SSブログ

「Happy Families」観劇 [┣Studio Life]

文化庁委託事業
平成30年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業
日本の演劇人を育てるプロジェクト
新進演劇人育成公演[俳優部門]
「Happy Families A Greek Tragedy in London


作:デボラ・ラヴィン
翻訳:河内喜一朗 スタジオライフ
上演台本:倉田淳


舞台美術・舞台監督:倉本徹
照明:山崎佳代
音響:竹下亮(OFFICE my on)
衣裳:スタジオライフ衣裳部
ヘアメイク:MUU
演出助手:宮本紗也加
宣伝美術:佃美月(FORM)
チラシイラスト:及川健
協力:葛城奈菜海、円企画、劇団ひまわり、style office、よしよしこ(アナログスイッチ)
企画:藤原啓児
制作協力:スタジオライフ プリエール
制作:公益社団法人日本劇団協議会
主催:文化庁 公益社団法人日本劇団協議会


育成対象者:久保優二、澤井俊輝、千葉健玖、鈴木智加寿(MC企画)、相馬一貴(演劇集団円)、高尾直裕(劇団ひまわり)


年末にクリーンヒットが出ました[exclamation×2]
2018年のライフ作品で一番好きかもしれない[黒ハート]
(過去の公演は観ていません…)


タイトルは、“ハッピー・ファミリーズ”となっているが、イタリック体でサブタイトルが書かれている。“ロンドンのギリシャ悲劇”…ギリシャ悲劇にもいろいろあるが、観終ってみると、これは壮大なネタバレというか暗示だということがわかる。(つまり、作品テーマは、「オイディプス王」であった[exclamation]
緻密で、よくできた脚本なので、演じる人の数だけ違うニュアンスの舞台が出来上がると思うし、それでいて、俳優ではなく物語を観ている気持ちにさせられる作品。まさに私の好みにどストライクの舞台だった。


舞台は「いっぱい盛り」と呼ばれる、一切舞台転換を行わないステージ。これは、ウエストエンド作品では、それほど珍しくない。が、さらに、時間の流れも、たった1日弱となると、なかなかない。たった7人の出演者による濃密な演劇に呼吸することすら忘れるような、圧倒的な2時間だった。


(R.O.Y.チームはオレンジ、G.B.V.チームは青で記載。石飛さんはシングルキャストです。)
カナダからヨーロッパにやってきた姉のスベトラーナ・キャメロン(石飛幸治)を空港まで迎えに行った、メリック・ウェリコポルスティ(久保優二楢原秀佳)がロンドンの高級住宅街にある自宅に戻ってくると、ちょうど電話が切れたところだった。(電話の内容は、留守番電話から聞こえていて、誰も居ない舞台にアラン(曽世海司坂本岳大)の声だけが聞こえているのが冒頭のシーンだ。)
ゲイであるメリックのパートナーのアラン・メイトランドは、かつて結婚していた女性の急死を聞き、葬儀をし、二人の子供を引き取るために、スコットランドに行き、この日、帰宅する予定だった。そこへ、上の階に住むデレック・アンダーソン(楢原秀佳鈴木智加寿)が現れる。デレックは、アランがまだ結婚していた頃から、彼を知っているらしい。このデレックもまたゲイで、最近、恋人を手ひどく振ったらしい。その相手から報復されるかもしれないので、上の階の様子に気を配ってほしいと言い、去って行った。デレックは警官で、これから捜査会議があるとのことだった。
メリックは、デレックが好きではないらしい。
スベトラーナは、弟に、姪の結婚式の写真を見せる。彼女の渡欧の理由はこれだった。そのついでにロンドンに住む弟のもとを訪れたというわけだ。メリックは、姪の結婚式には行かなかった。何故なら、彼は、自らの父親とは二度と会わないと決めているからだ。
言い争いにならないように、メリックは買い物に出かける。そこへ、闖入者が現れる。
コスモ(高尾直裕相馬一貴)と名乗った青年は、スベトラーナとの会話を楽しんで、風のように去って行く。でも、本当は、デレックが預けている彼の家の合い鍵が目的。スベトラーナは何も気づかず、まんまと鍵を持っていかれる。
やがて、メリックが戻り、アランが二人の子供と一緒に帰ってくる。
15歳のトビー(千葉健玖澤井俊輝)と、17歳のサフロン(吉成奨人若林健吾)。
母が死んで心の傷が癒えていない二人に、父親がゲイで、男性と事実上の夫婦生活を営んでいるという事実をどう伝えるのか…アランの心は千々に乱れるが、自分達の生活を乱されたくないメリックは、アランに早く事実を伝えてほしいと言ってきかない。スベトラーナは、旅行先でとんでもない家族ゲームに巻き込まれてしまったのだが、問題はここでは終わらなかった-


果てしなく続く家族の言い争いの中、さまざまな事実が明らかになっていく。
メリックがカナダの家を出てヨーロッパに行ったきり、二度と戻らなかった理由。父親がナチスの収容所で看守をしていた…という事実。スベトラーナは、家族の前ですべてを告白した父親を許した。
強制収容所で出会った両親。父親は、少しでも待遇が良くなることを期待して、囚人の中から選ばれる看守の仕事を受け入れた。戦後20年も経ってから、カナダの国内でその事実が明らかになり、父親は、家族の前でそれを認めた。その時、メリックは、家を出、スベトラーナは、残って、父を許した。
ゲイということを子供たちに告白したアラン。それを認めようとするサフロン(母の人生にはやや批判的)と、ゲイなのに結婚して、ゲイだからうまくいかなかったのに母を虐待し、離婚してからは、男性と平気で暮らしている父を許せないトビー。
スベトラーナには、かたくななトビーが、かつてのメリックに重なって見える。


「父を許せない」二人の息子は、今、アランを間に挟んで、微妙な関係にある。
が、おそらく父とメリックのラブシーンを見てしまったのだろう、トビーは、父に向けてクリケットのボールを投げる。それが父の鼻を直撃し、救急車を呼ぶ騒ぎとなり…1幕が終わる。
(アランの出番は1幕で終わる。)


2幕は、その日の夜中から翌朝にかけて。
メリックとサフロンは病院に付き添ったため、家には、スベトラーナとトビーが残される。
その夜、上の階のデレックの家が荒らされ、警察が来たのだが、犯人のコスモをなぜか、スベトラーナは匿う。
コスモは、デレックの愛を失い、復讐しようとしたのだ。そして、デレックに新しい相手がいないことを知ると、「新しい相手ができたから捨てられるのと、俺が俺だから捨てられるの、どっちがひどいんだろう…」とコスモは呟いて出ていく。
やがて、サフロンが帰宅。アランの件で、メリックが警察に取り調べられているらしい。
そして、朝になって、メリックが帰ってくる。アランが死んだと告げる、メリック。そして、彼は、自分がボールを投げたことにする、と自らの覚悟を語るのだった-


好きすぎて、このお芝居については、後日、ゆっくり語りたいな~と思っている。
でも、ここでは、役者陣についてまず書きたい。


Wキャスト、Jr.1(1995年入団)の楢原と、Jr.12(2013年入団)の久保が同じ役というのは、明らかにおかしい…と、当初、思った。実際、チラシには、登場人物のだいたいの年齢も記載されている。二人が演じるメリックは、30代後半と書かれている。楢原はともかく、久保にとっては、かなりハードルの高い役に思われたが、ライフらしく年齢や性別を気にせずに、ただその人物を演じる…ということを徹底したため、同じ脚本による、まったく別の芝居を観ている気がした。
観ていて違和感がないのは、R.O.Y.チームの方。デレックは少し若すぎるのだが、あまり気にならなかった。
若林澤井のきょうだいも、脚本を丁寧に立体化していて、おとなしい姉と、気難しい弟を体現していた。なにより、アランを演じる坂本が、いろんな意味でダメなところの多い父親を、言い訳せずちゃんとダメに演じているのに、本当に可愛くて魅力的だった。
そして、楢原の役者としての底力を強く感じる公演だった。
一方、G.B.V.チームは、先ほども書いたように、見た目、少し違和感がある。でも、ライフらしくていい舞台だった。
曽世は、ダメダメ感を強調せず、責任感のある父親としてのアランを演じていた。これもありだなと思う。パートナーの久保が、ちょっと神経質な美青年だから、イケメン同士のBL感があって、ときめく。
ここに久保の同期、千葉が息子として現れる。
これがもう…すごかった[exclamation×2]どこがすごいとか、どこが良かったとか、うまく言えないのだが、とにかくすごかった。あれぐらいの年頃の男の子の難しさっていうのが、すごくストレートに伝わって、彼は決して特別な少年なのではない、ということがよくわかった。
この千葉に対して、最初は敵対する久保が、どんどん変わって行って、最後には、リアル親子のように、それ以上に心を通わせていく…作者が作りたかったのは、こんな物語だったのかな…と思いつつも、ぐっと胸に沁みた。
そして、こちらでは、ワンポイント出演のようなデレック役の楢原が、最後にビシッと決めてくれる。メリックとデレックは決して仲良しではない。デレックは、メリックの知らない過去のアランをよく知っているから、メリックとしては、イラつく存在なのだと思う。が、アランの死が過失によるものだったと、メリックは警察に信じさせなければならない。そのためには、まず、警官であるデレックに信じてもらわなければならない。
その緊迫した場面を、楢原がグッと支えた。
また、この時、メリックの悲しみが、久保の表情や態度から、ものすごくストレートに伝わったことも、特筆したい。
ちょっと忘れられない芝居空間だった。
両方でスベトラーナを演じた石飛は、セリフが多く、過密なスケジュールということもあって、けっこう噛み噛みだったのが気になったがパワフルでライフらしくて、ステキだった。実は、初演からずっとスベトラーナを演じてるとのこと。というか、この作品を見つけた時、倉田さんと一緒にいた…という「Happy Families」の最初からかかわっていた石飛だからこそ、のスベトラーナだったり、アドリブだったりしているんだろうな…と思った。


間をあけずに、劇団のレパートリーとしてしょっちゅう再演すべき作品だと思った。


nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。