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「円生と志ん生」4 [┣大空ゆうひ]

「その3」はこちらです。


休憩後は、作品の雰囲気もコミカル色が強くなってくる。
「その3」からさらに4ヶ月後の昭和21年7月。場所は、繁華街にある、委託販売喫茶コロンバン。
カウンターには、店番の女学生、弥生(池谷のぶえ)。丸い眼鏡をかけて、読書にいそしんでいる。
そこへ、ボロ雑巾と化した国民服姿の志ん生(ラサール石井)が入ってくる。弥生は、志ん生の呼びかけに対して、愛想よい返事をせず、ずっと本を読み続けている。
「お茶ちょうだい」と言っても、「前金でお願いします」とにべもない。そうやって、一心不乱に読んでいるのは、漱石全集らしい。
そうこうするうちに、カンカン帽に白麻の背広上下に身を包み、すっかりモダンになった円生(大森博史)がやってくる。志ん生はハッとするが、円生はゴミのような風体の志ん生になかなか気づかない。
そして弥生に向かって、「預かっていた品物に買い手がついたとお母さんから聞いたけど…」と告げると、弥生は本から目を離さないまま、「七千円で買い手がついて、手数料としてうちが二千円いただきましたって」と、五千円の入った封筒を手渡す。
ここの委託販売、手数料で四分の一以上持って行くんだ…[がく~(落胆した顔)]
円生は、お茶をふたつ注文して、もう一人見えるからね、と言う。
そこでようやく意を決して声を掛けた志ん生に、円生もやっと気づいて、二人は抱き合って喜ぶ…と言いたいところだが、円生は志ん生の頭が背広に触れるのをがっつりガードしている。まあ、それくらい、志ん生の姿はきたない[あせあせ(飛び散る汗)]
(ここは、戯曲通りじゃなくて、そのガードしている円生の心情を思うと納得の演出だった。この背広、円生の現地妻(円生は「ナニ」と呼んでいる)の旦那さんのものを勝手に借りているのだ。)


どうやら、あの後、円生は、炊き出しでいつもおにぎりを余計にくれていた小唄のお師匠さんと所帯を持ったらしい。そして、志ん生は、彼女の紹介で「常磐津のお師匠さん」とお見合いをしたが、へべれけに酔っぱらって不首尾に終わったらしい。そして、二人の人生は大きく分かれてしまった-。
しかし、志ん生に言わせると、そうではなくて、生活のために羽衣座で俳優稼業をしている円生が許せなかったらしい。落語と演劇は別個のものだと言う志ん生と、芝居の勉強は自分の噺に生きると言う円生の違い…それは、その後の二人の噺の違いに繋がったのかもしれない。


そんな志ん生だったが、今日、円生に会おうとしたのは、密航船で日本に帰る金を無心していたから。
そして、円生は、密航船なんて危ないなぁ~と思いながらも、奥さんの三味線と着物を売ってお金を作って渡そうとする。
結局、甘えるのはそこしかない志ん生と、全力で助けてあげようとする円生。二人の関係性が見える場面だ。
密航船に乗るために必要な五千円を借りた志ん生だが、返せるものはない。ボロボロになった「三代目柳家小さん落語全集」を進呈しようとする。
すると、これまで、客を胡散臭そうに眺めていた弥生が、驚いて「三代目小さんは天才である」[ひらめき]と、手元の漱石全集を読み上げる。
二人はビックリして弥生の方を見る。
夏目漱石は、三代目小さんの大ファンだったようで、小さんを絶賛する文章を発表している。弥生はそれを読み上げたのだ。
弥生は続けて、二葉亭四迷が三遊亭円朝の落語を聞いて言文一致体を発明した、という文学史を語り、そして、漱石先生が三代目小さんの落語によって新たな文体を手に入れたということを語る。
つまり、我々が現在読んでいる口語体の小説は、落語家のおかげ[黒ハート]
(この時代、言文一致の口語体をどんなカタチにするか、試行錯誤が行われていた。愛媛で漱石と一緒に下宿していた正岡子規は、晩年、病の悪化から自ら筆を執ることができずに、口述筆記を行っていた。話し言葉をそのまま書き取って原稿にしていたわけで、そういう形で口語体が進化した例もある。落語だけが言文一致体に貢献したわけではないとは思うが、多くの小説家が落語に着目していたことは、間違いなさそうだ。)


ここで、弥生に引っ張られるように二人の噺家が「三代目ソング」を歌う。
「ひょっこりひょうたん島」の「ナンセンスソング」が原曲とのこと。やはり、作品に一番しっくりくるのは、外国曲より、宇野誠一郎さんの作曲したナンバーだな~[るんるん]
弥生役の池谷さんの美声が劇場に響き渡り、実に楽しい時間だった。


歌い終わると、志ん生は円生のカンカン帽から手を離さない。円生はそれを餞別に渡そうとするが、よく見ると、ボロボロの国民服は可哀想すぎる。二人は互いの服を交換することになる。(現地妻の旦那さんの背広を勝手にあげてしまう円生もどうかと思うが、たぶん、かなりの亭主関白なんだと思う。)


と、そこへ、大連高女の教師、山田(前田亜季)が入ってくる。着物にモンペ姿。どうやら預けていた品に買い手がついたかを確かめに来たらしい。弥生はそっけなく「これからも(買い手は)つかないと思います」と述べる。
山田がどうしたものかと悩んでいるところへ、同僚の森(太田緑ロランス)もやってきて、山田に詰問する。森も山田と同じような服装。
今日山田が白いご飯のお弁当を持ってきたことは、大連市日本人教員組合の取り決め違反だというのだ。山田がクラスの生徒のおばあさんに食べさせたくて、分けてあげたのだという話をしても、「申し開きは査問会でなさってください」とにべもない。
山田は森を「イヌね」と罵り、ついこの間まで軍国主義に凝り固まっていた長刀教師のくせに…と言い出す。
どっちもどっちな二人が言い争っているところへ、憤然と登場したのが、教頭の今野(大空ゆうひ)。ただし、名前は呼ばれず、「教頭先生」と言われている。教頭は袴姿。


教頭は、二人の争いを「情けない」と断じる。
「案の定」のイントネーションが面白かったりして、えらい先生なのだろうが、どことなくユーモラスだ。
ここで戯曲にはないが、教頭は、「豆は釜の中で泣く」を中国語で(豆在釜中泣)披露する。
私の耳コピでは、トウ[バッド(下向き矢印)]・ツァイ[バッド(下向き矢印)]・フー[グッド(上向き矢印)]・ヂョン[グッド(上向き矢印)]・チー[バッド(下向き矢印)]みたいな感じ。
それを弥生が教頭先生の漢文の授業で習った通りに解説し、「よくできましたね」と褒められる。なんか嬉しそうな弥生。
豆と豆がらは兄弟のようなもので、豆がらを燃やして豆を煮ると、豆は泣きながら煮えていく。同胞同士が争うことの悲しみを歌った詩を引用し、教頭先生は、引揚までの間、日本人同士が争うのはやめましょうと説いたのだ。
(この漢詩は、三国志でおなじみ、魏の曹操の仲の悪い二人の息子、その弟(曹植)が兄(曹丕)に対して即興で作った詩なのだとか。)


と、感動的な場面の最中に、トイレのドアが開き、男二人(志ん生と円生)が手に手を取って現れる。着替え終わって、志ん生はズボンが余ったのか、裾を折っている。円生は、汚い国民服をなぜかダンディに着ている。
キツい眼差しで二人を見る教頭に気づいた志ん生は、シナを作るように円生と腕を組んで出ていく。


「昼日中(ひるひなか)から、あんなところで…[exclamation×2][爆弾]


教頭先生、妄想族ですかっ[exclamation&question]
絶対、二人の関係を疑ってるよね…[わーい(嬉しい顔)]


ここで、回り舞台のようにセットが回りながら、4人の女性たちの「ことばへの祈り」という歌に繋がる。この曲は、リチャード・ロジャースの「Bewiched」。「With a Song in my Heart」のパレードでわたるさんが歌っていた曲。


[るんるん]閉ざされた街でだれもが狂う[るんるん]という教頭先生の歌い出しは、妄想族な自身に向けられたのか、あくまでもおじさん二人の関係性に向けられたのか…[あせあせ(飛び散る汗)]
曲の間に3ヶ月が経ち、あの日もらった粋な背広がボロボロになった志ん生が、シケモクを拾っている。
そこへ、台本を読みながら通り過ぎる円生。茶の背広が季節の移り変わりを感じさせる。ブツブツ呟いているセリフは「ベニスの商人」の箱選びの場面のものだ。バッサーニオ役なのかしら[exclamation&question]
志ん生がそれと気づかずに近づくと、汚いルンペンだと思ったのか、マッチを投げる。その時に顔を見て志ん生は円生に気づくが、声を掛けずに立ち去る。


以下は、「その5」に続きます。


ゆうひさんは、大連高女の教頭先生役。
袴姿が超似合う[るんるん]当たり前だ。緑の袴を20年もはいていたのだ。
でも、あろうことか、その袴が崩れたことがあった。なんだか、後ろが妙に長い…[爆弾]
その時、隣にいた太田さんが、ぐいっと袴の腰のところを直してくれた。
ナイス・アシスト[exclamation×2]
お世話になりました[黒ハート]
教頭先生になっているので、既に40代くらいではあるのかな。
つまり、ゆうひさんに一番近い年代の女性、ということで、演技面で作り過ぎず、生真面目な教頭先生像。ただ、喋り方が大げさというか、変に訛っているので、本人は真面目なのに、ユーモラスな雰囲気を醸し出している。しかも妄想力逞しいし[あせあせ(飛び散る汗)]
また抽斗が増えちゃったかな~[るんるん]


池谷さんの弥生役は、もうキャラが立ちすぎていて、笑いっぱなしだった。歌もダンスもキレッキレ[exclamation×2]最高です。
前田さんと太田さんは、いがみ合う場面の本気度がすごい[exclamation]前田さんの髪形が可愛かった[揺れるハート]


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