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「〇六〇〇猶二人生存ス」「その頬、熱線に焼かれ」観劇 [┣演劇]

「〇六〇〇猶二人生存ス」「その頬、熱線に焼かれ」


脚本:古川健(劇団チョコレートケーキ)
舞台美術:長田佳代子、伊東あおい
美術助手:小島沙月
照明:長谷川楓、松本大介
照明オペレーター:渡邉日和
音響:佐藤こうじ、小曽根未来
音響オペレーター:泉田雄太
衣装:藤田友
特殊メイク:梅沢壮一

舞台監督:本郷剛史、鳥巣真理子
演出部:宮崎明音、加藤愛菜
舞台監督:本郷剛史

宣伝美術:R-design
写真:池村隆司
撮影:神之門隆広
web:ナガヤマドネルケバブ
制作協力:塩田友克、瀬上摩衣
制作:菅野佐知子(劇団チョコレートケーキ)


長期ワークショップメンバー:松本兼薪、伊織夏生、森円花


「〇六〇〇猶二人生存ス」
演出:日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)、石塚夏実


<観劇時配役>
黒木博司大尉…大知
樋口孝大尉…仁村仁弥(劇団ひまわり)
後藤俊康…谷口継夏
※公演は3パターンの配役で1回ずつ上演された。記載しているのは、私が観劇した日の配役。


劇団チョコレートケーキが、東京芸術劇場のシアターイースト、シアターウエストを同時に使って「戦争」関連作品六作を一挙上演する企画「生き残った子孫たちへ」より、今回は、短編2編を観劇した。


1本目は、人間魚雷として知られる「回天」開発秘話。
訓練初日に事故が起きた。海底に突っ込んで動かなくなった「回天」の乗組員、黒木と樋口の二人が、酸素がなくなり死亡するまでの数時間を追う一方、整備士として、終戦まで回天を出撃させ続けた後藤が、戦後、靖国神社を訪れて回想するモノローグ(死んだ二人への鎮魂の呼びかけ)が、場面のつなぎ目に差し挟まれる。
この事故で殉難した黒木大尉は、この「回天」プロジェクトの考案者だった。
命中率の低い魚雷の精度を上げるために、人間が操縦して敵艦に突っ込むという決死の武器は、なかなか上層部に受け入れられなかったが、黒木らの嘆願書により、1944年2月より試作が始まった。同年7月、「回天」のための部隊が編成され、9月、訓練開始。その初日に事故は起きた。
敵と戦って死にたかったと悔しがる樋口に対し、黒木は、今回の事故による自分たちの死を「犬死」から、「最も効果的な死」にするために、回天を突破口に、やがては、飛行機による特攻を実現するため、すぐに頭を切り替え、克明な記録と、改善提案を残し、一言も泣き言を書き残さず、皇軍の一員としての「完璧な死」を演出しようとする。(彼は過去に実際に起きた潜水艇の訓練中の事故例を参考にしている。その時も、潜水艇の艇長が克明な記録を残し、海軍の伝説となった。)
訓練中に無念の死を遂げた黒木と樋口の思念が、回天の以後の乗組員だけでなく、海軍のひとりひとりの兵に至るまで、後退を許さず、玉砕への道が出来上がっていく。誰も断れない空気感の醸成。結果的に、ではなく、作中の黒木はこの時点で明らかに「狙って」いるのだ。彼らの訓練中の事故死が、その後の海軍の方向を決定づけていく…すべては黒木の思い通りに展開していったことが、後藤のナレーションで語られる。同時に、特攻によっても戦局に影響はまったくなかった…という悲しい結果も。
(昔、「永遠の0」を見た時に感じたのだが、影響がまったくなかったというよりは、日本人クレイジーだぜ、こいつら最後の一人になるまで突っ込んでくるかも…の恐怖心が、原爆投下というシナリオに流れていったってことはないだろうか?というむしろ悪影響さえ考えてしまう。)
その思念の恐ろしさに胸が締め付けられた。そして、酸素がなくなり、少しずつ死に近づいていく二人を見つめ続けるらしい…と気づいた時の、観客としてのいたたまれなさ、恐怖感も忘れられない。
とはいえ、演劇なので、観客を置いていくようなことにはならず、二人の海軍士官は、平静を保ったまま死に赴く。もちろん死を見つめるのはつらく苦しい時間だし、死んでいく側のエネルギーもすごいだろうな…と想像する。今回の3公演は、ワークショップ参加者からキャスティングし、黒木役、樋口役は、公演ごとに交代するので、1回にこめた二人のエネルギーの強さはハンパなかった。


黒木役の大知さんは、正面顔(カーテンコール)と横顔(公演中、黒木と樋口はずっと向かい合って座っていて、横顔しか見ることができない)の雰囲気が全然違う方で、精悍で意志の強い横顔と(セリフも力強かった)正面顔のまだあどけなさの残る顔立ちとのギャップにやられた。樋口役の仁村さんは、典型的な体育会軍人の樋口を温かいキャラクターに造形していた。
戦後の後藤がせめて幸せな人生を送れますように…と、思った。


「その頬、熱線に焼かれ」
演出:日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)、安原あいか


 <観劇時配役>


敏子…椎木美月
智子…蓑輪みき
弘子…本宮真緒(劇団チャリT企画)
節子…谷川清夏
昭代…中野亜美
信江…中神真智子
美代子…柳原実和
※公演は2パターンの配役で2回または1回上演された。Wキャストは昭代以下の3名。記載しているのは、私が観劇した日の配役。


短編2作目は、戦後、アメリカの篤志家の協力で、ケロイドの手術を受けた25名の「原爆乙女/ヒロシマガールズ」の物語。簡単なはずの手術後に一人の女性が亡くなったその夜の物語。明日手術を受ける敏子を中心に、死んだ智子を含めて、7人の若い女性たちの本音トークが展開される。
それぞれ、体のどこかに特殊メイクで原爆の爪痕が生々しく付けられている。
数千度ともいわれる熱線を浴びて、一度溶けた皮膚が冷えて固まったような状態なので、皮膚が引きつれたり、別の部分とくっついたりして、手術をしなければ、瞼を閉じられないとか、腕が上がらないとか、そういう人々が、広島のあちこちにいた。
そのうち、「将来ある若い女性」に限定して、アメリカの篤志家がお金を出し、NYの病院で最先端の治療をするという企画が立ち上がった。25人の女性たちは、寄附金によって渡米し、クエーカー教徒の家にホームステイし、何度も手術を受けた。一人が亡くなり、一人が結婚して現地に残り、帰国したのは23人だった。
原爆を落としたアメリカ人の家にホームステイして、アメリカ人医師の手術を受ける…実際にピカ(原爆ーピカドンーのことを彼女たちはそう省略する)の熱線に焼かれ、たくさんの友人を亡くし、自分は偶然にも生き残ったけれど、心と体に大きな傷を負い、いつ原爆症が発症するかもわからない状況下で、彼女たちがどれだけの葛藤を抱えていたか、想像するだけでも、つらい気持ちでいっぱいになる。
病院にいるのは、亡くなった智子の霊、明日手術予定の敏子、そして、一匹狼的な弘子。あとの4人は、ホームステイ先から訃報を聞いて飛んできた。智子の急死を受け入れられない人、自分の手術に恐怖を感じる人、このまま治療が継続されるのか不安を感じる人、さまざまな感情をぶつけ合い、心が揺れたり、泣いたり、叫んだり…智子は、彼女たちの間をさまよいながら、心を寄せる。
戦後間もない時期に、10代後半から30歳くらいまでの未婚の女性たちが、言葉もわからないアメリカで治療を受けていた…というのは、知識程度には知っていたが、それってこういうことなんだな…という認識は、芝居を見て、初めて納得することができた。ものすごい勇気と善意の塊。
どの女性も、みんな真摯で美しい。
特に、ふくよかで嫋やかな信江役の中神さん、華奢で時折見せる笑顔が爽やかな中野さんが印象に残った。


20代の若い女優さんだけの出演だったので、ご両親でさえ戦争を知らない世代だろうと思う。
あの戦争と、悲惨なピカと後遺症について、やはり戦争を知らない客席に向けて、精一杯伝える真摯な姿勢に感動した。
作り手も、受け手も、もう誰も戦争を知らない時代。それでも、伝え続けることはできる。
明確にそれを実感できた夜だった。


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