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宝塚宙組東京特別公演「不滅の棘」観劇 [┣宝塚観劇]

ロマンス
「不滅の棘」


原作:カレル・チャペック
脚本・演出:木村信司
翻訳:田才益夫
作曲・編曲:甲斐正人
振付:羽山紀代美、麻咲梨乃
ファイティング・コーディネーター:渥美博
装置:大田創
衣装:有村淳
照明:勝柴次朗
音響:大坪正仁
小道具:市川ふみ
歌唱指導:山口正義
演出補:鈴木圭
舞台進行:阪田健嗣
舞台美術製作:株式会社宝塚舞台
録音演奏:宝塚ニューサウンズ
制作:村上浩爾
制作補:三木規靖
制作・著作:宝塚歌劇団
主催:阪急電鉄株式会社


初演は2003年。当時、カレル・チャペックの著作に絡んだ仕事をしていたこともあり、原作も買って、気合い満々でドラマシティで観劇したことを覚えている。
白一色の、暗い不気味な、不思議な世界に、真っ赤な血の花が咲いたような…宝塚らしくない世界観の作品だった。そこに、惜しげもなくトップコンビ以下当時の花組スターをドバっと投入して、まあ、ほぼほぼ役不足感否めなかったあの舞台を…やるんだなぁ~というのが、上演前の正直な感想だった。


今回は、宙組3番手の愛月ひかるの初東上DC公演だったので、そのもったいなさを感じることはなかった。
トップコンビ主演公演の裏側で上演され、スタークラスが綺麗に二分された公演の方が、作品の魅力が観客に届くのかもしれない。


前回公演も一度しか観ていないので、すべてを覚えているとは言えないが、セットや衣装の雰囲気は、前回と同じものを感じた。
チェコにある「カレル橋」と、その上にある十字架と、行き交う人々が、年月の流れを表現し、エロール(愛月)の上にだけ流れない不自然な「時」が強調される仕掛け。
この公演が、大劇場公演「ポーの一族」と同じ時期に上演されているのも、なにかの巡り合わせか。
我々人間は、たかだか百年に満たない一生を、笑ったり泣いたり大騒ぎしながら生きている。それは、もしかしたら、その程度の長さしかないから全力で笑ったり泣いたりできるのであって、何百年も生き続けたら、飽き飽きするのかもね…なんて、思う。それとも、同じ長い年月を共に生きてくれる人がいるなら、長い人生も楽しいものなのだろうか。


エロールは、17世紀初め、エリイという名だった頃に不死の薬を父親に飲まされる。
そして、19世紀、彼は一人の女性と恋をする。たった一人で200年を生きた後、どんな思いで恋をしたのだろうか。
さらに100年が過ぎ、エリイは人気歌手、エロール・マックスウェルとなっていた。そして、公園で訪れたプラハの地で、自らの子孫であるフリーダ・ムハ(遥羽らら)に出会う。そして彼女が抱えている訴訟に協力し、ある家に忍び込んで銃弾を受ける。不死身なのでそれくらいで死にはしないが、そろそろ不死の薬を調合しないと灰になってしまう時期には来ているらしい。
かつて、彼を愛したジプシーの老婆(美風舞良)や、フリーダや、エロールとアバンチュールを楽しむタチアナ(純矢ちとせ)、その娘で、二人の関係にショックを受け、自殺するクリスティーナ(華妃まいあ)を根こそぎ不幸にして、エロールは消えてしまう。直前まで、薬を手に入れようと模索していたのに。
残された、薬のレシピをフリーダは暖炉に投げ入れる。かぐや姫が去った後、帝が不死の薬を燃やしてしまったという話を思い出した。


主演の愛月は、これがドラマシティ&東上公演初主演。ゆうひさんファンとしては、「TRAFALGAR」で息子を演じていたあの愛ちゃんが…と、時の流れをあらためて感じるが、白い衣装が似合い、セクシーな魅力たっぷりの人気歌手を艶やかに演じる。愛月の本質は、もっと誠実なキャラクターのような気もするが、今は、幅を広げる時期なのだろう。こういう役もなかなか魅力的だった。
トップコンビの別箱公演というくくりではなくなったため、ヒロインというほどの立場ではなくなったが、フリーダを演じる遥羽も抜擢に応えた。100年前にエリイと愛し合ったフリーダ・プルスは、典型的な宝塚の娘役として、20世紀のフリーダは、活発な現代娘に、どちらも魅力的に演じ分けていた。
純矢美風は、楽々と役を自分のものにしている感じ。この二人あればこその「不滅の棘」だったかもしれない。
花組版では、瀬奈じゅんが演じ、「役不足とはこういうことを言うんだな…」と感じたアルベルトを演じたのは、澄輝さやと。どうしてどうして、別箱公演の二番手としては、なかなかおいしい役で、丁寧にアルベルトと向き合う澄輝の芝居には好感を持った。その父親・コレナティは、澄輝より一学年下の凛城きらだったが、幅広い役柄をどれも自分のものにしてしまう稀有な役者。ゆうひさんとの共演が一公演だけだったのが悔やまれる。(あいかわらずゆうひさん目線)
その他大きな役としては、タチアナの子であるハンス(留依蒔世)とクリスティーヌ(華妃まいあ)だが、初演の彩吹真央、遠野あすかがスター力で押し切っていたのに比べると、ぶっちゃけ地味な感じはした。が、その分、当時の花組がスター力で不思議な作品を自分たちの方に寄せていたのが、全員の力で作品を丁寧に再構成している象徴のように感じた。


白い世界と白い衣装が眩しい公演。宝塚という世界は、エロールの夢の中の世界に近いのかもしれない。


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