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「エッグ・スタンド」観劇 [┣Studio Life]

「エッグ・スタンド」

原作:萩尾望都
脚本・演出:倉田淳

美術:乗峯雅寛
舞台監督:倉本徹
照明オペレーター:石坂晶子(SLS)
音響:竹下亮(OFFICE my on)
衣裳:竹内陽子
衣装協力:森山朋子
ヘアメイク:川村和枝(p.bird)、望月香織
振付:YOSHINORI
大道具:俳優座劇場
小道具:高津装飾美術
演出助手:宮本紗也伽
宣伝美術:近田火日輝(fireworks.vc)
スチール撮影:山口真由子

デスク:武井啓子、宮崎千琴
制作:大野純也、八木澤元気、武内奈緒
制作協力:東容子、小泉裕子、馬場妙子
『エッグ・スタンド』サポートチーム:関戸博一、牧島進一
協力:小学館・城章子、中川佳子、長尾竜之

1月はイベントだったから、今年初めて観るスタジオライフの芝居。
なんだろう、ライフは今、すごく変化している気がする。
この「エッグ・スタンド」の上演許可は、「メッシュ」上演時に取り付けているという。10年前だ。
その頃、今より10歳若い山本芳樹曽世海司が演じた「メッシュ」は、ありえないシロモノだった。私的に。
今回は、笠原浩夫が26歳に、久保優二が17歳に、そして山本芳樹が14歳位にちゃんと見えた。いや、見えたんじゃない。修正したのだ、私の脳が。山本の役が少年というのは、服装とヘアスタイルから想像できたので、まず「少年」と思いながら観た。そしたら、少年にしか見えなくなった。笠原久保は、劇中で役の年齢を公表するので、その瞬間に想像していた年齢から修正した。と言っても3~4歳若くしただけだ。
思えば、「Daisy Pulls It Off」の時、笠原デイジーの姿に違和感なく感情移入できたのも、作品が入れ子構造だったからではなく、私の脳に変化が起きていたからだったのかもしれない。こんなにたやすく脳内補正ができるようになったのは、「トーマの心臓」で笠原たちが臆面もなくシュロッターベッツの制服を着てくれたおかげ…[exclamation&question]
少なくとも、「メッシュ」を観劇した10年前までは、イケメン俳優が漫画などの耽美世界を再現する劇団、という認識があった。だから、ちっともメッシュじゃない、ミロンじゃない役者たちを残念に思った。
でも、この10年の間に、世の中、イケメン役者だらけになって、歌って踊れる2.5次元俳優が漫画やゲーム原作の舞台をガンガンやっている。ライフはもはやビジュアル売りの劇団とは言い難いという現実もある。
そんな中、もともと女性役も男優が演じているという特色をさらに生かし、性別と同時に年齢も超越するようになった…のかも。もう、彼らの実年齢と配役には何の関係性もない、というところまで突き詰めたら、それはそれで、私の脳が勝手にそれを受け入れるようになった。歌舞伎を観る時のように。
藤十郎さんが19歳といったら19歳なんだからっ!ってやつ。
(人間国宝と一緒にしてるイタいファン)

さて、「エッグ・スタンド」は、占領下のパリという極限状態の中、偶然出会った3人の短い期間の物語だ。若干推理要素も含まれている。(以下、キャストは、RougeNoirの順に記載)
ある冬の朝、公園で一人の男が殺されているのが発見される。死体処理の間、ずっとそれを眺めている少年(山本芳樹/松本慎也)。偶然通りかかったルイーズ(久保優二/曽世海司)が少年にパンをやると、そのまま付いてくる。行くところがなさそうなので、ルイーズは彼をアパートに住まわせることにする。少年は、ラウルと名乗った。ルイーズは、キャバレー“花うさぎ”で働いている。ラウルは、どうやら男娼で稼いでいるらしい。が、生きて行くことが大事、とルイーズは気にしない。店にラウルが現れたので、ルイーズはラウルを弟だと周囲に紹介する。その夜、事件があり、停電の中、二人はマルシャン(笠原浩夫/岩崎大)に出会う。彼は、ルイーズに自由フランス(ナチス政権の庇護下に入った政権を認めず、ドゴール将軍のもと、レジスタンス活動をしている人々)の地下出版本を渡す。
ルイーズは、ドイツからやってきたユダヤ人の娘で、不法入国者のリストに載っている。ラウルはリストからルイーズを除外したいと願い、マルシャンは一斉摘発の前にルイーズを国外に逃がしたいと思う。そして、マルシャンは、一連の殺人事件がラウルの仕業だと疑っていた。
しかし、ルイーズは早まった摘発を逃れようとして屋根から転落し、ラウルを撃ってその命で罪を清算させたマルシャンは、解放を前に一人になった。しかも、そもそもロンドンの空襲で彼は妻子を失っているんだよね、切ない[もうやだ~(悲しい顔)]

で、この舞台「エッグ・スタンド」は、そういう占領下のパリをスケッチすることで、“戦争にはひとつもいいことなんてない”というメッセージが伝わればいい、という作りになっていると思う。
「PHANTOM」だったら、“彼”の物語を丹念に描くことで、他の誰でもないエリックという個人の人生を知ってほしい、という作りになるわけだが、「エッグ・スタンド」のマルシャンやルイーズの後ろには、多くのマルシャンやルイーズがいて、少しはラウルもいたかもしれない。そんな多くのマルシャンやルイーズの哀しみの果てに、パリは解放された。だから、三人の登場人物は、ある意味、記号的な存在でいいんじゃないか、そういう時、ライフ役者たちの本来のキャラクターは無視できるのではないか、素材として台詞を伝える存在、それなら劇団のスターを配置した方がいい…そういう割り切りが、私に歌舞伎的な視聴感覚をもたらしたのではないかしらん。
あくまで、私の感覚では、この公演は、違和感なく観劇することができた。今、「メッシュ」を上演して同じ感想になるかは、わからない。(そういえば、私、原作を読んだ記憶がなかった。時期的に読んでいるハズなのだが…。そういうことも影響してるかも[exclamation&question]

では、出演者感想
<マルシャン>
26歳。自由フランスのレジスタンス活動家。ロンドンの空襲で妻子を失った。
笠原浩夫…占領下のパリで、それでも人の心を失わずに生きている青年をまっすぐに演じている。彼が26歳と言ったら、26歳という言葉は嘘ではなくなる。ラストシーンの冬の情景が絵のようだった。
岩崎大…少し芝居しすぎ、というか感情入りすぎだったかな、と思う。それが邪魔に感じたし、彼を26歳から遠ざけていた。一夜を過ごした後、手紙を残していなくなるのが、「逃げた」としか思えないのは、なぜなんだろう[exclamation&question]その一方、裏側で演じたガウン姿のSSの男が素敵過ぎた。胸元はだけてるのがいやらしくて…[るんるん]

<ルイーズ>
17歳。ユダヤ系ドイツ人。不法入国したパリで、キャバレー花うさぎのウェイトレスをしている。
久保優二薄倖の美少女。衣装がどれも良く似合っている。ラストに至るまでのさまざまなエピソードが、久保を見て書かれたんじゃないかと思うくらい、すべて嵌まっている。可愛かったー[ハートたち(複数ハート)]
曽世海司…演じきれるとは到底思えなかったが、嵌まっていた。透明感があって魅力的。メインで着ている衣装も久保と同じものだが違和感ない着こなし。でも花うさぎの衣装と、ガウン姿は微妙だったかも。裏側で演じた未亡人が美しすぎた。

<ラウル>
14歳くらい。母親に溺愛されたことで、歯車が狂ってしまい、それを利用された。マルシャンが引導を渡してやる。
山本芳樹…無理だろう、と思っていたら、これが激嵌まり。劇団の誇るスターとして、しっかりと役割を果たしていた。小柄なことも幸いしていたかな。世間的な感覚と自分の感覚の間のズレを「わかんない」と悩んでいる姿が、激カワでした[るんるん]
松本慎也…松本の定番の少年、って感じ。可愛いよ、可愛いって知ってるだろー、お前…という感じで、少々苛立つ。それゆえに、あえて、松本を配役しなくてもよかったかもしれない。裏側で演じた花うさぎのボーイがイケメンすぎた。

その他の出演者は、まず、船戸慎士が怪演。萩尾作品によく登場する色気のある悪役っぽさがたまらない。
藤原啓児もロゴスキー役でラウルの身体に触れるシーンなど、なかなかの味があった。
そして、なんといっても、今回の敢闘賞は、花うさぎのダンサー陣(宇佐見輝・澤井俊樹・田中俊裕・吉成奨人)。キュートで、可憐で、目がいくつあっても足りない。美人じゃないけど可愛い女子の若林健吾が女将にシフトせざるを得ないほど、見事にAKBだ。センターはもちろん、宇佐見アイドルとしての何かを既に身につけている気がする。
宇佐見は、回想シーンに登場するラウルの母親も好演だった。
ジロ役の仲原裕之、バスク爺さん約役の奥田努は手堅い。ハンス役の千葉健玖は、ルイーズに袖にされて拗ねる姿が可愛かった。

世界がどんどんきな臭くなってきた昨今、この作品は、繰り返し上演する価値のある舞台だったと思う。多くの方に観てほしい。
3月24日から大阪公演が始まります。


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