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「言葉の奥ゆき~行路~」 [┣Studio Life]

Jun企画
「言葉の奥ゆき~行路~」


構成・演出:倉田淳
音響:竹下亮(OFFICE my on)璃

演出助手:中作詩穂
収録・編集:永井純
協力:東容子、小泉裕子、中野サンプラザ
制作:志岐光璃

企画制作:Studio Life


「言葉の奥ゆき」シリーズ、今回は、久々に中野サンプラザのフォレストルームで実施。(18日がリーフルーム、19日がフォレストルーム。私は19日のみを見た。)


今回の朗読内容は次の通り。
松本慎也…「或る母の話」(渡辺温)
倉本徹…「聖家族」(小山清)
曽世海司…「恥」(太宰治)
楢原秀佳…「幸福の彼方」(林芙美子)
松本慎也…「女類」(太宰治)
石飛幸治…「誰も知らぬ」(太宰治)
関戸博一…「12月8日」(太宰治)
笠原浩夫…「早春」(小山清)
山本芳樹…「ユモレスク」(久生十蘭)
藤原啓児…「酒ぎらい」(太宰治)


前回、太宰を封印したのがよほど辛かったのか、今回は、太宰率50%[わーい(嬉しい顔)]


私は、この中で、松本、石飛、関戸、笠原の4人の朗読を聴いた。以下、順に感想を。(感想は聴いた順です。)


「女類」(太宰治)
自分は、女を殺したことがある…という衝撃的な書き出しで描かれる短編。
主人公は、文芸誌の編集者。仕事帰りによく行く、おでんを出す屋台の女将に岡惚れされて深入りしたが、担当する作家が酔って語ったことに乗せられて、彼女に冷たくする。その結果、女が自殺してしまった…という物語。
読んだことはなかったように思っていたが、ラストシーンは知っていた。「あと始末はトヨ公が、いやな顔一つせず、ねんごろにしてくれました」という文だけは覚えていた。ま、そんなこともあるかな。
酔った作家のセリフが一番長いのだけど、それを松本にやらせたかった…というのが、本作を松本に当てた、倉田さんの弁。「言葉の奥ゆき」のたびに、松本の挑戦になってる感じ。
それにしても、不可解な作品。
夫婦別れをしているのに、一緒におでん屋をやっているトヨ公とおかみさん。
酔って主人公とおかみさんの恋愛に文句をつけた作家の笠井と、それを聞いておかみさんを捨てた(正確には冷たいことを言って彼女の気持ちを試した)主人公と、彼女の自殺に責任があるとしたらどちらだろう[exclamation&question]
男類と女類は、猿類と人類のように別の生き物だと、笠井は言う。
男類・女類・猿類という言葉を繰り返して去っていくラストシーンは印象に残る。
男と女の壁を乗り越えて…というか、壁の存在を意識しないでどちらも演じるスタジオライフの役者が、この作品を読むのは不思議ですね…と、松本は言っていたが、そのライフの中で、特に、どちらの役でも主役を演じることの多い松本にこの作品を読ませる…というのも、さらに面白さを感じる話だ。


「誰も知らぬ」(太宰治)
41歳の妻であり母である女性が、23歳の頃のただ一夜の情熱の迸りについて、語る…それだけの物語。
といっても、それは彼女の中でだけ滾った感情であり、その夜、何が起きたわけでもない。それだけで物語ができてしまう…というのが、太宰の短編作家としての才能だよな…と思う。
安井夫人という女性の告白体で物語は進む。
彼女は市ヶ谷の女学校に通っている頃、芹川さんという友人がいた。彼女は、文学少女で、その影響で、安川夫人も小説を読むようになった。女学校を卒業してからも、小説を通じて二人は親交を温めていた。大人びたところのあった芹川さんは、女学生時代から、雑誌の愛読者通信欄を通じて、慶応大学の学生と知り合い、交際を深めていった。そして、彼の大学卒業を待って、結婚するという段取りを二人だけでしてしまっていた。
そうしてある晩、芹川さんは出奔してしまうのだが、芹川さんの兄さんが、その晩、彼女を訪ねてくる。彼女がどこまで事情を知っているか確認するため…のようだったが、最近は会っていないと聞くと、そのまま二人を追って去っていった。
その後しばらくして、彼女は突然、外へ出る。そして、芹川さんのお兄さんを追いかける。突然、お兄さんに対して激しい恋心ともつかぬ不思議な劣情を感じたのだ。
石飛渾身の絶叫「にいさあん[exclamation]」が切なくて素敵だった[黒ハート]


「12月8日」(太宰治)
1941年12月8日の出来事を「100年後の歴史の証言として」書き留めておこうとする、若い主婦の一人称の物語。太宰の書く「可愛い奥さん」役、関戸が演じると、マジ可愛すぎる[黒ハート]
朗読後、この作品が書かれた経緯を調べた話を関戸が話してくれて、太宰のような男が、戦争が始まった頃に、戦意高揚になるような作品を求められて書いた作品だったそうだ。12月8日の夜から灯火管制が行われていたんだな…とか、この時点で本土空襲のことを考えていたのは、太宰だけだったんだろうか…とか、色々考えながら聴いた。
太宰の文章も、関戸の朗読も、そんな風に想像を膨らませる余地がある。
今回も大満足だった。
ちなみに、この小説は、読んだことがあって、内容は知っていたんだけど、そういう作品でも、朗読で聴くと、別の味わいがあるな…などと感じたのでした。


「早春」(小山清)
小山清は、太宰治の弟子だったらしい。
「早春」は、おきぬという、あまり綺麗でない娘と、嘉吉という日雇い労働者の青年の物語。
特にこれといった事件も起きない、激しい恋愛感情も出てこない、静かで温かい物語。最後に、「梅一りん一りんほどの暖かさ」という句が出てくるが、この小説自体が、この句のような印象がある。
この先、所帯を持つんだろうな…と思われる、貧しいけど善良な人々の物語が、「恋」ではなく、「親しみ」という言葉を重ねて綴られている。
ほっこりするよい話だな…とは思うが、朗読としてはいささか退屈でもあった。
もちろん、決して、笠原のせいではなくて。
ここまで、ずっと太宰を聴いてきて、太宰との違いが浮き彫りになったのかもしれない。


終演後、出演者と倉田さんとの短いトークがあった。
今回、私が観たのは、どちらも、シニアとJr.7の組み合わせだったが、ほとんどの劇団公演で中心的なポジションとなったJr.7が、先輩の前で若手ぶっている雰囲気が、なんかいい。私がライフを観るようになったのが、彼らの入団した頃だったからかもしれない。
真面目なJr.7と、鷹揚な先輩という図式、今回も健在でした[黒ハート]


石飛さんが、「走れメロス」とか、誰でも知っている、教科書に載ってるような作品を朗読する回があってもいいかも[ひらめき]と言っていて、それ、ちょっと面白いかも[ぴかぴか(新しい)]と思った。より、朗読者の個性を感じる公演になるかもしれない。


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