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「カラマーゾフの兄弟」その2 [┣宝塚観劇]

第2幕になると、この「カラマーゾフの兄弟」の大きなテーマのひとつが登場する。
二男のイワンは、最初から「神などいない」と言っている。
父親のフョードル・カラマーゾフは、神をも恐れぬ行動を続けているが、一応、天国に行けるように、三男のアレクセイを僧侶にして神様に「よろしく」と言わせようとしている男だ。神はいると思っているけれど、買収できるとも思っているらしい。
長男のドミートリーは、父親同様の獰猛さを持ってはいるものの、神はいないとか、神と取引をするとか、そういう方向性ではないようだ。もちろん三男のアレクセイは神を信じている。
そんな中で、「神はいない」と宣言するイワン。もし神がいるならば、人々はこんなに苦しまないはずだ。
むしろ神に代わって、自分が皇帝や貴族に制裁を下す。仲間と一緒に「大審問官」を歌い出すイワン。
これが、ネットでも話題になっているが、もう戦隊もののような音楽で、真面目に歌えば歌うほど、笑えてしまう。また、振付がかっこよくて。それでいいのか悪いのかわからないが。
ちなみに、このミュージカルでは、ロシア語が字幕に登場して臨場感を出しているが、なんでモスクワをわざわざMOSCOWと表記したのか[exclamation&question]カタカナ表記はいいけど、英語は不要だろう。

「大審問官」の件は、「カラマーゾフの兄弟」にとって根幹部分を成す、イワンの思想を表した叙事詩らしい、原作では。ま、原作で詩ということは、ミュージカルではナンバーになるよな、普通。
方向性は間違っていない。
なのに、なんでこんなに違和感満載で楽しいんだろうか?
いやー、もう、とにかく、ここで目いっぱい楽しんでしまった。第1幕では、真面目で、カテリーナに叶わぬ恋をしているイワンが、いきなり主役に躍り出ている。
彩吹なら、どんなバラードもアリアも自由自在に歌いこなせるだろうに、よりによってアニソン仕様でガンガン盛り上がる。正義のヒーロー、イワン様!人民を救うのは、自分しかいないと、半ば陶酔し、半ば神はいないと醒めきったイワン。原作は読んでいないが、どう考えても原作通りじゃないな、と思えるイワン像が愉快すぎる。

一方、グルーシェニカは、ドミートリーが持っていた3000ルーブル近い金が、父親から奪ったものではないことを知る唯一の証人、カテリーナのもとを訪れる。が、かつて、恋敵であったこの女性のプライドを激しく傷つけたグルーシェニカゆえに(まあ、どっちもどっちだった気がするが…)、カテリーナを翻意させることはできない。
グルーシェニカは、ドミートリーを救済すべく、弁護士(衣吹真音)を見つける。弟のアレクセイも還俗して、兄の裁判に臨む。
還俗したことで、結婚が視野に入ったアレクセイは、リーズにプロポーズするが、母親のホフラコーワ夫人に厳しく断られる。娘は結婚できるような状態ではないし、同情でそんなことを言われるのは心外だし、たとえ本気だったとしてもカラマーゾフ家とこれ以上関わりは持ちたくない、と。
そしてイワンは、スメルジャコフから殺人の告白を受け、動揺する。
しかも、フョードルを殺して奪った金を、「あなたのものです」的に渡されて。スメルジャコフにとって、主人と呼べる人物はイワン以外にはいないと告白され、しかも、使用人の彼が異母兄弟であることを知らされて。
すべてを知って、イワンは、真実を伝えるために、法廷に向かう。
が、拒絶されたスメルジャコフが正気を失って自殺したことから、イワンの言葉は、裁判の傍聴人たちに阻まれる。兄弟で父親を殺し、使用人に罪を押しつけるのだろう、と。
それを聞いて、可哀想な民衆のために、自らが大審問官になって、貴族を打倒しようとしていたイワンの心は打ち砕かれる。民衆の愚かさに。救おうなんて考えていた自分の傲慢さに。
そしてカテリーナは、フルボッコにされそうなイワンを守ろうとしてか、「父を殺してでも」というドミートリーの手紙を貰ったと証言し、とうとうドミートリーはやってもいない父殺しを認めてしまう。
殺そうとしたのだから、殺したも同じ…そう思って彼はシベリアへの流刑を受け入れる。
そんなドミートリーの流刑に、グルーシェニカもついていこうと決意し、二人は固く抱き合う。

流刑って奥さんと一緒に行ってもいいんですか[exclamation&question]
それなら、けっこう楽しいんじゃないかと思う。新婚旅行みたいで[揺れるハート]

続くフィナーレは、ロシア民謡ユーロビート版という齋藤先生のリビドー全開で非常に楽しかった。
記憶にある曲だけでも、「カチューシャ」「トロイカ」「カリンカ」「ポールシカポーレ」「コロブチカ」「黒い瞳」…
娘役のロシアっぽいふわふわの毛皮帽子にパンツスタイル、そしてとなみちゃんの真っ白な帽子ミニスカプラス網タイツ&ブーツ…いや、本当に齋藤先生、やってくれました[exclamation×2]
「コロブチカ」は、ユーロビート版のものがヒットしたことがあるらしく、今回のユーロビートによるロシア民謡メドレーはそんな経緯を参考にしたのではないかと思った。

えー、「カラマーゾフの兄弟」というのは、たぶん、こういう小説ではなかっただろう、という思いはありつつも、正直なところ、感動した。
まず、ドラマの筋立てが面白いこと。音楽がどれも印象的なこと。そして出演者の熱演。その後ろに透けて見える、なんかわからないけど、やたら情熱的に演出したであろう齋藤先生。
いろいろなものの相乗効果で、すごい舞台になっていた。
たぶん、原作ファンには、「こんなものはちがう[exclamation]」と強く否定される気がするが、それでも、私はこのミュージカル版「カラマーゾフ…」に惹かれてしまった。
2008年を締めくくるに相応しい、佳作に出合った、という気分だった。

では、出演者感想を。
水夏希(ドミートリー)…「カラマーゾフの衝動」を体現する存在。生きたいように生き、やりたいことをやって、発散系の役。でも最後に絶望の中で、犯してもいない罪を認め、流罪を受け入れる。衝動型の男が、そこまでに至る心境の変化を、リアリティを持って演じ切った。ラストシーンの不精髭の似合いっぷりも含めて、水のベストアクトではないだろうか?

白羽ゆり(グルーシェニカ)…肉感的な美女という設定なので、胸元にメイクで谷間を描いて体当たりで臨んだグルーシェニカ役。蓮っ葉な女性というのは、白羽としては新境地だと思うが、愛に破れ、お金の為ならなんでもするような、蓮っ葉な女性を演じながら、後半は素のひたむきさを表に出して、ヒロインとして成立させてしまった。さすが、円熟期のトップ娘役である。こういう役を演じてもヒロインになれるって、演技力もさることながら、やはり美女であることが絶対条件だな、と改めて思う。
フィナーレのロシア娘の可愛さにも参った。さすが初代ウサギちゃん(BMB)である。
まあ、こうやって円熟期を感じると、必ず退団しちゃうのが娘役の宿命なんだろうな…[もうやだ~(悲しい顔)]

彩吹真央(イワン)…衝動的な長男と対照的に冷静な二男、イワン。でも、それは彼の本当の性格じゃなくて、心の奥には押し殺した色々な感情が溢れかえっている。第1幕では、イワンは傍観者で、皮肉屋で、直接物語には絡んで来ない。それが第2幕に入って、急激に存在感を出して迫ってくる。
ラスト近くの慟哭は、鳥肌ものだった。
演技も迫真だったが、彩吹の場合、特にその歌声に心を揺さぶられた。

五峰亜季(イワンの幻覚)…男装してイワンと共にある。スカーレット2のような存在かと思ったら、最後にイワンを突き放して踊り出す悪魔のようなヤツ。上着を脱いだら、いきなりノースリーブのベスト姿でくるくる回るって、イワンのじゃなくて、齋藤先生の幻覚なんじゃないかと思う。
五峰さんにこういう役を当ててくる辺りに、私は齋藤先生の余人を以て代え難い才能を感じる。
“ボク”っていう一人称にも萌えた[かわいい]

未来優希(フョードル)…カラマーゾフの衝動の元凶のような男。陽気で精力的で、女にもてて…という面だけでなく、息子といえども騙して金を奪うっていう位の悪人でもある。どんな女でも女である限りは、欲望の対象になるという、博愛主義者的な側面もあるが、一度愛した女がどうなろうと、興味を失ってしまったあとは知ったことではないという、冷たい一面もある。
いくら役者とはいえ、こんなフョードルを演じられるタカラジェンヌはそう多くはないと思うが、未来は、既に女を捨てたのか!と思うほどの名演だった。いや、すごいです、本当に。

彩那音(スメルジャコフ)…この作品のキーパーソン。甘いルックスの彩那が、パーマをあてた髪を垂らして、おどおどした視線でイワンを見上げている。その作り込みがいい。もちろん名演とか怪演のレベルにはまだまだ遠いのだが、熱演だった。可哀想なだけのキャラにしなかった辺り、根性があると思う。

沙央くらま(アレクセイ)…カラマーゾフの良心的存在の三男。家族を思い、リーズを愛する心優しい青年。そういう部分がイヤミなく出ていて、好演。

大月さゆ(カテリーナ)…ドミートリーに衝動的に愛され、婚約するが、今では愛されていない。イワンには一方的に愛されているが、応えるのを怖がっている。お嬢さんなのは本人のせいではないのに、グルーシェニカには勝手に敵視される。しかも3000ルーブルは貸したまま。…という風にかなり気の毒な女性なのだが、全然気の毒な感じがしない。というより、共感できない。うざいと思う。その辺りが、大月さゆの致命的な失敗だった気がする。…って私の主観だったらいいのだが。

天勢いづる、麻樹ゆめみ、早花まこあたりがいい仕事をしていたなぁと思う。
で、いい仕事とは別の意味で、谷みずせがやたらと目立っていた。特に最後の場面、あの恰好で流刑になったら間違いなくシベリアに着く前に凍死していると思うが、知らぬげにぼーっと立っている辺り、気の毒すぎてトップコンビよりもそっちに目が行ってしまった。
しかも、さっきまで裁判長だったのに[がく~(落胆した顔)]


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