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フィッツジェラルドの午前三時⑥ [┣宝塚作品関連本等の紹介]

スコットとアルコールについては、これ以上書くこともないだろう。
けれど、次のエピソードだけは、個人的に外せなかった。

“ある夜、ハンフリー・ボガートがハリウッドのクローヴァー・クラブで経験した驚きは想像に余りあるものだ。フィッツジェラルドシーラ・グレアムを連れてバーに入ってきた。そして、しばらくボガートのテーブルに同席したので、ボガートはフィッツジェラルドに一杯飲まないかと勧めた。すると、このときスコットはにっこりと笑って、いや結構、といったのだった。”

シーラが献身的に尽くしたおかげで、スコットは禁酒をして「ラスト・タイクーン」の執筆に取り掛かる。このエピソードがその頃のことか、それとも、それ以前のアル中時代のまれなエピソードかはわからないが、スコットの断り方に注目!である。
「いや、結構」(おそらくは、“No, thank you.”の訳)
これこそ、ラスパ千秋楽で、アーネストに「食べるか?」と聞かれた祐飛スコットのアドリブ。
このエピソードを読んでいたのか、それともスコットになり切っていたのか、どちらにしても、とても嬉しいエピソードだった。

 さて、前にも触れた通り、フィッツジェラルドは気に入った作家が自分の評価以上に世間に知られていないと、なんとかして売り出してやろうと、あれこれ協力するタニマチ的キャラクターだったようだ。
ただ、このタニマチ(ヅカファン的には“オバサマ”?)、業界のネットワークは使うものの金は出さない。(出す金がない。困窮するヘミングウェイにおごったことはあるようだが。)そして、口は限りなく出す。
作家たちもスコットの善意の助言には辟易していたようで、それとアル中にうんざりして、だいたい仲違いしてしまったようだ。

特にヘミングウェイとの関係はこじれにこじれた。けれどこの二人、仲違いしながらも文通を止めなかったようで、奇妙な関係ではある。
こじれた原因は、以下のようなものだった。
① アーネストは、ゼルダが諸悪の根源だと思っていた。ゼルダはスコットの仕事に嫉妬し、スコットをスポイルすることに情熱を燃やす女だ、というわけ。
“きみが酔っ払いなのはもちろんだが、(ジェイムズ)ジョイスやほかのすぐれた作家の大部分よりも酔っ払いだというわけではない”
問題は「酒」でなく「女」だというわけだ。
② スコットは自分の人生に沿った物語を創作する作家であり、またあからさまに私生活を書いたエッセイをも執筆しているが、他人に自分の窮状を書かれることには我慢がならなかった。つまり自虐ではあるが、被虐趣味はなかったのだ。アーネストはそれに気づかず、「キリマンジャロの雪」のような小説を書いた。このことで、スコットはかなり傷ついた。
③ 二人はユーモアに対するセンスが徹底的に違っていた。両方とも、アメリカ人らしいセンスなのだが、タイプが違う。ヘミングウェイはスラップスティック的プラクティカルジョークを好み、フィッツジェラルドはシニカルなブラックジョークを好む。そしてヘミングウェイの攻撃はブラックジョークを含んで他者に向けられ、フィッツジェラルドはそれを真に受け、内に籠り、時に卑屈に反撃する。(スコットのブラックジョークは、ほとんど自虐のオチを常としていた)
④ フィッツジェラルドは純粋に心からヘミングウェイを賞賛したが、ヘミングウェイは、フィッツジェラルドを認めないことで、自らの地位を不動のものにした。スコットは死ぬまでアーネストを意識していたが、アーネストは死者に鞭打つように「ラスト・タイクーン」を批判した。
蝶は死ぬまで羽をばたばたさせ続けていましたが、その羽からはとうの昔に鱗粉が全部剥げ落ちていたのです』

しかし、アーネストはその後マックスに次のように語っている。
“ぼくは、体のがっしりした子供が、ひ弱だが才能に溢れた子供にそうするように、スコットにたいしていつでも、ひどく愚かで、ひどく子供っぽい優越感を抱いていました”
ひ弱だが才能に溢れた子供は、そんな風に思われていたことは、まったく知らなかっただろう。
ただ、彼は、アーネストもまた万能ではないことを知っていた。
“アーネストはぼくとおなじくらい傷ついているが、その表現方法は違っている。彼の性質からしてそれは誇大妄想になり、ぼくの場合は憂鬱症になる”

「THE LAST PARTY」に関係ある部分だけを引用して、この本を6回に亙って紹介してきたが、ここに引用した以外にもローラやシーラに関する逸話など、かなり興味深い部分もあるので、フィッツジェラルドの生涯に興味を持たれた方はぜひ一読をお勧めしたい。

フィッツジェラルドの午前三時

フィッツジェラルドの午前三時

  • 作者: ロジェ グルニエ
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 1999/03
  • メディア: 単行本


ただ、植田景子先生は、あの作品のスコットのイメージの多くを村上春樹氏の著書から構築しているように思った。そちらに興味のある方は、こっちですね。

ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック

ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1991/04
  • メディア: 文庫
【去年の今日】
ラスト・デイに大劇場の大階段を下りる衣装の考察をしている。
トップ・スターは、紋付・袴以外の衣装で下りられるようだが、かつてのトップさんはどんな恰好で下りているのだろうか、という一覧。
これは①ということで、続きを書かなきゃいけないのだが、まだ書いていない。
…というより、これ以降、誰が何年に退団したか、あまり覚えていない。
記憶の減退…やばい…な…
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