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「お勢、断行」 [┣大空ゆうひ]

「お勢、断行」


原案:江戸川乱歩
作・演出:倉持裕


松成千代吉(声)…寺十吾


音楽:斎藤ネコ
美術:二村周作
照明:杉本公亮
音響:高塩顕
映像:O-beron inc.
衣裳:太田雅公
ヘアメイク:宮内宏明
演出助手:相田剛志
舞台監督:橋本加奈子、鈴木章友
プロダクションマネージャー:勝康隆
技術監督:熊谷明人


※プログラムに記載されているスタッフがとても多いので、代表者のみの記載といたします。


2年前にゲネプロを行ったところで、中断となった作品が、最小限の出演者変更でなんとか上演にこぎつけた。関係者の皆様の尽力に感謝したい。


江戸川乱歩の短編に「お勢、登場」という作品がある。
病がちな夫を家に残して浮気三昧の若妻(後妻)、お勢。ある日、浮気から帰宅すると、長持ちの中から夫の声が聞こえる。子供とかくれんぼをしていて、長持ちの中に隠れたら錠が下りて、死にそうになっていたのだ。すぐに助けようとしたお勢だったが、途中で気持ちを変え、長持ちの蓋を閉じて、夫が死ぬのを待つ。
こんなとんでもない女がいたく魅力的に描かれている。これを倉持裕が他の乱歩の小説からエピソードを足しながら1本の舞台作品に仕上げたのが、2017年の舞台「お勢、登場」。お勢は、黒木華が演じた。
今回は、こうして野に放たれたお勢のその後の物語を倉持が「創作」した舞台となっている。
この作品には、「夫を精神病院に送り込んで、その財産を自分のものにしようとする後妻」が登場する。彼女に対して、お勢が時に厳しく批判的になるのは、こんなお勢の過去が関係している。悪人の自覚を持たない悪人が、殺人者・お勢には許せないのだろう。


時は大正末期。
お勢(倉科カナ)は、資産家の松成家に居候している。女流作家として、「泉原先生」に師事していたお勢だったが、先生の妻である初子(池谷のぶえ)に疎まれ、初子の兄である松成千代吉の家に引っ越すことになった。初子は夫とお勢の関係を疑っており、あまり初子に打ち解けてこない千代吉の後妻・お園(大空ゆうひ)へのいやがらせのつもりもあって、松成家にお勢を押し付けたのだ。
ところが事態は意外な方向へ展開する。前妻の娘・晶(福本莉子)がお勢にすっかり惹かれてしまったのだ。お勢もまた、晶を知って、これまでの根無し草な人生に疑問を感じ始める。そんな二人の関係は、当時女学生の間で流行っていた「エス(シスターを指す。疑似姉妹。友情以上の女子同士の結びつき)」を意識した描き方に思える。
ある日、資産家である千代吉のもとに日参する代議士・六田梅次郎(梶原善)が、千代吉から投げつけられた灰皿を額に受けて負傷する事件が起きた。懸命に謝り、手当を指示するお園に、六田は、千代吉が自分だけでなく、妻にも暴力をふるっているのだろうと言い当て、この窮状から逃れるための方法を指南する。
それは、千代吉を病院送りにして、松成家の財産を手に入れること。幸い、六田の支持者の中に、どんな患者も金で引き受けてくれる病院があった。が、院長の坂口(正名僕蔵)と看護婦長の西(千葉雅子)は、その件で、探偵の天野(粕谷吉洋)から執拗に狙われていた。躊躇する院長の前で、千代吉の妻の名を確認した西は、突然、積極的に打開策を提案する。千代吉の暴力に、「実害」があれば、入院させやすいのでは…と。
お園は、暗闇を恐れる…という千代吉の弱点を利用して、二度ほど停電を起こすことにする。そのために、女中・真澄(江口のりこ)の知り合いの電灯工夫・河合信也(堀井新太)を金で雇って停電を起こさせる。停電になって誰も助けてくれないとなれば、夫は大騒ぎをして、近所中の評判になると考えたのだ。ただ、停電を利用して、ついでに旦那様の私物をちょっとくすねてもバレないはず…と、真澄が唆したのが原因で、信也は、その姿をお勢に見られてしまう。
そんな風に、加担した人々のほんの少しすれ違う思惑が、事件を思わぬ方向へ導く。
坂口院長は、計画にいつの間にか、松成家の女中や、その知人の電灯工夫まで加わっていることに不安を表明し、電灯工夫にクギを刺した方がいいのではないかと言い出す。これを盗み聞きしていた女中の真澄が、信也に電話して彼に窮地を伝える。その前から、既にお勢が真相を喝破して、信也に奥様の関与を聞きに来るが、信也が停電の目的を知らないことを確認し、それ以上の行動には及んでいなかった。
坂口医院のことを調べている探偵の天野は、なぜ松成千代吉を坂口医院に入院させたのか、家族の誰があの病院を知っていたのか、などと、しつこく晶に尋ねる。天野は坂口医院の西婦長にも色々質問するが、こちらは、罪と罰のつり合いのような話で天野を煙に巻く。さらに天野は、管内の電灯工夫である河合信也のアパートを訪れるが、お勢の訪問で、なにかとんでもない事態に巻き込まれたことに気づき、真澄の電話で殺し屋を仕向けられると勘違いした信也が、天野を電殺(ドアを開けると感電する仕掛けにより)してしまう。
自暴自棄になった信也を真澄が励まして、松成家の古井戸に遺体を捨てに来たが、死のうとして飲んだ睡眠薬がここで効いてきて信也は昏倒、真澄は逃げ出す。翌朝、訪ねてきた初子が庭先に放置された天野の死体を発見して、警察を介入させたくないお園と対立、揉みあううちにお園が灰皿で初子を殴打、殺されると感じた初子が逃げ回り、階段から落ちて死んでしまう。
当主を精神病院に収監して妻が財産を受け継ぎ、六田が政治資金の寄附を受ける…たったそれだけの悪巧みが、二人の死者を出したことで、一同は慌てる。真相を求める晶とお勢の前で、これ以上、続けられない…とお園は、覚悟を決める。千代吉を退院させ、お園は出ていく、お園が六田に寄附するはずだったお金は晶とお勢が受け取ることで話は決まるが、実は、晶もお園も納得していない。
晶の思いを確認したお勢は、停電の晩に盗んでおいた千代吉のピストルで、六田と坂口、そしてお園を撃ち殺して同士討ちに偽装する。
(お勢は知らないが、話を大きくしてしまった信也が、天野と初子を井戸へ捨てる際に、六田を怒らせ、殴打の末に、井戸に落とされていた。三人を井戸に埋めた六田と坂口が戻ってきたところに、ジュースを持ってきたお園は、そこに毒薬を混ぜている。ただ毒が効く前にお勢が現れたようだ。)
三人の死亡を確認した看護婦長の西が、天野との過去の会話の続きを唐突に話し始める。
お園が後妻に迎えられた後、千代吉から虐待を受けるまでの間、なかなか子ができないから…と、産婦人科に相談に行ったことがあった。その産婦人科に勤務していたのが西だった。検査の結果はなんでもなかったが、医師は、お園に不妊症だと伝えた。千代吉の虐待が始まったのは、それを知った後であった。旧家である松成家にとって、男士誕生は念願だったからだ。
いったい誰が、医者にそんな嘘をつかせたのか…お勢は、そこで真実に気づく。晶の激しい父親への愛情は、生まれるかもしれない「弟」の存在を阻止すべく、もうずっとずっと以前に発動していたのだ。


あらすじは上記の通りだが、実際の物語は、時系列に進まない。
何度もフラッシュバックしたり、話を戻したりして進んでいく。
それによって、この物語が始まるずっと以前に確定していたどんでん返しのネタが、一番最後に観客に提示されるという違和感が気にならず、カタルシスに繋がる。
舞台装置同様の見事なからくり芝居だなー[ひらめき]と思った。


出演者も、それぞれ一癖も二癖もある俳優ばかりで、彼らの力量を十分に使い切った面白い舞台になっていた。
そんな中で、ゆうひさんは、当主の妻・お園を演じている。
後妻ではあるが、名門・松成家の奥様として、家の中を切り盛りしている。おとなしい風を装っているが、実はけっこう勝気ではないかと思う。
ずけずけなんでも言ってくる義姉の初子に対して、通常は嫌味を忘れないし、対決場面では、凄みさえ見せて、「お小遣いを止めないでって、頭を下げてください」なんて言うし。あと、千代吉の「実害」を作り上げることについて、自ら作戦を考え、最適の人材をアサインしながらも、情報漏れにも気を配ったお園に対して、簡単に情報を漏らされた的非難をする坂口院長に、内心めっちゃキレているように感じた。
女だと思ってバカにしないで…みたいな内心の怒りを、決して顔に出さず、でも常に沸々と燃やし続ける…大正末期の時代だからこそ、の新しい女性像なんだな…と感じた。
そんな「新しい女性」が、家というものに押し込められ、家を継ぐ男子を産むために結婚したのに、それも果たせない「使えない女」扱いされるなんて、どれほどの屈辱だっただろう[むかっ(怒り)]
ゆうひさんは、そんなお園さんを、表面は両家の奥様然としているのに、内面のマグマが常に活動しているような、なんとも魅力的な女性として演じていた。
最後にお勢に撃たれる場面では、花びらのような血しぶきが舞う…という演出が美しくて、なんて絵になる人なんだ[黒ハート]と、感動。またまた、忘れられない役が爆誕した。


その他の出演者感想は、また別記事で。


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