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主役はオレだ! [┣公演内容の考察・検証]

「銀ちゃんの恋」は、スター全盛時代の映画界を背景にした人間模様を描いた物語。
もともとは、舞台作品だった「蒲田行進曲」が、1982年に原作・脚本・演出のつかこうへい氏の新しい脚本のもと、深作欣ニ監督によって映画化された。今回の舞台は、この有名な映画「蒲田行進曲」をベースに作られている。
つか氏の演出方法は独特で、芝居の脚本は口頭で役者に伝えられるし、配役によってセリフはもとより設定までコロコロ変更してしまう。だから、舞台の「蒲田行進曲」は上演した数だけバージョンがあるわけで、映画版を潤色したのは、それ以外に方法がなかったから…だろうと思う。
映画版の「蒲田行進曲」は、映画人の映画人による映画人を描いた映画なので、舞台人であるつかの脚本を超えて、非常に映画賛歌な映画になっているのが面白い。

さて、私の周辺的知識ではあるが、映画は撮影中に主演が変更になることはない。これ、常識です。
もちろん、「降板」で別の俳優がその役を演じる場合は別。
そうじゃなくて、「新選組」という映画を撮影している最中に、主演:倉丘(土方)→橘(真野)に変更にはならない。どんどん場面がカットされても。
私が知っている某映画なんか、W主演だったんだけど、主演1は、物語の半ばで死んでしまう。そして、主演2は後半見せ場の連続。脚本上はうまくW主演に見えたのに、最終カットを経た本上映版は、どう見たって主演2が主役。
でも、プロデューサーは、あらゆる媒体で、主演1→主演2という形で、紹介していたし、どんなミニコミであっても、主演2を主演と書いた記事は書き直させていた。
ちなみに1は男優で2は女優なんだけど、こういう場合(相手役)、男優を主演、女優を共演と書くか、W主演と書くか、ということも最初に決まっていて、それが契約の条件だったりするので、みだりには変えられない。
だから、「新選組」も、主演:倉丘銀四郎ってのは変えないと思う。
ただ、銀ちゃんが拘るのは、「主役」だ。だから困ってしまう。「主演」は看板に書いてあるし、会社が決められる。でも、「主役」は、見た人の心が決めるものだからだ。

本作、「銀ちゃんの恋」は主演:大空祐飛である。
私には、銀ちゃんが主役に見える本作も、見る人によっては、華形ひかるが演じるヤス役が主役に見えたり、野々すみ花が演じる小夏役が主役に見えたりするだろうと思う。
なぜか、というと、2幕最大の見せ場が、劇中劇を除けば、ヤス&小夏の緊迫した場面なので、印象に残るのは、おそらくそこだろうからだ。
「蒲田行進曲」では、劇中劇に「新選組 池田屋階段落ち」が使われる。当然、出演者は鬘使用になるわけで、全員の鬘をセットアップするには、床山さんも長い準備時間が必要だ。その長い準備時間が、ヤス&小夏のシーンに当てられるわけで、ここを短くすることはできない。
…なもんで、初演から、この場面のせいで、銀ちゃんは主役として分が悪い。

ホンモノの銀ちゃんは、「オレの芝居に合わせてくれよ」とか「オレより二枚目出さないでくれ」とか「脇役・助演者遠慮してくれ」とか歌うようなヤツだが、「銀ちゃんの恋」の主演者がそんなジェンヌだったら、この舞台はどういうことになるだろうか?
たとえ、無言のプレッシャーであっても、そのような姿勢を見せないこと。
みんなが最高の演技をしてくれて、この芝居が評価されたら、誰が主役に見えてもかまわないし、みんなの成長が見られるなら、それが嬉しい…と本気で思えること。
そんな主演者が真ん中にいないと、役者たちは安心して作品世界に没頭できない。
「銀ちゃんの恋」は、役者が揃わないとできない、と石田先生は言った。
それは、ヤスを体当たりで演じられる心意気を持った役者と、小夏を無理なく演じられる女優と、でっかい懐を持った銀ちゃん役者が必要なんだ、なんてことは、前にも書いた。

映画の世界では、撮影されたものを観客は見るしかない。だから、銀ちゃんはアップに拘る。アップなら、同じフレームに映っている他人に場面を取られないからだ。
でも、舞台じゃ、そうはいかない。
観客は、舞台のどこを見るのも自由だからだ。
活気のあるカンパニーでは、真ん中の芝居より、脇の小芝居の方が受けてしまったりする。

宝塚はスターシステムでできているし、本公演は90人近い出演者を抱えることもあるので、そんな中で、みんながそれぞれ主張した人生を送っちゃうと、収拾つかなくなるし、トップスターが、クリスマスツリーの真ん中のでっかいお星様に見えるように、周りが気を遣うのがヅカのシステムであり、それが美しい伝統でもある。
だから、時々、うるさい小芝居にはチェックが入り、そりゃー、こってりと、上級生からしぼられることも発生する。
でも、時には、そんなシステムを外れてでも、いい芝居を作りたいっていう、演出家たちの思いも私は支持したい。そして、そんな時、真っ先に挙げられる役者として、大空祐飛が存在することが、ファンとして嬉しい。
上手い役者は、いっぱいいいるけど、そんな舞台での居方が好きで、私は大空祐飛のファンをやっているんだ、と思えるから。

あ、でも、最後にもう一度言っておきますが、

私には、主役は、銀ちゃんにしか見えませんので。


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コメント 2

NO NAME

いつも、なるほど!と思いながら読ませていただいています。
もちろん、わたしにも主役は、銀ちゃんにしか見えません。
by NO NAME (2008-10-24 06:21) 

夜野愉美

コメントありがとうございます。
お名前はお忘れなのか、恥ずかしがりやさんなのか、わかりませんが、主役が銀ちゃんと心強いお言葉、ありがとうございます。
あ、でも、カンパニーの皆が大好きで、この作品も大好きです。
by 夜野愉美 (2008-10-24 13:06) 

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