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「カントリー」の裏側(2) [┣大空ゆうひ]

ゆうひさんご出演の「カントリー」、その台詞の向こう側の世界をもう少し考えてみたい。(1)はこちらです。


第5部は、2ヶ月後の朝、ということもあって、1~4部とはすっかり様相が変わっている。
ここまで出てこなかった情報がたくさん盛り込まれている前半。夫の事件によって少々心を病んでいる風ではあるが、美しい妻として登場していたコリンの意外なキャラクターがここで明らかになっていく。


その前に、第4部のレベッカの「物語」について、少し復習しておこうと思う。
レベッカは、夫婦の子どもたちの顔を見たい、と言った。そして、子どもたちがもし目を覚ましたら、おとぎ話を聞かせてあげるから大丈夫だと言う。
それは、男として、父としてのリチャードを震え上がらせる。
どうしても、あなたの子どもが見たいとか懇願する愛人って、それだけで怖いですよね。リチャードも、子どもに何かされたら…って思ったのだろう、本能的に震える。 (自分が彼女に何をしたか、ということは、すっかり忘れて…)[爆弾]
そして、そこでレベッカが語り出す「おとぎ話」が、またまたリチャードを震え上がらせる。
二人の出会いは、レベッカがまだ少女だった頃らしい。ということは、アメリカ人と言いつつ、レベッカはイギリスで学生生活を送っていた人なのかな。家族もイギリスに住んでいるのかもしれない。
彼女は、最初、「病気だからお薬がほしい」と言って、リチャードの診察室を訪れ、その時は、にべもなく追い返されたらしい。
なぜ、レベッカはリチャードの診察室を訪れたのか。
彼女の友人の間で、あの医者なら簡単に鎮痛剤を出すよ、という評判でもあったのだろうか。
で、リチャードが最初に断ったのは、レベッカがまだ若くて、彼の欲望の対象外だったから…かしら。あるいは、一度様子を見たのかもしれない。一見さんお断り的な。
足繁く通い、自分がどんなに薬がほしいかを訴えるレベッカに対して、彼は、部屋に鍵をかけ、最終的に服を脱ぐように要求した。
こうして、薬と体、という交換条件が成立し、二人の関係は始まったらしい。
最初は、互いの求めるものを交換するだけの関係だったはずが、やがてリチャードとレベッカは、抜き差しならない関係になっていく。
リチャードは、レベッカの体を「地図を開くように開き」、レベッカは、どんなに「お薬」を服用しても、「もっともっとほしくなった」
やがてレベッカは、きっぱりとすべてを断ち切る決意をする。
別れの口実は、おそらく、研究。イギリスの田舎にある古代ローマの遺跡の研究に没頭したいとかなんとか言い出して、遠距離からの自然消滅を狙ったのだろう。
それに対して、リチャードは、なんと、その遺跡の近くに引っ越すという離れ業を展開する。妻を説得して。
なぜって、彼はもう後戻りできない状態にあったから。
「法律をやぶっていた」というふうにレベッカは言っていた。
彼が処方する鎮痛剤は、もはや、常識の範囲を超える量になっていたのか。あるいは、アルバイト感覚で鎮痛剤を売っていたのが、レベッカとのプレイを楽しむために、自ら鎮痛剤を服用するようになっていたのか。
まあ、レベッカが原因かどうかはわからないが、リチャード自身、鎮痛剤を自らに注射していたのは、間違いない。第1部でコリンが注射針を見つけた時の動揺と口走った言葉から、それは感じられた。
とはいえ、リチャードも、レベッカも、正常な会話をしていて、(鎮痛剤の依存症は、他の薬物依存症のように、ろれつが回らなくなったりするわけではない、みたいな経験談をネットで見つけた。)むしろ、この件で傷ついたコリンの方がよっぽど精神的にやばいな、と思った。
とはいえ、オピオイド系鎮痛剤は、ヘロインが主成分なので、危険な薬物であることは、間違いない。


そんな修羅場も終わり、その一夜から2ヶ月経ったコリンの誕生日の朝。
第1部~第4部は、セットを変えずに暗転で時間の経過を表していたが、第5部の前にリチャードが一人でセットを転換していく。
第1部~の舞台は、色々なものが床に直置きだった。第5部では、それが少し立体的になる。電話が電話台の上に乗っているだけで、だいぶ雰囲気が変わるし、プランターなども置かれて、幸福な朝の景色が演出される。
特に演出の妙だと思ったのは、暗幕カーテンを開いて、プロジェクターに外の景色を映し出したことだろう。
これまで、時間経過がよくわからない舞台を多々見てきて、背景が黒だとどうしても昼というイメージが持ちにくいのが原因だと常々思っていたので。


かいがいしくリチャードが朝食の準備を終えた頃、コリンがパジャマ姿で、髪もボサボサな感じで、ボーッと登場する。そして、リチャードがセッティングしたテーブルについて、そこへリチャードが朝食を運んでくる。
コリンは素直に賞賛の言葉を述べる。 「こんなにやってくれて」と。 その言葉に、リチャードが勝手に反応する。
「“やってくれて”って、セックスのことかと思った」と。ということは、この二人、ゆうべは夫婦生活があったのね、おそらく[キスマーク]
コリンは、リチャードの言葉に鼻白んで、「相手を大切にする」ことを言ったのだ、と主張する。
昨晩は、もしかしたら、コリンが寝坊する程度には熱い夜だったのかもしれないが、朝が来ると、コリンは、いつものコリンに戻っている。決して、リチャードの情熱には呼応しないし、思い出そうともしない。
熱い夜を過ごした翌朝、男が陽の光の中で、それを思い出させるようなことを言う場面は、映画や演劇によく出てくるが、女の反応は様々。[1]それに呼応して、朝から臨戦態勢になる、[2]恥ずかしそうに、あなた、素敵だったわ、などと言って、幸せをアピールする、[3]やだ、朝から何言ってんのよ、と照れる…など。でも、コリンは、全面否定する。真顔で。
でも、決して、リチャードが嫌いというわけではない。
わりと、ご機嫌で、リチャードに対して、「綺麗でいてね」というセリフも出てくる。これ、Cleanということだろうか。薬に二度と触れないという… 。それは、第1部で、リチャードが「綺麗じゃない(からキスできない)」と言ったのに呼応するセリフ。あの時、リチャードはたしかに薬にまみれていたのだろう。
そして、リチャードはコリンに水を渡し、味がするか、尋ねる。 第1部で、コリンは、水の味が変だと言って、何の味もしないという夫と軽く言い争っていた。この会話で、夫婦間の波風のようなものが最初に伝わってきたのだが、この第5部では、コリンは、「水がどうかした?」と言い出すのだ。 引っ越してから2ヶ月が経ち、水にも慣れて当然ではあるのだが、問題なのは、コリンが2ヶ月前に水の味に違和感を持ったことを「覚えていない」ことだろう。
第4部の後で、リチャードが相当苦労して夫婦の関係を修復したということは、想像に難くないが、応じるコリンは、納得することではなく、忘れることで、対応したのかもしれない。 そして、本当に“忘れる”ことを実行したコリンが、怖いと思った。
一方で、これまで、一方的にリチャードに起因するものと考えられていた、コリンのエキセントリックな性格が、もしかしたら、彼女が生来持っていたものかもしれない、という疑惑もわいてきた。


ところで、第1部から気になっていたのだが、コリン、水をあまり飲まないよね。しかも、拒否してるところがある。
第1部では、途中からリチャードに飲ませるし、第5部では、おかわりはいらない、としつこいくらい強調している。
でも、ジュースは飲んでいる。生来の水嫌いなのだろうか。


閑話休題、リチャードが秘密の行動をしている間、コリンは、届いたバースデーカードを読んでいる。
そして、その場にいないリチャードに向かって、衝撃的な告白をする。
誕生日にカードをもらう、最高に幸せなその瞬間に、「この中の誰かが、自分に遺産を残して死んでくれていたら…と考えていた」と言い出したのだ。特にそれが両親だったらいいのに…と。誕生日に「両親に死んでほしい」と言い出す娘。でもまあ、飛行機が落ちてひとおもいに死んでくれれば…と言うのは、痛い思い、つらい思いをさせたくない…ということだから、憎んでいるほどではなさそう。
リチャードはそれをたしなめるが、「私の両親なんだから、言わせて」とコリンは放言する。
その時、「君の両親は遺産なんか持っていない。苦痛の記憶しかもたらさない」たしかにリチャードはそう言っていた。
もしかして、コリンもまた、複雑な少女期を送っていたのだろうか。レベッカとは、まったく違うタイプながら。
両親から送られる、子犬の絵柄のバースデーカードにすら嫌悪感を抱くというのは、相当やばい。
両親に押し付けられたがんじがらめな少女時代を嫌悪しているのだろうか。そして、いまだに、自分の娘が子供だと信じている両親を嫌悪している[exclamation&question]
だから、どんなに結婚生活が厳しくなろうとも、彼女は、そこに帰れない。帰れないから、ここにいるしかない。そういうことか。
これは、靴をプレゼントされた時の複雑な反応と、「プレゼントをもらうのに慣れない」というセリフにも繋がると思う。
(幼い頃に両親へプレゼントをあげたのに、喜ぶ前に注意されたり、あまり喜んでくれなかったり…ということがあると、プレゼントをあげたり、もらったりする時の素直な「嬉しさの表現」ができなくなってしまうから。)


戻ってきたリチャードは、コリンのバースデーカードを写真立ての前に並べ始める。
(この写真立てにコリンたち一家の写真が飾られていて、家族構成(一男一女)もわかるようになっている。)
嬉々としてそんなことをしているリチャードを見て、コリンは、「やめてよ、なんだか、年を取った気分」 と言って拗ねる。
それに対して、リチャードは、「君は年を取っていないし美しい」と絶賛してるけど、若さは年々失われるものだから、そういう外見的なことより、内面的なものを褒めた方がいいんじゃないか、という気がする。いつか、その手は使えなくなるよね[exclamation&question]
ここで、モリスは、コリンにプレゼントを渡す。さっき、こそこそ準備していたものだ。プレゼントは、黒い華奢なハイヒールだった。たぶん、7センチくらいのヒール。 履いてみて、と言われて、コリンは裸足にパジャマのまま、ハイヒールを履く。
「あなた、私のサイズ、知ってたの?」 と驚くコリンに、「サイズは知らない。君の靴を持っていった」と答えるリチャード。 「どう?」 と聞くリチャードに、コリンは、「よく、わからないわ。歩いてみないと。」と言いながらも、履き心地はいいと言う。そのまま部屋を少し歩くコリン。
たぶん、彼女は、この靴を気に入ったのだと思う。彼女なりに、と私は思った。
でも、リチャードには伝わらない。気に入らないんだろう、と思って、「一緒に靴屋に行って交換してこよう」とか言っている。
結婚して何年も経った夫婦なのに、リチャードはコリンを全然知らないんだなーと、なんとなく思う。
それは、リチャードの自分勝手な性格もさることながら、コリンも積極的に自分の気持ちを伝えてこなかったのだろう。そういうのが苦手なのは、両親の前で良い子だったから…なんだろうな。
リチャードとコリンの論争が噛み合っていなくて、居心地悪いのは、この二人が、自分達の「気持ち」を素直に表明していないから、かもしれない。


長くなるから、(3)に続けることにするが、最後に、部屋の模様替えのことは書いておこう。 
リチャードは突然、部屋の模様替えを提案する。いい感じだった、夫婦の朝に、再び論戦の雲行きが…。
「子供部屋を通らないとバスルームに行けないのは、論理的じゃない」とリチャードは言い出す。それは、レベッカに指摘されて、彼自身がもっともだと思ったから、だろう。
別にレベッカとよりを戻したいのではなく、正しい発言だと納得したから。
しかし、コリンは、リチャードの言葉に違和感を抱く。それはリチャード発の言葉ではない、と彼女は気づいたのだ。彼女のカンは、おそろしいほどに正しい。リチャードは、常に言い繕わなければならない。
その中で、コリンの言った言葉、
なぜ、論理的じゃなきゃいけないの[exclamation&question]
それは、物語の最後のテーマに繋がる、カギのセリフ。最後の扉を(3)で開いていきたい。


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