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「人形の家」感想 その3 [┣大空ゆうひ]

「その2」はこちらです。


ノラとクリスティーネの美しい友情だけでなく、戯曲には、控えめながら、クリスティーネとニルスの「大人の恋」も描かれている。
舞台には原作には書かれていない(戯曲といっても上演台本ではないので、演出にはほとんど言及がない。だから、当然かもしれないが)キスシーンもあって、ちっとも控えめではない「大人の恋」である。
(主人公夫妻にはキスシーンがないので、この舞台中、唯一のラブシーンを演じるのが、ニルスとクリスティーネということになっている。)
この、ニルス(松田賢二)とクリスティーネ(大空ゆうひ)、10年前は恋人同士だった。10年前…ノラよりおねえさんのクリスティーネは、当時がちょうど結婚を考えるお年頃だったと思われる。(ゆうひさんの実年齢より若い、現在30代の役という感じ)
当時、クリスティーネは、寝たきりの母親と幼い弟をかかえていた。観察力の鋭いクリスティーネは、自分に岡惚れしているニルスが、自分には尽してくれても、この三人の面倒を喜んで見てくれる人だとは思えなかったのかもしれない。
そんなこんなで、家族のために、クリスティーネは、ニルスではない人と結婚することを決意した。
クリスティーネに振られたニルスは、身を持ち崩して、現在では、ノラに対して手ひどい脅迫者になっていた。彼は根っからの悪人ではないが、決して善人の魂を持って生まれてきてはいない。
そんなニルスの本性に気づいていて+彼の当時の境遇(まだ独り立ちはしていなくて、クリスティーネの家族を支えるには収入が足りなかった[exclamation&question])を考えると、クリスティーネも結婚に踏み切れなかったのだろう。
そこでクリスティーネは、「未練を断ち切ってあげることも、別れを切り出す者の義務」と考え、手ひどい手紙でニルスの心を打ち砕き、リンデ氏のもとへ嫁ぐ。
しかし、7年ほどの結婚生活は思い通りのものにはならず、夫への愛情もなく、子供もできず、亡くなってみたら遺産もなかった。未亡人となったクリスティーネは、残された自分の家族のために身を粉にして働く。そして、母を看取り、弟たちは彼女の援助がいらないまでに成長した。
これから…を考えた時に、クリスティーネは、一人で生きていくなら、人口の多い町の方が、働き口もあっていいだろうと考える。そして、さらに、親友のノラの居る町なら、いろいろと相談もできて便利だろうと考える。そして、あの時、非情なことをしてしまったニルスのこと…時折流れてくる消息は、いいものがひとつもない。彼の現在を見極め、できることなら、謝罪だけでもしたい…という気持ちもあって、あの町に来たのではないだろうか。
でなければ、いくら親友が居ても、捨てた男の居る町には行きづらいものだ。


クリスティーネは、慎重に、再会したニルス・クロクスタを観察する。そして、情報収集もする。そして、ノラを悩ませている脅迫者がクロクスタだということが分かる。クリスティーネは、ノラのために、自らクロクスタに会いに行くが(その時は不在で、ヘルメル家に来るように…と置手紙を残す)、その心境はどんなものだっただろうか[exclamation&question]
自分の就職が、クロクスタの失職の原因になってしまった。じゃあ、職を辞すことがクロクスタのためになるのか。新しい頭取に就任した、ノラの夫、トルヴァル・ヘルメルの態度を見るに、たとえ自分が職を辞しても、クロクスタを復職させるとは思えない。それほど嫌っている感じだ。クリスティーネは、それなら、職を辞すよりほかに方法があるんじゃないか、誤解を解いて、二人が助け合うという方法があるんじゃないか、と考える。
この時点では、愛の復活までは予感していなかったように思われる。ただ、多少なりとも縁のある二人が、それぞれ困っているのだから、助け合えれば…とか、まずは謝罪して、友人としての関係を復活できれば…という風に見えた。
でも、クロクスタの中に、憎悪とも呼べるような悪意の炎を見た時、彼がまだ自分を現在進行形で愛していることに気づく。
じゃあ、自分はどうなんだろうか、クリスティーネは、静かに自分の気持ちを確かめてみる。そして、一人ぼっちになってしまった自分の人生に、彼と彼の子供たちを受け入れることは、きっと意味があると、直感する。
クリスティーネは、一気にニルス・クロクスタを口説きにかかる。その手並みは鮮やかだった。
すげ…[たらーっ(汗)]こんな風に口説かれたら、誰だって墜ちる…冷静な青い炎がオーラとなってクリスティーネを包んでいる。美しい…惚れる…[ハートたち(複数ハート)]
澄んだ瞳が、まっすぐにニルスを見つめる。ニルスに射るような瞳で見つめられても、たじろがない。
その強い瞳の力を見て、ニルスは、クリスティーネの真心を信じることにする。この女性は、決して自分を裏切らない、と。
それを裏付けるような場面が、5分後くらいに訪れる。
自分の手紙が郵便受けに入っていることを告白するクロクスタに、「知っている」と答えるクリスティーネ。それで、彼女が自分を呼び出したのは、親友を助けるためだったと彼は知るのだが、そのためだったのか、これは…と確認する彼の表情や言葉には、残念な響きはあったが裏切られた悲しみはなかった。
「二度と身は売らない」とクリスティーネが否定した時も、ただ納得しただけで、アップ[グッド(上向き矢印)]ダウン[バッド(下向き矢印)]アップ[グッド(上向き矢印)]みたいな大きな変化はなかった。
ああ、もう、ちゃんと彼女の真心は届いているんだな、と確かに感じるクロクスタの態度に、心底救われた自分がいた。
好きだな、ほんと、この演出、と思う場面。
おっと、横道にそれてしまった。
こうして見つめ合った二人は、ごく自然に唇を重ねる。
その時、クリスティーネの手は、ニルスの腕の辺りを掴んでいる。そこからもう一度見つめ合い、顔の向きを変えて再びくちづける時には、ニルスの胸襟の辺りに手を添えて…そして二人はひしっと抱き合う。背中に回されたクリスティーネの腕が、ぎゅっとニルスを抱きしめているのが感じられる。


初キスシーンなので、初日の実況をさせていただくと…
(二人、見つめ合う)
ちょっと待て、これは…そうなのか[exclamation&question]
今回、戯曲を読んでいただけに、そして戯曲には何も書かれていなかっただけに、何の心の準備もしていないぞ[あせあせ(飛び散る汗)]
(近づく)
これは…間違いない[exclamation]うわ、そうか、そうなんだ[exclamation×2]
これは、しっかりと見届けないと[exclamation×2][exclamation×2][exclamation×2]
(キス。そして、一度離れるが…)
え、返す[exclamation&question]返しもありか…[たらーっ(汗)][たらーっ(汗)]
(近づく横顔)
綺麗…綺麗…うつくしい…やっぱ、女性役でも、生チュウでも、美しいものは美しい[exclamation]
美しいは正義[exclamation×2]
…と、正義の前に完全にひれ伏す私なのでした(笑)


その後、東京公演で、上手の若干タケノコ席になっている場所から観劇した時のこと。
死角になっているので、キスそのもの(唇)は見えない。が、その分、ゆうひさんの身体が結構前傾しているのに気づいた。この場面、ニルスはクリスティーネをまだちゃんと抱きしめていないので、二人を支えるのは、クリスティーネが掴んでいるニルスの腕だけ。それで腕をぷるぷるさせずにこの前傾ということは、そうとうの腹筋力が必要だと思った。
美しいラブシーンのための水面下での努力は、宝塚時代から変わってないのね…[ひらめき]としみじみと感じ入った私なのでした。

クリスティーネとニルスの大人の恋の物語が、作品の中で意外に大きく描かれていることが、この作品の印象を少しまろやかにしているのかもしれない…などと思うのはファンの欲目でしょうか。


閑話休題。
世紀のラブシーンを終え、ハートはルンルン、頬は紅潮、お肌もつやつや、目も垂れ気味なリンデ夫人クリスティーネを見て、「まったくもって面白くない女だな」と一蹴するトルヴァル・ヘルメル(佐藤アツヒロ)。彼の目に女性がどう映っているか、端的に表したよい場面だったと思う。
(まあ、妻だけを愛しちゃっているから…という解釈もできなくはないけれど。)
社会的な地位はアレだけど、ヘルメルよりクロクスタの方が、ずっと人間として幅のある、懐の深い人物である、ということがわかったところで、物語は、再びノラ夫婦へ返還される。この流れが、素晴らしかったな…と思う。


愛を確認し合ったクリスティーネとニルスは、もう登場しない。
手に手を取ってハケていった二人の幸せを祈っている。


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