SSブログ

「明けない夜明け」(再演)観劇 [┣演劇]

演劇企画集団ジュニアファイブVol.15
「明けない夜明け」


作・演出:小野健太郎
演出助手:鷲見友希、赤松真治
舞台監督:倉本徹
大道具:倉本工房
舞台美術:寺田万里奈
照明プラン:横原由祐
照明オペレーション:國吉博文
音響プラン:島猛
音響オペレーション:芹澤悠
方言指導:山下タクロウ
企画・製作:演劇企画集団Jr.5


母が父を殺したー
三姉妹は、その時から、加害者家族で被害者家族になった。


初演は2019年。
モデルになる事件(久留米看護師連続保険金殺人事件)があり、そのうちの一つの家庭の「その後」を描きながらも、わざと設定を変えている部分があった。特異な事件であるため、テーマが分離しそうになるのを防ぐ必要があったのだろう。
で、昨年、事件そのものを描いた「白が染まる」を上演したことで、再演となる今回は、「白が染まる」の続きであることを示唆したセリフなどが追加されている。とはいえ、この一家の名前は、「河内さん」のまま。
そこだけは、拘りだから変えられないんだろうな、と思った。
(Jr.5の公演は、必ず主役級の人物に「河内」姓が使われるのです。)
「白が染まる」のヒロイン、イシイヒトミの子供たちが「河内」を名乗っていても、犯罪者家族であることを隠すために、姓を変えている可能性はあるし、そこは気にしないことにした。


三人姉妹の名前は、上からアイ(誠子<尼神インター>)、メグミ(小島藤子)、マナ(吉本実憂)。すべて、「愛」の読みだ。子供たちに「愛」の読みを持つ名前を付けた両親が、こんな末路を迎えるなんて。(どうやら、パンフによると、三人の本当の名は、愛・恵・茉菜らしいけど。)
長女のアイは、引きこもり。前は会社員だったらしいが、身バレが原因で退職、外へ出られなくなった。次女のメグミは、最近、花屋でバイトを始めた。人をイヤな気持ちにさせないことばかり考えているところがあり、それがアイをイラつかせる部分でもある。社員の高原(鈴木勝大)から好意を持たれているのに気づきながら、こちらの気持ちは相手に気づかせない。三女のマナは、キャバクラで働いている。こちらは、自分の意見をハッキリ言うタイプ。店でも「母が父を殺した」ことは話しているらしい。アイはメグミには癇癪を起こしているが、マナとはうまくやっている。おそらくメグミのいい子ぶっている(ように見える)ところに反発を感じるのだろう。
メグミのバイト先では、二代目の店長(佐藤達)が適当に店を経営していて、ベテラン店員の山田(成田沙織)が、そんな店長を補佐している。店長よりはマシな仕事をする高原は、メグミに気があるらしく、メグミより前から働いている若い女子、春花(石森咲妃/井筒しま)は、高原が好きなので、それが気になっている。店長は、若い女の子たち(メグミと春花)が気に入っていて、山田は店長が気になっている。こんな日常風景は、客を笑わせるポイントになりながら、後の冷酷な結末とのギャップ作りにも貢献している。
母の出所の日が近づいていることから、貝山(岩瀬亮)という男が、メグミやマナの職場に現れて、聞き込みのようなことをしている。職場である程度カミングアウトしているマナはともかく、メグミは犯罪加害者家族であることが露見し、結局、職を失ってしまった。が、貝山は記者などではなく、メグミたちと同じような身の上だった。貝山の前で、メグミがひたすら走る場面は、演じる小島さん自身のひたむきさまで浮かび上がるような、気持ちの良いシーンだった。
花屋の若い女の子が好きな店長も、気があったはずの高原も、仲良く働いていたはずの女性陣も、だれも助けてくれなかったのには、こちらまで苦しくなってしまったが、こういう時、当事者に寄り添えないのは、それだけ、周囲の人々(観客である我々)が、寛容であれない生きづらさの象徴でもあると思う。ここで逆の意見を言ったら、自分も職を失うかもしれないという恐怖。それだけギリギリのところで生きている人が多いのだ。
マナは、姉二人がケンカばかりしている家から、出ていくと宣言する。店のボーイ、加藤(赤松真治/鷲見友希)と一緒に暮らすのかと思いきや、彼はただの同僚だと言う。周囲に期待せずに生き抜くマナがかっこいい。マナの逞しさの前に言葉もない姉二人だが、身バレした以上は、また違う土地に行くしかないー


母(宮田早苗)が父(奥田努)を殺すーこの事件は、こちらの「白が染まる」記事を読んでいただけるとわかるが、保険金目当ての殺人を計画した友人の女性に騙されて、夫に愛人がいて多額の借金があると思い込んだ末の殺人だったという少し特殊な話だが、夫婦間の愛憎によって母が父を、あるいは父が母を殺すというのは、それほど極端に珍しい話ではない。
そして、犯罪加害者家族へのバッシング、犯罪被害者家族への同情まじりの興味本位の目…そんな二次加害は、日本のどこでも普通に起きている。自分は、そんなことをしないと断言していた高原が、現実を前に、メグミに背を向けるのは、人間の本性をこれでもか、と見せつける。
貝山が三姉妹に向ける心配の目も、却って三人を窮地に陥れるものなので、なかなか、善意というのは伝わらないものだと実感した。


マナ役の吉本さんの真っ直ぐな前向きさが心地いい。
アイ役誠子さんのイラつきっぷり、メグミ役小島さんのなんとなく謝っちゃう感じ、全部バランス良くて納得の再演でした。


nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:演劇

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。