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「MOTHERS AND SONS」観劇 [┣演劇]

LGBT THEATER Vol.1
「MOTHERS AND SONS-母と息子ー」


作:テレンス・マクナリー
演出:三ツ矢雄二
翻訳:安達紫帆
美術:原田愛、三上奈月
照明:松田直樹(MG5)
音響:富田聡
舞台監督:田中翼
ヘアメイク:馮啓孝(アトリエ・レオパード)
衣裳:内海崇博
演出助手:長浜満里子
宣伝写真:宮坂浩見
宣伝美術:絵描きしんじ
制作進行:横山友和
制作助手:松浦聖子、大川俊輝
票券協力:サンライズプロモーション東京
衣裳提供:パラブーツ 青山店、イザイア ナポリ 東京ミッドタウン
制作協力:BBA
企画・製作:ミツヤプロジェクト


自身も数年前にカミングアウトしている声優・プロデューサーの三ツ矢雄二さんがプロデュースし、演出した「MOTHERS AND SONS」を観劇した。"LGBT THEATER Vol.1"と銘打っているので、今後も、LGBTにまつわる物語をプロデュースしていきますよ、という三ツ矢氏の宣言なのだろうと思う。


第1回公演に選ばれただけあって、本作は、テッパンと言っていい、見事な戯曲だった。
1980年代前半に"発見"され、ゲイの業病とまで言われ、多くの才能ある人々の命をも奪った"エイズ"、そして現代の同性婚合法化の流れの両方に跨るひとりのゲイの人生の記録と、一人息子の死から、20年以上、そこから一歩も動けていない母親の対比、それをワンシチュエーションの会話劇で見せるーすごい集中して観劇した。


一人の老女(原田美枝子)がキャル(大塚明夫)の住むマンションに現れる。毛皮のコートを脱ごうともせず、すぐ帰ると言いながら、でも帰ろうともしないその女性は、22年前にキャルの恋人だったアンドレの母、キャサリンだった。
アンドレは、29歳の時にエイズを発症、恋人であるキャルの懸命の介護も虚しく亡くなった。
エイズは、性行為により、感染する。キャルは、恋人がエイズで死ぬ運命だけでなく、恋人が浮気をしていた事実も同時に受け入れなければならなかった。(自分がHIVキャリアでない以上、アンドレの感染は、彼の浮気の証明でもある。)
すべてを受け入れ、その葬儀で出会ったアンドレの母親に理解されないことも受け入れたキャルは、それから8年後に、ウィル(小野健斗)と出会い、結婚し、バド(阿部カノン/中村瑠葦)という息子をもうけていた。
新しい人生を歩き始めているキャルと、すべてを受け入れることができないキャサリンの平行線を埋めることはできるのか…そんな物語。
※バド役はWキャスト。私が観た公演は、中村瑠葦くんがバドを演じていました。


キャルは普通に年齢を重ねて、エイズがゲイだけの業病と言われた時代から、HIVに感染してもエイズを発症せずに抑えられる時代を迎え、同性婚が法律で認められ、結婚して子供を育てられる時代までを、当事者として経験している。キャサリンも同じように年齢を重ねているが、彼女は意識的にそうした話題を避けていたから、世の中の流れが全然分かっていない。
浮気の結果エイズになり、キャルを苦しめたのは、息子のアンドレの方なのに、その死から8年後に、キャルが生涯のパートナーを見つけたことに怒りを感じるキャサリン。
彼女は、彼女自身の人生が、思い通りにならなかったことも含めて、すべてをキャルのせいにして、生きてきた。だから、生身のキャル(怪物でもなんでもない、普通のおじさん)を見て、戸惑っているところもある。でも、やはり許せないのだ。自分が失い(彼女は夫も亡くしている)、アンドレが手に入れられなかった幸福が、今、ここにある、ということが。
キャルは、彼が愛したアンドレの母親…ということで、少し遠慮をしている。が、キャルのパートナー、ウィルの方は、キャサリンに容赦ない。出会った時には亡くなっていたとはいえ、配偶者の心の一部を今も占めているアンドレは、ウィルにとっては恋敵なのだから。
そして、二人の息子であるバド。バドは、遺伝子的には、ウィルとその友人であるレズビアンの女性の血を受け継いでいるので、キャルとは医学的には親子関係がない。しかし、よく相談の末、子供を持つこと、そして、どちらが遺伝子的な父親になるか、ということを決めているし、二人が強い愛情をもって子育てしているせいか、バドは、素直に、幸せに成長している。
バドの生活を大切にしている二人…という設定で、客の前であっても、どちらかが中座して、バドの世話をする。その時間、自然にキャサリンと二人になるキャルとウィル。重大な秘密は、そんな時に現れたりする。
こんな風に、少しずつ、小出しになっていく真実により、少しずつ溶けていくキャサリンの心。
最後の一押しは、キャサリンの心など、気づいていない、幼いバドだった。彼女は、ここで、大きな心の欠損を埋められたのかもしれない…と思った。最初は、頑なに拒んでいた、コートを脱ぐことや、アンドレの写真を受け取ることを、最終的に受け入れる、その流れを見ていると、自分の心のこわばりを、一番溶かしたがっていたのは、キャサリン自身だったのかな~という気がした。


演出的には、ゲイのカップルだからといって、どちらかをオネエキャラにしたり…とか、そういう安直なことをせず、それぞれの人物をしっかり描いていたところに好感を持った。
出演者は、それぞれ、とても魅力的に役と向き合っていたが、バドを演じた中村瑠葦の可愛さの前には、何を言っても…という感じも、実はある。それは、それぞれの思惑を持つ三人の大人が、バドの素直さの前に太刀打ちできないのに似ている。
そうは言っても、私は、原田の芝居に、今も心惹かれ続けている。
一人で向かう老いの道。時に頑固に押し黙り、時に理不尽に叫びながら、それでも、胸を張って、前を見て進もうとする姿に、胸がいっぱいになった。


色々考えさせられる内容、Vol.2が、楽しみでならない。


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