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「燃ゆる女の肖像」 [┣本・映画・テレビその他エンタメ紹介]

映画「燃ゆる女の肖像」を見た。
そもそもこの映画を見ようと思ったキッカケは、ポスターだった。
「Portrait of a Lady on Fire」というタイトルが、女性の肖像にかぶって書かれている。実は、大学時代に、ヘンリー・ジェイムズの「ある婦人の肖像」(英題:The Portrait of a Lady)という小説を勉強していたことがあり、一瞬、その話なのかな、と思ったのだ。
私が大学時代に勉強してた作品って、その後映画化される例が多くて、わりと簡単に信じてしまったのだが、まあ、一応、見に行く前にHPを確認し、ヘンリー・ジェイムズは全然関係ないということは、理解[バッド(下向き矢印)]


このところ、女性の芸術家が自分の名前で作品を残すことが、昔はとても難しかった…という物語をあちこちで見るが、本作も、そういう女性がヒロインだった。18世紀末、30歳で独身のマリアンヌは、肖像画家だった。が、出来上がった作品は、父の名で納品または発表される。
「本当は私が描いたんです」
それは自己顕示欲とかではなく、もっと根源的な人間の魂の叫びのように思える。
「ここに存在する私を、居ないもののように扱わないで」
それって、現代でも、まだいろんなところに残っているなーと思う。


マリアンヌ(ノエミ・メルラン)は、離島の城に暮らす、伯爵夫人(ヴァレリア・ゴリノ)に雇われ、船で島に乗り込む。
伯爵夫人の要請は、娘のエロイーズ(アデル・エネル)の見合い用の肖像画を描いてほしいということ。エロイーズは、結婚する気がなく、男の画家に肖像画を描かせることは失敗した。だから、友人として娘に近づいて顔を覚え、記憶で肖像を完成してほしい、というのが、マリアンヌへの依頼だった。
二人は少しずつ心を通わせていくが、ある日、事実を知ったエロイーズは、描かれた絵は自分じゃないと言い、それを受け入れたマリアンヌは、絵を傷つけてしまい、最後のチャンスとして、夫人が家を空ける5日間の間に絵を描き直すことを約束する。
その5日間、マリアンヌとエロイーズ、そして使用人のソフィー(ルアナ・バイラミ)は、身分の垣根を取り払って、友人の共同生活のように過ごす。村の女たちの祭りに出掛けたり、ソフィーの堕胎に付き添ったり、少しずつ心が通い合いながらも、肖像画をめぐっては、激しく対立する。
それはおそらく、マリアンヌにとっても、エロイーズにとっても、それぞれのアイデンティティーをかけた重大事だったからなのだろう。
対立し、言いたいことをちゃんと伝える関係性の中から、マリアンヌとエロイーズは、互いへの思いを確認し合い、肉体的にも結ばれる。しかし、絵が完成し、伯爵夫人に見せてしまえば、二人は永遠に別れることになる。
その後、自身が出展した(父の名で)絵画展で、名士夫人となったエロイーズと子供たちの肖像画を見たことがあったマリアンヌ。ある日、マリアンヌが一人で聴きに行った演奏会で、やはり一人でやってきたエロイーズを見かける。エロイーズは、マリアンヌがいることに気づかず、しかし、あの運命の5日間に、マリアンヌが好きだと教えたビバルディの「夏」を聴きながら、号泣しているのだった。


同性愛を描いた映画ということになるのだろうが、淡々と進む物語は、あまりそういうことを感じさせない。
そもそも、この島には、女性しか住んでいないような気がする。(荷運び等で男性キャストは登場する。)祭りの夜も村人が女性ばっかりだったし、ソフィーが妊娠したのも、この島に渡ってくる前の出来事だと、本人に語らせている。
うがった見方をすれば、身分を超えた対等な恋愛をさせるためには、異性であるのは難しかったのかも[exclamation&question]
ラブシーンもあるにはあるが、官能的だったり、耽美的だったりすることなく、こちらも淡々と…という感じ。マリアンヌがベッドでエロイーズの裸像をスケッチしたり、エロイーズがぼーぼーに生えたワキ毛にちょっと照れたりする、何気ない場面が、印象に残る。
ソフィーの堕胎のシーンも印象的。おそらく産婆でもあるのだろう、老女の住む家を訪れると、処置をするベッドには、赤ん坊と幼児が遊んでいて、その無垢な顔を眺め、差し伸べられた手を握りしめて、ソフィーは痛みに耐えている。
生まれてきた命と、生まれることのできない命の対比とかではなく、赤ん坊の罪のない笑顔を眺めることで、痛みが中和され、安寧を取り戻すソフィーの姿に説得力があって、リアル。この事件を通じて、貴族・平民(客)・使用人の三人の女性が、なんでも言い合える関係性を築いていく。マリアンヌとエロイーズの関係性も、そこに端を発してるというか、シスターフッド映画としての側面もあって、面白かったです。


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