SSブログ

宝塚月組「ピガール狂騒曲」感想 その1 [┣宝塚観劇]

ミュージカル
「ピガール狂騒曲」~シェイクスピア原作「十二夜」より~


作・演出:原田諒
作曲・編曲:玉麻尚一
録音音楽指揮:佐々田愛一郎
振付:羽山紀代美、麻咲梨乃、AYAKO、百花沙里
装置:松井るみ
衣装:有村淳
照明:勝柴次郎
音響:大坪正仁
小道具:下農直幸
歌唱指導:西野誠
演出助手:谷貴矢
舞台進行:出合史奈


最初にひとこと、お断りを書かせていただく。
私は、シェイクスピアが好きで、原田先生の作品が嫌い…という嗜好を持っている。そのため、今回の「ピガール狂騒曲」については、過去の原田作品の三倍レベルの悪口雑言を書きそうな勢いになっている。月組を愛し、この作品を愛する皆様は、よほど気持ちが強かったり、ドMでもない限りは、この辺でUターンをしていただきたい。
出演者感想は別記事でやりますので、そちらをお待ちください[ぴかぴか(新しい)]


開演前から、ムーディーな音楽が流れている。
作品の中でも何度も使われ、フィナーレのとっぱしで銀橋を渡る暁千星にも歌われるこの曲は、「赤い風車」。1952年の映画「赤い風車」の主題歌だ。この映画は、ロートレックの短い生涯を描いた作品とのことなので、おそらく本作の影の主役はロートレック(千海華蘭)だと、私は密かに思っている。


十二夜は、クリスマスから数えて十二番目の夜に行われる公現祭を指す。どうやら、大昔は、イエス・キリストの誕生日が12月25日と1月6日の両方祝われていたようで、その整合性を取るために、後世、東方の三博士によるイエス訪問により、イエスの存在が世に現れた(顕現した)日=公現祭という形で祝わるようになった…のかな。まあ、博士らが星に導かれて徒歩でベツレヘムに辿り着いたのなら、12日くらい経っているだろうってことで。
シェイクスピア時代のイギリスでは、この日は、どんちゃん騒ぎをする日だったらしい。特に、異性装とか、主人と召使が入れ替わるとか、そういう無礼講をやる日。そう考えると、ヴァイオラの存在とか、サー・トービーのめちゃくちゃ加減とか、マルボーリオが召使から主人になり、トービーを下に見る妄想をする場面など、まさに「十二夜」。タイトルは、作品の世界観だったんだな~[ひらめき]と納得。
とはいえ、この作品を上演するのは、かなり難しい。「真夏の夜の夢」もそうだが、登場人物が、いくつかのカテゴリーに分かれて行動しているうちに、どこかで交わる。それぞれの物語を立てながら主筋を見失わないように演出しなければならない。そして、適当に造形されているようで、登場人物は、なるほど、この人物がここにいるから話がこうなるのね…という見事な着地点を持っている。でも、原典は長い。
カットして上演すると、いろいろ説明しなきゃならないし、プロットだけ簡単に利用しても、大切なところは伝わらない。シェイクスピアは、一筋縄ではいかないのだ。
原田先生、大丈夫[exclamation&question]


S1 舞台は、1900年のパリ。万博を前に、人々の心は浮き立っている。
パリ、万博、月組ーこの三題噺は、2000年代宝塚ファンのトラウマである。なぜ、わざわざ月組にパリ万博を持ってきたのか…[むかっ(怒り)]しかも、ムーラン・ルージュは、我々がトラウマとする、あのエッフェル塔の建った年に開店しているのだ[爆弾]
さて、モンマルトルにあるショーレストラン「ムーラン・ルージュ」から、当代人気の小説家ウィリー(鳳月杏)が妻のガブリエル(美園さくら)を伴って出てきて、記者たちが群がる。ウィリーは「クロディーヌ」で一世を風靡したが、実は、その著書は、妻が書いたものだった。(当時、女性の書いたものが出版される可能性はなく、才能があっても、男性の名義で出版するしかなかった。)
とはいえ、当の作者を前に、「アイデアはいくらでもある」とかホラを吹く夫に嫌気がさし、ガブリエルはその場で離婚を切り出し、立ち去ってしまう。


私がウィリーなら、ガブリエルを大事にするけどね。だって、金の成る木でしょ[exclamation&question]
あれだけの小説を書ける女性なんだから、たとえ、作品を発表するのに男性の名義が必要だとしても、それが自分から別の男に移るかも、っていう危機感がない…というか、ここまで無防備だと、ただのアホじゃないかしらね。


S2 ムーラン・ルージュ前のモンマルトルの広場を舞台に華やかなプロローグ。


主演の珠城りょうは、無人のオケボックスから銀橋に初登場する。珠城は、この作品で、まず、ジャンヌという女性が男装した“ジャック”の姿で登場する。まあ、それは知っていた。しかし、SS席2列(1列目は空席)センターで観劇した時、オケボックスから銀橋にさっそうと登場した珠城が、めっちゃ女子で、(役を生きているならそうなる)残念に思った。
「プロローグでは、スターとして登場していい」という長谷川一夫先生の教えが、50年もしない間にすっかり風化するんだな…[爆弾]と。
ここで珠城ジャックが歌う「ラ・ベル・エポック・ド・パリ」が一応、主題歌なのかな[exclamation&question]
“もしもこの世界が劇場なら、人は誰もが道化役者”とジャックは歌う。これは、シェイクスピア作品「お気に召すまま」に登場する、「All the world’s a stage, And all the men and women merely players」という有名なセリフを意識していると思われる。
しかし、誰もが道化役者ってどういうこと[exclamation&question]
シェイクスピア作品を知っていたら、道化という職業(貴族の退屈を慰めるために、歌を歌ったり、トンチをきかせた問答をしてみせたりする、賢いのに“Fool”を名乗る流れ者)の大切さもわかるし、道化を演じる俳優が「誰もがなれる」ようなものではないこともわかるはず。道化役者は、看板役者だよっ[exclamation×2][爆弾][爆弾][爆弾][爆弾]そんなこともわからないで、シェイクスピア作品をカバーするなっ[exclamation×2][むかっ(怒り)][むかっ(怒り)][むかっ(怒り)][むかっ(怒り)][むかっ(怒り)]
あ、すみません、最初からヒートアップしてしまいました。
音楽が録音となり、オーケストラボックスが使用されないため、本舞台から銀橋に、昔のTMP音楽祭の時のように、二本の橋が架かっている。その橋上に珠城美園が立って歌う光景は、もの珍しく、楽しかった。


S3 ムーラン・ルージュは、新しいレビュー小屋に客を取られ、閑古鳥が鳴いていた。支配人のシャルル・ジドレール(月城かなと)は、閑古鳥の原因を出演者に魅力がないから…と決めつけ、かつての栄光を取り戻すために、ウィリーの妻、ガブリエルを「クロディーヌ」のモデルという触れ込みで舞台に上げることを計画する。


シャルル・ジドレールは、史実上でもムーラン・ルージュ開祖の一人だが、実は、1900年の時点では、故人となっている。そのジドレールがオーシーノ公爵的ポジションの役として、本作にどうして登場したか…と考えるに、おそらく、前述の映画「赤い風車」に出てきたからだろうと思う。(あと、ニコール・キッドマン主演の映画「ムーラン・ルージュ」にもジドラーという支配人が登場する。)原田先生は、映画にインスパイアされることが多いから。
ちなみにガブリエルのモデルである作家のガブリエル・コレットも、実際にムーラン・ルージュの舞台に立っているが、時期は、もう少し後になる(1907年)。
つまり、シャルル・ジドレールとガブリエル・コレットがムーラン・ルージュで出会う可能性はゼロだった。その歴史上出会うはずのない二人を出会わせて、原田先生は何を書こうというのだろうか[exclamation&question]
(原田先生の作劇上の都合で歴史が捻じ曲げられるのが大嫌いなので、ここで早くも、身構える私。)


S4 そんなところに、先ほどのジャック(珠城)がやってくる。前場でハケ遅れた踊り子のミスタンゲット(天紫珠李)は、その姿を見て、あまりのイケメンぶりに圧倒される。ジャックは、シャルルの執務室を訪れ、ムーラン・ルージュで働きたいと言う。ダンサーではなく裏方をしたい、というジャックに、シャルルは、もし、ウィリーの妻であり、「クロディーヌ」のモデルである奥方をスカウトできたら、自分の秘書にしてもいい、と提案する。


この場面は、問題が山積している。既に、このシーンで、私の本公演への評価は確定してしまった[むかっ(怒り)](早い…)
[1]ここにも有名人が登場する。原田先生のデビュー作にも登場した歌姫ミスタンゲットだ。彼女がムーラン・ルージュに初登場するのは、既にスターとなった1909年なので、ミス(愛称)がムーラン・ルージュの名もなき踊り子だった事実はない。原田先生、とにかく有名人を出したいらしい[バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)]
[2]そのミスが、一目で腰砕けになるほど、ジャックはかっこいいらしい。このジャック、つい先日までは、ジャンヌという女性だった。演じているのは、研13のトップスター、珠城りょうだ。もちろん、超絶イケメンに決まっている。が、その珠城といえども音楽学校入学したばかりの頃から、出会ったばかりの女性を腰砕けにするほどのイケメンだっただろうか。よく、男役十年と言われる。彼女たちの美しさ、かっこよさは、長年の研さんによって、磨かれたものだ。先日髪を切っだけのごく普通の女子が、即座にムーラン・ルージュのトップスターであるレオ(暁千星)よりかっこいいと言われるのは、「男装」に対する認識が甘すぎるのではないだろうか。ものが男装(男役)だけに、フィクションとはいえ、看過できない[むかっ(怒り)][むかっ(怒り)][むかっ(怒り)]
[3]そもそも、原作の「十二夜」において、ヒロインのヴァイオラは、どうして、男装に成功できたのだろう。まず、彼女がまだ大人になりきっていない少女だったから。シェイクスピア作品で年齢がはっきりと作中に書かれているのは、ジュリエットとハムレットとリア王だけ…と言われているので、ヴァイオラの年齢はわからない(13歳で父を亡くしたと言っているので、14歳以上は確定)。が、双子の兄と、瓜二つと言われるくらいの年齢…と考えるに、せいぜい15歳くらいではないだろうか。それくらいの年齢の少女が、自分に瓜二つの兄の姿を真似て男装をし、そして、船長の紹介を受けてオーシーノ公爵の小姓になる。つまり、(1)男女が完全に未分化な時期に、(2)モデルになる身近な男性を模して男装し、(3)身元を保証してもらって就職したのだ。(3)は、あまり関係なさそうに思えるが、赤の他人だと、当然、相手の姿をよく見るのでバレやすい。誰かを間に立てて紹介してもらうと、その人の話や紹介状を見たりするので、本人への意識が削がれるのだ。こう考えると、ジャックが素敵かどうかは置いておいても、男装がバレずに就職できる可能性は、ゼロに近いのではないだろうか[あせあせ(飛び散る汗)][あせあせ(飛び散る汗)][あせあせ(飛び散る汗)]
[4]さて、ジャックことジャンヌの就活、「志望動機」は、「ムーラン・ルージュから出てくる人々が幸せそうだったから」だった。これは動機として弱すぎだろう。というか、本当は、どうして、ムーラン・ルージュで働こうと思ったのだろう[exclamation&question]清貧を美徳とする環境で育った女子が選ぶ職業には思えない。この辺の弱さが、「作者都合」と言われてしまう、原田作品らしいな…と思う[爆弾][爆弾][爆弾]
[5]ジドレールは、この就活生に、「もし、ガブリエルを口説けたら、秘書に雇ってやる」と持ち掛ける。いや、待て。「もし、〇〇できたら、雇ってやる」は、冗談社の青江冬星も言っていた。しかし、キャパオーバーの冗談社にとって、ロシアの亡命貴族のインタビューなど、記事にできればラッキー、できなくても諦められる代物である。それに対して、ガブリエルへの出演要請は、ムーラン・ルージュにとって、というよりは、ジドレールにとって、どうしても必要なものだったはず。いいのか、そんな大役、初対面の人物に任せて[爆弾]原作では、オリヴィアへの求婚のたびに断られ、既に出禁状態のオーシーノだったからこそ、一番可愛がっている小姓のシザーリオに、その任を託したので…この違いは大きいと思う[ダッシュ(走り出すさま)]


S5 ここで、ジャックの正体が明らかになる。ジャックは、実はジャンヌという女性で、母を亡くしたばかり。母が借金をしていたというマルセル(輝月ゆうま)は、返したはずの借金を返せ、無理なら、ジャンヌが持っている金のペンダントか、彼女自身の身を売れと迫ってくる。


過去の回想に入る前、ジャックは銀橋に立っている。その時、回想の場(本舞台)では、お墓の前でジャンヌが泣いている。泣いているのは、「ジャンヌ(ジャック)の影」ということになる。早替えの面白さを十分に楽しんでもらうため、影の俳優についてあえて言及しないことは、演劇界あるあるだが、この場合、同じ瞬間に珠城りょうが、舞台の二箇所に立てないのは自明の理であるから、あえて、影役をプログラムに載せないというのは、意味が分からない。ちなみに、98期の蒼真せれんくん。プログラムに載っている写真は、かなりいかつい感じだが、今回、珠城の影を演じたことで、メイクも大きく変わったんじゃないだろうか。今後が楽しみな美青年である。
さて、マルセルとその一味だが、ジャンヌの母にお金を貸したことがあるらしい。そのお金は、返したハズだが、証拠のない話なので、因縁をつけているように聞こえる。もちろん、ジャンヌが返せるとは思っていなくて、彼女を娼館に売り飛ばして、その代金をいただこうとしているようだ。まあ、それくらい抜け目のない悪党なのだろうが、彼らは、ここから物語のラストまで、ずっとジャンヌを追い続ける。
いや、そこまでの労力(マルセル含めた4人組で、ずっと追い回している)かけるほどの実入りにはならないと思うけどな…[バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)]


S6 マルセル一味に追われて窮地に陥ったジャンヌは、髪を切り、男として生きる決意をする。


髪を切ったら、すぐ男になれる[exclamation&question]貧しいみたいだったけど、服とか、どうしたんだろう[exclamation&question]彼女の周りには、男装するためのアドバイスができるような人が誰もいないのだけど…。
もし、私が、明日から男装して出社するように…と言われたら、何を調達したらいいのか、正直、わからないもん[あせあせ(飛び散る汗)]ネクタイピンとか、今は、みんなしてるの[exclamation&question]Yシャツのサイズ…わからん…[バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)]


S7 ウィリーが雇った弁護士のボリス(風間柚乃)が、ウィリーからの手紙をガブリエルに届けるが、まったくわかってない[exclamation×2]と火に油を注ぐだけだった。夫への怒りが収まらないガブリエルのところに、ジャックが現れる。ムーラン・ルージュに出演してほしいというジャックの申し出を断りながらも、ガブリエルはジャックの魅力にメロメロになるのだった。


手紙の内容を伝えるだけのために、せり上がる鳳月杏は、めちゃ面白かった[黒ハート]
さて、ウィリーと別れたガブリエルは、パリ市内のアパルトマンに住んでいる。どうやって[exclamation&question]
女性名義では本が出版できない時代ということは、女性一人ではアパルトマンを契約することもできない、ということなんだけど[exclamation&question]
まあ、ウィリーが本当はよい人で、妻の心が収まるまで、彼女のために部屋を借りてやった…としますかね。
なんで、ジャックが、ガブリエルの現住所を知ることができるの[exclamation&question]
家政婦(?)のエマ(晴音アキ)は、原作で言えばマライアのポジションにあるような、才気煥発そうな女性。彼女をもう少し膨らませたら、もっともっと楽しい作品になったろうな…と思うと、やっぱり、原田先生とは気が合わない。
ちなみに、ここで新調されたジャックの衣装は、誰持ち[exclamation&question]


S8 ムーラン・ルージュでは、座員たちがジャックの話で盛り上がっている。


振付師のミシェル(光月るう)は、これまでの宝塚作品が安易に採用しているように、ゲイ設定なのだが、ここまで、男性ダンサーに甘く、女性ダンサーに厳しい振付師が存在することだけで、イヤな気持ちになる。


S9 戻ってきたジャックは、ジドレールに、ガブリエルが「クロディーヌ」の真の作者であることを教える。要請は断わられたと言うと、ジドレールは、押して押して押しまくれ、と激怒するが、ジャックは、女心は追えば逃げる、ここは、一度引いた方がいいんです、と余裕綽々。はたして、ジャックの言うように、ガブリエルが現れる。


ジドレール、ここで自らガブリエルの説得に乗り出そうとするが、自分が行って説得できるなら、そもそも、最初から、行かない[exclamation&question]


S10 ガブリエルの出演条件は、「ジャックとのデュエットダンス」だった。絶対に表舞台には出たくないというジャックを、ジドレールは、ひたすらお願いし、ついにジャックは根負けする。


ジドレールのロングトーンの長さを煽るようなお願いシーンの果てに、ジャックは根負けするのだが、この、押しの一手に根負けするジャックは、女じゃないんですかね[爆弾]
毎公演、ロングトーン+アドリブという流れ…は、個人的には、好きではなかった。


ダメだ…まだ半分なのに、こんなに書いてしまった。別記事に続けてもいいですか[exclamation&question]


nice!(0)  コメント(2) 
共通テーマ:演劇

nice! 0

コメント 2

kiriishi

そうですよね。原田先生以外、珠城りょうに女の子なんて考え無い。プロローグから無駄に上手く女役を演じ分けていて、珠城さんの女の子を観て喜ぶ宝塚ファンがどこにいるのかと残念に思いました。
舞台上に二組のカップルが成立したのに、プログラムには名前が無いのも残念でした。楽しい場面も有りましたが、晴音アキさんの扱いと言い、私も原田先生と気が合うとはいえません。
そして、続きも楽しみに待っていますね。
by kiriishi (2021-04-06 23:55) 

夜野愉美

kiriishiさま
コメントありがとうございます。
同じような感性の方がいらして、少し安心しました。
原田先生と気が合う人ばかりかしら?と思っていたので。また、色々書いてしまうと思いますが、よろしくお願いします。
by 夜野愉美 (2021-04-09 20:42) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。