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気持ちが大事? [┣生徒・演出家・劇団論]

雪組の「ベルサイユのばら」東京公演を観てきました。

公演感想はたぶんすごーく先になると思うので、公演を観ていてふと気になったことを先に書いておきたい。

劇中、ありえない展開が何回か登場する。
その中で、特にありえないと思われるのは、ジェローデルとアンドレの会話だ。

ジェローデルは、衛兵隊の隊長としてパリに進駐していくオスカルの身を案じ、誰がオスカルを守るのだ?と言う。するとアンドレは、自分が守るから大丈夫だと答えるのだが、ジェローデルは、アンドレの左目が見えていないことを指摘し、そんな君がオスカルを守りきれるのか?と重ねて問う。
これに対してアンドレは、これ以上みじめな気持ちにさせないでほしい、と言い、土下座せんばかりになって、左目のことを言わないでほしいと懇願する。
ここで舞台は暗転するのだが、その後の経緯を見ると、ジェローデルはアンドレの言葉を呑んだらしい。

呑むか?普通…[爆弾]

常識で考えれば呑まない。
だって、ジェローデルはアンドレの左目が(←実はここがポイントだとは思うが)見えないことを知っている。戦闘になったら、そんなアンドレではオスカルを守りきれないだろう。
しかもオスカルは、アンドレの目のことを知らないらしい。
これはもう、アンドレの気持ちの問題ではなく、オスカルの命を守るためにも、アンドレの目のことをオスカルに告げるのは、「人としての義務」だ。
なのに、ジェローデルは、アンドレの命懸けの思いを汲み取って、黙っていることを約束した(らしい)。

それこそが、植田歌舞伎なんだろうなーと思う。

歌舞伎の世界では、命より気持ちが優先することがしばしばある。
たとえば、仮名手本忠臣蔵。
塩冶判官が殿中で高師直に斬りかかった時、彼を羽交い絞めにして止めた人間がいる。桃井若狭之助の家臣、加古川本蔵だ。
彼は、高師直が、女癖が悪く、金に汚い人間だということを知っている。しかも、加古川自身が、師直に賄賂を渡して、主君の危機を救った直後にこの事件は起きている。塩冶判官は、桃井若狭之助の身代りのような形で事件を起こしたとも言える。
結局、師直は大事に至らず、塩冶判官は殿中で抜刀し傷害事件を起こした罪により切腹を命じられた。
加古川本蔵の娘、小浪は、大星由良之助の息子、大星力弥の婚約者だったが、塩冶判官を抱きとめて高師直を助けたことによって、二人の結婚は雲行きが怪しくなる。そこで、本蔵はわざと力弥に討たれることで、自らの失態を詫びることになる。

バウホール公演「冬物語」にも登場する喧嘩場(殿中刃傷)は、塩冶判官の妻、顔世御前に懸想した師直が、塩冶判官を意味もなくさんざん罵倒して、その結果、判官が刀を抜いて斬りつける場面だ。
しかし、冷静に考えたら、殿中という、非常に厳粛であるべき場所、しかも刀を抜いたら、その身は死罪、お家断絶と言われている場所で、刀を振り回している輩がいたら、普通は止めるんじゃないだろうか。
しかし、そんな場所で刀を抜いた=死を覚悟しているわけで、だからこそ、その思いだけは成就させてやるべきだ、それをわからずに羽交い絞めにした本蔵は、武士の情けを知らないヤツ⇒その責任を取って力弥に討たれる、という展開になるのが「仮名手本忠臣蔵」だ。

こんなストーリーの仮名手本忠臣蔵が、歌舞伎界では独参湯(どくじんとう)と呼ばれ、観客動員No.1の作品なのだから、日本人は、たぶん、こういう話が好きなんだと思う。

人の命は地球より重いが、人の気持ちは宇宙より重い…

この「植田歌舞伎」発想をもってすれば、フェルゼンと、メルシー伯爵の会話も理解できる。
フェルゼンの論理は通常の脳みそでは理解できないが、歌舞伎脳なら解明できる。
「王妃様のために…」と言いながら、だれも王妃様のお心を理解していない!と激昂するフェルゼン。
王妃と愛人関係にあるフェルゼンに帰国してくれ、と言うのは簡単だが、それなら、フェルゼンという精神的な支えを失った王妃が、この先どうなっていくのか、誰が王妃の支えになるのか、それこそが、何よりも(革命よりも)大事だとフェルゼンは思っている。
このフェルゼンの懸念を解明できない限り、彼は帰国などできない。
大事なのは、王妃の気持ちなのだから。
では、なぜフェルゼンは説得されるのか。

メルシー伯の命懸けの願いを汲み取ったから…。

そして、気持ちを伝える一番の方法が、「膝を折って懇願」であることも、これらの例からく伝わってくる。
日本で言えば、土下座、ですね[爆弾][爆弾][爆弾]
それによって、フェルゼンは、メルシー伯が心から王妃のためにフェルゼンに帰国を勧めに来たことを知ったから。
王妃のために何をするか、という点でまったく合意点が見つからなかったにもかかわらず、フェルゼンは帰国を了承する。
それはメルシー伯の気持ちに応えたからにほかならない[爆弾]

そして、こんなひどい脚本にもかかわらず、ベルばらは、今回も宝塚の独参湯となったらしい…[バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)]

みんな、日本人だなぁ…[爆弾]


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