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プロペラ犬「僕だけが正常な世界」観劇 [┣演劇]

プロペラ犬第8回公演
「僕だけが正常な世界」


作・演出:水野美紀(プロペラ犬)


美術:照井旅詩
照明:齋藤真一郎
照明操作:栗橋佳菜子
音響:佐藤こうじ(Sugar Sound)
音響操作:日本有香(Sugar Sound)
マイクケア:増田郁子(株式会社スタッフステーション)
映像:上田大樹、新保瑛加、石原澄礼
映像操作:玉木将人
衣裳:小野涼子
小道具・造形:湯田商店
ヘアメイク:大貫茉央、今家真美
音楽:伊真吾(OVERCOME MUSIC)
振付:入手杏奈
演出助手:雪原千歳(モンコックハウス)、猪俣利成、西野優希
舞台監督:筒井昭善
演出部:竹内万奈、織田圭祐、みぞぐちあすみ
スタイリスト:YOSHIKI

アシスタントプロデューサー:水野彰弘、田代麻依
プロデューサー:宮下貴浩(株式会社ルビーパレード)
共同プロデューサー:中道正彦
企画・プロデュース:水野美紀


文化庁「ARTS for the future2」補助対象事業


スペシャルサンクス:小林利那(振付協力)
          小口隼也(追加キャスト)


主催:プロペラ犬


「僕だけが正常な世界」が上演されている劇場は、東京芸術劇場シアターウエスト。演劇ファンには、おなじみの、東京芸術劇場ビル地下にある、シアターイーストと隣り合わせの劇場だ。…ということを、まず、前提条件として提示しておく。
冒頭、ウォーミングアップのかっこうで現れた、俳優と思しき青年(鳥越裕貴)は、いきなり始まってしまった舞台に巻き込まれていく。どうやら舞台は「青い鳥」らしい。
登場人物は、チルチルとミチルの兄妹ではなく、ゲンキ(定本楓馬)とあかり(江藤萌生)の兄妹と、ゲンキの友達のミチル(崎山つばさ)だ。三人の周りには、いろいろな妖精たちが現れ、三人を導こうとするが、ミチルが理屈っぽく話の腰を折るので、物語が進まない。
これは、空気が読めず、理屈っぽくて、家族からも敬遠される、ミチルという少年の心の物語だ。


ミチルの家は寺で、父(ノゾエ征爾)は住職、母(浅野千鶴)は寺を使ってホームレス支援のボランティア活動をしている。家には、無職の叔父(福澤重文)が居候していて、彼の住む離れはミチルのために亡き祖父が建てたものだった。ミチルは、理不尽に自分の住処が奪われたことに我慢ができない。
成長してもミチルは自分の「正しさ」を主張することをやめない。ゲンキ以外に友達はできない。ミチルとゲンキとあかりの三人は、川辺で蛍を育てていた。ミチルの母が、大昔にふとつぶやいた言葉を覚えていたミチルが「母に蛍を見せてあげたい」と考えたことが始まりだった。そんな三人を見守るのは、「青い鳥」の妖精たち。
その中に、俳優は、今日自分がここに来ることになった原因(休演者の代役として、ここに来ている設定)の俳優(宮下貴浩)を見つける。(以下俳優だらけなので、芸名で鳥越宮下と記載する。宮下の役名は「宮田」と明かされているが、鳥越の役名が「空気」で、それは彼が演じている俳優の名前ではないので、どっちも役者の名前で記載します。ご了承ください。)休演したはずなのに、なんでここに居るんですか[exclamation&question]と驚く鳥越宮下は、「お前が呼ばれたのは、シアターウエストじゃなくて、シアターイースト、隣だ」と言うが、時すでに遅し。鳥越も、すぐにシアターウエストに飲み込まれ、登場人物化していく。そもそも宮下自体、間違ってシアターウエストに来て、「火の精」というやりがいのある役をもらってしまい、シアターイーストの公演をすっぽかしたのだから、推して知るべし。
(ここで、この芝居が、シアターウエストで上演されている、という冒頭の前提条件が回収される。)
さて、ゲンキは、元気ではなく、体が弱い。妹のあかりは元気だったが、作中、不慮の事故で亡くなってしまう。気がついたら、ゲンキもミチルの前に現れなくなり、ミチルの理解者はいなくなった。子供のころは、祖母(水野美紀)が居てくれたが、その祖母も亡くなった。
(ミチルが、思い出の国で、祖父母に会うシーンもあり、わりと、「青い鳥」の設定は守られている。)
大きくなってもミチルの性格は治らない。社会不適合なまま、自分が平和に生きていける場所は、もう刑務所の中しかないと思い詰める。そんな時に、ミチルの前に現れたのが、鳥越だった。ミチルは刑務所に入るために、鳥越を殺害する。
裁判長(武藤心平)は、ミチルの希望通り、無期懲役を言い渡すが、鳥越自身が、この裁判に納得がいかない。というか、被害者が納得いかないと叫んでいる時点で、「殺人事件ではない」ということになり、ミチルは無罪放免されてしまう。そんなミチルに寄り添う鳥越が「空気」という役名のキャラクターなのは、なかなか深い。
よく、「空気が読めない」という言い方がされる。
子供は、多かれ少なかれ空気が読めない。人生経験が少なくて、「言うべき時」がわからないのだ。しかし、ミチルは、大人になっても空気が読めない。相手の言ったことを真に受けすぎる。誰かが、特に意味もなく言った言葉を全身で受け止めたりする。言ってみただけ、口から出まかせ、みたいなことが理解できない。だから、毎日、大きく傷ついている。
そんなミチルを救おうと一生懸命になる、赤の他人の鳥越と、ミチルの存在を封印するかのようにして暮らす彼の両親の落差が面白く、また恐ろしかった。鳥越の演じる俳優のポテンシャル(これが最後の舞台。役者廃業するから、悔いなく演じたい)が、いつの間にか、目の前にいるミチルを救いたい…に変わっている。(この俳優、自身の子供に発達障害があるらしく、そういうのもあってミチルが他人に見えないみたい。)
タイトル「僕だけが正常な世界」の「僕」は誰なのか。ミチルなのか、それとも、外の世界からやってきた鳥越なのか、いや、鳥越もすでに狂気を孕んでいるのではないか…など、頭の中がウニになりそうな作品。途中で、ミチルの側からいなくなってしまうゲンキが客席から現れ、自分が病気で死んでしまったことを告げた時、なんだか、ホッとした。ミチルは、捨てられたのではなく、ミチルとコミュニケーションを取れる人々を失っただけなのだ…みたいな…。


時々、理解できないことを口にする犯罪者がいて、そういう犯罪者を「理解できない」と切り捨てるのは簡単だけど、もしかしたら、彼らは「僕だけが正常な世界」の住人なのかもしれない。
子供の頃、大人の何気ない一言をずーっと覚えていて、「しつこい」と言われたり、友達の冗談を真に受けたりして、他人との距離感がうまく取れなかったことを思い出し、なんだか、胸が苦しくなった。私は、小学校6年生くらいで、社会に順応できるようになったけれど。
面白かったと、一言で片づけられない舞台ーこういう作品に出合うことも、演劇好きのだいご味ではあるのだが、あえてクリスマスイブに観劇した自分、この選択は正しかったのだろうか…[あせあせ(飛び散る汗)][あせあせ(飛び散る汗)][あせあせ(飛び散る汗)]


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