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「パリ空」に最後のつっこみを [┣宝塚作品関連本等の紹介]

ようやく、借りていた本を読み終えた。

ギュスターヴ・エッフェル―パリに大記念塔を建てた男

ギュスターヴ・エッフェル―パリに大記念塔を建てた男

  • 作者: アンリ ロワレット
  • 出版社/メーカー: 西村書店
  • 発売日: 2001/09
  • メディア: 単行本

エッフェルさんの評伝である。
内容は、エッフェルさんの一生とその数々の偉業について、なかでも、エッフェル塔の建設について、本人の著書や同時代の著作物、とりわけ多くの写真も利用しながら、19世紀末という時代と、その中に生きた「鉄の魔術師」エッフェルが浮き彫りになるように、注意深く書かれている。
客観的な記述が多いのだが、その中で、鉄の時代の芸術性を引き立てたのが写真だったという一文が印象的。この時代は、石の文化から鉄の文化への端境期。そして、絵画に対して写真というものが一般化した時代。
当然、石側、絵画側は、新しい鉄や写真を攻撃する。
21世紀、石と鉄、絵画と写真は共存している。しかし、それは結果であって、新しい技術が生まれた時、古いものは「とって代わられる」恐怖を禁じ得ない
事実、絵画と写真は共存したが、ビデオとDVDは共存できなかったのだから。
そして、鉄の芸術性は、同じく新しい文化である「写真」が伝えることになる。「写真」は事実を等身大に伝える。大胆なデフォルメはできないが、一瞬の構図を切り取ることができるから、絵画ではありえないアングルが可能になる。
そして、どんな細かい情報も一瞬で切り取る写真だからこそ、幾何学の中の芸術性が浮かび上がる。
もちろん、エッフェル塔を描いた絵画にも素晴らしいものがあるのだが、最初にその芸術性を気づかせたのが、写真だったというのは、なるほど!と思わせるものだった。

さて、「パリ空」関連の新しい情報。

エッフェル塔の設計者について。
よく、エッフェル塔の設計者は、モーリス・ケクランとステファン・ソヴェストルで、エッフェルは建設会社の社長などと書かれていたりする。
そうすると、エッフェルさんは、土建屋のオヤジみたいな印象を持たれてしまうだろうが、根本的にエッフェルさんは技術者である。ただ、彼は経営のできる技術者だったのだ。
彼はさまざまな技術的発明を行なったし、橋の建設においては、革新的な方法をいくつも考案している。図面も書くし、構造計算もやる。
鉄の橋をいくつも造り、そういうエッフェル社に彼と同じような技術者が多く集まった。そんな社員の中から、1889年の万博用のモニュメントとして鉄塔を作る、という案が持ち上がった。エッフェルさんは、社員のアイデアを買い上げ、引き続き研究させ、短い期間で建設するためのさまざまな手段を考案し、万博に間に合うように引き渡した。
エッフェルだから、コンペを無競争で勝ち上がったのだし、エッフェルだから工事は成功したのだし、第一、下に書いたように、エッフェルが資金を調達したのだ。
この塔は、エッフェルのみによって建設された塔ではないが、やはり、エッフェル塔と呼ばれるのが一番相応しいという気がする。

エッフェル塔の建設資金について。
「工事の費用として、博覧会予算から150万フランと、博覧会開催中および1890年1月1日から20年間の塔の営業収益がエッフェル氏に代償として与えられる。」
という契約が結ばれていたらしい。
この150万フラン(決して1500万フランではなく)は、3回に分けて支払われた。
2階まで完成したところで50万フラン、3階まで完成したところで50万フラン、そして仮引渡しで50万フラン。かなりケチくさい払い方である。
一方、収益権は、1910年に70年間に延長され、1980年にパリ市が株式の大半を所有するエッフェル塔経営新会社に引き継がれたという。
結局、90年間に亙って収益を受け続けたのだから、「もうかりますよ~」は間違いなかっただろう。
が、どうやら、一般株主はいなかったらしい。
エッフェル氏の計画によると、当初の工事費は650万フラン。
ここから助成金の150万フランを引いた、500万フランを捻出しなければならなかったエッフェル氏は、「500フランの株1万株からなる資本金500万フランの会社設立を計画」したらしい。
フランスワイン業界だけで買い占められますな!
と思ったら、なんと、株の半分はエッフェル氏が所有したという。つまり自己資金を250万フラン拠出したわけですね。
そして、残りの250万フランは、3つの銀行がつくる「企業連合」が取得したらしい。
やるな、アルベール…
実際の建設費は、745万フラン強。(7,457,000フラン)
そして万博期間中の収益は、651万フラン弱。(6,509,901フラン80サンチーム)
期間中の償還は難しかったが、その後、短期間で全資金は回収されたようだ。

さて、「パリ空」最大の突っ込みどころは、言わずと知れた嵐の夜の場面である。
300メートルの塔を血だらけになりながら支えたって…身長高くても2メートル弱の人間が?
支えるもなにも、足元2メートルあたりじゃ揺れもしませんから!ってところだろう。
建設中の塔なら、足場がある。
エッフェル塔の足場は木造だった。
だから、たとえば足場が崩れる、とか、崩れそうな資材置き場とか、リアリティのある設定にできなかったんだろうか?と思う。そういう事故の可能性なら、十分にあったはずだから。
でも、塔が倒れる可能性は万にひとつもなかった。
どこかの一級建築士なんかよりずっと緻密な計算で、この塔は造られている。風で倒れないように、途中で傾かないように。
「パリ空」は、最近の植田先生の作品の中では、わりと好きな方だ。
だから、リアリティがない、っていうことへの不満があるわけではない。
ただ…たぶん、エッフェルさんや、ケクランさんや、ソヴェストルさん…みんな、風で塔が揺らがないか、それを一番気にして、細心の注意を払ってこの塔を設計したと思うのだ。なのに、そのことにリスペクトが足りないのはすごーく残念だなぁ~と、そこだけ、もう一度だけ突っ込んでおきたかった。
そう思える詳細な記録が書かれたかなりマニアックな本だった。

【去年の今日】
フィッツジェラルド紹介の続き。
それとは別に、去年の「去年の今日」の記事で、祐飛さんの別格3番手を認めてほしいということを書いているらしい。
そのことを書きつつ、今の祐飛さんは、路線方向に向いている、と書かれている。
1年経って…路線方向っていうのも、どうだろう?という気持ちになってきた。
でも、出版物では路線扱い、舞台の扱いもよくて、でも路線じゃない、でも、すごくファンが多いイメージがある。(観劇後、出を待つファンは多いなぁ~と、思う。)
あーつまり、そうか、only oneってことか。


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