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宝塚歌劇花組東宝公演「ファントム」観劇1 [┣宝塚観劇]

本日、観劇してきた。

感想は、複雑…
素晴らしいミュージカルを見た喜びと、納得できない芝居を見た胸のつかえ…というか…。あまり纏まらないが、纏まらないままに、つらつらと書いていきたい。

三井住友VISAミュージカル
「ファントム」

脚本:アーサー・コピット
作詞・作曲:モーリー・イェストン
潤色・演出:中村一徳
翻訳:青鹿宏二
音楽監督:西村耕次
編曲:鞍富真一
音楽指揮:清川知己
振付:大谷盛雄、麻咲梨乃、KAZUMI-BOY、黒木トモ子
ファイティング・コーディネーター:渥美博
装置:関谷敏昭
衣装:任田幾英
照明:勝柴次朗
音響:大坪正仁
小道具:伊集院徹也、今岡美也子
効果:宝塚舞台
歌唱指導:岡崎亮子

公演を観ながら、前回公演(2004年宙組)との違いをかなり意識した。
これほど前の公演の印象が残っているとは、自分でも意外だった。さすが、永遠のゴールデンコンビである。退団後もファンの脳裏に焼きついている。

さて、「オペラ座の怪人」の映画を見た時、「オペラ座~」と「ファントム」の比較を書いたことがあるが、怪人を主役にしたこの作品を観る時、観客は視点をどこに置いていいか、戸惑いを覚える。
トートという死神(=黄泉の帝王)でさえ、主役になるのだから…という言い訳もできるが、むしろ人間でない方が座りがいいのだ。ファントムといえども人間なのだから…(byキムシン)と、ついつい彼の心情を量りたくなる。が、彼の行動は、我々一般人には理解できない。その父・キャリエールの行動もまったく理解できない。
シャンドン伯爵なら理解できる。が、彼は最後に振られてしまう。これが、普通に納得できる「オペラ座~」と、理解に苦しむ「ファントム」の差になっている。もし、ブロードウェイでこちらが上演されていたら、果たして世界的なヒットになっていたか、微妙なところだ。

さて、前回の宙組公演では、そこまで深く考えずに、銀橋での父子シーンでは涙までしてしまったのは、なぜなのだろう?2回も観たのに…。
と、考えるうちに、これが大劇場ヒロインデビューの桜乃彩音が出てきた。
駆け出しの歌姫。声はいいけど、これじゃ、オペラ座の歌手は無理…まさにその通りの田舎娘…このミュージカルのヒロインにはうってつけだ。
…そこで、ハッと気づいた。

これまでの宙組公演は、作品によっては二重構造になっていたんじゃないか?と。
つまり、いい悪いは別にして、「和央・花總劇場」―
今日のたかこさんは、殺人鬼のファントムを演じます。
今日のはなちゃんは、歌の才能に恵まれた未完の大器・クリスティーヌを演じます。
そういう役柄で、愛し合う二人の物語
そうであれば、殺人鬼とオペラ座のプリマドンナが愛し合っても不思議ではない。宝塚という世界は、もしかしたら、そんな風に観るべきものであったかもしれない。
今、私たちは宝塚をそういう目で見ていない。特に、永遠のカップルが引退した今となっては。

ミュージカルとして観た「ファントム」は、制作陣が「エリザベート」に次ぐ宝塚の財産とか言っているのが、恐ろしい。できるだけ早いうちに東宝あたりに売却してもらいたい。
観客が主役を愛する必要がない舞台であれば、もっともっと面白く作れるはずだと思う。

ただ!
春野寿美礼主演でこの作品を上演したことには、意義があると思う。
たぶん、宝塚の中で、彼女だけが、この作品に相応しい。
それは、歌唱力ではなくて、ファントムの似合い度。(い、一応褒めてます)
(別の意味で相応しいとすれば、轟さんだなぁ…。ただ父親役が本専科かも?)

つまり、普通のミュージカルとしてのファントムを演じるには、ある程度、化け物性がないと無理だと思うのだ。
(褒めてるんです)

そういう意味で、満足できるファントムの出来だったのに、演出は、なぜかファントムに手加減をした。

以下、ネタバレかもしれないので、「続きを読む」を設定します。ネタバレOKの方だけ、クリックして下さい。



傷は海賊の傷のように美しく描かれ、ジョセフ・ブケーは過って転落死。
彼は孤独で可哀相な、少年のまま大人になってしまった男でしかない。
殺したのは、カルロッタ一人だけ。それも、彼のような状況下では、善悪の判断はつかないだろう。

…とすれば…

「悪いのは、キャリエール」
(みんなで指差しbyキムシン)

ということになってしまい、銀橋デュエットが生きない。
楽しみだった銀橋での親子デュエットは、なんだか納得のいかない気分で観ることになってしまった。

そのほか、雑感を先に書いておく。

桜乃のクリスティーヌは、この作品には相応しいヒロイン
しかし次は大丈夫か?という実力の低さがつらい。
ただ、春野が桜乃を大事に育てようとしている姿が、ファントムの場面だけでなく、フィナーレ等からも感じられるので、それなりにくらいは、歌えるようになってもらいたい。
芝居は、短い間にかなり進歩したと思う。
あと、全く歌えない桜乃に、オペラのヒロインを射止める役柄を設定したことへの危惧だが、全部の歌を完璧に歌えるようにするのではなく、「ここだけは外したら拙いだろう」という曲を徹底的に練習したように感じたし、それが正解だったと思う。

彩吹のキャリエールは、そういうわけで、演出のまずさを一身に背負うことになってしまった。
と、同時に、彩吹が真面目に演じすぎてしまったことも、キャリエールの悪印象に拍車をかけてしまった。
どうしても樹里との比較論になってしまうが、樹里の持つ明るい芸風が、ちゃらんぽらんをやりそうなキャリエールを想像させ、その若気の至りを後年後悔している風情が感じられた。
が、真面目な彩吹キャリエールであれば、結婚できないと知りながら劇団員に手を出した確信犯に見え、同情できないのだ。
また、キャリエールの歌唱は、バリトンというよりは、テノール(エリックがテノールだからハイバリかもしれないが)のものであり、高音に特長のある樹里に向いていた。彩吹の柔らかく温かい声質だと、少し華やかさに欠けるように思った。
春野・彩吹のデュエットは好きだったので、期待しすぎたのかもしれないが。

真飛のフィリップは、桜乃との並びが自然で、無理がない。
(やはり、特出の安蘭は、宙組だけのお約束を理解しないまま、ひとり、リアルな芝居を展開してしまった難しさがあったかもしれない。)
田舎育ちのクリスティーヌの才能を認め、オペラ座に紹介しようとする、王子さまキャラがぴったりだった。
が、ファントム登場以降は、なぜか顔芸が激しく…王子さま度が、急降下するのが残念だった。いや、今後もこの芸風で行くなら、あえて止めませんが。

(以下続く)

【去年の今日】
75000アクセスに到達した日。
1年後の今日は、29万アクセス…いつもいらしてくださる皆様、ありがとうございます。これからも、ガンガン語り続けたいと思いますので、どうぞ、よろしくお願いします。


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コメント 8

★とろりん★

夜野さま、いつもながらに冷静な観劇評ですね~。
彩音ちゃん、テンポの速い歌になると音を追いかけるのに
一生懸命になってしまって、声がか細くなっちゃうんですよね…。
ファントムとクリスティーヌが初めて出会う場面で、
「君の歌は、まだまだオペラ座の舞台で歌えるレベルではない」
というファントムの台詞に、心の中でふか~くうなずいていた私は、
極悪人でしょうか…。でもオサさんとの雰囲気は良さそうなので、
気を緩めることなく精進していって欲しいですね。
by ★とろりん★ (2006-09-04 16:35) 

夜野愉美

とろりんさま
nice!とコメント、ありがとうございました。

>「君の歌は、まだまだオペラ座の舞台で歌えるレベルではない」
というファントムの台詞に、心の中でふか~くうなずいていた私は、
極悪人でしょうか…。

あの程度でOK出してよかったんだろうか?とまで、私は思っていましたから、まだまだ私の方が、悪人だと思います(笑)
by 夜野愉美 (2006-09-04 23:29) 

ms

ホント、彩音ちゃん。
頑張っていましたよね。
私的にはまあいろいろとあるけど。
でも可愛いからイイって感じでした。
可愛い子っていいですね(でれでれ)

キャリパパとエリックの銀橋抱擁シーンで私も泣けなかったのはなぜ?
と今はちょっと不思議です。
by ms (2006-09-05 10:59) 

ms

度々すみません。
TBさせていただきました!
by ms (2006-09-05 11:00) 

菜緒

>夜野さま

私も昨日観劇してきたので、ようやくこちらのネタバレ記事を読むことができました。
私も銀橋シーンでは泣けなかったのですが、その理由が夜野さまの解説でわかりました。
キャリパパの過去を無意識のうちに理解するかしないか、の違いなのですね。(←私の書き方合ってます?)
私もおそまつながら観劇レポをあげましたので、TBさせてください。
by 菜緒 (2006-09-05 12:32) 

夜野愉美

msさま
そんなに可愛い子にデレデレとは(笑)
私は、まだまだ桜乃さんへの点数は辛いです。
ただ、オサさんには、似合いのいいカップルになりそうなので、期待大というところで。TBもありがとうございます。こちらからも~。

菜緒さま
ありゃりゃ、みんなキャリパパのところで泣けない派だったんですね。
たしかに、初めての宙組に比べて、ちょっと不利だったですが、カトリックだから再婚できないっていう一言でドンビキでした。
生まれた時からカトリックなんだから、再婚できないと知ってただろうが!と。あれはセリフとして加えない方がよかった気がします。
TBもありがとうございました。こちらからも~。
by 夜野愉美 (2006-09-05 22:14) 

あや

夜野様~わたしもファントム観劇報告を読ませて頂きました。
話題の銀橋場面はわたしも泣けなかったですね。というか宙公演の時からパパの身勝手が許せなくて泣けなかったです。もちろん樹里さんのせいではないのだけど。あやねちゃんにわたしも甘いですね~。
だってデレデレのおささんのお顔を見せてくれたから(笑)
最後に「ファントム」は東宝に売ってほしいに一票!です。
作品としては名作だと思いますが男役としては・・・なので(うふふ)
萌が足りない時は脳内妄想で補っていたりして・・・。
by あや (2006-09-06 06:18) 

夜野愉美

あやさま
コメントありがとうございます。
私もあやさまのファントム語りを読んできました。
なるほど~と思いました。深いですね。私も、もう少ししたら、深く追求した感想を書きたいと思っています。
えーと、たしかにオサさんはでれでれでしたね、はい。
いいコンビに育ってほしいですね。
by 夜野愉美 (2006-09-06 22:42) 

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