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宝塚歌劇月組公演「パリの空よりも高く」その2 [┣宝塚観劇]

新春を華やかに、ということだろうか、この芝居のオープニングは、パリらしいレビューで始まる。
私が観たのは、1/7-8だったが、開演アナウンスに「新年あけましておめでとうございます」が入っていた。そして幕が上がると、セットに電飾だけの舞台
誰もいない舞台に瀬奈じゅんの歌が流れる。
♪パリの空よりも高く~
微妙に音程がフラットしている
ショーに出てくる歌詞、「フラット気味のかすれたハミング」って自分のことだったのか三木先生も大胆だ…
そして、トップハットにステッキを持った生徒がわらわら登場し、「シャンパーニュ」で舞台が始まる。男役は紳士らしく、娘役は淑女らしく、これこそパリの古きよきレビューという感じ。
途中、瀬奈・彩乃赤い衣装でのタンゴも挟まれ、ロケットもあり、芝居よりオープニングのレビューの方が面白いかも?と思わせたのは、本当にそれいいのだろうか?
ロケットのキックが思い切りよくて、かなり好き。あれは、背の小さい生徒の方がシャープなラインが描けるような気がする。しかし、この場面はどういうわけか、揃った時に身長がバラバラで、あまり美しくなかった。どセンターをスターにする演出はOKだが、それ以外のメンバーは、中高でも中低でもいいから、身長順に並べてほしい。
祐飛さんのデュエットダンスのお相手は、ねねちゃん。
大空・夢咲のコンビはふわふわの砂糖菓子を見るようで、幸せ感が漂う。黒い燕尾服とピンクのドレス、おとぎばなしのような場面に相応しい、可愛らしいコンビ。ちなみに、反対側は、霧矢・城咲コンビなのだが、初見ではそちらまで観る余裕がなかった。

…というようなプロローグが約15分あって、そこから芝居が始まる。
オープニングの場面は、原作とまったく同じ
突然の電報を受け取ったオテル・ド・サンミッシェルのオーナー、エレノール(出雲綾)が20年前の仲間達を呼び出して、昔語りを始める。
登場人物間では、お互いに自明のことをくどくど長々と話すのは、もちろん観客にこの芝居の前提条件を説明するためだが、原作と似ているようで違うのは、やはり、菊田一夫と植田紳爾の才能の差なのだろう。
新組長の出雲綾をはじめとして、副組長の嘉月絵理、専科の未沙のえるらの芝居は、巧みで、伏線に満ちているはずで、こちらも聞き漏らすまい、と神経を集中する。(後に無意味だったと知る)
パリでは第1回の万博以来、10年前後ごとに万博を開催していたらしい。
エレノールたちが思い出しているのは、第2回目の万博。その時、万博の成功と共に、このホテルも大繁盛したことをエレノールは忘れがたく思っている。
エレノールだけでなく、ここに集う人々は、ジュリアン・ジャッケがプロデュースした万博の成功によって現在の地位を築いた人々だった。
続く第3回目の万博は、社会情勢も悪く、なにより中心地がこのホテルとは遠いことで恩恵にあずかれなかったエレノールは、今度こそ!との思いを抱いている。そんな時に、かつての万博の立役者、ジュリアン・ジャッケの遺児がこのホテルを訪問する!という電報は、エレノールの心を沸き立たせるものだった。
ちなみに、時は1886年。第2回万博は1867年。その時独身だったジュリアン・ジャッケの遺児なら、まだ子供なのでは?という疑問が周囲を支配した時、ジュリアン・ジャッケ遺児のアルマンド(瀬奈じゅん)が登場する。

青いスーツに身を包んだアルマンドが、キラキラと登場する。
このキラキラな登場こそ、植田歌舞伎の真髄。このために観客はこれまで待ったのだ!と思わせる演出。いわゆる焦らしのテクというヤツだ。21世紀に焦らしのテクもないだろう、とは思うが、演出としてナシであっても、瀬奈のキラキラはそれだけで価値がある。
こうして、ジュリアン・ジャッケの遺児になりすましたアルマンドが部屋に案内された後、登場したのが弟分、ジョルジュ(大空祐飛)である。彼も電報を打っていたのに、誰も待っていてくれない、気の毒な状態。情けない表情がうってつけのキャラクターである。
実は、こちらの方が本物のジュリアン・ジャッケの遺児らしい。
ここで、少し真面目な話を書くが、瀬奈が登場した時、周りの人々はどう見ても20歳より上だろうというような反応をした。ジュリアン・ジャッケの遺児は、どう大きめに考えても18歳前後のはずだから、変だと。
で、大空がその役?それはどうなの?
役者である以上、特に舞台の場合は、実年齢よりずっと下だったり上だったりする役を演じることが多い。この先、この二人が10代の少年役を演じることだってあるかもしれない。
ただ、素で立っている瀬奈じゅんを「どう見たって20歳以下に見えない」と評してしまった後に、同期の大空が、本物の10代で登場するというのは、植田先生、いじめですか?それとも…大空さんのこと、かわいいと真剣に思っての所業でしょうか?

ここからの物語は少し端折る。
同じホテルに泊まっているギスターブ・エッフェル(霧矢大夢)という男の構想から、アルマンドは詐欺を思いつく。世界一の塔を造る、と言って建設資金を持ち逃げするのだ。
しかし、どういうわけか3年の間、彼は「持ち逃げ」の機会を逸し続ける。
ジョルジュは自分から行動を起こせる性格じゃないから、「アニキ」をせっつくだけだ。せっつくだけだから、無責任でいい。が、せっつかれたアニキ、実は小心者の小悪党なのである。
こういう男の考えることは想像がつく。100万フランの大金だから、失敗が恐くて動けないのだ。少し建設が進んで手許金が少なくなってからことを起こそう!ということだ。
ただ、原作には、甑島と本土を結ぶ船は一週間に一度しか出ない、という縛りがあった。場所は旅館だし、女将がしじゅういるから、なかなか船が出る時と、二人が逃げ出すチャンスが一致しないというのは、わかる。
が、パリなのだ。夜逃げして別のホテルに泊まって朝一の列車に乗れば、簡単に逃亡できるだろう、と思う。そこが、この芝居の設定上の弱さになっている。アルマンドとジョルジュが、「逃げたくても逃げられない事情」を作っておくとよかったのではないだろうか?

ミミの設定が弱い点は、前回にも述べたとおり。
あそこで書いた物語(ミミとギスターブが恋仲だったが、ミミがアルマンドに惹かれてしまう)が、新春にはちょっと重いのなら、せめて、アルマンドが25歳くらい、ミミが23歳くらいの設定にして、ミミがかつて、(子供の頃)ジュリアン・ジャッケ氏に救われた、というようなエピソードを入れたりすれば、彼女がどうしてこれだけ一生懸命になるか、という理由付けになるかもしれない。

嵐の夜については、もう、書くのもどうなの?という感じだが、原作は造船の話建造中の船が嵐で海に流されたら沈没するしかない、しかも木造船。だから、嵐の中を多くの男たちが造船場に行って、船が流されないように、支えた、という当たり前の物語だ。
しかし、建設中の塔が嵐で倒れてしまう、なら、建設後だって嵐が来れば倒れてしまう塔だということだ。足場が壊れて、建設工事が遅れるかも…とか、ほかにいくらでも「難儀」の設定はあっただろうに…本当に語る価値もない、ばかばかしい話である。
血だらけになって300メートルの鉄塔を支えるなんて…まさか、劇団は、そんな加重を今後も瀬奈率いる月組に科すつもりじゃないでしょうね

モンマルトルの丘でのラストシーンは、ジャン(明日海りお)が、オスカルを止めるベルナールみたいでちょっと笑えるのだが、あれはあれで、宝塚のラストシーンの典型なので、わりと好きだし、なんといっても後味が悪くないだけで、植田先生としては◎(にじゅうまる)だと…。(ハードルひくっ
そんなわけで、突っ込みどころが満載なれど、私は、この作品、嫌いではない。
…というのが、結論である。

以下、出演者感想
瀬奈じゅん(アルマンド)…登場場面のキラキラ感は、まさにスターならではのもの。トップとして安定期に入った感がある。早口のセリフも聴き取りやすいし、笑いをとるところ、観客の心を掴むところ、二枚目としてかっこよさを見せるところ、ちゃんと心得ていて、それが小気味いい。そこから先を見せてほしいのに、それだけの役に一度も恵まれていないのは、何か悪いものでも憑いているのだろうか?
彩乃かなみ(ミミ)…彩乃せんぱいには、どんな役が一番似合うのだろうか?私の好みは、シャノン>ミミ>ポルキアだけど、まだ本当の彩乃せんぱいらしい役に出合っていない気がする。東京版のゼルダは絶品だったけど、あれは宝塚の娘役としてありなのか?っていう疑問もあるし…。ま、今回は、しどころのない役、としか言いようがなかったです。せんぱいも何か悪いものが憑いているのかもしれない。
霧矢大夢(ギスターブ)…うまいし、存在感があるし、とにかく歌がいい。これまでの役は、いいんだけど、その方向性でやるか?っていう疑問がなくもなかった。もっとファンが付くようにやる方法もあるんじゃないか?という姑息な点で…。でも、今回は、これ以外にやりようがなかったせいもあるけど、納得の役作りだったし、ステキでした。ミミが、こんなギスターブのよさに気づくような娘なら、もっとミミに好感度アップだったんだけど…。
大空祐飛(ジョルジュ)…かわい~登場シーンでは、ぜひオペラグラスで瞳のキラキラ具合を見ていただきたいどうしようもない間の悪さとか、徹底的に人に頼っているわりには、その相手には容赦なく突っ込むという、末っ子っぽい役作りがツボだった。これといって、しどころのある役でもないが、やたらと着替えているあたり、しかも全部ものすごいセンスの服であるあたり、さらにそれをなぜか着こなしているあたり、大空らしさが溢れている。ラストシーンで銀橋を走って渡るところが、スターとして微妙な扱いながら、なぜかとても好きなシーンだ。
遼河はるひの演じる、「御曹司」は、奇妙なキャラクター。普通二代目は、こんなに懐疑的な人物じゃないと思うが、まあ、パパも苦労したらしいので、納得することにしよう。
出雲綾の演じるホテルオーナーのエレノールは、貫禄の熱演。この役が、この芝居のカナメになるわけで、出雲がこの出番で歌って、踊って、だったらかなりお腹いっぱいになりそうなところだが、今回は芝居だけに徹していたし、役柄もぴったりで、面白かった。
未沙のえるの演じるレオニードがこの作品を救った。原作から少し離れ、植田先生は未沙らしい役を作ったし、未沙も、期待に応えている。今後、バリエーションが増えてきたら、もっと面白くなるような気がする。
明日海りおが演じるミミの弟、ジャンは、下級生の中で一人だけ大勢芝居ではないところで、得をしている。大空とのやり取りなど、おいしすぎる場面だし、学年があがるにつれて、地ではなく、ちゃんと演技で可愛さを表現するようになり、好感が持てる。
嘉月絵理は堅実な将軍。越乃リュウは銀行家とのことだが、だったら彼が出資金を扱った方がいいんじゃないか、と思ってしまった。役作りは楽しんで演じているようだが、越乃以下の生徒は、もう演出すらされていないのだ、という気がする。もう少し、それぞれの役どころと全体の調和を考えて、場面としての演出がされていると、こんな作品でも少しは締まるんじゃないだろうか?
下級生はすべてグループ芝居。
ホテルのボーイとして、青樹、星条、龍、綾月の4人がセット。それぞれに個性を発揮しているとは思う。娘役のグループ(涼城、城咲、憧花、白華、夢咲)は、みんなとても可愛かった。

それにしても、「パリの空よりも高く」の歌詞、

パリの空よりも高く 夢を描け

は、ともかくとして、

パリの空よりも高く 愛はひらく

って…意味わかりませんが…

【去年の今日】
おしるこを作った。
毎年11日じゃなくて、15日くらいになっちゃうのよね。今年も作ってみた。


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ms

夜野さまがこの嫌いじゃないというのを読みまして。
嬉しいです。
私も嫌いじゃないです。
いろいろとツッコミどころは満載ではあるものの。
どこか微笑ましい部分があったり。
植爺は微笑ましくないのですが・・・(笑)

10代設定のゆうひさんを見れるなんて。
かなり素敵なことですね!!
by ms (2007-01-19 21:27) 

でるふぃ

夜野さま、こんばんは!(今日は、めずらしく、朝が忙しかったので)
夜野さまの、桃色デカかわい~に、心かき乱されてしまいまして、
自分の場所にも、ハートを飛ばしてしまいました~(^^)
もう、かわい、かわい~で、どこまでも、飛んでけ~、って感じですね!!

トップコンビの『何か悪いものでも憑いてるのかも・・』発言には、笑ってしまいましたが。
たしかに、愛すべきキャラが続いてはいますが、作品的には恵まれてないのでは・・・
と、友達のたーたんファンに言いました所、
「いいじゃん、とにかく新作ばかり、作ってもらってるんだから」(今回は一応オリジナルはありますけど、別物ですから)
確かに、全部、あて書きは、されてるんですよね。
でも、あの東京のゼルダを観た後では、
この前の額田だって、かなみちゃんなりの、別な作り方があったのでは、なんて、思ってしまうし。
この次は、もっともっと違う色の、二人が観たいな・・
これは、先生方にお願いすることですよね。久しぶりに、また、劇団にお手紙、書こうかな。
by でるふぃ (2007-01-19 22:00) 

夜野愉美

msさま
msさまも嫌いじゃない、ということで、じゃ、東京は通えますね。
ね?ね?
10代の祐飛さんを、堪能しましょうっ!

でるふぃさま
ええ、可愛いです、祐飛さんは。期待していていいと思います!
>「いいじゃん、とにかく新作ばかり、作ってもらってるんだから」
新作ならいいっていうものでもない…気もしますが…。
私はたーたんトップの時の作品は、とても好きでした。でもファンの欲は果てしないですものね、気持ちはよくわかります。
先生方、ファンの切ない気持ちをどこまでわかってくださっているんでしょうね?
by 夜野愉美 (2007-01-19 22:51) 

メイ

いつも楽しく読ませて頂いてます。夜野様と全く同じような事を思った事も
多く、うなずき回数アップ爆笑回数アップのこの公演評。東京では何回見られるか悩ませてくれるなんて、植田先生ならではです。
大劇を見て、一番感心したこと。大空さんの芝居での衣装の色合わせの凄さ。ネクタイといい、スカ-フといい「何でこの色?」って問いつめたくなりますよね。デモでもそれを、完全に着こなしてしまう大空さん。特技としか思えません。19才のジョルジュ。可愛い過ぎますね。
by メイ (2007-01-20 01:28) 

夜野愉美

メイさま
コメントありがとうございます。
やはり、メイさまも、思われましたか?ジョルジュ、すごい服装のセンス、してますよね。やはり花のパリでバカにされないように、頑張っちゃった田舎者設定でしょうか?
スカーフについては、巻き方も微妙ですよね。
ええ、そして着こなす大空さん、最高でした!
by 夜野愉美 (2007-01-20 12:20) 

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