの生涯を描いた日本発のミュージカル。…という謳い文句なのは、本作を海外に売り込みたいという希望があるのだろう。
最近、世界的に発信されている韓国ミュージカルでも、欧米を舞台にした作品が多く上演されているし、日本発ミュージカルがフランス王妃の物語でも全然おかしくない。


時代は、14世紀末から15世紀初め、百年戦争の頃。
現ドイツのバイエルン地方の公女、ヴィッテルスバッハ家のエリザベトが、フランス王・シャルル六世に見初められたことから物語は始まる。もしもーし[あせあせ(飛び散る汗)]でも、これは創作ではなく事実なので、あの一族は、皆様、なにか業を背負っているのかもしれないですね。
こうして、ドイツ語圏から、慣れないフランスという外国にやってきた14歳の少女(これもどこかで聞いたような…)は、イザベルという名の王妃となる。エリザベト(ドイツ語)がフランスではイザベルになるのね。でも、たしか、ルイ十六世の妹はエリザベトという名だったはずなので、18世紀頃には、この外国名も普通にフランスで普及していたのでしょう。
それが、「イザボー」という名に変換した経緯には、本作は触れていない。
イザボーは、Isabeauとスペリングされる。「Beau」は「美しい」という意味なので、美しかったのかな…と想像したものの、「美しい」の女性形は「Belle」なので、それは関係ないのかな。バヴィエールは普通にバイエルンのフランス語形。


幸せなはずの結婚生活は、夫が精神疾患を患ったことによって、大きく変わっていく。フランスも、王の統治なき不安定な状態が長く続く。でも精神疾患を発症して、1400年頃にはイザボーが誰かもわからなくなっていたのに、1407年まで国王夫妻の間に子供は生まれ続けている。
そんなわけで、1403年に生まれたシャルル七世は、自分の出自に自信が持てない設定になっている。完全に狂った王が作った子なのか、それとも、母の不貞の子なのか。母親である悪女・イザボーは「あなたは王の子ではない」と劇中告げたりしているし、精神的にもきつかっただろう。
そんな混沌とした時代に、颯爽と登場したのが、ジャンヌ・ダルク。
ジャンヌは、「神のお告げ」によってシャルル七世のもとに現れ、彼が正当な王位継承者であると言い、そんなジャンヌをオルレアンに派遣したことによって、シャルル七世は百年戦争の劣勢を挽回し、国王になることもできた。(狂王・シャルル六世の死後、7年間戴冠できず)
ジャンヌは、結婚当初のイザベルを演じた大森未来衣が演じているので、フランスを滅ぼそうとしたと言われているイザボーに、フランスを救う(盛り立てる)未来もあったのではないか、という見立てなのかな、と思った。


フランスの中世史を知らなくても、イザボーという不幸の中でも生きることを諦めなかった、逞しい女性の人生を観るのは爽快で面白い。
音楽が難解かつ美しく、それをスーパー歌ウマチームが圧倒的な声量でぶちまけてくれるのが、気持ちよかった。
女優枠で参加している那須凜が、あれだけ歌えるとは、嬉しい驚き[ぴかぴか(新しい)]上川一哉の歌声は、本当に心地よい。
一方で、気になったのが、客席を使った演出。
冒頭、アンサンブルキャストに煽られて、シャルル七世の戴冠式に参加した我々観客。「シャルルセット(七世・フランス語)」と叫び続けたのだが、その影響で、次の楽曲の歌詞「The Queen」が気になった。これがなければ気にならなかったのにな…。(フランス語で王妃は、La Reine)
あと、裁判シーンで、主人公であり、望海風斗が演じるイザボーを客席を巻き込んで糾弾する演出があったが、それはやりたくないので、やらなかった。舞台を盛り上げる演出なら協力するけど、ストーリーの進行役までさせられるのは、ゴメンだわ。望海さんを糾弾してまで。
(これは「テンペスト」と繋がるかも。私の個人的な感情です。)


ブラッシュアップしていけば、面白い舞台になるかも…と思ったが、「エリザベート」意識しすぎ(黒死病の場面で甲斐にトート閣下パロディやらせるのも今回限りでお願いしたい。いつか絶対トートやる子なんで。)とか、色々修正は必要かな、と思った。


その後、「The Queen」の件で、観劇仲間K様と盛り上がった。
英語でQueenといえば、女王(女性の王)と王妃、二つの意味がある。フランス語のReineも同じかというと、実は、フランスを含む旧フランク王国系の国家は、なんと「国家」が相続財産と考えられているのだが、女性には相続権がないということになっている。
なのでReineは、王妃ではあっても女王ではない。そこまで考えての歌詞なら、(つまり、イザボーは実質女王になることを目指した王妃だった…と)納得するしかない。その代わり、「シャルルセット」呼びスタートはやめた方がいいかな。


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「シラの恋人」観劇 [┣演劇]

シス・カンパニー公演
「シラの恋文」


作:北村想
演出:寺十吾


美術:松井るみ
照明:服部基
衣装:前田文子
音楽:坂本弘道
映像:ムーチョ村松
音響:岩野直人
ヘアメイク:宮内宏明
ステージング:小野寺修二
舞台監督:芳谷研
プロデューサー:北村明子


剣術指導:楠見彰太郎(座☆風流堂)、田村令


<出演>
草彅剛、大原櫻子、工藤阿須加、鈴木浩介、西尾まり、明星真由美、中井千聖、宮下雄也、田山涼成、段田安則


「シラノ・ド・ベルジュラック」の翻案だと思って観に行ったら、「シラノ…」に「着想を得た」オリジナル戯曲だった。
物語は、近未来の日本を舞台にしている。たぶん、十年ほど先の。コロナ禍などを経て、既存の抗生剤の効かない結核が「新たな死病」となった日本。各地に、患者を受け入れて療養させ、最期は看取るためのサナトリウムが出来た。鐘谷志羅(草彅剛)は、患者としてここを訪れる。
山と海が見える美しい場所にあるサナトリウム。そこには、クセのある院長(段田安則)や、色々抱えていそうな看護師(西尾まり)がいて、個性的な患者もたくさん療養している。
そんな中に、まだ若い女性の入院患者・野浦小夜(大原櫻子)がいる。
志羅は、小夜の姿に、子供の頃好きだったテレビ番組の中の少女剣士の姿を見ていた。(志羅が小学校に上がったくらいの頃に10代の若手女優だったその役の女性は、20歳前に交通事故で亡くなっていた。)


サナトリウムの学芸会(?)みたいなシーンが長々あって、その辺りで集中力が切れてしまった残念な私…
「シラノ・ド・ベルジュラック」が脳内にあると、そこから飛び越えた部分を受け入れるのが、困難になる。たとえば、志羅が剣の達人である部分などはしっくりする。院長の代わりに、小夜への手紙を代筆するのも。
それ以外の物語がなかなか入り込まないのは、思い込みのせいなのか、原典シラノの強烈なストーリー力のせいなのか…[バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)]
サナトリウムという閉鎖された世界の中の、閉ざされた物語かと思っていたら、話は急展開。お隣の国を「中国」と呼ばず、仮名にしているのが変だな~と思っていたら、突然の戦争勃発[どんっ(衝撃)]
愛する小夜を守るために、命の期限を知った志羅は、戦争に行き、そして戦死する。志羅は45歳、小夜は24歳なので、院長の老いらくの恋までは行かないものの、ある程度年の差がある。年齢差を超えるほどの熱愛が存在するわけでもない。でも、志羅は、日本を…ではなく、小夜を守るために戦争に行ったんだよね。彼の愛は、そういう形でしか表現されなかった。
ああ…そういう純粋な、ただ一方的に見返りなく捧げられる愛…というのが、「シラノ…」なのかもしれない。


中国らしき国と交戦状態になった時、かの国が日本海側にある原発を一斉に攻撃したという。
その中に、「志賀原発」の名が出てきた。あまりにリアルで言葉を失った。
(この作品は東京公演の前に、京都・福岡で公演されており、北陸の地震でクローズアップされた原発の名前が出てくるのは、偶然。だからこそ、ぞーっとした。)


大原の歌声の美しさ、力強さが印象に残った。ミュージカルではないが。
段田が院長の複雑な胸の内を、見事に表現していた。
そして、鈴木浩介の存在感がたまらない…[ぴかぴか(新しい)]宮下雄也もいい味を出してたなぁ[黒ハート]


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