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宝塚歌劇月組東京公演「All for One」観劇 [┣宝塚観劇]

三井住友VISAカードシアター
浪漫活劇(アクション・ロマネスク)
「All for One~ダルタニアンと太陽王~」


脚本・演出:小池修一郎
作曲・編曲:太田健
編曲:鞍富真一、大貫祐一郎
音楽指揮:西野淳
振付:御織ゆみ乃、若央りさ、桜木涼介、KAORIalive、鈴懸三由岐
擬闘:栗原直樹、浅井星光、新美智士
装置:大橋泰弘
衣装:有村淳
照明:勝柴次朗
音響:大坪正仁
サウンドプログラマー:上田秀夫
小道具:市川ふみ
映像:奥秀太郎
歌唱指導:飯田純子、山口正義
演出助手:谷貴矢、指田珠子
装置補:國包洋子、稲生英介
衣装補:加藤真美
舞台進行:片桐喜芳


2011年に「仮面の男」というトンデモ作品があった。その「仮面の男」のベースになったのが、デュマのダルタニアンシリーズ。その中の「ブラジュロンヌ子爵」という、元祖三銃士の物語から30年後を舞台にした小説に、“鉄仮面伝説”の物語がある。ここに、ルイ14世の双子のきょうだいだったり、ルイ14世の寵姫ルイーズだったり、その後の老三銃士だったりが出てくる。
なんだけど…これをもとにした「仮面の男」は、悪ノリのしすぎ…というか、とにかく大劇場公演は観るに堪えなかった。時期的にも、東日本大震災の年ということもあり、観客側が悪ノリを拒否していた部分もあったかな。今にして思うと。で、その公演は、悪ノリ部分を修正して東京公演を行い、今、映像等で確認できるのは、その東京公演のものなのだが、そうなってみると、超駄作[爆弾]こんなにつまらない芝居もめったにない、というものになってしまった。
作・演出を担当した児玉明子先生は、その後、挽回の機会を与えられることなく、翌年退団した。


今回、「All for One」を観劇して、一番最初に思い出したのは、この「仮面の男」のことだった。 「ブラジュロンヌ子爵」をドラマ化するなら、こうしなくちゃダメなんだ、という、小池先生からの「6年後の解答編」を見せられたような気分。
あの時、もやもやしていた観客としては、正解を見せられてうなった[ぴかぴか(新しい)]
小池先生、すごい[ひらめき]
そうだよ、宝塚の二枚目スターをわざわざくたびれたオッサンとして出す必要があるだろうか[ちっ(怒った顔)]
単独で「仮面の男」部分だけを使うのであれば、三銃士もダルタニアンも現役で構わない。こんな簡単なことだったんだ、と目からウロコだった。かっこいい若き三銃士のまっつが観たかったよ… [バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)](原作では「息子」となっているラウルが「弟」だったんだから、若くしたっていいじゃんねー)


閑話休題。プロローグは、銃士隊面々勢ぞろいの歌とダンスから。 ここで、センターにセリ上がる銃士。トップスター登場、かと思ったら、美弥るりかアラミスだった[exclamation×2]
実は、三分割できる中セリの真ん中が先に上がってきただけで、その後、サイドの宇月颯アトス、暁千星ポルトスもすぐにセリ上がり、最後に、センターの小セリからダルタニアン=珠城りょうがセリ上がってくる。
まず、この見事な構成に息を飲んだ。
「三銃士」の視覚化として、これほど完璧なシーンがほかにあるだろうか。
そして、この「一瞬だけどセンターでセリ上がる」場面を美弥に与えてくれる小池先生の愛情が、またニクい。宝塚では、トップスターを中心とするピラミッドが確立していて、その中で時折、“上級生2番手”というものが誕生することがある。最近だと、花組・真飛聖時代の大空祐飛(現・ゆうひ)がそうだった。
ゆうひさんが花組時代、出合った小池作品が「太王四神記」。
この作品は、プロローグが縁起譚になっていたため、ショーシーンはフィナーレだけだったが、劇中の合戦の陣形や、フィナーレの男役群舞等で、通常の2番手以上の厚遇をしてもらったことを覚えている。
それが、小池先生なりの思いやりだったのか、既に動き始めていた大空トップを見据えてのことだったのか、私にはわからないが、何も知らないあの当時の私は、「小池先生、ありがたや~」と思っていた。今回、それと同じ感情が湧きあがってきて、最初からめっちゃテンションの上がるプロローグとなった。
そこからすぐに本編となり、ダルタニアンが国王ルイ14世の剣術指南役に任じられた、という話になる。本人の知らないことが周囲の銃士たちに知れ渡っていることが不思議だとは思うものの、そういう重箱のスミをほじくるようなことは、この作品には不粋というものだろう。


次の場面は、その王宮。国王ルイ14世(愛希れいか)はバレエの稽古に余念がない。スペインから従妹のマリア・テレサ王女(海乃美月)がフランスを訪問するので、歓迎の宴用のバレエ・プログラムを作成中なのだ。周囲のバレリーナは、宰相マザラン枢機卿(一樹千尋)の姪たちで、イタリア出身のこの枢機卿は、自分の甥や姪で権力を固める意向を持っているらしい。
(枢機卿というのは、カトリックの僧職位階の最上位に当たる。つまり、彼自身は結婚し子を成すことは禁じられている。そこで、甥や姪が登場するのだろう。)
そんなところへダルタニアンがやってきて、王と手合わせをしたのだが、手が滑って王にケガをさせてしまう。これまでの師範は、適当なところで王に花を持たせていたようだが、ガスコンの田舎者であるダルタニアンにはそういう忖度はできない。王への忠誠心があるからこそ、強い王になってほしいという思いもあったのだろう。
そこでマザラン枢機卿は、国王の怒りを利用して、ダルタニアンの所属する銃士隊を解散させてしまう。
国王に直属する銃士隊はマザランには目の上のたんこぶであり、甥のベルナルド(月城かなと)が指揮する「護衛隊」の邪魔になる存在だったのだ。


一方、ルイ14世は、従妹であるマリア・テレサとの婚約話を聞き、これ以上自分を偽れない、と言い出す。男女の双子として生まれたルイ14世。縁起が悪いので女の子を捨てることになったが、とんだ手違いで男の子の方を捨ててしまった。そのため、ルイ14世は女の子でありながら、男の子の振りをして国王になってしまった。マザランに権力が集中したのも、そもそもは、この秘密を共有し、国王の母(憧花ゆりの)をよくサポートしたからだった。
しかし、女の子である国王が結婚し、子を成すことは不可能。どこまで嘘で固め続けるつもりなのか…と思い悩んだルイは、隠し持っていた女の子のドレスと鬘で夜の街へとさ迷い出る。
(この頃は、まだルイ14世最大の事業であるベルサイユ宮殿建設は行われていないので、国王はパリに住んでいた。)
そこで偶然、彼女は、ダルタニアンに再会する。が、ダルタニアンは、その女の子が国王とは気づかずに恋をしてしまう。


踏み込んできた護衛隊から逃れるため、手に手を取って酒場を脱出した二人。
そこで、もう一度会いたいから…と自己紹介を始めたダルタニアンだが、まさかルイは名乗るわけにもいかず、「ルイ…-ズ」と名乗り、送って行くと言うダルタニアンの言葉も断る。
あまりにもルイーズが逃げの一手なのに業を煮やしたダルタニアンは、壁ドンで彼女の行く手を阻むが、ルイーズは大声を出して助けを呼ぶので…以下省略。


この場面への感想は、あえて別記事でたっぷり書くことにして、瞠目したのは、珠城の包容力。
これがあるから、この場面が成立するのよね、ということは、力説しておきたい
と思います。
この時、ルイーズが首から下げていた黒い鷲のペンダントが落ち、ダルタニアンは、それを自分が持っていることに再会の期待を持つ…のだけど、このペンダントが実は、双子のきょうだいを捜すためのアイテムになっていて、ここで落としたことの意味がまったくないというのが、まあ、残念ポイントかな[爆弾]
ルイーズこと国王ルイ14世はペンダントを失くしたことに気がついたんだかどうだか、あまり、返してもらった時にもリアクションがないし、そこから改めてダルタニアンに貸与しているから、落としたこと自体には意味がない。
ここは、ダルタニアンがそれと知らずにペンダントを下げている間にジョルジュと出会い、同じペンダントを持っているということで意気投合した後に、ルイ(ルイーズ)から、このペンダントの意味を知らされ、それなら、心当たりがある[exclamation]私に任せて下さい[exclamation×2]という流れの方が、ルイーズに約束したジョルジュの捜索が一瞬で終わってしまう…という劇的効果の薄さを補えると思うのだが。


さて、護衛隊が踏み込んできた時に、マザランを誹謗して盛り上がっていたかどで、店は営業停止になり、銃士隊は解散の憂き目にあった。国王命令ということだが、もちろんルイーズは知らない。
失業した面々は、それぞれの動きをする。ここは文句なく面白い。
アトスは、10年前にクーデターに失敗して牢獄にいる王の従兄弟・ボーフォール公爵(光月るう)に会いに行く。
アラミスは、聖職者に戻り、モテモテの神父様として、悩める女性達の告解に忙しい。
ポルトスは、かつて銃士隊にいて、今は旅芝居の座長をしているビゴー(綾月せり)を頼って、アクション俳優に。その一座にジョルジュ(風間柚乃)という役者がいて、彼こそが20年前に捨てられた本物のルイ14世ということになっている。
この旅芝居の一座が町で公演の宣伝をしているところに、ルイ14世の見合い相手、スペイン王女マリア・テレサが通りかかり、一目でこの一座を気に入る。これが、最終的にルイ14世が恋愛結婚をすることになるだろう伏線となっている。
(史実と違っても、そこは、コメディらしく、すべてハッピーエンドになるためのお約束)


一度バラバラになった三銃士とダルタニアンが再び結束した時、マザランを排斥し、正しいルイ14世を即位させるための計画が生まれる。そして、それは、銃士隊VS護衛隊の最終決戦でもあった。 と、まあ、そんな物語。


話はご都合主義で、辻褄の合わないこともある。たとえば、10年前にクーデターへの関与を疑われ銃士隊を辞めたビゴーが、20年前に旅芝居の途中でジョルジュを拾ったとかね。
(まあ、その辺はいくらでも裏設定の補足が可能だろうが、作品を見ただけではちょっと理解できない。)
でも、小池先生がホームグラウンドである宝塚大劇場の装置を融合させて作るエンターテイメント世界の楽しさは、無限の広がりを見せ、歴史上の事実よりも物語の幸福感を優先させた作品作りと相俟って、なんともいえない爽やかな仕上がりとなっている。
さらに、主演の珠城をはじめとする、適材適所の配役によって、荒唐無稽なストーリーが三次元的に立ち上がり、月組の確かな演技力によって、アドリブなしでも、連日どっかんどっかんの笑いが起きていた。
まるで奇跡のような公演[ぴかぴか(新しい)]

今の宝塚で、こういう作品を観られるんだな~という幸せ感いっぱいの舞台だった。


そんな「All for One」成功の立役者は、やはり、なんといっても、実は女であるルイ14世を演じた愛希れいかだろう。元男役という経歴を生かし、ダンサーという特技を生かし、バレエ好きな国王・ルイ14世と、母に愛されたいだけの普通の娘・(仮称)ルイーズが、一人の人物として立体的に融合し、そのメインとなる部分が、ダルタニアンとの出会いによって、ルイ⇒ルイーズに変化していく様が自然に表現された。
いやー、まさに、円熟期の娘役芸、堪能しました[黒ハート]
そして、主演の珠城りょうとのコンビ力にも感動する。
愛希が自分の仕事を全うし、珠城は、さらに大きな包容力と魅力で彼女を見守る。
「主役の珠城さんは素敵、でも、一番の立役者は、ヒロインの愛希さんよね」なんて感想を持つ、私のような観客をも「そうですね」と許し、包み込んでくれる(だろう)ゆるぎないなにか、が珠城にはある。
それは、この若きトップスターの、自分自身への信頼の表れかもしれない。


そして、2番手として、もはや十分すぎる魅力を発揮している美弥るりか
「太王四神記」の時のゆうひさん(大空)を彷彿
とさせるものがあった。
オープニングのシーンで、最初にセリ上がる美弥の輝きが、トップスターのそれだと勘違いしてしまい、後から宇月がセリ上がって初めて、それが美弥だと気づいた。


期は熟した、そんな気がする。


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