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「キサラギ」観劇 [┣演劇]

「キサラギ」

原作脚本:古沢良太
企画:『キサラギ』プロジェクト総合プロデューサー 野間清恵
演出:板垣恭一
舞台脚本:三枝玄樹
美術:伊藤雅子
照明:鶴田美鈴
音響:堀江潤
衣裳:関けいこ
ヘアメイク:木村文一
振付:MIKIKO
アクション指導:中村嘉夫
音楽:押谷沙樹
演出助手:河合範子、大江祥彦
舞台監督:小谷武

シアタークリエで凱旋公演中の「キサラギ」を観てきた。
これは1年半前に世田谷パブリックシアターで観劇している。感想はこちら
この作品がこの7月、LAでアニメエキスポの一環として上演され、好評を博した。その凱旋公演が本公演。

松岡充は昨年末に「NINE the Musical」を観劇しているが、あのグイドとは180度違う男性を、楽しそうに的確に演じている。前回は、ちょっと金髪っぽい茶髪で、本当に警察官かよ?と思ったが、今回は、所詮単なる公務員っぽい枯れっぷりが上がっていて、「キサラギ」ワールドがさらにリアルになった。
舞台は、全体的にテンポアップしていて、結末に向かってなだれ込んでいく爽快感があった。
進むところと淀むところのメリハリもいい。ヤスオ関連で流れがストップする部分も、必要以上に時間を取らず、ドラマの中の“笑い”の取扱い方のお手本のように思う。腐ったアップルパイを食べたヤスオがトイレと部屋を往復している間は、如月ミキがストーカーに殺されたのではないか、という仮説が提示される核心部分なので、ヤスオに必要以上に時間を割くと観客としてはイライラする。
それがいい具合のブレイク(気持ち的な休憩)程度の中断になっているし、同じネタの2回目的なところは、適度な省略がうまい。
昔、宝塚で、まったく同じつまらないネタを3回繰り返したことあったな…(遠い目)。ついこの間は、2年前の公演でやってたからって、お笑いのネタまで省略した公演があったっけ。しかも2年前の公演を観てる人の少ないツアー公演で…(さらに遠い目)。

1年前に自殺したD級アイドル“如月ミキ”の一周忌、ファンサイトの常連だった5人が「ミキちゃんの追悼」のために初めて集う。ネットで知り合った人とのオフ会って、異常なテンションになるものだが、それがこういう異常な状況での初対面…さらに、如月ミキは殺された!という仮説が登場し、次々と予想外の新事実が明らかになり、収束していく。
結末が分からなくて見た映画版でがーっと引き込まれ、舞台版も一度見たにも関わらず、どうしてももう一度見たくて、急遽チケットを取ってしまった。作品そのものの持つ力の大きな作品だと思う。

で、前回、舞台を観た時は、基本的に楽しかったけど、やっぱり舞台と映画では違うし、映画の方が面白かった的な感想を持った。ストーリーをあらかじめ知っている身には、一部まどろっこしい部分もあった。
今回は、そういう部分がまったくなくなり、映画を知っている人も、前回の公演を観た人も、初めての人も、すべてが楽しめるような公演になっていた。どうしてそんなことが可能なのか、わからないが。(もしかしたらLAでの成功が、意味で刺激になったのかもしれない。)
で、本当に楽しかったので、たぶん、また再演されたら、また観に行ってしまうと思う。

では、出演者への感想。
松岡充(家元)…前回の家元は、映画版が小栗旬だったせいもあって、基本、かっこいい人になっていた。今回は、どことなくしょぼしょぼ感のあるキャラというところが大きく違う。松岡自身がアイドルと言っては語弊があるかもしれないが、アイドル的な魅力のある人なので、アイドルのファンという立場に見えにくかったが、今回はその壁を易々と越えた感がある。昼間はしがない公務員、でも夜になれば、ファンサイトの管理人“家元”としてはっちゃける、そういう小市民的な人物というのがストンと納得できた。
誰よりも如月ミキに詳しいと自負していた家元が、実は唯一ミキ自身と接点のない人物だということがわかっていく過程の、シュンとした感じが、まさに一般ファン。そして、ミキが命よりファンを大事にしていたことがわかった時の、納得しかねる風情とか、家元以外の何者でもなかった。突然歌い出す場面ひとつとっても、「あー松岡君が歌手だから、こういう場面が増えたんだわ」と思った去年とはえらい違い。歌うしかないよね、家元としては…と思った。なにもかもが素晴らしかったです。
碓井将大
(安男)…ヤスオは、変更キャスト。なかなかハンサムでスタイルがいいので、どうかな?と思ったけど、ヤスオの純朴でちょっとズレた感じがよかった。また、強烈な個性がなくなった分、彼が物語をせき止めるシーンが軽くなり、みんなが彼をスルーしやすくなった気がする。そして、ミキが彼を好きだったことも特に意外性なく受け止められた。可愛かったな。
浅利陽介
(スネーク)…スネークも変更キャスト。こっちは逆に色濃いキャラになった。追従キャラのスネークが、その濃いキャラクターで時々、物語のスムーズな流れを阻害する。それは、田舎者のトロいキャラを背負ったヤスオが止めるのとは違って、突っ込んでも可哀想感は少ない。そういうキャラとしてのスネークが確立していた。その分、スネークの付和雷同すぎるところ、チャラ男でヘタレなところが、なくなっていた。二枚目の範疇からいなくなった、というか。だからといって、スネーク絡みの笑いが減ったわけではないので、これはこれでありだと思う。
今村ねずみ(オダユージ)…こちらが慣れたせいか、一人だけ年齢が上、という違和感はなかった。むしろ、ミキが敬語を使っていたということが、納得できること、ミキの死を厳粛に受け止め、丹念に犯人探しをしていることなどから、年配の男性という設定もありだな、と思える。オダユージと今村ねずみが双方から歩み寄って、キャラクターを確立したなーという印象。ラストのダンスシーンも、今村ねずみ的な部分を抑えて、あくまでもオダユージだった気がする。
中山祐一朗(イチゴ娘)…設定的に中山では若いと思っていたが、今回は、違和感がなかった。実直そうな真面目そうな彼の言い訳のひとつひとつが、後に正体がわかってみると、もっともに見える。そんな要領の悪い誠実さの感じられるところがよかった。
この5人の全体的なバランスがよくて、映画版のイメージは今回まったく思い出すことはなかった。また、800枚プレスしたうちの797枚までがこの5人に買い占められていたとしても、それはそれでいいんじゃないかな、と思えるほど、今回の舞台はリアルで、楽しくて、ちょっと哀しいお芝居だった。

何度でも観てみたい芝居なんて、そうあるものではないが、これは、そのひとつになりそうな予感がする。
もしかしたら、クリエという空間が、この芝居に適していたのかもしれない。前回は、3F席からの観劇だったからなー。 


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