SSブログ

JUN企画「言葉の奥ゆき 通」 [┣Studio Life]

「言葉の奥ゆき 通(アゲイン)~夏休みの宿題~」


演出:倉田淳
舞台監督・美術・照明:倉本徹
音楽協力:竹下亮(OFFICE my on)
音響オペレーター:宮本紗也加
制作:Studio Life


昨年上演された「言葉の奥ゆき」のパート2。
前回は、小説の朗読については太宰治が中心だったが、今回は、かなりバラエティに富んでいる。


笠原浩夫「ジュール伯父さん」(モーパッサン)
山本芳樹「死後の恋」(夢野久作)
曽世海司「夢十夜」より抜粋(夏目漱石)
岩崎大「一房の葡萄」(有島武郎)
牧島進一「沼のほとり」(豊島与志雄)
関戸博一「マドモワゼル・ペルル」(モーパッサン)
松本慎也「白」(芥川龍之介)
仲原裕之「シモンのパパ」(モーパッサン)
宇佐見輝「並木」(川端康成)
千葉健玖「荒野の王子さま」(O・ヘンリー)


今回、一番多いのはモーパッサン作品。
もちろん、フランス語で朗読されるわけではなく、翻訳されたものが朗読されるわけで…JUN企画が新たな境地に進むんだな~と、期待しての観劇となった。


私が観劇した時のラインアップは、下記の通り。


朗読:関戸博一「マドモワゼル・ペルル」
朗読:曽世海司「夢十夜」
詩:吉成奨人「初恋」(島崎藤村)
詩:前木健太郎「人に」(高村光太郎)


まあ、つまり千秋楽ですよ(笑)
JUN企画の初日を観て、翌日からムラに行き、帰った翌日に千秋楽を観る…という、そんな強硬スケジュール。でも、行けてよかった[黒ハート]


まず、この日が初日(にして千秋楽の)関戸「マドモワゼル・ペルル」。
モーパッサンらしい地の文の流れに、すぐに引き込まれた。この作品は詠んだことがなかったので、この先どうなるのだろう…とワクワクしながら…そして、ちょっと待った、まさか、そのオチ[exclamation&question] てか、語り手、それは、どうなん[exclamation&question]罪の意識なさすぎ[exclamation×2]と、驚愕の展開になっていくのだが、もっと驚愕だったのが、朗読終了後の倉田さんの発言
「この作品を選んだのは、語り手に共感したから。あら、私に似てる…って」
えーと、えーと、スタジオライフの俳優の皆さん…心から同情申し上げます…[爆弾][爆弾]てか、この人と連れ添った河内さん、あなたは神だ[exclamation]


語り手は、ガストンという25歳の青年。
彼は、父の友人であったシャンタル氏(56歳)の家に、年に一度1月6日の公現祭(十二夜)の日に食事に招かれている。その日、招かれるのは彼一人で、シャンタル氏夫妻と二人の年頃の娘、そしてシャンタル家の家事を取り仕切るマドモワゼル・ペルルと一緒に食事をする。
公現祭の恒例行事として、ケーキの中に陶器の人形が仕込まれ、そのケーキが当たった者が「王様」となって女王様を選ぶという遊びがある。いつもはシャンタル氏が当たって、夫人を女王に選ぶのだが、今年は、ガストンが当たってしまった。
二人の娘のどちらかを選ぶのは、夫妻の思惑を勘ぐってしまいそうだったので、ガストンは、当たり障りのないマドモワゼル・ペルルを女王に選んだ。
そしてその時、初めて彼女の顔をまざまざと見て、彼女がそれほど年老いてはいないこと、そして実はとても美しいことに気づく。
その夜、ガストンはシャンタル氏に、マドモワゼル・ペルルが何者か、初めて尋ねる。彼女は、40年前、シャンタル氏が少年の頃、この家の近くに捨てられていた赤ん坊だった。おそらく、貴族の落としだねだったのだろう、けっこうなお金も一緒に包まれていた。
シャンタル氏の両親は、そのお金が将来の持参金となるように手を付けず、家族の一員として育て上げた。美しく成長した彼女は、真珠(ペルル)の愛称で呼ばれていたが、いくつもあった求婚をすべて断り、やがて、結婚したシャンタル氏のもとで家政婦のようなことをしてこんにちに至ったという。
シャンタル氏の話を聞いたガストンは、彼がマドモワゼル・ペルルを愛していたのではないか、と指摘する。すると、シャンタル氏は、激しく泣きだした。
ガストンはさらに、マドモワゼル・ペルルにも、シャンタル氏を愛していたのではないか、と問いただし、シャンタル氏の気持ちを伝えると、彼女は失神してしまった。
驚いて、シャンタル家を辞去したガストンだったが、二人の若き日の言い出せなかった思いを、老年になった彼らに知らせることで、彼らの心が慰められるのなら…と、だんだん良いことをしたような気持ちになって、満足したのだった。


え…もしもーし[exclamation&question][爆弾][爆弾][爆弾]


という、この衝撃のラストシーン…[あせあせ(飛び散る汗)]


朗読の後のトークショーの中で、せきどっちが語っていたのだが、この小説を書いた時、モーパッサンは36歳、そして、43歳で彼は没してしまう。つまり、シャンタル氏の心境もマドモワゼル・ペルルの心境もわからない状態でこれを書き、シャンタル氏の心境を知らないまま亡くなったことになる。
まだ、生殺しだよ、その年齢じゃ…こんなこと聞かされて…ということを知らずにこれを書いたモーパッサンの非情と、それを知る年齢の倉田さんが、語り手の青年に共感したことに、ただもう、驚愕したのだが、でも、それを置いておいても、関戸の朗読は素晴らしかった。
まさに情景が立ち上がってくるような語り。
この作品、朗読するには、けっこう難しい設定となっている。
語り手のガストンは、単なる傍観者ではない。最後に能動的に動いて読者をハッとさせるキャラクターだ。そして、メインの物語は、シャンタル氏の語り部分になる。つまり、語り手は、ガストンとシャンタル氏の二重構造になっているのだ。その上、モーパッサンの地の文での描写はけっこう細かい。
そのひとつひとつが、映像のように立ち上がる…そんな語りを関戸はしてくれた。
たった一日の朗読のために、どれほどの下準備をしてきたのだろうか。
あらためて関戸博一という俳優の唯一無二の誠実で確かな演技に、これからもずっと応援したい[exclamation]と、思いを新たにした。


続いて、曽世「夢十夜」。
掌編だが十もあつまるとけっこうな時間になるので、十のうち半分、ナンバリングが奇数のものだけをピックアップしての朗読となった。
で…実は個人的に漱石は苦手だったりする。
「坊っちゃん」など一部の作品を除いて、何度読んでも言葉が脳に落ちてこない。
言葉の持つリズムは心地よいのに、どうしても意味を理解するのに時間がかかる。…で、それは朗読でも同じで、大意は分かるのだが、詳細を理解できないので情景が浮かばない。それは、曽世のせいではなくて、まったく私と漱石の相性のせいだと思う。
そして、曽世はとても声がステキだ。
結果…すみません、本当に、すみません[もうやだ~(悲しい顔)][もうやだ~(悲しい顔)][もうやだ~(悲しい顔)][もうやだ~(悲しい顔)][もうやだ~(悲しい顔)]


トークショーで、曽世さんが「目を閉じて聞いてくださっていた方が多く…」とおっしゃったときは、本気で帰ろうかと思った。
機会があったら偶数夜をやりたい…という話があったので、その時は、先に「夢十夜」を読破して、意味をしっかりと理解した上で臨みたいと思った。


詩は吉成くんの「初恋」(まだ上げ初めし黒髪の…)と、前木くんの「人に」(いやなんです、あなたが行ってしまうのが…)。どちらも有名な詩。
吉成くんの「初恋」はとても短い。そして、ちょっと文語調。これは難しい。短い詩を全身全霊で届けようとしてくれたようで、ちょっと重かったかも。若いからね。
前木くんの「人に」は、少し長いし、口語体なので、思いのたけをいい感じで乗せやすかったかな。でも、フレッシュ卒業したばかりとは思えないよい朗読だった。しかし、この「人に」という詩は、初めて読んだ時は「女々しい」と思ったけど、ここまで赤裸々に思いを吐露する、それでいて詩になっているというのは、素晴らしいな…とあらためて感じた。高村光太郎の愛ってすごい[黒ハート][黒ハート]
今、再び、聴かせてもらえた幸せに感謝したい。


nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:演劇

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。