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花組東京特別公演「銀ちゃんの恋」観劇 その1 [┣宝塚観劇]

「銀ちゃんの恋-つかこうへい作『蒲田行進曲』より-」

原作:つかこうへい
潤色・演出:石田昌也
作曲・編曲:高橋城、甲斐正人
編曲:高橋恵
振付:尚すみれ
オリジナル振付:前田清実
殺陣:菅原俊夫
装置:大橋泰弘
衣装:有村淳
照明:安藤俊雄
音響:加門清邦

どんな形で「銀ちゃんの恋」の感想を書こうかな?と、いろいろ考えた。
過去の主演作「THE LAST PARTY」と「HOLLYWOOD LOVER」は、場面ごとにドラマと演技について考察して、それぞれ4回位かかってしまった。
今回は、細かく演技の説明するのもかっこ悪いなぁ~と思いながらも、ファンとしては、大空祐飛の演技はここがいいんだけど!っていう主張をかっこ悪いと知りつつやりたい面もあって、どうやったら客観的に書けるかな?と考えた末、ところどころ初演との違いを書くことで、浮き彫りに出来たらな~と考えた。
ちなみに私は、このブログをお読みの方はご存じだと思うが、初演の銀ちゃん、久世星佳さんのファンでもある。だから逆に久世さんマンセーでは書けない。どっちもいいところがあり、負けてるところがあると思っているので、その辺、大空さんファンが伝説の初演を悪く書いているわけじゃないことを、力説しておきます。

さて書き始める前に、「蒲田行進曲」と「銀ちゃんの恋」の大きな違いについてひとつ書いておきたい。ラストシーンを最初に書いてしまうが、お許しいただきたい。
「蒲田行進曲」では、ヤスは死なない。いや、はっきりとはわからないが、たぶんそうだと思う。続編があるくらいだから。が、「銀ちゃんの恋」はヤスの葬儀がラストシーンとなる。
どちらも、最後はオチがつくのだが、普通、あのようなストーリーで進んだ物語は、死では終わらない。「オレ、死ぬかもしれないんだぞ」とグチグチ言うヤスに観客は不快感を抱いているから、本当にヤスが死んでしまったら、その自分の思いに観客が罪悪感を持ってしまうからだと思う。
(芝居ってそういうことまで計算して書かれるものなんですよ)
が、それでも一度はヤスが死んだことにするのは、棺桶から登場する電飾銀ちゃん、をどうしてもやりたかったからかな?たしかに、すごく盛り上がる名シーンになったのだが、それゆえに、芝居として「???」となった観客も多かったはずだ。
その答えが、ファーストシーンにある、と私は思っている。
なので、第一幕第一場Aの場面は、最後のネタバレまでお忘れなく…!

第一幕
第一場A 企画会議
【旧 第1場A 会議室】
開演アナウンスは、主演者の名前ではなく「倉丘銀四郎」名義で行われる。舞台の銀ちゃんそのままのアナウンスは、初演通り。テーマソングとして、「蒲田行進曲」(R・フリムル作曲)がアレンジして使われている。
さて、初演は、宝塚の重役たちへのプレゼンからスタートするという設定。これは、当時、「久世がやりたがってますから」と嘘までついて、「蒲田…」をやりたかった石田らしい自虐的なギャグ。
今回は、新キャラの専務(眉月凰)と秘書(初姫さあや)の企画会議でスタートする。
そのノートに名前を書かれたら必ず太るという『デブノート』などメタボ3部作でジャブをかました後、銀四郎がシルエットで大見栄を切り、白幕が落ちると土方歳三に扮した銀四郎が現れるというのは同じ。
ただ、時代劇の悪役よろしく開き直った敵方が、“やっちまいなー”みたいになる部分は、下級生が演じていた初演より、眉月・初姫の方が迫力があってよかった。

第一場B オープンセット/時代劇【旧 第1場B オープンセット】
そこから、撮影中の『新撰組』の場面になる。
久世銀ちゃんは、大儀そうに刀を肩に担いで大部屋の斬りかかってくるのを待っていたが、大空銀ちゃんも、数回、その振りをしてくれた。あれ、すごく好きだったので、毎回してくれるとよかったのだが。
龍馬(真野すがた/前回は樹里咲穂)のセリフはずいぶん変わっていた。
前は「チッスさせろ」だったし。キスさせなかったら、日本が“エゲレスの属国になる”とか脅迫するし。「この星影の肺病持ちがー」とまで言うし。
その辺りも含めてセリフは、細かく手が入れられている。より、分かりやすく、より簡潔に。
演技も、映画部分の大仰さを少し弱めに、逆に地の部分は、前作のリアルさを排して、デフォルメされた人間像を打ち出している。これは、久世と大空の違いではなく、出演者全員に共通する違いなので、演出プランのようだ。
その効果として、痛すぎない宝塚歌劇としてのラインを守れたことが、石田先生の熟練でもあり、守りの姿勢に入った結果でもあるかもしれない。
銀ちゃんは、龍馬を演じる橘のアップの数を気にしている。
ヤス(華形ひかる/前回は汐風幸)がアップをカウントする役らしい。
アップが少ないので、銀ちゃんは焦燥感を募らせる。そして、子分たちを動員して、橘を取り押さえている間に自分のアップを撮らせる作戦に出る。
今回の公演の特色として、カメラが本物になり、映写したものがそのまま劇場のスクリーンに投影されるので、カメラに向かってポーズを取る銀四郎のアップが客席から楽しめる構図になっている。その結果、橘のマネージャー(紫陽レネ)が、銀四郎の間の長さに風船のおもちゃを膨らませ“ぶーっ”という音が鳴り響くという場面も、一堂がその音に驚いてマネージャーを注視している中、銀ちゃんだけは、アップのポーズをし続けている、というある意味彼の集中度の高さをうかがわせて感動的な効果があった。(久世銀ちゃんは、マネージャーを睨みつけていた)
とはいえ、あまりのクサくて長い演技にフィルムが終わってしまい、橘の拘束時間も終わって、撮影終了となる。

第一場C 白紗/塀の前【旧 第1場C 池田屋階段セット】
今回の舞台では、映画のポスターの貼られた塀が登場したが、前回は普通の白い紗幕だった。
ここで、階段落ち中止の噂について監督に問いただす銀ちゃん。
階段落ちのない『新撰組』なんて客、入りませんよ~と他人事のように言う銀ちゃんが素敵だった。客入りが悪かったら、普通、主演のせいって言われるに決まっているのに。

第一場D 御開帳
監督は開き直って、階段落ちのセットを見せる。東京から来たスタントマンも怖がって帰ってしまった階段は、宝塚の大階段より小さくて、全然怖そうじゃない。これは、初演通り。
そういう場合、スタアさんについている大部屋が命懸けで階段を落ちたのが、これまでの風習だったらしい。監督のアクの強さは、前回の真山葉瑠が抜きんでている。今回の悠真倫は職人という感じ。どちらのタイプの監督もいるが、今の時代は、悠真タイプの人が主流だろうなぁ。
「どうなんだ、おめぇら!」
と問い詰められ、顔を背ける大部屋メンバー。
銀ちゃんは、大部屋メンバーを殴りつける。ちなみに大部屋メンバーは、久世銀ちゃんより1名少ない。トップさんの演じる銀ちゃんじゃないから…なのだろうか?消えたメンバーは、大和悠河が演じていた「大介」。もし、あったら出世役なんて言われたかもしれない。
そんな銀ちゃんも、新しい恋人、朋子(華耀きらり)の登場ですっかり華やぐ。
この朋子という役が、前回(逢原せりか)とはすっかり変わっている。前回は、お嬢様キャラだったのに、今回は天然なのだ。これはバランス的に今回の方がいい。ヒロインの小夏にとって、朋子は敵役だから、徹底的にキャラ立った方が、観客の視点が小夏に行きやすいのだ。
そして、ただの天然なら、銀ちゃんの趣味が悪いだけだが、華耀のビジュアルの良さが説得力を持つ。
一方、過去を全部捨てる、という銀ちゃんの単純な思考がズルくも可愛い、と思えるのが大空銀ちゃんのポイントだ。久世の大人っぽい容姿に比べて、そこは有利な点だと思った。
そんな銀ちゃんから、「既に捨てた過去」扱いされているのが、小夏(野々すみ花/前回は風花舞)だ。手弁当をヤスに預ける。
銀ちゃんは、「モテる男はつらいねぇ」と嬉しそうにヤスから弁当を受け取るが、戻ってきた朋子に指摘されると、ぽいっと捨ててしまう。その悪意のないワルっぷりの天然さも大空銀ちゃんの特徴かもしれない。極端から極端に動く銀ちゃんの感情を、役者久世は丁寧に作り上げるゆえに、本人が面白いと感じる部分の嵌まりっぷりと、そうでない部分の差が顕著だった。ここでワルにはなりきれていない。(もしかしたら、小夏役の風花が相手役ということもあったのかもしれないが。)
お弁当を拾い「女ってばかね」と自嘲する小夏。

第一場E 幕前
今回の作品では、そこで、東洋映画の専務が小夏を激励する場面が登場する。小夏は、テレビドラマの撮影らしい。

第二場 小夏/キャバレー・セット【旧 第2場 キャバレーセット】
ダンサー(光子)を演じる小夏。そこへ橘演じるヒモが登場して、ピストルで光子を脅迫する。と同時に、小夏が貧血を起こして、撮影が中止となってしまう。
ここまで、舞台はすべて前のシーンと繋がっている。
…少なくとも観客はそう感じている。とすると、ここに前の場面(龍馬)の後、新幹線に乗ってしまったはずの橘がいるパラドックスを感じなくもないが、「銀の字にせよ、水原小夏にせよ、京都での撮影はロクなことがないな」という橘のセリフから推察するに、第一場の各場面は、それぞれ独立したシーンで、実は時系列的に繋がっていないものを、まるで一日の出来事のように紹介した、と考えるべきなんだろう。
ダンサー達から落ち目の女優扱いをされ、自虐的に、撮影用のピストルを頭に向けて目を閉じる小夏。暗転。

第三場A カラオケ・スナック【旧 第3場 すなっくししとう】
ずきゅーん!というピストルの発射音がして、照明が入ると、銀ちゃんが、撮影所から持ち出したピストルを頭に当てている。前の場面からのつながりが上手いが、もちろん前場は昼で、今は真夜中だ。泥酔している銀ちゃんは、自身を「売れてねえんだよ」とクダを巻いている。
ここから、銀ちゃんのワガママが弾けまくるシーン。
スナックの客からマイクは取り上げるは、子分たちに悪口雑言を浴びせるは、鼻血は出すは、いびきかいて眠りだすは、やりたい放題。ここが銀ちゃんの真骨頂で、ここでの久世銀ちゃんの弾けっぷりに、大空銀ちゃんが同じことをやれるとは思っていなかった。
が、同じことを本当にやってくれた。
二枚目をかなぐり捨てないとできないことができる二枚目、という意味では、大空は久世の後継者になったのだろうな、と思う。

第三場B 銀四郎のソロ
このスナックと、ソロが銀ちゃんの一番の見せ場
だったりする。
だから、第四場から物語がスタートするような、紹介(公式HP)はどこか間違っていると思うのだが。
しかし、この歌は、ほんと、名曲だと思う。
「主役はオレだ!」と言った後の、大空は本当にぱーっと華のある表情をする。いつの間にか、ちゃんとスターの顔もできるようになったんだなぁと思ってみたり。(久世は既にトップなので、もちろん余裕のスター顔)

第四場 ヤスのアパート【旧 第4場A ヤスのアパート】
そのまま引き続いて、銀ちゃんは、ヤスのアパートに登場するが、前シーンではスナックでしこたま飲んでいた後で、今は昼下がり、しかも小夏連れなので、つまり、この作品による時間の流れなんて全部こういう作りだったんだ…と思える。
現れた銀ちゃんは、ジャージ姿のヤスに向かって、自分の服装を見せつける。
(前の場面と同じ衣装だなんて、死んでも思ってはいけない)
なお、前回は、ベルサーチとコシノジュンコとケンゾーを混ぜてみたらしいが、今回は、コシノヒロコとジュンコとミチコのコラボレーションらしい。まあどっちにしても、あまり混ぜてほしくはない。
そして、小夏の前で、ヤスに下げ渡した洋服を着て見せろと言いだす。
前回は、ジャケットとスラックスとブーツの着用を強要していたが、今回はジャケットとブーツの2点だけ。しかし、そのブーツが、「スターブーツって言って、某劇団ではスターさんしかはいちゃなんねえっていうおっそろしい規則のある由緒正しいブーツ」とか、自虐ネタがうまく入り、ギャグのパワーはアップしている。
「銀ちゃん踊れないじゃない」と言われるのは変わらないが、前回は「宝塚の振付家にポーズ変えるだけでうまく見える振付をする人がいる」と答え、小夏に「誰よ?」と焦らせて笑いを取るが、今回は、「ばーか、顔で踊るんだよ」だけで、笑いを取る。
大空ファンにとっては、さらに自虐な、「歌唱力、演技力より、営業力と人気がモノを言うんだよ、この業界では!」とか、「オレのこのちっちゃな肩で東洋映画なんて…」などなど、笑いのツボが端的だったのは、石田先生の愛情と受け取ることにしたい。それにしても、老人ホームに入るまで世話してくれるお人好しのファンなんていると思うかー?」には大爆笑だった。これぞ、ファンを巻き込んだ宝塚的自虐だなぁと。
婚姻届に印鑑を押そうとする場面など、全体的にドラマシティのキャパに合わせて、空間をうまく使った派手な演出に変わっていたのも印象的。
妊娠4か月の小夏がどうしても子供を産みたいと言うので、ヤスに押し付け、気持ちよく出ていく銀ちゃんの勝手さ、ヤスを殴りつけて全然気にしていない非情さが、大空という演技者にかかると、どこか絵空事のようなファンタジーにすり替わる。良い意味で。
それは、華形も野々も同様のキャラクターで、リアルな感情をぶつけ合いながら、どこか、痛みがオブラートにくるまれた様なムードがある。それが今回の「銀ちゃん…」の大きな特徴かな。もちろん演出プランということはあっただろうが、あれだけ素の感情をぶつけ合う中で、出てくるものは、演出プランだけではないと思う。
小夏は再び貧血で倒れ、薄れゆく意識の中で、出会った頃のことを回想する。

第五場A 専務と橘
回想シーンはしょっぱなから着物姿の小夏が登場するので、繋ぎのシーンが追加された。
『新撰組』では、橘の方が会社期待のスターに思えたが、前場で、来年のカレンダーに決まっただとか、レコードが出るとか、ミュージカルに出るとか、銀ちゃんに景気のいい話が飛び出していた。
それはなぜなのか、というのがこの場面でわかるようになっている。
銀ちゃんには、不動産業が活発な本社がバックについているらしいのだ。なかなかお目が高い本社である。
ここでは、橘と秘書さあやのバトルが毎回楽しかった。

第五場B 回想(任侠一代)【旧 第4場B ギャングのダンス】
前回は、ただのダンスシーンなので、出会いの頃の幸せな銀ちゃんと小夏かどうかは、よくわからなかった。
今回は、第五場Aが入ったことで、第四場の後の回想シーンということが分かりづらい。
まあ、とにかく石田先生の趣味と大空ファンの嗜好が完全に一致した稀有な場面と言えるだろう。着流し銀ちゃんの客席登場…こんなにおいしい場面はなかった。
銀ちゃんの画面に入り込むトメさんの形相が毎回素晴らしかった。

第六場 ヤスのスタント【旧 第4場C ヤスのスタント】
結婚の話は保留のまま、倒れた小夏を引き取ったヤスは、出産費用を稼ぎ出すために、スタントマンのアルバイトを始める。銀ちゃんは、「決しておめえの悪いようにはしないから」とは言っていたが、出産費用を払おうとか、そういうことは考えていないらしい。
監督と助監督(白鳥かすが)もなぜかアルバイトをしている。
つか、『新撰組』だけが非常に時間をかけて撮影されているらしい。何か月かけてるんだよ?

第七場A 再び・ヤスのアパート【旧 第4場D ヤスのアパート】
ヤスは、献身的に小夏に尽くしている。
が、小夏の心はまだ銀ちゃんにあって、ボーッと過ごしている。ヤスの気遣いさえ煩わしいらしい。
そこへ銀ちゃんが、訪ねてくる。ここで、銀ちゃんの訪れを同じようなテンションで受け入れる二人の姿は、その後の気持ちの移り変わりへの伏線になるので、大事な場面だ。
銀ちゃんは、新婚家庭へのプレゼントの定番「クレージュのトイレ3点セット」を持って来る。これは、前回にはなかった。わざわざトイレものを持ってくる辺り、ヅカ的タブーへの挑戦は相変わらずの石田先生だが、大空祐飛は、どんなに生活感の溢れたセリフだろうが、みっともない格好だろうが、ちゃんとスターとして見せる。
だからって、チェックのズボン、ドットのネクタイ、ストライプのシャツにピンクのジャケットである。…と思ったら、このコーディネートは、久世もやっていた。ジャケットはド派手な紺の長めのものだったが。のんちゃん、意外に派手なもの、似合うじゃないかぁ♪
小夏の前で朋子の話をして、朋子との仲を取り持ってくれるように頼む、破廉恥な銀ちゃんと、自分からもお願いします、とか同調するヤスに小夏はブチ切れる。

第七場B 塀の前/ヤスのソロ
でもすべては、映画への愛…というヤスのソロ。
華形の歌は、ドラマシティの頃は、壊滅的だったが、青年館ではうまくなっていたし、壊滅的だったドラマシティでも、心が感じられてすごく好きだった。

(続きはまだ後日)


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