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文芸喫茶シリーズ「それから」観劇 [┣演劇]

文劇喫茶
「それから」


原作:夏目漱石
脚本:田中洋子
演出:山田佳奈(ロ字ック)
舞台監督:今泉馨(P.P.P.)
舞台美術:岡田志乃
照明:川口丞(キングビスケット)
音響:鯨井拓実
衣装:伊藤摩美
ヘア&メイク:Emiy


夏目漱石の、いわゆる「三部作」の真ん中にあたる作品。
第一作の「三四郎」では、主人公の三四郎が、美禰子(みねこ)という美しい女性と知り合い、恋心を抱くが、結局、美禰子は、別の男性と結婚する。
第二作の「それから」では、主人公の代助が、友人の平岡と、その妻・三千代と再会するところから話が始まる。かつて、代助は三千代を愛し、三千代も代助を憎からず思っていたのに、代助は、平岡の思いを三千代に伝え、二人の橋渡しをしたのだった。それから、数年が経過し、子どもを亡くし、心臓を悪くした三千代と、仕事を辞めて生活が苦しくなった平岡の夫婦関係は破綻していた。
代助は、全てを捨てて三千代と新しい人生を進む決意をする…という話。
第三作の「門」は、友人の妻である御米(およね)を奪って結婚した宗助の「その後の人生」が描かれる。世捨て人のような宗助が、精神の救いを求める物語、とも言える。
という風に、この三作は、別々の登場人物を扱いながら、繋がっているような展開になっていることから、三部作と呼ばれているようだ。


今回の文劇喫茶というシリーズは、今回が第一弾とのことで、今後どのようなシリーズになっていくのか、わからない。
が、チラシによると、「夏目漱石×三人の役者という濃密な空間を提供する」というのが、ウリになっているようだ。


客席に座ると、まず、舞台セットに心を奪われる。
舞台上に円形の八百屋舞台を乗せ、そこに四角く畳が敷かれ、周囲の余った部分が床張りになっている。その奥がふすまになっていて、出ハケにも使われる。出ハケは、左右の袖も普通に使い、その付近は、舞台セットでもあり、公開している袖内のようでもある。小道具や衣装もここに置かれていたり。
すべてがアンバランスな配置で、それが代助の心情にリンクしているようで、引き込まれた。


出演者は三人プラス、日替わりゲスト。しかし、主な登場人物は、それより多い。
そのため、三千代役の帆風成海は、代助の父親を演じ、平岡役の今立進は、代助の兄・兄嫁を演じている。朗読劇ではない、普通の演劇なので、いくら帆風が、元男役で、台詞回しがかっこよくても、しっとりとした和服姿で仁王立ちされると違和感があるし、男性である今立の演じる兄嫁役は、どんなにシリアスな場面でも、ギャグでしかない。
また、日替わりゲストが演じる寺尾役は、セリフもなく、ほとんどフリーな状態で登場するようで、ここでシリアスなドラマが、すっかり分断される感じがあった。
そういう意味で、せっかく真面目な「ブンガク」の腰が折られるような気もした。あと、せめて二人役者を増やして…と、考えもしたが、この違和感こそが、文劇喫茶の醍醐味なのかもしれない。


主演の平野良は、5~6年ぶりに観たが、高等遊民(親の財産を減らさないために敢えて事業に手を出さず、文化的な生活をして過ごしている)らしい世間知らずな雰囲気を醸し出しつつ、そのやわらかい雰囲気のまま、役者として、膨大な台詞を繰り出し、ほとんど出ずっぱりで舞台を支え続ける。
(そのせいで、日替わりゲストへの対応が素に戻っている、というのはあるかもしれない) 
その真摯な姿勢に感動したし、代助という明治の男がピッタリと嵌まって素敵だった。


帆風成海は、綺麗で可愛くて、こんな三千代なら、結婚後も忘れられなかっただろう…と思えた。口跡の良さは宝塚時代そのままに、でも帆風以外誰も表現し得ない三千代像を構築していて、それがとても魅力的だった。
突然、憑依したように代助の父親になるのが、すごいっちゃーすごいんだけど、やっぱりないわー[爆弾]と思う。(三千代さんの姿のまま仁王立ちだし[爆弾]でも、男役してくれるのは嬉しかったりする、複雑なファン心理。でもね、男役時代も好きだったけど、女優・帆風成海は、好き過ぎて困ってしまう…。
あの間、あの声のトーン…あー、そうきたか、あー、そうなるんだ…と、公演中ずっと身もだえていた[あせあせ(飛び散る汗)]


恋敵から兄嫁役まで幅広く変身していた今立進(エレキコミック)。
兄嫁ではしっかりと笑いを取っていたが、最後、代助の告白を受けた平岡の心からの叫びが見事だった。ぜんぶ、平岡が正しいよね…もちろん、色々あった結婚生活だったからこそ、代助が入り込む隙が生まれたということなんだけど。素晴らしい対決シーンだった。途中いろいろあったけど、このシーンがあったからこそ、気分よく劇場を出られたのだと思う。


次のシリーズも期待している。


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