SSブログ

「スカーレット・ピンパーネル」感想 その3 [┣宝塚観劇]

ショーヴラン(柚希礼音)のイギリス旅行は、なんの成果も得られなかった。
というか、彼は、獲物のすぐ側まで近づいたのに、何も気づかずにフランスに舞い戻ったのだ。そんなショーヴランを叱責するだけのロベスピエール(にしき愛)もたいがい無能。いや、もう、革命政府全員無能すぎっ!
しかも、市民の怨嗟の声に慌てて、アルマン(和涼華)の拷問をしろってあたりが、もう場当たり的というか…

いや、アルマンの拷問は、私も賛成ですが…

やはり、いい男は拷問してこそ、ですからね。(なにか間違ってますね)
さて、ピンパーネル団の新たな目的は、フランス王太子、つまり即位さえすればルイ17世になってしまう(ルイ16世が既に亡くなっているから)少年を救出すること。
どうやら、これは、原作にはない設定のようだ。いや、原作は18シリーズもあって、途中からつまらない冒険活劇に堕してしまったために、翻訳すらされていないので、絶対にそういう話がないかと聞かれると、定かではないのだが。
かつて王太子であったというだけで、投獄され、殺されてしまった(らしい)本物のルイ・シャルルを思うと、気の毒でならないが、一国の皇位継承者というのは、政治的に利用される可能性が高いので、かわいそうだから救出する、というのは、間違っている。
人道的に助けるべきだ、というのであれば、彼が政治的に利用されないように、徹底的にその身を守り、普通の少年としての人生を全うさせなければならない。
残念ながら、パーシーたちピンパーネル団には、そんな雰囲気は皆無だった。
エセ人道主義では、世界平和に混乱をきたすのだが…。

という正論はさておき、ルイ・シャルル(水瀬千秋)は、タンプルの塔からよそへ移されることになる。
その機会に乗じて、ピンパーネル団は、警備の人間、靴屋の夫婦を騙し、ルイ・シャルルを簡単に奪取してしまう。そして、シャルルは、マリー(夢咲ねね)の甥という触れ込みで彼女のアパートに住むようになる。
そこへ、なんとマルグリット(遠野あすか)が現れる。
アルマンを助けてほしいと懇願したものの、また出かけてしまったパーシーに失望し、自分でどうにかしようと、ドーバーを越えてきたのだ。やっぱり、マルグリットは、パーシーの同志になれる行動力を持った女だった。
マルグリットは、マリーの前で、パーシーへの不信を口にする。
それを聞いていたシャルルは、子供なので、大人の人情の機微がわからない。パーシーはいい人だよ!と突然飛び出してくる。とうとう隠しきれずに、マリーはその子供こそがルイ・シャルル王太子であることを口にする。
瞬時にマルグリットは、パーシー=スカーレット・ピンパーネルであることに気づく。
そんなマルグリットに、シャルルは、「勇気のうた」を知っている?と聞く。その歌をパーシーに教えてもらって、自分は勇気を持って生きることができたと。マルグリットは、跪いて「殿下、どうか私にその歌をお教えください」と頼む。

一方、ショーヴラン側。
ロベスピエールとショーヴランは、グラパン(実はパーシー)のアイデアを忠実に実行している。
観客は、グラパン=パーシーと知っているから、そんなグラパンの言うことを、敵の最高権力者が喜んで受け入れている段階で、勝負はついている。
手に汗握る攻防っていうのが全然ない。
なのに面白い。
面白い理由は、グラパンの存在感にある。
グラパンが、どうやって、ロベスピエールやショーヴランを騙すか、どれだけ、革命政府の連中がころっと騙されるか、観客の興味はそこにあると思う。
つまり、ロベスピエールもショーヴランも「ざまあみろ!」と言われるキャラにできている、ということだ。設定上は。
にしきが演じる時点でロベスピエールは「そんな役」なのだろう。
しかし、ショーヴランは?
私には、間抜けなロベスピエールを出し抜く気が全然ない時点で、ショーヴランも、「そんな役」認定している。もう少し、間抜けで茶目っ気のあるショーヴランの方が、芝居の役として説得力を持つと。まあ、小池先生的な2番手の扱いだとは思う。
本当は滑稽なのに、本人大真面目的2番手は、小池オリジナルでも多い。
閑話休題、グラパンの発案により、マルグリットは、コメディー・フランセーズの舞台に立つことになる。

ところが、マルグリットは、この舞台で、「ひとかけらの勇気」を歌いだす。
これはグラパンにも想定外だったはず。つまり、それはマルグリットがパーシーの正体に気づいたということでもあるから。
で、ここで歌われる「ひとかけらの勇気」なのだが…
1番の歌詞だったりする。
パーシーが、ルイ・シャルルに教えたのは、2番の歌詞だったのに。
なんてことが気になりはするものの、ここのマルグリットの歌には鳥肌が立った。
すげー!
魂の歌だ[るんるん]

ピンパーネル団が客を煽り、その混乱に乗じて、アルマンは救出される。
しかし、その一方でマルグリットは逮捕されてしまう。
マルグリットにその歌を歌った理由を聞くショーヴラン。
それは、夫のメッセージがこめられた歌だから。愛し、尊敬する夫だから…とマルグリットは答える。ショーヴランは、それじゃ、オレを愛したことは?と、再度尋ねる。
「ないわ」
下司を見るように、マルグリットは答える。

あんな男を…あいつは、オレをスカーレット・ピンパーネルじゃないかって言った男だぞ。オレがスカーレット・ピンパーネルなら誰にだって可能性はあるんだ、そう、あいつにだって…
そして、その時、初めて彼は気づく。パーシー・ブレイクニー=スカーレット・ピンパーネルだったことを。
二重にも三重にも、ショーヴランは間抜けで情けない。
なのに、マルグリットにキッパリと拒絶された時、彼は、乾いた笑いを虚無的に発する「型の演技」で、魅せた。
つまり、小池先生的には、こんなショーヴランなのに、設定はあくまでも二枚目なんだろうと思う。やはり小池先生のオリジナル作品に出てくる、どう考えてもかっこ悪いのに、やたらかっこつけてる「世界征服を企む」悪役像に近いイメージなのだろう。
まあ、私は、ずっと宝塚を見続けている観客なので、よくわからないが、初見の方は、今回の柚希ショーヴランに嵌まった人が多いと聞く。だから、そんな小池演出もありだったということなのだろう。
小池先生ってスター作りがうまいな、と思う。

さて、グラパンは、さらにショーヴランを騙す。
マルグリットをパリじゃない、海辺で処刑すると言えば、ピンパーネル団は一網打尽だ、と。海の近くで処刑台のある場所、ということで、マルグリットはミクロンに連れてこられる。
そこで、パーシーはようやくグラパンの変装を解き、正体を現す。
ここで、パーシーとショーヴランの一騎打ちがある。
パーシーは、変装を解く時、手袋だけは取らない。それは、剣を取るためなのだが、その剣がなぜかフェンシングの剣なのだ。
で、イギリス貴族であるパーシーは、決闘術であるフェンシングに長けていても納得できるのだが、貧乏で裏街のドブを見て育ったショーヴランが、パーシー以上にフェンシングがうまいってのは、どう考えても納得いかないっ!
実践の剣の腕が立つというのなら、すごくわかるのだが、フェンシングの型がバッチリ決まっているのは、絶対におかしいと思った。
まあ、そんなこんなで、パーシーがようやく勝つと、今度は兵士たちが大勢現れ、形勢は逆転する。取り押さえられたパーシーは、最後にロベスピエールへの伝言を頼む。「あなたの信頼するグラパンがスカーレット・ピンパーネルだったと連絡してくれ。最後に悔しがらせたい」
どう考えても、罠だろ!
これまで、何度も騙されてきただろっ!
なんで、また騙されようとしてしまうんだ!ショーヴラン!
単純なのか、バカなのか、両方なのか…情けない悪役である。
メルシエ(祐穂さとる)が、連絡に行った途端、兵士たちが、ショーヴランに銃を突きつける。そう、全員がピンパーネル団の変装だったのだ。
ついでに、ショーヴランにグラパンの変装をさせて放置する。もちろん、グラパンとショーヴランが別人だということはすぐにわかるが、それがわかるパリに到着するまでは、手ひどい扱いをうけるかもしれない。でも、命を奪うわけではないから、気持ちのいい決着のつけ方ではある。
こうして、海辺からルイ・シャルルを船に乗せることに成功したピンパーネル団は、船の上でパーシーとマルグリットの結婚式を改めて行い、今度こそ二人は永遠の愛を誓うのだった。

大団円で終わった後は、下手の花道セリから2番手男役がセリ上がり主題歌を歌う。柚希、やっぱり、上手くなったな~と、しみじみ感心。
が、フィナーレDでも柚希を中心とした剣の舞。まあ、本編中まったくダンスでの活躍シーンがなかったからしょうがないのだが、柚希センターだと場面が重い。しかもピンパーネル団かっこいい!みたいな場面なので、余計、違和感がある。(敵の中心人物が真中で踊っていることに)
振付自体はよかっただけに、残念。芝居に付随したショー場面なので、ここは、ピンパーネル団をフィーチャーした群舞にしてあげればよかったのに、と思った。
また、紳士Bの和涼華とただの紳士の彩海早矢の衣装が違うのは、普段なら全然気にならないのに、この場面では、アルマンとオジーが同格でないのが不思議に感じる。衣装もピンパーネル団とその他で括った方がわかりやすいのだが。
スターシステムは、一般客に分からせるのに時間がかかるので、その辺り、特別な演出があった方がいいように思う。
パレードは、パーシーの安蘭だけが羽根という不思議なスタイルだが、これは「エリザベート」なんかも同じパターンなので小池らしい演出なのかも。
いろいろ文句も書いたりしたが、観劇中は楽しくて、楽しくて、久しぶりによいミュージカルを観たという気分。こういう作品を観られるなら、値上げも気にならないのだが…。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:演劇

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0