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「徒然アルツハイマー」観劇 [┣演劇]

「徒然アルツハイマー」


脚本演出:小野健太郎(Jr.5)


舞台美術:池宮直美
音響プラン:島猛
照明プラン:横原由祐


音響オペレーター:芹澤悠
照明オペレーター:江口翔平
演出助手:本間健大
舞台セット協力:倉本徹
ドライバー:若林健吾


大道具:株式会社俳優座劇場
小道具:高津装飾美術


宣伝パンフレット撮影:大参久人
宣伝美術:藤尾勘太郎
パンフレットデザイン:宇佐見輝
パンフレット協力:田中俊裕
撮影協力:三浦未来


制作&キャスティング:奥田努
当日運営:高橋恵梨子


企画・製作:Jr.5


9月からずーっと、「まさに世界の終わり」を観続けていて、その一家の話を考え続けていたのだけど、千秋楽を前に、全然違う日本の家族「河内家」の物語を観て、すーっと、胸に落ちて来た思いがある。


日本人の私には、日本人の河内家の話の方が、しっくりと腹落ちする[exclamation×2]


ということで、フランス人の一家のことは、ちょっと棚上げして、河内家の話をしたいと思う。


Jr.5は、スタジオライフの5期生(2000年入団)メンバーを指す。現在もスタジオライフに所属しているのは、青木隆敏、奥田努、小野健太郎、姜暢雄の4名。そのJr.5が、退団者も含めてJr.5祭をやっていたのは知っていたが、いつの間にか、演劇企画集団になっていた。
いい作品作るよ~という評判を聞いていて、とうとう今回、7回目の本公演を観に行くこととなった。
残念ながら、今回の公演は、脚本演出の小野、代表の奥田以外のJr.5メンバーが参加していない…のだが、その代わりというか、12期生(2013年入団)で、退団した藤波瞬平が参加している。
劇場は、スタジオライフの本拠地、ウエストエンドスタジオ。ウエストエンドスタジオは、JR中野駅から10分程度歩くので、19時半開演というのもありがたい。2時間休憩なしという上演時間は、ほぼ「まさに世界の終わり」と同じだが、いつものウエストエンドスタジオに比べ、座席の置き方がうまいのか、それほどストレスを感じずに最後まで観ることができた。(たぶん、ライフは、もっと詰め込んでいる…)


ずっとJr.5を観ている友人によると、オノケン(脚本の小野健太郎の愛称)の脚本では、必ず河内家が出てくるという。もちろん、スタジオライフ前代表の故・河内喜一朗氏を念頭に置いてのことだ。
今回も、河内家の物語。
父・河内和男(中原和宏)には、3人の息子と1人の娘がいる。次男・正之(奥田努)と三男・正俊(藤波瞬平)は、同居していなくて、家には、長男・英男(佐藤幾優)と、まだ大学生の長女・恵(大内唯)が住んでいる。母親(山元由湖)は居なくて、回想シーンにだけ登場する。物語が進むにつれ、母親は、出て行ったことが分かってくる。
父は、どうやら認知症の症状が出て来たようで、必然的に英男が面倒を見ることになるわけだが、ヘルパーの清水さん(斎藤千晃)を父が気に入っていることもあるし、すぐ下の弟・正之にへそくりを渡してしまったこともあり、三男・正俊に借金を申し入れる。英男は、会社を辞めてアルバイト生活をしている四十代。正之は、離婚して子供の養育費を送る立場だが、兄にたかるような毎日。年上の奥さん(山村涼子)と共働きで子供のいない正俊が一番お金を持っているのは間違いない。が、正俊は、いい返事をしてくれない。
就職を控えていた恵は、ある日、一人の男性を連れてやってくる。恵宝一(真心)という名前のその男性と、恵は、バイト先で知り合い、交際しているらしい。この男性の名字が“恵”であることは、もちろん最初にみんな気づくのだが、やがて結婚したいという話になった時、一番真面目そうな正俊が、一番真面目にこのネタを切り出したのが、最高にツボだった。
ある日、やってきた一人の男性(本間健大/小野健太郎)を、父と英男が両方ともカン違いしていることから、英男もまた、若年性アルツハイマーにかかっていることが少しずつ客席にも伝わってくる。若い分、英男の進行の方が早い。そして、彼には、忘れたい過去(好きになった女性に付きまとって、会社をクビになった。舞台上、ずっと英男の周囲にいる女(熊谷弥香)は、彼女の幻ということらしい)がある。
「渡る世間…」なみのドロドロした家族会議に、さらにドロドロを凝縮させるように、母親が登場する場面など、展開がエグい。でも、すべて、あるある、な話だ。きょうだいにお金を貸さないリッチな三男夫婦が、不妊治療にお金をつぎ込んでいるらしいことも、さりげなく描かれる。
壁面には、何をすればいいか忘れた時のために、さまざまなことが、張り紙になっている。アルツハイマーの初期あるある、である。それを英男の求めによって家族が剥がしていくラストシーン。剥がすごとに、記憶がなくなっていく…という切ないシーンだった。


どうしても「まさに世界の終わり」を忘れることはできなくて、英男の記憶がなくなっていくのは、ルイが死んでいくのと同じことだな…と思ってみたりした。
父親が、長男の英男を、四十過ぎて、親の家に住んで、バイト生活など情けない…と、吐き捨てるところに、「まさに…」と同じ、家父長というレッテルの暗部を感じた。そして、一度の過ちで、人生の行末がほぼ閉ざされてしまう社会の生きづらさ…とか、同じきょうだいでありながら、子供がいるのに離婚を選んだ次男と、Wインカムの収入のほとんどを不妊治療につぎ込んでしまう三男の対比とか、家族というものに込められた様々な情景が、盛り込みすぎと感じさせることなく、普通に飛び込んでくる。
借金を平然と断る正俊の姿に、そっか、正俊にとっては、生まれた家族と、自分が選び取った家族と、二つの家族があって、彼は、自分が選んで作った家族を優先するんだ、家族ってそういうふうにして繋がっていくんだよね…と、当たり前のことにハッとしたり。
でも、ダメ男のように見えた次男の正之は、ずっと出て行った母親と連絡を取り合っていて、お金の工面もしていた。自分の家族を壊してしまった正之だからこそ、自分を育んでくれた家族への愛を大切にしているのか…と思ったり。
最後の一枚の張り紙。それは幻の女が、英男の求めによって剥がすのだが、彼女がつま先立ちになって手を伸ばして、ギリギリ剥がせる位置にその紙が貼られていて、そのピンと伸ばした体のラインと、剥がされた紙に痛みを感じ、そして、貼られ方の絶妙さに、あらためて感動した。


久しぶりに、これぞ!という演劇の楽しみ方ができた。それはとても清々しい時間だった。


そういえば、役者感想を書いていなかった。
小野脚本は、基本、アテガキなのだそうだ。役者がこの役をどう料理したか…的な印象がなく、「その人」を見たという感じなので、役者感想というところに思いが行かなかった。←褒めてます。
一言だけ書くとしたら、各キャラクターの声がとても印象的だった。父親のシブくて強い声、長男の柔らかい声…幻の女が歌うラジオ体操の歌…これがラジオドラマでも、場面が的確に想像できるだろうな…と思える舞台。ステキな役者陣でした[黒ハート]


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