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未完の大器・七海ひろき [┣生徒・演出家・劇団論]

今回の「風と共に去りぬ」は、朝夏まなと七海ひろきのWスカーレット。
今後、宙組の2番手スターとなっていく朝夏は、スターとしての豊富な経験を持っている。何度もバウホールで主演しているし、既にショーでは大劇場でセンターの場面を務めているし、ネックになるのは女役であること位。主役としてのスキルを十二分に持っていると言えよう。
それに引き換え、七海は、タナボタ的な新公主演と、バウホールのW主演程度の経験しかなく、女役の経験が多少ある程度。舞台にたった一人で場面を持たせるとか、トップさんとずっと台詞の応酬をして芝居を動かすとか、そういう経験がほとんどない。
この手の役者が突然主役をもらうとどういうことになるか、というと、途中から顎が疲れてきて、台詞の流れがおかしくなる。言語不明瞭になったり、台詞のリズムが崩れたり…。
口の中にコオロギを飼っていようが、カエル声だろうが、それで統一されるのであれば、芝居の流れ上、気にはならない。
しかし、途中に突然不明瞭な発音が混ざると、あれ?今噛んだ?みたいな意識が働く。それが何度か繰り返されると、「この人大丈夫?」になる。
そんなわけで、正直、七海主役スキルは、現在、かなり低い。
それ以外にも、女役ゆえなのか、顔の、特に口周りの表情作りが下手で、口を開いていることが多かったり、笑うべきでないところで口角があがっていたりする。また、歌に自信がないのか、『わたしとあなたは裏表』など、スカーレットIIの伶美うららともども、小さな声でこわごわ歌っているのが客席からも丸わかりなのが痛い。

そんな七海ではあるが、主役として、大切なものを持っていた。
超共感力というか影響力というか。
皆が七海スカーレットの一挙手一投足に共鳴している。そして、それを意識的か無意識にか、七海は利用しているようなのだ。
空気を動かす力は、既に持っているってこと[exclamation&question]
それなら、あとは、経験だけじゃないか[exclamation×2]
それなら、この貴重な毎日を大切に過ごしてほしい。
そして、この遅れてきた未完の大器、七海ひろきがいつか大輪の花を咲かせられるよう、願うばかりです。

これから下は、ちょっと褒めすぎかもしれない、七海スカーレットの魅力です。
興味がある方だけ、クリックしてお読みください。

 

  1.  美貌。なんたって美しい。美しいは正義[パンチ]
  2.  体躯。ぶっちゃけバトラーより逞しく見える気もしますが、大は小を兼ねる[手(チョキ)]
  3.  リアル。「風と共に去りぬ」は型の芝居だ。「ベルばら」にリアルを持ちこむことは可能だが、「風…」にリアルを持ちこむのは並大抵のことではない。これまで、リアルが成功した例を見たのは、1994年の久世星佳だけではないだろうか。しかもそれは、アシュレという弱い存在だったからこその成功で、映像を見た限りでは久世のバトラーは成功しているとは言えないものだった。強い女のイメージがあるスカーレットをリアルに描く―しかも、スカーレットの本質にアンビバレンスを見出しているような演技をした人は、これまで一人もいなかった気がする[ひらめき]
  4. 対スカII。スカーレットというキャラクターにアンビバレンスを見出した先駆者は、実は、スカーレットII役を作った植田紳爾だろう。スカIIという存在は、著作権者との約束により、『原作にない人物を出してはいけない』ことになっていたため、苦肉の策として編み出したものだというが、要はスカーレットの突飛な行動の裏にある本音を担当する存在。そんなスカIIを演じる伶美うらら美人で不器用。基本、スカIIはスカーレットの独白を助けるために登場するが、バザーの場面前後と、アシュレ出征の場面だけは、スカIIが芝居の中に存在している。(スカIにしか見えないながら…)ここで、七海スカーレットは、スカIIを計算に入れた演技をする。スカIだけで完成しない芝居になっている。つまり、スカIとスカIIの二人でスカーレットが完成する、という引き算の芝居なのだ。こんなことをしたスカーレットを私は知らない。おだまり、こんちくしょー”で笑いを取りに行かずに笑わせた手腕にも拍手[ぴかぴか(新しい)]
  5.  対メラニー。メラニーは、天使とか神とか表現されている。ところが七海スカーレットの前では、メラニーの仮面も剥げてしまう。いくらスカーレットにあてこするためとはいえ、往来で亡くなった兄を愚弄するバトラー船長をメラニーはなぜ嫌いにならないのか。嘘泣きをしてまでバザーに行こうとするスカーレットをメラニーはなぜ詰らないのか。メラニー自身が戦地で何の手柄も立てず、麻疹で死んだ兄を軽視しているからにほかならない。メラニーは、相当なリアリストなのだ。そして、それは、南部社会の女性としては特異なことだろうし、その点ではスカーレットと同じなのだ。にもかかわらず、南部の婦人たちに信頼されているメラニーのしたたかさ、本当の意味での強さがあぶり出される。スカーレットがリアルな芝居をするから、型の芝居からは浮かんでこない視点が生まれる[目]
  6.  対バトラー。バトラーはスカーレットを愛している。しかしその愛は、無私の愛ではなく、多分に利己的な愛だ。戦争中にスカーレットを放り出して南部軍に志願するのも、愛する男の行動としては相当ありえない。嫉妬に狂って酒を飲んでのDVもNG。だから、あのラストシーンも傲慢で自分を愛さないスカーレットに、我慢の限界が来た可哀想なバトラーというのは、ちょっと違う。バトラーとスカーレットは、自己愛の強い似た者同士。リアルなスカーレットの存在ゆえに、バトラーが人間臭いタカラヅカらしくない主人公に見える。謝っているスカーレットが真摯に話を聞いているようで、相手の言っていることがまったく理解できていないディテールなど、すれ違う二人を描く鋭さに脱帽[いい気分(温泉)]
  7. 対アシュレ。スカーレットは、意識していないながら、アシュレのダメさをかなり早い段階で、しっかりと見抜いている。見抜きながら、見ないふりをして、夢を見ているのだ。スカーレットとアシュレは一番、対極的なキャラクターだが、現実から目を逸らしている点だけは、似ているのだ。リアルゆえにアシュレも王子様では済まなかった[バッド(下向き矢印)]

なんだか、『風と共に去りぬ』が、昼ドラのような複雑な人間模様になってきてしまった。
でも、それは、とても面白いものだった。
そう、七海スカーレットの魅力は、面白いことなのだ。

もちろん、今はまだ、やりたいこと自体はわかるし、それは明らかに面白いものなのだが、技術が足りないために、ちゃんと表現しきれていない。
なんだこれ。って思ったら、ラスパ(初演)の頃の祐飛さんもそうだったなーと思うと、私が特にかいちゃんに面白さを感じる理由も納得。
今後の七海ひろきに期待しています[黒ハート]


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コメント 2

ジェイゆみ

初めまして、いつも本当に楽しく読ませて頂いています。
具体的ではっきり、すっきり書いて下さり、うなずく事多し。
僭越ながら、沢山ある愉美さんの魅力の大きな一つは〔面白いこと〕です。

最近、七海さんが気になって気になって・・好きになりました。
美貌も、落ち着いたトークも、漫画大好きでその上とても知的な雰囲気・・
お稽古場映像の表情もとてもいい。

スカーレットもいいですよね。
ビビアン・リーのスカーレットも素晴らしかったですが、
かいちゃんも体当たり的なところが魅力です。
七海スカーレットの魅力が、愉美さんの解説で納得できてますます興味がわいてきました。
これからも色々書いて下さい。
楽しみにしています。


by ジェイゆみ (2013-12-08 09:18) 

夜野愉美

ジェイゆみさま
はじめまして。コメントありがとうございます!
面白いこと!と言っていただけて光栄です。

かいちゃん、なかなか面白い役者さんだと思います。
スカーレットがどこまで進化するか、そしてその後、かいちゃん自身がどうなっていくのか、楽しみに見守りたいと思います。
by 夜野愉美 (2013-12-08 22:57) 

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