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「TERROR」観劇 [┣演劇]

「TERROR(テロ)」


作:フェルディナンド・フォン・シーラッハ
翻訳:酒寄進一
演出:森新太郎


美術:堀尾幸男
照明:佐藤啓
音響:高橋巌
衣裳:西原梨恵
ヘアメイク:中原雅子
演出助手:須藤黄英
舞台監督:林和宏


宣伝美術:東學
宣伝写真:渞忠之
宣伝写真衣裳:松竹衣裳
著作権代理:Meike Marx
プロデューサー:栗原喜美子、尾形真由美
制作:滝口久美
東京公演製作:井上肇(パルコ)
企画:兵庫県立芸術文化センター
共同製作:パルコ、兵庫県立芸術文化センター


以前、橋爪功の朗読で観た「TERROR」が舞台作品として再登場した。
前回の感想はこちら


ストーリーは、上記に記載しているので、割愛。
朗読公演の時、自分が観た回は有罪だったけど、ほかの回はどうなんだろう[exclamation&question]とずっと思っていたが、実は、その時は、全公演「有罪」だったそうだ。私自身は有罪票を投じたが、そっか…全日程か…。
この作品、結果は2パターンあるといっても、裁判の過程や出演者のセリフが変わるわけではない。幕が降り、票を数えた後に判決を言い渡す裁判官(堀部圭亮)だけが、有罪と無罪、双方の台詞を覚えなければならない。もし、全公演有罪だったら、無罪のための台詞は日の目を見ない。朗読劇の全公演有罪を聞いて、堀部さんはどう思いながら、台詞を覚えたのだろうか。
とはいえ、どうやら、今回は、私が観た日までに、双方(有罪・無罪)初日が出ていたらしい。
堀部さんのために、「よかった」と思った。


そして、なぜ、同じ脚本なのに、今回「無罪」が出たのかな、と考えたのだが、やはり、被告役が存在することが大きいと思う。
被告のコッホ少佐は、松下洸平が演じている。私も好きな俳優だし(すみません、俳優として以外のキャリアを知りません)、ファンも多数観に来ていると思うので、「洸平くんを有罪になんてできない[exclamation]」という理由で無罪に投じた人は一定数いたと思う。
私も、実は、迷っていた。公演を観るまでは。
でも、観ている間に、やはり、検察の追及に同意してしまう部分が多かった。


観劇前にストーリーを聞いただけでは、検察側が、「被告が164人の無辜の乗客を殺害した」と、我々参審員(観客)の情に訴えるのかな、と思っている人が多いだろう。普通の裁判劇では、検察側が事件の悲劇性を陪審員の情に訴えて、有罪を引き出すことがパターン化しているからだ。しかし、この作品はその反対で、検察側は、「事実として」撃墜以外に対処の方法がなかったのか、ということを徹底的に問いただしていく。
むしろ被告人サイドの証人(被告人を含め)の方が、9.11以降、一連のテロ事件に対抗するために法整備された「航空安全法」の中の「テロ対抗手段として、軍は航空機の撃墜を行うことができる」という部分が、憲法審査会で違憲とされた判決に批判的で、テロに屈していいのか、と情に訴えてくる。


橋爪功は弁護士ビーグラーに専念。
被告席に座るコッホ少佐(松下)のために、全力を尽くしている。ビーグラー自身は、テロ防止のために、国家権力が何をしてもいい、という考え方ではないと思うが、その一方で、成立してしまっている航空安全法の一部が、憲法違反の判決を受けて、宙ぶらりんになってしまっている今、正しい判決をすること自体の矛盾も強く感じているのだと思う。


橋爪は、もはやビーグラー本人にしか見えない。
乗客の未亡人を演じた前田亜季の一人民間人っぽい…というか、我々普通の市井の人間っぽさが、逆に浮いている違和感が印象的。出番は限定的だが、鮮烈な印象を残した。
コッホの上官を演じた今井朋彦は、軍人らしいきっちりとした雰囲気が印象に残ったし、松下は、すべてをこちらに委ねるようなニュートラルな雰囲気。既になにかを覚悟しているようで、発言にもよどみがない。しかし、旅客機にあなたのご家族が乗っていたら[exclamation&question]と聞かれた時だけ、空気が動いた。コッホさん、素直ないい人なんだな…と感じた。終身刑にしてしまってごめんなさい。
堀部の裁判長は、滔々と判決理由を語り、存在感を示した。無罪判決も聞いてみたかった。(無罪に投票する気ないくせに…)
しかし、本公演のMVPは、なんといっても、軍を上げての確信犯的行為を、知的に糾弾した検事役の神野三鈴だと思う。2年前の朗読劇の時は、夫君の小曽根真が橋爪の朗読を見事なピアノ演奏で盛り上げていたが、今度は、神野がやってくれた。法の正義を求める姿勢の神々しさに、女神かと思った。


とにもかくにも、判決を下す一員として、しっかり裁判に参加でき、自分にとっての正義についてあらためて考えることができた貴重な機会だった。


火の鳥.jpg


新宿タカシマヤタイムズスクエアのデッキには、今年生誕90周年となる手塚治虫先生を記念して、火の鳥のモニュメントが[exclamation]


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