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宝塚歌劇花組神奈川公演「For the People」観劇 [┣宝塚観劇]

ミュージカル
「For the People―リンカーン 自由を求めた男―」
 

作・演出:原田諒
作曲・編曲:玉麻尚一
振付:麻咲梨乃、AYAKO
装置:松井るみ
衣装:有村淳
照明:勝柴次朗
音響:大坪正仁
小道具:下農直幸
歌唱指導:山口正義
衣装補:加藤真美
舞台進行:表原渉

セットは木の階段と、事務所の内部にも使えてお立ち台にもなるボックス(大劇場だったら大セリを使うんだろうな…)を組み合わせている。木の階段は自在に動かせるようで、なかなか汎用性があり、これまでの松井氏お得意の、どーんと重たいセットに比べるとずっといい感じ。

さて、南北戦争時代のアメリカといえば、40年近くの間、宝塚といえば、「風と共に去りぬ」=南部側から見て来た。言ってみれば、リンカーンは敵[exclamation×2]そんなリンカーンにスポットを当てたというのは、とても面白い目の付け所だったな、と思う。しかも、さん主演ですからね。さんといえば、レット・バトラー歴20年超の大ベテランなのに。
そして、今、アメリカで、ちょうど大統領選の予備選挙が行われていて、共和党がすごいことになっているので、タイミングもよかったかな…と思う。(共和党初の大統領、リンカーンさんの政策と、現在の某候補の主張に共通点があるとは思えないですが。)

さて、リンカーンが大統領当時、まだアメリカにはフロンティアが残っていた。(フロンティアの消滅は1880年。)
フロンティアとは、1平方マイルに定住者が2~6人の地域と定義されており、開拓地と未開拓地(誰も住んでいない)の境界ゾーンなんだそうです。このフロンティアラインを広げることが「マニフェスト・デスティニー」(明白な天命)であるというスローガンを掲げ、西漸運動(西へ、西へ)が広がっていった。それがリンカーンの生きた時代。
これを後押しするように、リンカーン在任中の1862年に、西部の未開拓地160エーカー(65ヘクタール)を5年間農地として開墾した者に無料で払い下げるという【ホームステッド法】が施行される。アメリカ版墾田永年私財の法ですね。(ちなみに、その20年前に、もう少し控えめな法があって、そこから色々取っ払って作られたのがホームステッド法というのも、三世一身の法⇒墾田永年私財の法と同じ流れなんです[ひらめき]
開拓の初期には、移動しながら牛を放牧して育てるカウボーイたちが広大な土地と、そこに勝手に育つ草を全部自分のものとしてのんびりと暮らしていたのだが、国策として「広大な土地を農地として開墾する」ことが決まった。これは、とりもなおさず、広大な土地を開墾できるだけの財力のある農場主を許容することでもある。
そして、広大な農地を手に入れた地主たちは、自分ひとりで土地を耕し、作物を収穫することはできないので、安価な奴隷市場に手を出す可能性が高い。
アメリカの天命は、リンカーンが「悪」とみなす奴隷制度を支えることになりかねない。ホームステッド法とすべての州における奴隷廃止の法案が成立したのが、ともに1862年というのには、意味があるな~[ひらめき]と思う。

本作のリンカーン(轟悠)は、人間が人間を売り買いする奴隷制度に対して、最初から非常に断固たる立場を貫く人物として描かれている。これに対して、現実論者というか、奴隷制度を採用するかどうかは、合衆国に参加する州が独自に決めればいいのでは[exclamation&question]という、「カンザス・ネブラスカ法」を通していくのが、政敵である、スティーブン・ダグラス(瀬戸かずや)。スティーブンは、恋敵という設定にもなっている。
このスティーブンが、アメリカ合衆国の危機に際して、リンカーンに協力するところが、本作の見どころのひとつ。というか、瀬戸の見どころのひとつ、と言うべきか。今回は、まぎれもなくおいしい役をしっかりと自分のものにして、強い印象を残した。
歌を一曲歌って、そのまま死ぬっていうのが、おいしすぎるやろ~[るんるん]ま、いくら病気でも、そこで死んじゃう[exclamation&question]とは思うが、瀬戸は、その死に方を変に見せず、かっこよく見せることに成功していた。

親はスティーブンとの結婚を望んでいたが、パーティーで知り合ったリンカーンが、黒人のメイドを一人の女性として遇した姿に感動し、積極的に迫っていき、結婚するメアリー(仙名彩世)。そもそも、そういう激しさを持っているキャラなので、芝居のヒロインとしては、なんつーか、きりちゃん@真田丸みたいでした。
それも残念だったけど、リンカーンと会う場面で、汚れたチーフをポケットにいれておくものではない、とポケットチーフを取り上げた後、それを胸元にしまい込むメアリーには、とても納得できない。白いドレスなのに。演出家の杜撰さに呆れる。最悪、ドラマシティ初日はそうだったとしても、途中で変えろ、と思う。
どちらも仙名には気の毒だったが、もう下級生ではないのだから、もう少し自分でやれることはあったかな…と思う。入り込み系の女優さんだから、全体を見るより、自分の世界に入ってしまったのかな。

次に印象的だったのは、私的には、リンカーンの助手、エルマー(水美舞斗)。
両親が忙しくて、一人ぼっちだったリンカーンの長男ボビー(聖乃あすか亜蓮冬馬)の遊び相手になり、ボビーは、彼をたった一人の友達だと言っていた。こ…これは、ルドルフに対するトートか[exclamation&question]と思わせながら、でも名前はエルマーという…[わーい(嬉しい顔)]
そして、その最期は、アンジョルラスかと…[ひらめき]でも、「合衆国、バンザイ」っていうのは、オスカル様的でもあったかな。
まっすぐな人物をまっすぐに演じられる、というのが水美の美点。この役は、水美に合っていたと思う。

ポジション的に2番手な役どころは、柚香光の演じる、フレデリック・ダグラス。どちらも実在の人物だからしょうがないのだが、リンカーンをめぐる中心的な人物が二人ともダグラス姓なのが、あれ[exclamation&question]って感じ。
2番手がフレデリックである必要性は、あまり感じなかったので、余計にそう思うのかも。
リンカーンの同時代人に、奴隷から逃げ出して書を著わしたフレデリック・ダグラスという人物がいたことは事実で、リンカーンとの面識もあった。
でも、二人の人生はそもそもあまり交わらないし、フレデリックがリンカーンに影響を与えたわけではないので、どうもその存在が軽い。リンカーンの就任パーティーに呼ばれただけでは、「黒人が差別されなかった」だけの話で、フレデリックである必要はない。
普通のバウ公演とかなら、主人公Aの反対側に、別の育ち方をした副主人公Bを配し、双方の人生をテレコで見せるというスタイルがある。(「巌流」など)リンカーンの人生と、フレデリックの人生を、こんなふうにそれぞれしっかりと描いていたら、2番手としてきっちりと描けたと思うが、なんといっても理事主演作品…とても、テレコでフレデリックを描く時間はない。
なんだか、貧乏くじひいちゃった感の強い柚香ではあるが、骨太な男性も似合うことを示してくれたのは、よかった。いつもシュッとした二枚目の柚香の新しい面が見られたのは、収穫だった。

これらのメンバーに比べると見せ場が少なくて残念だったが、リンカーンと最後まで一緒にいた、弁護士仲間のウィリアム役、鳳真由も、いい芝居で舞台を支えた。
鞠花ゆめは、一番得意とする役どころで手堅く舞台を締めた。
桜咲彩花は、フレデリックの妻、アンナ役。こちらもダンナ同様、出番もなくて、もったいなかった…。
あと、息子のボビー役を聖乃から、亜蓮にバトンタッチした効果も薄かったな~[バッド(下向き矢印)]せめて子役は娘役にやらせるとか…ねぇ。亜蓮自身、若いボビーという設定だったから、どっちかにすればいいのにと思った。登場するなり、エルマーは友達だって言われても、あんた誰[exclamation&question]って思っちゃう…[あせあせ(飛び散る汗)]
とはいえ、亜蓮のボビーは、愛国心に燃える姿、戦場に怯える姿、父親への複雑な感情がストレートに伝わり、熱い気持ちになった。1幕の歌もすごくよかったが、ブランドンというのは、何者だったの[exclamation&question]あそこのコーラスメンバーに役名がついている意味がわからない…[バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)]

南軍の将、リー将軍(英真なおき)は、リンカーンに心情を寄せつつ、出身地の方針で袂を分かち、南軍の最高司令官となる。敗戦後、リンカーンの厚情(恩赦された)に感謝し、南部の復興に力を尽くしたこの善人を、英真は、さすがの存在感で演じ切り、感動を高めることに成功している。

最後に木の階段を再セットすることで、大階段のようになり、そこに一段おきに赤い布を敷くことで、アメリカの国旗を再現するというアイデアは素晴らしかった[ひらめき]

ツイッターの感想ではすごーい盛り上がっていて、期待していたのだが、正直、私は盛り上がりきれなかった。出演者の力量には感動したが、物語的には、平板な展開にちょちょっと派手なシーンを織り込んだように感じてしまった。原田先生とは、感性が違うのかな…[バッド(下向き矢印)]
奴隷制度撤廃という理想は素晴らしいけど、そのために、アメリカ人同士が殺し合わなければならないのか…そうせざるを得なかった、そして、それこそがアメリカである、という強いメッセージ性がそこには必要で、原田先生自身、そこがちゃんとわかってるのかな、と疑問を感じた。

“今日は何の日”
【3月9日】
その朝、トーマ・ヴェルナーは、郵便局で一通の手紙を出した。まぢかに春、雪は水音をたてて、くつの下でとけた。(1974年)
劇団スタジオライフで上演している「トーマの心臓」、一応、3月9日をトーマ・ヴェルナーの命日としているそうです。

それはともかく。
1894=明治27年、日本初の記念切手が発売された。(記念切手記念日)


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