SSブログ

宝塚歌劇花組東京特別公演「ハンナのお花屋さん」観劇 [┣宝塚観劇]

Musical
「ハンナのお花屋さん」


作・演出:植田景子
作曲・編曲:斉藤恒芳、瓜生明希葉
編曲:植田浩徳
振付:大石裕香
振付・映像監修:菅沼伊万里
振付:鈴懸三由岐
装置:松井るみ
衣装:有村淳
照明:勝柴次朗
音響:大坪正仁
小道具:加藤侑子
映像:maruda
歌唱指導:ちあきしん
演出助手:竹田悠一郎
衣装補:加藤真美
舞台進行:宮脇学
舞台美術製作:株式会社宝塚舞台
演奏:宝塚ニューサウンズ


普通、トップと2番手は、親友とか敵とか、とにかく、同じ空間にいて、互いに台詞の応酬があってドラマが進むものだ。
それを敢えて父と子に設定し、同じ次元でまみえさせない(別々の時代の物語をテレコで走らせる)作りは、「落陽のパレルモ」でも試されていて、思えばその時も、2番手彩吹真央の組替えが決まっていたなぁ~と思い出す。
良くも悪くも、景子先生は、今ある並びへの惜別ではなく、今後の体制を見据えた作品作りをしているのかも。
実際、明日海りお芹香斗亜は、ふたつの物語のそれぞれの主役だったので、W主演と言った方がいいのかもしれなくて、組替えを控えたこの時期に、あらためて、ひとつの物語を引っ張る芝居をすることができて、芹香にとってもよかったのではないか、という気がした。


ストーリーを時系列に語ると(脚本上の流れではなく)、物語はデンマークで始まる。
大貴族の家柄で、大学生のアベル(芹香斗亜)は、田舎の領地でハンナ(舞空瞳)というリトアニア難民の娘に出会い、一目で恋に落ちる。ひと夏を田舎で共に過ごした二人は子供を授かり、アベルはハンナを連れて王都・コペンハーゲンに向かう。しかし、そこでハンナは、星の見えない都会の街では自分は生きていけないという現実に直面し、話し合いの結果、二人は、愛し合いながらも、それぞれの人生を歩むことを決断する。別々に生き、時に、二人の愛息子・クリス(茉玲さや那)と三人の時間を共有する-そんな二人ならではの幸せな時間が長続きするはずもなく、アベルは、父の会社を存続させるために別の女性と結婚し、経営者として工場の移民系の従業員と対決し、その工場で起きた火事に巻き込まれてハンナは命を落としてしまう。
残された一人息子のクリス(成人後は明日海りお)は、アベルに引き取られて成長し、大学まで行くが、ある日、母と同じ花屋になることを宣言、家を出てしまう。そして、今ではロンドンで人気のフローリストになっていた。店の名前は、「ハンナズ・フローリスト」。作品タイトルは、ここから来ている。
そしてこの店の従業員は国際色豊か。出身国はなぜか民族的なトラブルを抱えた国が多い。そのこと自体は偶然で、でもそういう国の出身者を集めたところに、作者の意思が感じられる。
そこにヒロインのミア(仙名彩世)が現れる。彼女も紛争地域(クロアチア)の出身で、身を寄せていた親戚が入院したことから、働く必要が生じ、クリスの店の近くのカフェで働くことになる。そしてクリスと交流が生まれる。そんなミアが大好きなのが、「地雷ではなく花をください」という絵本。(これは、実際に日本で発行されている。)



サニーのおねがい 地雷ではなく花をください

サニーのおねがい 地雷ではなく花をください

  • 作者: 柳瀬 房子
  • 出版社/メーカー: 自由国民社
  • 発売日: 1996/09/01
  • メディア: 大型本


この本の存在が、ミアの故郷の「紛争地域」とクリスの仕事である「花屋」の接着剤になっている。そして、そのどちらもハンナを連想させる(ハンナは紛争地域からの難民であり、デンマークの田舎で花屋をしていた)。
つまり、ミアによってこの本の存在を知らされたクリスは、おそらく、その時、母親を連想してしまっただろうと思う。
さらにミアは、とても困っている状況にあって、でも健気に生きている。そりゃ、好きになるよね[わーい(嬉しい顔)]
しかし、ミアは、店のセルビア人スタッフから苛められ、さらに入国管理局に通報され、(ワーキングビザを持っていなかったから)、行方不明になってしまう。
クリスは、店舗の2階に住み続けながら、週末を過ごす別荘地を探していた。彼には理想の家があって、えらく具体的なその理想の家がなかなか見つからない。そんなある日、叔父のエーリク(高翔みず希)が訪ねてくる。出張のついでと言いながら、実は、アベルの体調が悪いということをさりげなく伝言していく。
ほどなくアベルは危篤に陥り、クリスが戻った時には口もきけない状態で、そのまま旅立った。(晩年のアベルは舞台には登場しない。)
アベルは、ハンナと同じ場所に埋葬され、クリスはエーリクによって、以前、クリスとハンナが住んでいた家を案内される。そして、彼の理想の家、それは、幼い日に住んだ家だったのだ! と気づく。クリスは、その家を買い、活動拠点をデンマークに移す決意をするが、さしあたって、店をどうするか、そしてミアの行方は[exclamation&question]…と、悩みは多い。


もちろん最後には、これらが綺麗に解決して大団円となる。
というわけで、主人公のキャラと立ち位置は違うが、私の好きな「Paradise Prince」っぽい作品だな~と思った。
21世紀の作品らしく、店のHPやブログ、SNS、スマホでのやり取りが、作品を彩る重要なアイテムになっている。クリスとミアの最初の接点も、ロンドンに住む外国人たちの交流サイトだし。
何度か観劇することができたので、この交流サイトにおける書込みとコメントの応酬(セリフでも語られるが、背景に書き込み状況がアップデートされる。)をオペラグラスで眺めたが、英語の勉強にもなって面白かった。
矢車草は、英語ではCornflowerと言うのね[exclamation×2]人魚姫の瞳の色…と言われても、矢車草を実際に見たことがないので、紫の花なのかな~と舞台上に咲く花を見て思っていたが、コーンフラワーなら、最上級のサファイアの色だ。つまり青い瞳なのね。
(ちなみに矢車草という名前の花が2種類あるため、Cornflowerに該当する矢車草は、現在ではヤグルマギクと呼ばれているそうだ。)


「Paradise Prince」同様、主人公は際立っているが、あとは群像劇という感じ。
その中に挿入される父親の恋物語とその結末だけは、まったく別の色彩を放っている。
ただ、その物語が、クリスという人物を造形するすべての要素になっている、というところまで明日海が体現しているので、2つの物語がひとつに融合できたのだと思う。明日海ありきの舞台といっていいだろう。
群像劇の部分は、登場人物が多いが、それぞれキャラが立っているので、人数が多いことはマイナスになっていない。
しかし、コメディではないハズなのに、なんか変に笑いを取ろうとする場面があって、少々違和感があった。同時に、花組の中で、芝居の世界観に誘ってくれる出演者と、ぶった切ってくれる出演者がいるなーと感じた。景子先生は、誘ってくれる方のキャストで物語を動かしたいのかもしれないが、その選別によってぶった切る系の出演者が悪目立ちしてしまったようにも思った。 景子先生の拘り的な装置や振付はうまく嵌まっていたと思う。


女性演出家もどんどん育ってきて、第1号としては、正念場かな、と思うが、アテ書きの現代ものと、文芸作品。という景子先生らしい領域で今後も頑張ってほしいな、と思う。


nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:演劇

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。