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宝塚歌劇専科バウホール公演「オイディプス王」観劇 [┣宝塚観劇]

ギリシャ悲劇
「オイディプス王」~ソフォクレス原作「オイディプス王」より~

原作:ソフォクレス
脚色・演出:小柳奈穂子
作曲・編曲:手島恭子
振付:AYAKO
装置:二村周作
衣装:有村淳
照明:笠原俊幸
音響:大坪正仁
映像:奥秀太郎
小道具:伊集院撤也
歌唱指導:彩華千鶴
演出助手:樫畑亜依子
衣装補:加藤真美
舞台進行:黒岩泰夫

バウホールと轟悠、ここに何を持ってくるか、演出家・小柳奈穂子は、ギリシャ悲劇「オイディプス王」を選んだ。
宝塚の象徴として在団し続けることを選んだは、トップスターの新たな魅力を引き出すために、大劇場や梅田芸術劇場等でW主演の一方を引き受けたり、バウホールやDCで専科公演や各組若手公演の主演を引き受けたり…と、毎年一度以上は舞台に立っている。
先日も、来年の花組DCでの主演が決まったばかりだ。
担当する演出家は、18年もの間、宝塚の舞台で主演し続けている轟悠というスターに、新たに、どんな作品で、どんな役を演じてもらうのか…悩みつつ、試行錯誤しつつ、その結果、上演された作品群は、結果として“宝塚としての挑戦”にもなっているところが、面白い。
雪組トップ時代に、バウホールで“独り舞台”にまで挑戦しているなのだから、それは当然の帰結かもしれない。
そして、そもそもバウホールという劇場が、若手発掘の舞台であると同時に、実験的な作品を上演するという目的で建設されたことを考えると、主演のバウホール公演こそ、その意義を果たすための舞台であるかもしれない。
(若手スターの主演公演の場合は、失敗すれば、スター生命を奪うことになりかねないので、あまりに実験的な作品は、上演しづらい。)

「オイディプス王」は、紀元前430年頃にソフォクレスという人が書いた戯曲が原作。しかし、元になる一連の伝承の物語があり、観客は、どういった内容の芝居が行われるのか、結末はどうなるのか、を十分知った上で、観劇したとのこと。ギリシャ悲劇は、だいたいそんな体で、より優れた舞台を目指し、同じような題材を元に競作され、優劣を決められ、その一部が、こんにちまで伝えられている。
まあ、そんなわけで、結末についても、ネタバレではなく、それありきで上演される形が、宝塚でも踏襲されている。なので、販売プログラムにも結末は△△です、と書かれている。さすがに、これは斬新だな、と思った。
さらに、1幕90分で完結という、非常にコンパクトな公演でもある。
緞帳は、上がった状態で開演を待つ。セットは、中央に大きな階段とアーチ、上手と下手にそれぞれ階段と台。そして、上空には、太陽のモチーフが描かれている。このセットが作品の重厚さを開演前からアピールしている。
開演時間になると、月組・宙組の研1生からなる“コロス”(テーバイの市民たち、という設定らしい)と、テーバイの市民たちの長(夏美よう)、巫女(憧花ゆりの)が、登場し、巫女がこれまでの物語をかいつまんで語る。ここでは、ソフォクレスの「オイディプス王」では割愛されている、当時のギリシャ人の間では常識だった物語が、ポイントのみ語られる。
小柳オリジナルとして、ここから物語を描き始め、2幕のバウホール作品を作ることもできたと思うが、今回、小柳先生は、あくまでもソフォクレスのギリシャ悲劇「オイディプス王」に拘ったようだ。

テーバイの王ライオスは、アポロンの神から「息子が王を殺し、王妃を娶る」というお告げを受けたため、赤ん坊だった息子の両方の踵に鋲を打ち、山中に捨てるように命じた。それから十数年、王は、アポロンの神殿に向かう途中、盗賊に殺害された。その直後、テーバイにスフィンクスという怪物が現れ、人々に謎かけをしては、答えられないものを食い殺していた。そこへ通りかかったオイディプスという若者が、謎を解き、スフィンクスを退治したので、テーバイの人々は、彼に空位となっている王位につくように要請した。オイディプスは王となり、先王の妃であったイオカステを妻とした。
それから時は流れ、再びテーバイに危機が訪れた。
作物が枯れ、人々が飢えに苦しむようになったのだ。
物語は、ここから始まる。
王妃の弟、クレオン(華形ひかる)がアポロンの神殿にお告げを聞きに行っている。戻ってくると、先王殺害の犯人がいまだテーバイの中で安穏と暮らしていることが原因だという。これを聞いたオイディプス王(轟悠)は、徹底的に犯人探しを行うと宣言する。
クレオンは、その助けとして、盲目の予言者テイレシアス(飛鳥裕)の話を聞いてはどうか、と提言する。
現れたテイレシアスは、自分の心の目に映ったことは、とても口にはできない、と固辞するが、オイディプスに暴行を受け、とうとう真実を口にする。その犯人は、王自身である、と。
これを聞いたオイディプスは激怒し、すべては、王になりたいクレオンの陰謀ではないか、と邪推する。クレオンは、そもそもテーバイでは、王と王妃と自分は、同等の富と権力を持っているのに、どうしてその上、責任の重い王という立場を得ようとするのかと反論するが、激昂したオイディプスは聞き入れない。
そこへ、王妃イオカステ(凪七瑠海)が現れ、そもそも予言などいいかげんなものだと言い出す。なぜなら、先王は、自分の子に殺されるという予言を受けて、赤ん坊を山に捨てたが、結局は、アポロンの神殿の近くの三叉路で、関係ない盗賊に殺された、と。これを聞いて、オイディプスは驚く。
急いで、王が殺された時のただ一人の生き証人を召喚することにするが、王は、イオカステに事実を語り始める。その王殺し、かつて自分が犯した殺人と、時期・殺害場所が一緒なのだ、と。国王が少人数で出掛けることなどありえないし、複数の盗賊に襲われたと聞いていたから関係ないと思っていたが、状況が似すぎている。
その頃、王の祖国、コリントスから使者(悠真倫)がやってくる。彼は、コリントスの王が死去したため、オイディプス王を新王に迎えたいと言う。
予言を信じていない王妃は、さきほどオイディプスから、「父を殺し母を娶るというアポロンの予言により、コリントスから出奔した」という話を聞いていたので、また予言が外れた…と喜んで王に伝える。王は、まだ、母を娶る方の予言があるから、国には帰れないと恐れる。それを聞いて使者は、あなたはコリントスの王の子ではない、山中で私が拾って王の養子となったのだと伝える。
この時の詳細描写によって、イオカステは先に真実に気づき、その恐ろしさにおののく。そしてそれ以上の真実追求をやめるように王に嘆願するが聞き入れられずに嘆きながら退場する。
羊飼いとなったかつての伝令(沙央くらま)は、前テーバイ王・ライオスとイオカステの間に生まれた赤ん坊をコリントスの使者に渡したことを認め、このことにより、王は、先王の殺害犯であること、父を殺し母を娶ったことを知って、絶望して退場する。
報せの男(光月るう)が登場し、王妃の死と王が自らの目を突いて盲目となったことが告げられ、目から血を流したオイディプスが登場する。そしてクレオンが現れ、王を追放する。
巫女により、その後の伝承の物語が語られ、オイディプスは死後、神になったことが告げられる。

今度は緞帳が下りて芝居は終わり、カーテンコールで外部の演劇のように、出演者が順に登場して拍手を受ける。音楽なし。その後、バウホールお約束のアンコールがあり、理事が感謝を述べて終了。

では、感想です。
まず、面白かった[ぴかぴか(新しい)]
宝塚ってギリシャ悲劇にも対応できるカンパニーなんだなぁ[グッド(上向き矢印)]
配役の妙というか、ヒロインのイオカステ役を男役である凪七に振ることで、男だけで上演していた当時の雰囲気に近いものができ上がる。そこに女役の憧花を「巫女」という名のナレーターにすることで、彼女が「外枠」の存在として生きるのだ。
全員が女性なのに、宝塚の舞台上では、基本、男役=男、女役=女なのだな…と、あらためて宝塚マジックの奥深さを思った。

細部については、まず劇の作り方が面白い。場面ごとに、ここは誰々のターン、みたいになっている作りが、モノローグ(独白)とダイアローグ(対話)、そしてコロス(合唱隊)のみで成り立っている古代演劇を可能な限り踏襲していて、古典演劇を初めて観るような、新鮮な楽しさがあった。
あと、音の使い方も面白い。楽器のことはよくわからないが、時代感を損ねない程度の必要最低限の音が入っていた感じ。歌も、コロス以外は、ソロで歌い、どれも聴きごたえがあった。基本的に歌のあるところが、その人のターンなんだと思うが、専科生の居ずまいというか、自分のターンになった時のバーンっと前に出ていく力強さ、他の人のターンの時には、空気を壊さない佇まいというか、出演している研1生には、なによりの勉強になったのではないだろうか。

出演者感想です。
轟悠(オイディプス王)…王としての圧倒的な佇まい。冒頭から、激情家であるところなど、伏線も張りつつ、運命に抗い、必死で生き抜こうとし、目の前の責任から逃れずに戦い続ける、強さと痛々しさと孤独感がハンパない。基本、理事の声は太くて逞しいけど、ニール・サイモンの時は、軽めだったんだなー。今回は、重低音がビシビシ響いていた。

凪七瑠海
(イオカステ)…美しい[ぴかぴか(新しい)]メイクや髪形も素晴らしいが、とにかく、非の打ちどころのないスタイルに茫然。デコルテと腕のラインの美しさは、娘役か[exclamation&question]というくらい。また、衣装が素晴らしかった。登場第一声の威厳のある声の張り、男役ならでは…[ひらめき]そして、年齢不詳な色気[キスマーク]があって、素晴らしいイオカステ様[ぴかぴか(新しい)]でした。

華形ひかる(クレオン)…突然疑われた善人ってこうなるよね?という、現代的な芝居を織り込んで、自分ターンのところでは、説得力のある演技を見せ、ラストはオイディプスを追放するという役割に徹し、そこに違和感を持たせない、見事な居ずまいだった歌もすごくよかった[るんるん]そりあとの青々しい顎あたりが、バウらしい挑戦だな…と思った。

沙央くらま(羊飼い)…組子から解き放たれ、今は、演じることに専念できる喜びが伝わってくるような、素晴らしい役者ぶりだった。専科生としては最下級生だが、老人の役という難役を見事な情感で演じていて、今後の活躍が一層楽しみになった。あらためて、台詞をじっくりと聴くと、いい声だなぁ~[揺れるハート]と思う。次回作も楽しみ。

5チーム6編成に分かれた月組の組長・副組長が、まさかの二人とも専科公演出演となったが、それぞれ幹部としてではなく、役者として必要とされての出演だったのだなーと、思った。またまたナガさんはっちさんの同期生コンビを見られて、嬉しかった。そして、まりんさんの濃さは、どんな上級生の前でも、薄められることはなく、今回も、まりんさんががっちりとさらったのを実感した。


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