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「THE KINGDOM」感想 その2 [┣宝塚観劇]

その1はこちらです。

全体的にこなれていない時に観劇したので、少々辛口になります。
まず、主演の凪七瑠海美弥るりかは、「圧倒的なドラマ性」を欠く芝居の中、舞台のすべてを支配するだけの力量がやや足りなかった印象がある。しかし、これは、今後、進化していくのだろう。
また、二人の間の“男の友情”も、少し冷めた印象を受けた。主人公のモノローグで淡々と進行していく正塚芝居が、W主演ということで、意識が分断されたせいかもしれないし、もともと正塚芝居が、淡々と進行するからかもしれない。
本編の「ルパン」自体、あまり面白い作品ではなかったので、スピンオフもそれなり…ということもあるし…。

ただ、キャラクターだけを抜き出すと、面白い人物が多い芝居ではあった。その辺を含めて出演者感想を書こうと思う。

凪七瑠海(ドナルド・ドースン)…19世紀に生まれ、20世紀を生きた青年。20世紀という時代に夢を見て、その夢がまだ残酷な現実(二度の大戦)に砕かれる前のキラキラした時代感が、その存在から伝わってくる。
凪七
の本来のキャラからは、駆け出しのペーペー役を主演で演じるのは、ちょっとイメージが違う。実際、活躍のほども、正塚先生のサスペンスだけに微妙だったが(※)、主役としての居住まいは出来ていたし、ジェニファー役の海乃美月とのやり取りも、そこはかとない雰囲気が素敵で、そういうところは、アテガキの良さが出ていたなーと思う。
声質がややくぐもっていて、台詞がやや聞き取りづらかった。しかし、ドラマの中での自分の立ち位置を理解し、一人の人間として筋の通った演技をする点は買いたい。
「Je Chante」から4年ぶりの主演だけに、思うところも大きかったはず。今回の主演をバネに、本公演でも弾けてほしいと思う。

美弥るりか(パーシバル・ヘアフォール伯爵)…伯爵家の次男に生まれ、本当なら伯爵にはならないはずが、このドラマの中で、兄の伯爵が死ぬことによって伯爵位を継ぎ、ついでに兄の密命までも引き継いでしまう。ま、そうならなくても、ノーブレス・オブリージュによって、陸軍に入り、国家に命をささげる決心をしているような、好青年。
ドナルド・ドースンとの、ベタベタしていない、英国紳士風の男の友情が、さりげなく描かれ、同時に、兄の婚約者との感情の動きも出てくるのだが…そもそも、それって必要なのかな?とも思った。というのは、ヒロインとして早乙女わかば演じるサーシャがいて、W主演の凪七の方は、海乃演じるジェニファーとの仲がどうなるのかな?という興味で見せる話なので、パーシバルに別の女性の影があると、サーシャが完全にヒロインとして浮いてしまうからだ。
ま、結果としてどちらとも結ばれないのがパーシバルなのだが。
美弥も研12で初主演、しかもW主演という遅咲きではあるが、(「NEW WAVE」をカウントしなければ…)真ん中に立つだけの力を持った生徒だと感じた。目力があり、端正な立ち姿も魅力的だ。
ただ、下級生にいたるまで口跡のよい月組の中で、美弥は台詞の言い方に滑らかさがなく、台詞は聞き取れるが、心地いい聞き心地ではない。個性といえばそうなのだが、役を選ぶような気がする。硬質な役であれば、似合う…というか。
今後、個性を全うするか、役の幅を広げていくか、スターとしての美弥に注目していきたい。

早乙女わかば(サーシャ)…ロシアからの留学生として、ドナルドとパーシバルの前に現れたサーシャは、ロマノフ家の系譜に連なる令嬢で、ニコライ皇帝一家の亡命に協力するために、再びロンドンを訪れている。
学生時代、ドナルドとパーシバルはサーシャに恋をして、失恋したらしい。もっとも、それは、モノローグで語られるだけ。そして、再会してからは、特にロマンスらしきものはなく、それどころか、ドナルドもパーシバルも他の女性と何かあるようで…サーシャの立場っていったい…[exclamation&question]いや、むしろ、アレクセイ(暁千星)がサーシャの本命なのか…[exclamation&question]それなら、サーシャは、ヒロインではなく、むしろ3人目の主役なのか[exclamation&question]
そして、早乙女は滑舌が悪く、台詞が滑って聞こえる。主役3人それぞれ口跡に問題あり…というのが、どうにもこうにも…[バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)]
でも、金髪が似合って、美しい貴族の令嬢らしい雰囲気は伝わってきた。
月組の新しい戦力として、「第二章」で培った舞台度胸を思い切り発揮してほしいと願っている。

海乃美月(ジェニファー)…バリバリの女スパイで職業婦人。仕事のためなら、偽りの恋を仕掛けることも平気。自分の仕事に自信と誇りを持っていて、その分、少々自己中でもある。というジェニファー役は、乾いた芝居が持ち味の海乃には似合っていたし、キビキビしたスパイらしい所作も嵌まっていた。
凪七との並びも綺麗だったし、上級生を相手に先輩風を吹かせてもそれなりに見える老け顔さえも、魅力的に見えた。
正塚芝居に似合うヒロイン役者だったと思う。このまま、順調に育ってほしい。

憧花ゆりの(ヴィクトワール)…「ルパン」のスピンオフ作品ながら、この作品には、アルセーヌ・ルパンが登場しない。大劇場でルパン役を演じた龍真咲が、映画のスピンオフ作品のように、声だけでも出るという選択肢もあっただろうが、無難に「出ない」という選択がなされた。
その代わり、ルパンの乳母であるヴィクトワール(大劇場では飛鳥裕)の若い頃、という設定で、憧花が登場した。バーネット探偵社というのは、1909年頃、ルパンがパリに開設した探偵事務所で、この設定を正塚先生が利用している。
正塚先生、憧花にすべてを託した感じだし、憧花も期待に応えた。憧花のヴィクトワールがいなかったら、「はぁ[exclamation&question]」な設定に感じることは、今の比ではなかっただろう。

紫門ゆりや(イワノフ)…ロシアから革命を広めにやってきた活動家に見せかけた宝石泥棒。ジェニファーをたらしこむ色男風だったり、ドナルドを騙して逃走する時の迫真の演技だったり、小物のわりに、なんかイケてるヤツだった。
たぶん、正塚先生は紫門を気に入っているんだと思う。あるいは、紫門に役を大きくする力があったのか…。
今回の殊勲賞を差し上げたい[ぴかぴか(新しい)]

貴千碧(サイラス・ヘアフォール)…パーシバルの兄。作品の中で死亡。
最初の登場からして、サナトリウム的な場所だったので、てっきり「体が弱い兄」設定かと思ったら、実は、毒を盛られて体調を崩して入院中という設定だったらしい。わかりづらい…[爆弾]
死ぬと見せかけて寝るだけ…という一発芸で笑わせた後、本当に死ぬシーンは登場しなかった。ま、一度アレをやったら、死ぬ場面を本当に出すと、観客が「またまたー」と思うからしょうがない。
本人の真骨頂は、どちらかというと、死んだ後の、アンサンブルでのダンスシーン。今回もキレッキレのダンスを見せてくれた。

咲希あかね(アドリアナ)…社交クラブで、人待ち顔のドナルドに何度も声を掛け、ほんの1秒ほど踊ったところで、パーシバルが現れ、さらに二人を誘うもののバッサリ切り捨てられる女性役。実は…という設定かと思ったら、それっきりだった。
まあ、実は…と期待させるところが、咲希の力なのだが、けっこう無駄遣いだと思った[ちっ(怒った顔)]

鳳月杏(ラトヴィッジ)…ドナルドの上司(部長)。ヒゲが超セクシー[キスマーク]
この人の役が、実は、作品のトーンを決めるんだなーと、観劇途中で気づいた。けっこう笑いをとる場面を担当しているが、笑いに走りすぎると、作品のバランスが崩れる。
シチュエーション的にボケて観客をクスリとさせつつ、シリアスな場面では、仕事できるセクシー部長を全うする…東京では、そのさじ加減に苦労している感じだったが、これを掴んだら、この人はすごい役者に育つかもしれないと思った。
今回の敢闘賞。DC、観たかったな…[バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)]

貴澄隼人(ハワード)…ラトヴィッジの部下。常に笑いを提供する役どころ。ドナルドより先輩なのに、どういうわけか、ドナルドの代わりに使いっぱになってしまうが、くさることなく、常に笑いと勘違いを提供してくれる貴重なキャラクターだ。
現実的には、こんな人が情報部にいて大丈夫か[exclamation&question]という不安も感じつつ、芝居としては、この人なくしては進まなかっただろうな…と思う。

花陽みら(エセル/メアリー)…最初はサイラスの看護婦として、次はヘアフォール家の秘書として登場。どっちもヘアフォール関係で同じ顔が出てくるってありなのかな[exclamation&question]
そして、どっちも、しっかり者の性格のよいビジネスウーマン。
でも、口跡よく、しっとりと、気持ち良い仕事をしていたと思う。

輝城みつる(レノックス/アッシャー)…最初は、サーシャに絡むボンボンとして登場。ドナルドとパージバルにボコられて、そのことが二人とサーシャの友情のキッカケになるという役どころ。そしてアッシャーは、たった一場面だけど印象的な、宝石の加工技師。
彼がダイヤモンド、“カリナン一世”を前にひとりごちる、「眠れそうにないけどね」の台詞は、この芝居最高にして最大の台詞だった[ぴかぴか(新しい)]

叶羽時(キャサリン)…サイラスの婚約者。婚約の前は、パーシバルとお互いに憎からず思っていたらしく、パーシバルの求愛を願うが、パーシバルは家同士の関係を思って拒絶する。そしてサイラスの死後、結局は、別々の道を進む二人…という設定。
大人しいが芯の通った女性という設定。どうして、叶羽だったのか、ちょっとよくわからない。下手というわけではないが、ヒロイン的な要素のやる役には、顔が地味すぎた。化粧をどうにかするべきでは[exclamation&question]

蓮つかさ(ヴィクター)…イギリスで革命活動をしているグループのリーダー。ジェニファーに懸想している。が、イワノフに取られたと思い込み、以後革命よりジェニファーで頭がいっぱいになる。
そして、ラトヴィッジ部長の事情聴取を受けると、ビビりまくって、まったく革命活動のリーダーではない。
ただの革命ごっこだったことが露呈してしまう。
ってなキャラクターが、完璧に表現されていた。恐るべし。

佳城葵(シャーロック・ホームズ)…ルパン小説に登場するシャーロック・ホームズ(後にアナグラムで、エルロック・ショルメ)は、ルパンにしてやられるちょっとお間抜けキャラなのだが、そんな部分がちゃんと表現されていた。
ただ、喋り方が、ちょっと独特で、これはちょっと矯正した方がいいかな[exclamation&question]

暁千星(アレクセイ)…サーシャの護衛官。なんだけど…ちょっとイミシン[exclamation&question]みたいな役。出番も多く、印象に残る役ではあるが、特に演技力は必要ないような…[あせあせ(飛び散る汗)]そして、衣装の着こなしが、あまりカッコよくなかったように思う。

【今日の言葉】~宝塚日めくりカレンダーより~
「西施。お前は、可愛い私の鶯だ。私は、お前によつて、はじめて人の世の喜びを知つた。私の鶯よ、決して私の傍から飛んでいつてはいけないよ。お前の願いひなら、どんなことでもきかう」by呉王@『西施』
作・演出:香村菊雄
月組 1950年

掲載されている写真は、久慈あさみさん、緋櫻陽子さんでした。

「愛燃える」と同じテーマのお芝居、前にもやっていたんですね。


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