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「ME AND MY GIRL」 その3 [┣宝塚観劇]

「ME AND MY GIRL」感想その3です。その1はこちら、その2はこちらにあります。 

パブにやってきたビルは、サリーに、パーティーに招待する、と伝える。
けれど、「歓迎されないパーティーになんて行かない、もうランベスに帰る」と、サリーは言う。
愛し合っているのに、すれ違う二人の心。

ビルが立ち去った後、ジョン卿がサリーに声をかける。
ジョン卿は、「マリアが、やっきになってビルに紳士教育を施していることは知っていたが、サリーの心を傷つけていることは知らなかった」と、言う。そして、「サリーのためにもビルをランベスに帰そう」と。
サリーは答える。
「それはいけない、彼のルーツはここにあるんだ。でも、あたしは違う」
ビルに正当な権利を与えるために、自分は身を引こうと決意している姿にジョンは驚く。

「あなたの心を一度なくすと」(一度心臓を失ったら)

すごくいい曲だと思う。
彩乃の歌もすごくいい。
でも、実は、初演のCDを初めて聴いた時から、この歌の意味がよくわからない。
わからないが、彩乃の歌がすごくて、鳥肌が立った。
サリーが健気に歌っている、と思っていたのが、気がついたら、彩乃かなみというショースターの舞台になっていた。
ロンドン・ミュージカルってこうだったかもしれない…
と思った。芝居は芝居として成立していて、ショーシーンでは、スターの素が出てしまっても問題ないっていう鷹揚さ。
すごくいいなーと思いつつ、それじゃどうして、さっき“瀬奈じゅん”が前面に出てきて、疑問を感じたんだろう?と思った。
そこが、スターの素が出ることの両刃の剣の部分なんだろうな、と思う。
「あなたの心を一度なくすと」を思いきり歌いあげても、それがサリー→彩乃かなみになっていても、サリーが否定されるわけじゃない。
でも、「ミー&マイガール」を瀬奈の洗練されたダンスで見せてしまうと、それは、紳士教育後のビルの姿になってしまう。=ドラマが否定されてしまう。
…とまあ、理屈もありながら、実際のところ、彩乃かなみの場合は、サヨナラだから、ソロで歌いあげるところ位、実力を発揮させてあげてもいい!とこちらが思っているせいかもしれない。
雰囲気として、歌い始めは、周りの俳優さんとのやり取りの中から歌になるんだけど、(ここではジョン卿)そのうち人やセットがはけていって、一人になったら、その辺りからは、もう芝居から離れてもいいんじゃないか、と思っている。

そうこうするうちに、パーティーの当日になる。
ヘアフォード家2階の窓では、気弱な男達(ジョン卿・ジェラルド・バターズビー卿)と根性がすわった女達(マリア・ジャッキー・クララ)の軽妙な会話。その間にもパーティーの準備は進められていく。
登場したビルは、付け焼刃ながら、当主として立派なふるまいに見える。

ここで、今回Wキャストとなったジャッキーのもう一つの役が登場する。
初演から2番手娘役の役どころであった、ソフィア・ブライトン夫人だ。城咲も明日海も、実に可愛くこの役を演じている。ソフィアはジャッキーの友人らしく、二人の絡みもあるのだが、そこが愛らしくて…。
城咲の娘役芸、そして明日海の天然、どちらも捨てがたく堪能させてもらった。
ディス夫人(花瀬みずか)とメイ(羽桜しずく)の美人姉妹もいい。いいけど、この辺の娘役たちの活躍場面がないから海外ミュージカルは観ていてつらい。適材適所だから仕方がないのだが。

ビルのお披露目は成功したかに見える。
そこへ、サリーが仲間たちを連れて現れる。
ビルはサリーを客人として招待したのに、サリーは、ランベスの流儀をヘアフォード家に持ち込んだ。焦るビルに、サリーは、「あんたは今あたいを場違いだと思ったんだろ?」と聞く。
決して場違いとは思っていない。ビルの心の中にサリーやランベスを恥ずかしく思う気持ちなど、微塵もない。けれど、ヘアフォードのパーティーを楽しみにしてくれた参加者へのホストとしての義務感から、“困ったことになった”程度は思ったはずだ。その思いを曲解するほどにすれ違ったサリーの心を取り戻すために、ビルは、これまでの特訓をホゴにして、マリアに別れを告げる。
「あたし、そんなつもりじゃ…」
サリーも焦る。
しかしビルはお構いなしに、歌い始める。

1幕のクライマックスシーン。

「ランベス・ウォーク」

このミュージカルが月組限定で再演されてきたことに意味があるとすれば、この場面だろうと思う。
月組名物、“究極の小芝居”!
一人一人の生徒が、自分の設定を考え、その設定の中で芝居をしている。あるものは、早々にノリノリになって踊りだすし、あるものは、徹底的にランベスチームを無視する。それが全体の渦の中で、不協和音がやがて調和のとれたオーケストラ演奏になるように、ランベス・ウォークの中に吸い込まれていく。
その不協和音の海の中で、自由闊達にランベスに取り込まれていくパーチェスター役の未沙の動きに、目を奪われた。
21年前と同じ役で、伝説を再現しているマヤさん。
大地真央さんの同期のマヤさん。
女優・大地真央もある意味化け物だと思うが、タカラジェンヌ・未沙のえるも同じ位化け物だと思う。ありがとう!あなたのパーチェスターに会えてよかった!

そのランベス・ウォークの巨大な渦の中で、水を得た魚のように泳ぎまわる彩乃かなみ。そして、いつの間にか、姿を目で追わなくなったら、どこにいるかわからなくなってしまった、瀬奈じゅん
「ME AND MY GIRL」は月組の宝のような公演だが、瀬奈じゅんの月組で上演するのが、正しかったのかは、よくわからない。ビルの扮装をした瀬奈は、本当に可愛くてかっこよかったが、ビルとして、演じる瀬奈は、生き生きできていたのだろうか?

ちなみに東京公演でも、研1さんが、2階S席とA席の間の通路で踊ってくれていた。
客席降りになると寂しい2階席には、嬉しいプレゼントだった。

第2幕

「太陽が帽子をかぶってる」

♪太陽がシャッポをかぶってる♪
という歌詞で始まる歌。帽子は、フランス語でchapeauだが、昔、日本人は帽子のことを洒落て「シャッポ」と言っていたらしい。古いです…死語です…!!

さて、このナンバーは、ジェラルドのソロナンバーにコーラスが加わるような内容のはずだった。
え?こんだけ?
最初、歌の上手い姿月のために、特別に作られたナンバーを外したのかと思った。
しかし、初演のCDも、ロンドン版の映像も、すべて、ジェラルドの長いソロが組み込まれている。
なぜなんだ?
大丈夫なのか、あひ…

ゲートボールによく似たスポーツ、“クロッケー”をやっているらしきメンバー。
ジャッキーは、サリーが“身を引く女”を演じることで、ビルの気を引こうとしている、と怒っている。
ここで、ジャッキーに対して、ジェラルドが「いい狙いだったよ」というセリフがあるのだが、ここ、以前は、真剣にやりすぎて、ジェラルドの股間を狙ってマレット(スティック)を振り上げているシーンだった。
宝塚的に問題だったのかな?
今回は、意味が不明になっただけのような気がする。

ジェラルドは、パーチェスターにビルについての不満を語る。
貴族さまは、ランベスの青年のどこが気に入らないのか…。すると究極、駄洒落を含み、その話し方がイヤだということらしい
イギリスでは、その人の言葉を聞けば、その人の階級がわかるらしい。
つまり、それが、このミュージカルの最終的な解決への糸口なのだが、平民出身のパーチェスターは、意に介さず、駄洒落で応答する。とぼけた口調の未沙がいい。

一方、サリーは、マリアの言葉に従い、ビルに別れを告げて出て行くことを決意する。
耳の遠いジャスパー卿(北嶋麻実)の問いかけに答えるように、サリーは力強く歌う。

「顎で受けなさい」

「あなたの心を一度なくすと」の歌詞がよくわからないのに比べて、この歌はすごく意味がわかりやすい。日本語詞がどれだけ忠実に訳されているかはわからないが、日本語としてよくわかる。
それを究極オトコマエに歌ってみせる彩乃の歌唱が生きる。
理想の娘役だった彩乃が、ミュージカル女優として生まれ変わる瞬間…そんな思いで、見つめていた。

今回はこの辺で。


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