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「さくら流し」観劇 [┣演劇]

劇団しあたーぼんず旗揚げ公演
「さくら流し」


脚本:長島伸一郎
演出:田井宏明


舞台監督:江藤慶
美術:浅井裕子
照明プラン:島田昌明
音響・照明:(有)銀河プロジェクト
大道具:c-com
衣裳:(大阪)松竹衣裳


サブタイトルは、「さくら隊 1945年 夏。」
桜隊は、戦争中に実在した移動慰問演劇隊の名称。広島公演のため、逗留していた広島市内にて被爆。メンバー全員が犠牲となった。


その桜隊の物語をフィクションを交えて描いたオリジナルの物語。


物語は、盛夏、桜隊が殉難した石碑の前から始まる。そこに一人の老人(成瀬正孝)が祈っている。客席後方から、孫の小麦(東城希明)と共に祖父(坂本小吉)が登場。二人は、わざわざ遠方から、この碑を訪ねて来たらしい。
祖父が孫の名を呼んだことから、老人は、祖父の名を言い当てる。そして、私は、あなたの婚約者の最期を看取りました…と言い出す。


昭和20年、広島。
移動慰問演劇隊の稽古場が開設され、続々とメンバーが集結する。
リーダーの丸山定夫(加納明)、先日まで投獄されていて、東京大空襲のどさくさにまぎれて脱走した八木(大迫茂生)、そして、映画「無法松の一生」で一世を風靡した元宝塚スター・園井恵子(汐美真帆)。
映画の吉岡夫人のようなたおやかな女性を想像していた二人だったが、現実の園井は、宝塚の男役そのままの、いささかガサツな言動をする女性。二人はショックを受ける。
そこへ、憲兵隊長(前田倫良)が現れ、今後の予定等について三人に説明する。真面目でコワモテな彼の前で、八木は時代劇の鬘をかぶったり、長谷川一夫と名乗ったり、かなりアヤシイ行動をしてしまう。
やがて、出演する俳優を探すための選考会が開催される。移動慰問演劇隊とは名ばかり、演劇隊は移動できずに地方各地に在住して国策に沿った演劇を上演する。そのため、各地に分散され、足りない出演者は現地調達する…ということらしかった。
やってきたのは、丸山のファンの女性だったり、引きこもりの少年・佐藤次郎(下松翔)だったり、目が出ないまま園井の付き人をやっている森下彰子(植田祐華)だったり。最後に現れたのは、みすぼらしいかっこうをした少年・シュウジ(北原十希明)。
なかなかスジがありそうな少年だったが、彼を追ってきた憲兵隊の虎谷(安藤一人)によると、呉からやってきて、盗みを繰り返している少年らしい。彼に荒らされた店への弁償金を園井たちが払って、少年は、一座に加わる。ほかに、引きこもりの次郎と、彰子が入り、そして、演目は「無法松の一生」と決まった。
ある日、彰子の母(鹿子かの子)が田舎からやって来て、一座に加わる。この時、彰子の本名が「小麦」であることが発覚。うどん屋だから…らしい。この彰子、実は隣家の蕎麦屋の息子、米田と恋仲になっており、朝鮮にいる彼に手紙を書き続けていた。
シュウジの父親が戦艦大和の乗組員で、大和の沈没を彼に隠そうとしたり、でも後に父親が生きていることが分かったり、彰子の妊娠が判明したり、脚本が検閲を受けて、「無法松の一生」が「家庭教師松五郎の日常」に改変されたり、色々なエピソードを絡めるうちに、上演が、8月6日8時から、と決まる。
同時に、次郎には赤紙が来る。出発は8月6日早朝、広島港から。
舞台に出られなくなった次郎の代役は、虎谷に決まる。


そして8月6日。早朝に空襲警報が発令されたりして、開演が15分ほど押す。
散々罵倒し合っていた、丸山と園井は、いつの間にか、最高の相棒になっていた。そして、恋愛に興味のなかった園井の心にも変化が起きていた。この公演が終わったら…そんな思いで、舞台に歩を進めようとする時、閃光が舞台を真っ白に変える―


出征が決まった次郎に、皆が、生きて帰れよ、と声を掛ける。
その時点で、一番、命の危険があるのは、次郎に見える。どんな戦地に送られるかわからないのだから。
でも、広島港から出港するために、朝早く家を出た次郎は、結局原爆のために出港が取りやめになった。一方、爆心地付近にいた桜隊の面々は、ほとんどが即死、次郎が見つけたのは、丸山、園井、そして彰子だけだった。


舞台は、50年後の広島。
そこに居るのは、生き残った次郎と、彰子の婚約者で朝鮮に行っていた米田。米田は、帰国後、心の傷を癒してくれた女性と結婚し、孫に「小麦」という名を付けた。
次郎は、米田に、丸山と園井が終戦を迎え、これで芝居ができると言って亡くなったこと、彰子は次郎が助けた時には、言葉も話せない状態で、彼に手紙を託して亡くなったことを話す。半分は黒く焼けた手紙を受け取った米田は、二人の間の暗号によって、彰子の最後の想いを受け取る。
「めぐりあえてしあわせでした」
次郎は、自分も黒い雨を浴び、その影響でこれが最後の夏になる、と静かに語るのだった。


米田は、神戸に住んでいて、孫と一緒にこの夏、初めて広島を訪れた。それは、あの日から50年という節目の年だったからだ。
でも、現実問題として、戦後50年といえば、1995年。神戸に住んでいるこの二人が、広島を訪れようと思うかどうか…ちょっと怪しいと思った。この年1月、神戸は阪神淡路大震災で壊滅的な打撃を受けたから。(別に神戸である必要はないのでは[exclamation&question]と思った。それか、震災に触れるセリフがあるなら別だけど。震災を経験し、生きているうちに、ここに来ておかなければ…と強く思った、というのは動機になる。)
それと、丸山と園井の命日を敢えて変えたのはどうかな~と思う。別に、丸山が亡くなって、後を追うように、数日後に園井も亡くなった…であっても、二人の仲が、長年連れ添った夫婦のように…という定義からずれるわけではなかろう…と思う。
事実をもとにしたフィクションであっても、命日を変えてしまうのは、やはり、気になる。


ドラマは、史実を参考にしつつも、ほぼフィクションで描かれている。
丸山、園井以外の登場人物もすべて架空の人物であり、即死した女優の森下彰子(あやこ)が、朝鮮にいる夫・川村禾門に手紙を出し続けたエピソードなども、たくみに利用されている。
また、ある夜、空襲警報が鳴って、爆弾ではなくビラが降って来たことがあって、そのビラを読んで、シュウジは、大和の沈没を知るのだが、こんな風に米軍は、一応、予告ビラを撒いていたんだな…でも、日本人は誰も信じなかったんだな…ということが、分かったのも切なかった。


ヒロインのケロさんは、ハッとするほど美しく、「宝塚出身者」の扱い(レビューっぽいことをさせられる)も、この作品は、とてもうまく配慮されていて、車引きである松五郎が、帝国軍人の未亡人である良子に告白するシーンのセリフが全カットになったところを、美しいパントマイムでカバーする…というのは、宝塚出身者ならではだし、そのシーンも笑いを取るようなものになっていなくて、演出のセンスを感じた。
子役の北原くんが、嫌味なく、達者な芝居を見せてくれて、タップもうまくて、感動[黒ハート]
ライフの前田さんも、昨年の「ペコロス…」ぶりにお顔を見られて、安心しました。また、今年も「ペコロス…」でケロさんと共演なのね。


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