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「アルキメデスの大戦」観劇 [┣演劇]

「アルキメデスの大戦」


原作:三田紀房『アルキメデスの大戦』(講談社「ヤングマガジン」連載)
舞台原案:映画「アルキメデスの大戦」(監督・脚本:山崎貴)


脚本:古川健
演出:日澤雄介
美術:土岐研一
照明:松本大介
音楽・音響:佐藤こうじ
映像:浦島啓
衣裳:藤田友
ヘアメイク:宮内宏明
軍事監修:後藤一信
数学監修:根上生也


方言指導:岐部公好
軍事所作指導:越康広、長谷部浩幸


演出助手:平戸麻衣
舞台監督:荒智司


「アルキメデスの大戦」は、「ヤングマガジン」に連載中の漫画作品で、まだ完結していない。そこで、本作では、既に2019年に公開されている映画「アルキメデスの大戦」を原作とし、その範囲(海軍における巨大戦艦推進派<旧勢力と空母推しの山本五十六との攻防)を中心に舞台化する、という面白い二重構造の作品となっている。ちなみに原作映画は見ていて、その時のミニ感想はこちら
映画版にはすごく感動して、続編をいまだに待ち望んでいる。そのうえ、夏にハマりまくった劇団チョコレートケーキの脚本家と演出家が、2.5次元の帝王である鈴木拡樹を主演に据えてどう料理するのか、上演するはずだった2020年の数倍、期待値は上がった。


海軍少将山本五十六(神保悟志)は、「これからの戦争は航空機が主体になる」と確信しており、つまり、海軍的には、今後建造すべきなのは空母(航空母艦)だと提唱し続けていた。が、海軍の主力戦艦「金剛」の老朽化に伴う後継艦の建造にあたり、巨大戦艦を建造しようとする嶋田少将(小須田康人の一派と完全に対立していた。
巨大な戦艦を建造するとなると、その予算もまた莫大になる。山本はそこに勝機を見出していたが、嶋田たちが提出してきた建造費予算は、山本の提出した空母よりも安いものだった。
山本は、嶋田と、その配下で造船中将の平山(岡田浩暉)に一矢報いようと、策を巡らせていた。そんな中、山本は、派手に芸者遊びをする書生、櫂直(かい・ただし 鈴木拡樹)と出会う。櫂は、尾崎財閥令嬢鏡子(福本莉子)の家庭教師をしていたが、鏡子との関係を疑われて、家庭教師をクビになったばかりか、東京帝大も退学に追い込まれた。(芸者遊びは、尾崎財閥からの手切れ金を使い切りたかったから[あせあせ(飛び散る汗)]
櫂は、日本に嫌気がさし、アメリカに留学する手続きも終えていたが、山本の説得に負け、海軍主計少佐として、巨大戦艦建造のカラクリを調査する任に就く。


映画も舞台も、見どころは、櫂が黒板にスラスラと書き殴る数式だ。建設に必要な鉄の総量を算出できれば、この数式に当てはめることで、建造費を自動で算出できる。その公式の正しさを立証したあとで、新造戦艦の鉄の総量を数式に当てはめれば、「ほんとうの建造費」があぶり出され、嶋田少将と平山中将の提出した建造費がウソであることを立証できる。
でもこれがものすごい数式[exclamation×2]ルートの中に、山のように数式が入り乱れていて…。
で、謎なのは、鈴木拡樹氏が、この寿限無のような数式を覚えて書いているか、ということ。なんか、カラクリがあるのだろうか。プロの俳優だから、どんなに長台詞を覚えてもそんなに驚きはしないが、この意味不明な数式は、どうしたら覚えられるのか、それをあれだけのスピードで板書できるのか、もはやマジックの世界。何もトリックがないのだったら、鈴木拡樹=神説にまた、新たな証拠が。


櫂という登場人物のすごさは、この公式を作り出したことだけではない。
そもそも、造船の知識のないところから、船の設計図を作り、部品費や工賃の資料を読み込み、さらに、造船中将も気づかなかった設計ミスにも気づく。平山は、論破されたというよりは、この設計ミスを恥じて、巨大戦艦の建設を一度断念したと言っていい。
この辺の極める感覚って、プロのオタクのそれに似ているかも。


ラストシーンは、映画版とは少し違っていて、戦艦大和(結局その後建造される)の沈没後、この責任をどうする…みたいな櫂たちとのやり取りから、嶋田中将がピストル自殺するというもの。責任を取るというよりは、これ以上、戦況を見せられることに耐えかねたという感じだった。生きてこれからの日本を見ることに耐えられない…みたいな。
(ご存じの通り、櫂を海軍に引き入れた山本五十六は、その後、元帥になり、1943年に戦死、国葬にされている。彼は、大和の最期を知らずに死んだ。)
昭和初期の時点では、櫂はもちろん、山本も、アメリカとの戦争は絶対に避けなければならないと信じていた。それが、なぜ、こんなことになってしまったのか…そんな終わり方は、劇チョコらしい終わり方だし、そうじゃなきゃ、このコンビに依頼した意味がないよな、と思った。
納得度の高い舞台でした[黒ハート]


櫂役の鈴木拡樹は、海軍の制服が似合い、エリートであり変人でもあるキャラクターがしっかりと伝わってくる一方で、膨大なセリフをやや早口で回していく劇チョコ的演出には戸惑いもあったように感じた。2.5次元に敵なしの鈴木でも、ドロドロ3次元には、まだまだ研究の余地があるんだろうな。でも、こんな風に、「のぶらん」の二人が、それぞれ東宝系の舞台で主役を張っている姿は、戦国鍋ファンとしては、感無量。これからも、応援していくぞー[るんるん]
櫂の補佐役に選ばれた田中少尉役の宮崎秋人。え、あの、「マーキュリー・ファー」でローラを演じたあの秋人くんだよね[exclamation&question]うわ、なに、この振り幅、惚れてまうやつやん[ハートたち(複数ハート)]正しいと思うことを単純に信じることができる人。素直で、強くて、優しい。人情の機微もちゃんとわかる。みんなが田中を好きになる。そんな人物が、目の前に立ち上がってきて、感動した。今後の秋人くんに、注目です。(だいぶ遅いな、自分)
尾崎財閥令嬢鏡子役の福本莉子。「お勢、断行」で超苦手になってしまったのですが、今回は、出演シーンが少なく、櫂との心的交流も櫂の朴念仁が幸いして、ほぼ無いに等しかったので、まあよかったです。本作において、鏡子は、現場の花でしかなく、そういう役ならまあいいんだけど、その演技でどこまでいくつもりなんだろうか。
平山中将役の岡田浩暉。映画版の田中泯なら、ああいうラストになって、岡田浩暉だからこのラストなのかな…と思った。彼には彼の正義があり、戦艦の存在意義がある。でも、その思いは正しく機能しなかった。しみじみ、平山中将の人生を考えてしまうような、ラストシーンだった。
山本五十六役の神保悟志。意外とウラオモテのある人物に描かれていて、映画版(舘ひろし)の清濁併せ吞むとは、イメージがだいぶ違う。櫂には、絶対にアメリカと戦争しないために…と言いつつ、もし米軍に奇襲攻撃をかけたら、勝てるんじゃないか、みたいな「男のロマン」も捨てきれない、しょうもないおっさんで。劇中の人物だから、可愛いなとか思っちゃいますが、きっと現実にもいるんだろうな…と思うと切ないですね。
高任中尉役は、近藤頌利。実は頌利くんが休演中にも観ていて、その時は、イッツフォーリーズの神澤直也くんが演じた。(神澤くんは、通常別配役で出演している。)先に観た神澤くんの高任は、嫌味で高圧的でカンチガイ野郎で、全力で高任でした。それに比べると、頌利くんの高任は、「あー、いるよね、こういうことしちゃうダメなやつ」という、そこに「ダメなやつ」までセットされた人物で、それもまた、頌利くんの人の良さを感じさせるキャラだったと思う。最初から頌利くんで観たらどんなふうに思ったんだろう。
櫂たちを助けてくれる大里造船の社長(岡本篤)。劇チョコ俳優らしく、作品の世界観に沿って、大阪商人の反骨心を見せてくれる。映画版は鶴瓶さんだったので、インパクトすごかったけど。


今、この時代に、「アルキメデスの大戦」をこんな形で上演してくれたこと、それが一番ありがたい。
できれば、劇チョココンビで、この続きも作ってほしいと思う。


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