SSブログ

文学座「リア王」観劇 [┣演劇]

「リア王」

作:ウィリアム・シェイクスピア
訳:小田島雄志
演出:鵜山仁

美術:島次郎
照明:賀澤礼子
音響効果:望月勲
衣装:前田文子
舞台監督:加瀬幸恵
制作:友谷達之

文学座アトリエ公演「リア王」を観劇した。
鵜山仁氏の演出は、私にはとてもしっくりするらしい。というか、しっくりする芝居だったなーと思ったら鵜山氏だった。

文学座のアトリエには初めて行ったが、以前行った黒テントの劇場(今はもうない)によく似た作りだった。劇場の中は寒く、ロビーも狭く、喫煙場所は外!という悪条件の中、それでも演劇好きな人で満員になっていた。

古代ブリテンの王、リア(江守徹)は、80歳を超える老齢。
彼には3人の娘があり、長女のゴネリル(郡山冬果)はオールバニー公爵夫人、次女のリーガン(浅海彩子)はコーンウォール公爵夫人、そして、三女のコーディリア(岡崎加奈)には、バーガンディ公とフランス王がプロポーズしていた。
リアは、引退を決意し、三人の娘とその配偶者に、国を三分割して与えようと言い出した。そして、三人の娘がどれだけ父を愛しているかを聞いた上で、土地を分け与えると言う。ゴネリルとリーガンは、父への永遠の愛と忠誠をすらすらと口にして所領を手に入れるが、コーディリアは、姉たちの心にもないお世辞を聞いて心が冷えてしまい、つれない言葉を父に向けてしまう。
これまで、一番父を愛していたのがコーディリアだったし、父の愛を独占していたのもコーディリアだったが、コーディリアのお世辞抜きの愛情をリアは気に入らず、何か言わなければ土地はやらない、とまで言い出す。これがまた、コーディリアには逆効果で、彼女は、資産には興味がない。
一瞬で、長く睦み合ってきた親子は、決裂する。そして、バーガンディ公は、財産のないコーディリアとは結婚できないと言い、フランス王は無一文でもコーディリアを王妃に迎えたいと言ったので、コーディリアはフランス王妃となる。
この時、王の常軌を逸した仕打ちに対して諫言した忠臣ケント伯(外山誠二)は追放を命じられてしまう。
そして、隠居し、ゴネリルとリーガンの領地を交互に訪問して余生を過ごそうとしたリアは、二人から酷い仕打ちを受け、嵐の中、放り出されてしまう。
王の側には、道化(金内喜久夫)と変装して王を守るケント伯、そしてグロスター伯(坂口芳貞)しかいない。
嵐の中で王は狂い、王の窮状を知ったフランス王妃、コーディリアは軍を率いてブリテンに駆けつけるが、オールバニー・コーンウォール連合軍に敗れ、捕虜となる。そしてコーディリアが殺された頃、ゴネリルもリーガンも自滅、王はただ咆哮するのみだった。

装置というよりは、壁紙のようなものが場面転換になったり、幕の代わりになったりしていた。また、壁のバリバリッとはがされたような穴が退出路になっていたり、非常階段のようなものが使われていたり、不自由な会場だからこその工夫が面白いし、装置が簡素であればあるほど、演技に集中できる空間でもある。

かつて、滔々とシェイクスピアの台詞をよどみなく語っていた江守を思うと、脳梗塞の後遺症が痛々しく感じられるが、リア王というキャラクターに限って言えば、リアリティーがあって、味が加わった感じがする。言葉が出てこないもどかしさが、リアの老いと重なって、より哀しみが伝わった。
一方、脇を固める文学座の面々は、実力派揃いで、こちらも目が離せなかった。
私、シェイクスピア作品の女性の中で、ゴネリルが一番好きかもしれない。
「リア王」を観に行くと、たいていゴネリル役の人に嵌まって帰って来る。なんでだろう?私が長女だからかなぁ?
というわけで、いつか、祐飛さんにもゴネリルを演じてほしいんですよね、余談ですが。そして、その時、リーガンとしてすみ花ちゃんが寄り添ってくれたら…それが二人の初共演になれば…というのが私の夢です。(遠い先のことですよ。今のすみ花ちゃんは、コーディリアができますもんね。)
知的で、策略家で、夫などまったく無視し、父をないがしろにし、このまま天下を取るのかと思いきや、小賢しいだけのただの悪党・エドマンドに嵌まって、人生を狂わせる。恋に狂った女の哀れな末路は、共闘戦線を張ってきた妹との男の取り合いからの、妹毒殺、そして自殺…
夫のオールバニー公(高橋広司)が、立派な人物であるだけに、その死はとても愚かしいものではあるのだけど、権力を掌握してからの短い時間、彼女は、自分の欲望のままに生き抜いたのだと思う。その先に待っているものが破滅だったとしても、それは楽しい時間だったんじゃないかなー[るんるん]まあ、その分、運命からきっちりお返しされて、そりゃもう悲惨な最期ではありますが[爆弾]
今回のゴネリル、郡山知的でイケズな感じがピッタリでした。エドマンド(木場允視)のとの軽いキスシーンがあるんだけど、若い俳優さんとのラブシーンは、ちょっとしたものでも背徳の香りがあってよいですね[揺れるハート]
リーガンの浅海もイメージ通り。肉食系で、実はずっと姉を出し抜きたかったけど、姉の方が賢いから無理だったのよね。でも、男相手なら若い方がいいし、なんといっても私は独身!(その時点で夫が殺されているため。地位を持たないエドマンドは、不倫より結婚を求める)みたいな、初めて姉を出し抜けた感が、素敵だった。
リアの悲劇を矮小化したようなグロスター伯の物語が悲劇を重層構造にしていることが、よくわかる作りになっていた。

シェイクスピアの死後、60年くらいして、あまりにも悲惨なこの物語は、ハッピーエンドに書き換えられ、以後200年くらい、そのストーリーで上演されていたらしい。
時代により、さまざまな嗜好があるのねーと思ったが、私はもちろん、ガチガチの悲劇版が好きです。
道化は、今回、リアの側に長く仕えた年寄り道化という設定だった。道化は途中で突然舞台から消え、それが謎とされているが、私は役者都合説を信じている。どんな理由にせよ、道化が消えた後、物語に弾みがついて急展開する辺り、シェイクスピアはただものではない、やはり400年の時を超えて、誰もが納得する天才だったのだ、と改めて感じた。

(配役は、チラシの写真を見て分かる範囲で記載しております。もし間違いがありましたら、ご教授ください)


nice!(1)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:演劇

nice! 1

コメント 2

Manami

夜野さま

宝塚(と祐飛さん)以外の観劇記も
いつも楽しく有り難く読ませていただいています。
最近は宝塚公演(と某OG)(笑)以外を見ることが
なかなかできなくなりましたので。

アトリエの江守さん、頑張っていらっしゃいましたか。

その昔、そのアトリエで
小田島雄志訳(当時は新訳!)、出口典雄演出の
江守ハムレットを見ました。
鮮烈なハムレットでした。
あれを覚えているだけに
今回のアトリエに足を向けられませんでした。
今は今の味ですよね。

ファン歴が長いことだけが取り柄のヅカヲタです。
トシヨリなので毎度昔話ばかりで、お目汚しごめんなさい。
こちらを訪れることは日々の楽しみです。
これだけ観劇されながらこれだけ書けるということに
尊敬すらおぼえます。
これからもよろしくお願いいたします。


by Manami (2015-01-22 23:09) 

夜野愉美

Manamiさま
コメントありがとうございます。
そうですか、江守ハムレットをご覧になられたのですね!
いいなぁ~♪

昨年、出口さんのお話をうかがう機会があり、とても面白かったです。
by 夜野愉美 (2015-01-25 00:31) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0