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五社協定と日本映画の歴史 [┣公演内容の考察・検証]

2008年版「銀ちゃんの恋」は、現代劇ではない。映画界の状況(斜陽)から考えると1960年くらいの…つまり今から50年ほど前の時代背景に思える。
ただ、12年前の1996年版「銀ちゃんの恋」は、現代劇に見えた。ヤスの部屋のポスターは「フォレスト・ガンプ」(1994年)だったし。あまり覚えていないのだが、映画版も現代劇っぽいイメージに見えた。よく考えれば、50年前には、カラオケスナックもないし、コシノ3姉妹も、松平健もいない。(少なくとも仕事はしていない)
「デス・ノート」の話が出て来るのは、現代なのだが、ヤスのアパートの電話が黒電話だったり、産婦人科にピンク電話があったり…というのは、昔っぽいかな?

というわけで、私の中の結論は、「パラレルワールド」だったりする。
古き良き映画全盛時代の慣習を残したままの、アナログな別世界。そこでは、2008年になった今、「デス・ノート」は公開されているし、松平健もミュージカルで元ジェンヌと共演しているが、スケバンは相変わらずロングスカートをはいていて、携帯電話などは存在していない。
テレビのおかげで、映画産業は斜陽になっているが、まだ土地バブルは続いている。東洋映画は、本社の不動産部門がリゾートホテルを作って稼いでいるから、どうにか黒字を確保している。
1990年頃から、私たちの生きている世界と分かれてしまった、そんなパラレルワールドに君臨する大スターの銀ちゃん…という設定はどうだろうか?

さて、銀ちゃんと橘は、「同期の桜のニューフェース」という設定らしいが、今日はその辺りのことを調べてみようと思う。
映画産業全盛の時代には、監督も俳優もスタッフも、映画会社お抱え。「社員」扱いだった。
社員だから、応募制度もあった。それが「ニューフェース」である。東宝は1946(昭和21)年からニューフェイスを募集している。第一回のニューフェイスには、三船敏郎や久我美子がいたらしい。大映は、1945(昭和20年)からニューフェースを募集しているし、松竹に至っては戦前から募集していたらしい。東映は1953(昭和28)年から募集を開始し、一期生には、南原宏治(嘉月絵理さんのお父様=でも元々は大映のニューフェースで、デビュー後転身)、中原ひとみ、高田敏江などがいる。高倉健は二期生。日活は1954(昭和29)年からニューフェイスを募り、一期生には、エースのジョーこと宍戸錠がいる。小林旭や赤木圭一郎も日活ニューフェイス出身だが、石原裕次郎はスカウトなのでニューフェイスではない。なお、新東宝では、ニューフェースではなくて、「スターレット」(スターの卵)という名で募集をしていたそうだ。
ちなみに、ニューフェイス出身の小林旭は、どんなに興行成績がすごくても、雑誌のファン投票で1位になっても、石原裕次郎のギャラを超えたことはなかったそうだ。ニューフェイス出身者の悲哀かもしれない。
一方、「ニューフェース」という言葉がいやなばっかりに、映画ではなく舞台に進んだのが、江守徹。江守のシェイクスピア論は世界のどこに出しても恥ずかしくないものだと思うが、映画の世界に行っていたら、シェイクスピアにあそこまで傾倒しなかったと思うと、ニューフェースさまさまである。

さて、映画が衰退した原因をテレビに求めるのは容易いが、実際のところ、映画の衰退は、映画自身が招いたものでもあった。それが、五社協定である。
新興勢力である日活を締め出すために、その他の五社(大映・松竹・東宝・東映・新東宝)が、監督・俳優の引き抜きや貸出しを禁止する協定を結んだ。やがて独自路線でスターを作った日活も加わり、今度はテレビに対抗するようになっていくが、映画会社の横暴に抵抗した映画人たちは、活躍の場をテレビに移す。映画の斜陽化は、こうしたテレビの台頭とともに、人材交流のない映画界の硬直化にも大きな原因があった。
1967年に三船プロ・石原プロによる「黒部の太陽」が企画されたが、五社協定がネックになって、製作は困難を極めたらしい。その「黒部の太陽」が、「銀ちゃんの恋」と同じ時期に、同じ梅田芸術劇場(こちらはメインホール)で上演されたのは、なかなか面白いことだと思う。
そんな中、新東宝、大映が倒産し、日活は一般映画と決別しロマンポルノにシフト、私が物心ついた頃には、一般映画会社は、東宝・松竹・東映の3社しかなくなっていた。
協定は、その後自然消滅していく。


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静流

いつも、拝見させていただいておりますがコメントは初になります。
もちろんきっかけは祐飛さんのファンなのですが、この記事のような
「宝塚作品の周辺」のカテゴリーが楽しみで覗かせていただいております。
また自分が作文(?)が下手なので、うまく表現出来ない公演感想なども
(祐飛さん出演以外の他組の公演も)夜野さまの文章を読んでいると
「うんうん、そうそう!」とその表現力にもいつも感動しています。
なかなかコメント出来ないですが、これからも楽しみにしています。
by 静流 (2008-10-31 16:24) 

夜野愉美

静流さま
はじめまして。コメントありがとうございます。
「宝塚作品の周辺」を楽しみにしてくださる方がいらっしゃるなんて、嬉しいです♪ほとんど自己満足的カテゴリーなので。
公演感想は、いろいろ書きたい気持ちはあれど、なかなか文章にするのが難しくて、四苦八苦しています。
感想などいただけると、苦しくても頑張っちゃおう!という気持になれて嬉しいです。本当にありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。
by 夜野愉美 (2008-11-01 00:11) 

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