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「夜の女たち」観劇 [┣ミュージカル・音楽劇]

ミュージカル
「夜の女たち」


原作:久板栄二郎
映画脚本:依田義賢
上演台本・演出:長塚圭史
音楽:荻野清子


振付:康本雅子
美術:二村周作
照明:大石真一郎
音響:佐藤日出夫
衣装:伊藤佐智子
ヘアメイク:稲垣亮弐
アクション:前田悟
歌唱指導:満田恵子、伊東和美
稽古ピアノ:森本夏生
大阪弁協力:山内圭哉
方言指導:杉宮匡紀
演出助手:西祐子
舞台監督:大垣敏朗


1948年の溝口健二監督作品「夜の女たち」を、長塚圭史がミュージカル作品にした。
話を聞いたときは、「え?ミュージカル?」と思ったが、見始めてすぐ、これは、ミュージカルで正解だ、という気分になった。それくらい、音楽と物語がピッタリだった。これは、音楽担当の荻野さんの功績だろう。
およそミュージカルらしくない歌詞のナンバー揃いだったが、それが美しいメロディーになって、心に残る。
こういう形でしか、「夜の女たち」の物語を現代に蘇らせることは難しい。それほどに、戦後は遠くなってしまったーということを深く感じた。「ミス・サイゴン」のような遠い世界にしないと、誰にも振り返ってもらえない。戦争中のことは、今後も映画になるだろうけど、戦後のことは、朝ドラで一週間くらい闇市が登場する程度なんだろうな…と思う。
昭和20年から25年までの物語、それは戦争に続く、平和な、だから、じわじわと来る悲劇の時代。戦争は、直接空襲で人が一気に亡くなったりするから、悲劇がわかりやすい。でも、戦後の悲劇は、じわじわと個人をむしばんでいくし、それぞれ事情も違うから、丁寧に説明しないと、理解が追いつかない。だから、これまで、描かれる機会が少なかった。溝口監督の「夜の女たち」もこんな形でミュージカル化されなければ、忘れ去られていっただろう。
長塚圭史の才能とヒラメキに脱帽である。


大和田房子(江口のりこ)は、終戦後、幼い子供を抱え、夫の帰りを待っている。生活費は、着物を売って作り出しているが、それも限界が近づいている。まだ若い房子なので、身を売って生活費を稼いではどうか、という声もあるが、夫のある身でそんな…と、房子は考えもしない。
しかし、ある日、夫の死が明らかになり、子供も医者に見せられず、死んでしまう。
房子は、居合わせた会社社長、栗山(大東駿介)の秘書となって新しい生活を始める。しばらくして、生き別れになっていた妹の夏子(前田敦子)と再会し、夫の妹である久美子(伊原六花)と、女三人の生活が始まる。
房子は、栗山の愛人になっていたが、そのことは、夏子には言えなかった。夏子もまた、両親と死に別れたあと、引上げ船の中で大勢の男たちに蹂躙されたことを姉に言えずにいた。二人は、互いの境遇について、都合のいい誤解をしたまま、ダンサーとなった夏子は、栗山と関係をもってしまう。
久美子は、あか抜けて綺麗になっていく夏子が羨ましく、自分ももんぺでなく、ドレスを着てみたいと思い、家を出る。そして、川北(前田旺志郎)という親切そうな男に誘われるまま、酒場に行き、体を奪われ、娼婦へと身を落とす。川北の正体は、家出娘に身を売らせてピンハネする女衒だった。
房子は、姉と妹の両方をそれと知りつつ抱いた栗山を許せずに出奔、行くあてもなく、とうとう娼婦に身を落とす。夜の女たちの一斉摘発で、留置場に入れられた房子たち。そこに間違って連れてこられた夏子は、監房の中で、房子に再会する。が、夏子も梅毒に感染していることがわかり、放免はされずに、房子とともに「千里山婦人保護寮」に連れていかれる。妊娠していた夏子はそこで出産するが、梅毒のせいもあり死産。
川北の指示でピンで客を取っていた久美子は、ショバ荒らしとして、娼婦たちからリンチを受ける。そこに現れた房子が久美子を助け、一緒にボコボコにされるが、足を洗う決意を押し通し、二人で去って行く。


けっこうな人数の出演者なのに、さらに二役三役を演じるので、登場人物はすごく多い。それぞれが個性的で面白かった。房子の夫とその弟を演じた福田転球、栗山の会社の平田や保護寮の院長を演じた北村有起哉、古着屋のおばさん(実は女衒?)や、女子の貞操教育おばさん、寮母…と、さまざまな役を演じた北村岳子などが印象に残った。
三人のヒロインは、江口の達者さ、前田(敦)の変化球、伊原の体当たり感…と、なかなか、よいバランス。前田旺志郎が見た目可愛いのにやることゲスな川北を好演していたのも特筆したい。


とにもかくにも、演出の長塚圭史はすごい、という舞台だった。


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