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「白が染まる」観劇 [┣演劇]

演劇企画集団Jr.5 第13回公演
「白が染まる」


作演出:小野健太郎
演出助手:大嶽典子
舞台監督:前木健太郎
大道具:倉本工房
舞台美術:寺田万里奈
照明プラン:横原由祐
照明オペレーター:遠藤宏美
音響プラン:島猛
音響オペレーター:川崎理沙
ドラマトゥルク:山崎理恵子
衣裳プラン:青木隆敏
映像撮影:堀雄貴
映像編集:小野健太郎
ヘアメイク:大嶽典子
宣伝撮影:大参久人
パンフレット撮影:横田敦史
宣伝ヘアメイク:MUU 工藤聡美
宣伝美術:岡野椋子
パンフレットデザイン:宇佐見輝
撮影協力:高円寺ウシータ
制作:山崎智恵


本作は、実際に起きた事件「久留米看護師連続保険金殺人事件」をモチーフにしている。
主犯のYJと彼女に騙された同僚の看護師たちが、共謀してメンバーの夫を殺害し保険金を詐取した連続殺人事件で、主犯のYJは既に死刑が執行されている。裁判経緯を読むと、YJの自己中心的で刹那的な異常性格と、彼女にマインドコントロールされた3人の同僚による、歯止めのきかない狂った犯行に思える。
ただ、本作は、実際の殺人事件を忠実になぞるのではなく、これをモチーフにして、4人の女たちの痛々しい共依存の関係性を描き出している。


ヒロインのイシイヒトミ(高野志穂)が警察署に相談に行ったところから、物語は始まる。担当する刑事のカワウチ(成田浬)はヒトミをリラックスさせようと手を尽くすが、ヒトミはなかなか言葉を紡ぎだせずにいる。
主人公の名前が“カワウチ”でないことに軽く衝撃。カワウチ姓はこの刑事の方なのだが、彼は劇中一度も名を名乗らない。Jr.5において、アイデンティティともいえる“カワウチ”を卒業する時が近づいているのかな…。
※続編的設定の舞台「明けない夜明け」(2019)では、主人公一家の姓は「カワウチ」になっている。


ヒトミは、夫・ゴウ(奥田努)との間に三人の娘がいる看護師。目下の悩みは、夫が700万円の借金を抱えてしまったこと。職場の友人であるヨシダジュンコ(紺野まひる)、ツツミミユキ(罍陽子)、イケガミカズコ(山崎静代)の前で弱音を吐くと、ジュンコが「先生」を紹介するから相談してみないか、と話を持ち掛ける。
警察にも政財界にも顔がきく「先生」という人が知り合いにいて、借金の問題なども、解決してくれるという。
4人は、看護学校時代の友人で、現在はミユキが看護師長。ジュンコとミユキがこの病院で再会したことから、当時の仲間に声をかけてみようということになり、ヒトミとカズコは、二人の呼びかけに応じる形でこの病院で働くことになった。そんなわけで、看護師たちの中でもこの4人は、とりわけ仲がいい。しょっちゅう4人でつるんでいる。
「先生」の調査によると、ヒトミの夫は、行きつけのスナック「フォレスト」のママ、モリと男女の関係にあり、それを苦にして、最近夫が自殺したという。夫の親族は、不倫相手に慰謝料として5千万円を要求しようとしているらしい。夫が家に寄り付かず、既に夫婦関係も冷め切っていたヒトミは、その調査結果に絶望し、夫を憎むようになる。
また、無言電話が鳴ったりして精神的にも追い詰められたヒトミの憔悴ぶりに、3人の友人たちは、あなたさえ決意してくれれば、私たちが彼を消してあげると言い出す。
ゴウは、直観の鋭さを自慢していたが、ジュンコの胡散臭さと、「先生」など実在しないということを、ヒトミに言い聞かせようとするが、ゴウの存在に耐えられなくなっているヒトミには逆効果だった。ヒトミはとうとう、一線を超える決意をするー


狭すぎる人間関係の中に投じられると、まさか、こんなことに騙されるなんて…と驚くような事件が発生したりする。久留米看護師連続保険金殺人事件も、YJの穴だらけの嘘に、3人の看護師が騙され、自らの家族を殺めてしまった。もしかしたら、途中で、気づくことがあったかもしれない。「連続」殺人事件なのだから。でも、途中で気づいたとしても、既に犯罪に手を染めてしまった時点だったら…信じ続けることで、自分の過ちから目を背けることができたのかもしれない。
人間の心の闇の深さ、依存しあうことで強まる関係性にぞっとする。
また、最後に事件に巻き込まれるヒトミの視点から物語を観ているため、先行してカズコの夫を殺害している3人の関係性の微妙な違いも興味深い。ジュンコとミユキは相棒であり、リーダーのジュンコに唯一意見できるのがミユキ。カズコはジュンコから明らかに格下扱いを受けているが、夫を殺してもらった恩があるからか、ジュンコに盲従しているところがある。
ジュンコの夫(大村浩司)は人畜無害で、妻を心配しているが、ジュンコの動機は、裁判で明らかになったYJのような破滅型犯罪者のそれでなく、過去に信頼していた人に裏切られた トラウマから、犯罪を共有することで絶対に裏切らない強固な人間関係を作りたかったのではないか、などと考えた。
少なくともジュンコをわかりやすい異常性格者にしなかったことで、演劇としてずっと深い作品になった。


私が観劇した回は、オノケン出演回で、小野は、スナックフォレストの共同経営者(ゴウの浮気相手と思われていた女性の兄)として登場。女性の夫が今も生きていること、ヒトミに接触しないようにと言って、ジュンコらしき女性が300万円を置いて行ったことを伝える役どころ。
このモリの登場により、ヒトミは、ジュンコの嘘を知る。そして、警察に向かうことになる。
言われてみれば、ゴウが言っていたことは正しかった。ヒトミの後悔を思うと胸が苦しい。
と同時に、気づいていれば、やり直せただろうか、と考えるに、それは無理だっただろうな、とも思う。それほど、奥田の演じるゴウは、これ以上一緒にいるの無理…というキャラを造形していて、尊敬に値する。
離婚できれば、それが一番よかったんだろうな…と思うが、自身の親が離婚していたので、それだけは避けたかったというヒトミの気持ちもよくわかる。
よくわかる、よくわかるの集合体で、全然理解できない連続殺人事件を構成してしまうオノケンの作劇力は、すごい。
そして、俳優たちの演技[exclamation×2]
紺野は、激ヤバなジュンコを強烈な寂しさを抱えるアンビバレントな女性として、一方でやや強引なリーダーとして、印象濃く演じた。小劇場作品には初めて参加したということだが、もともと宝塚時代も、自然な演技が身上だった紺野には、小劇場、向いているように思う。
高野は、ナチュラルメイクなのに、ものすごい美人で、あまりの美しさに、何度もガン見してしまった。終盤、涙を手でおさえながら、訥々と語る場面の美しさは、ちょっと言葉にならない。巻き込まれたヒロインの心理が手に取るように伝わり、感情移入が止まらなかった。
は、ヒトミが巻き込まれるのを防ごうと、何度も手を尽くたミユキの、その各ポイントで観客に少し違和感を与え、あーあの時、ミユキは本当はこうだったんだ!と後で思い出せるような、細かい芝居をしていて、終盤、一気に謎が解けて、ぞわーっと鳥肌が立った。
山崎は、実は、最凶殺人兵器かもしれないのだが、この恐ろしいドラマの緩衝材として、色々な場面で際立っていた。その一方で、ジュンコへの忠誠心のような感情が恐ろしく、純粋な人が方向を間違えるとこうなるのか…と、何とも言えない気持ちになった。


重苦しい作品を支えた男性陣、特に、カワウチ役の成田浬の田舎町の刑事さんらしさに、だいぶ救われた気がする。少し気が早いが、年末恒例、今年の「よかった芝居」でピックアップするだろうな、と思っている。


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