SSブログ

「太宰治を聴く」 [┣コンサート・スポーツその他のパフォーマンス]

三鷹市.jpg


初めて訪れた三鷹市芸術文化センター。
ここで、毎年桜桃忌の頃に「太宰を聴く」というイベントが催される。今年が19回目。7月20日というのは、過去一番遅い日だったみたいで、昨年は6月15日に松重豊さんが、「皮膚と心」「燈籠」「待つ」を読んだ。
今年は、田中哲司さんが、「恥」と「グッド・バイ」を読む。それで、聴きに行くことにした。
ゆうひさんが出演した作品、あえて、ほかの人で見てみたい…かどうかは、作品による。「グッド・バイ」は、変則的な作品だったこともあって、あらためて原作に当たってみたい、という気持ちで、三鷹までプチ旅行をしてきた。


太宰が暮らした街である三鷹。そのため、毎年この時期に、「太宰賞」という公募新人文学賞を発表している。(筑摩書房が共催)その受賞者の挨拶がまず行われる。
今年の受賞者は、阿佐元明さんで、受賞作は「色彩」。
ご挨拶の中で、阿佐さんは、締切日が年末なので応募した(キリがいい)、とか、太宰の作品は句読点の味わいがあるので、朗読者が句読点をどのように表現するか、気になる…など、ユニークな発言で会場を沸かせていた。


第19回 太宰を聴く~太宰治朗読会~
朗読 田中哲司


音響:星野大輔(サウンドウィーズ)
協力:株式会社鈍牛倶楽部、杉山祐介、株式会社筑摩書房、公益財団法人日本近代文学館
主催:公益財団法人三鷹市スポーツと文化財団


「恥」
“菊子さん。恥をかいちゃったわよ…”で始まる女性の独白体で描かれる小説。
書き手は、とある作家のファン。でも、自意識過剰気味のファンなので、ファンレターも上から目線の描き方をしてしまっている。さらに、“愚かな女”設定らしく、小説の登場人物を作家本人と混同し、勝手に相手を脚気にかかった貧乏で女にもてないブサイクな男だと信じ切っている。さらに、一度ファンレターを出しただけで、次の小説の主人公が自分だと思い込み、激しく動揺して自宅を訪ねる。その一部始終が菊子さんへの告白という体で語られる小説だ。
田中は、ステージにフットワーク軽く駆け込んできて、阿佐さんのトークに触れ、「プレッシャーが…」とか「句読点は一切気にしていなかった…」と言って笑わせる。
朗読が始まっても、椅子に座ったままではなく、歩き回ったり、客席に背を向けたり、自由に振る舞っていた。そして、手にしていたのは、綴じられた本ではなく、A4横サイズの紙に縦書きされたものだった。田中はこれを読み終わるとステージに投げ捨てる。特に最初は、「恥」で一枚投げ捨て、「太宰治」で一枚投げ捨てるから、客席から笑いが漏れる。これは、“掴み”として大きかったと思う。
すごく自由に楽しんでいたように見えたが、休憩時間に投げ捨てられたままの原稿を見ると、「歩き回る」などとペンで書いてあるのが見えたので、ちゃんと意味を持って立ったり歩いたりしていたらしい。
女性言葉がなんとも言えず、可愛らしい感じのする朗読だった。


「グッド・バイ」
昨年、ゆうひさんが出演した舞台「グッド・バイ」は、根幹にこの小説があるものの、太宰自身の人生を被せることで、田島と永井キヌ子の物語をそこに収束させていくという手法を採っていた。そうでもしないとどうにもならないくらい、この未完の遺作は短い。10人もいるという愛人の一人一人とグッドバイしていく物語と書いておきながら、実際には一人とグッドバイして、二人目の話を始めようとしたところで、終わってしまうのだ。
三島由紀夫が「豊饒の海」シリーズ最終作を書き上げてから自衛隊駐屯地に向かったのとはえらい違いだ。最後の最後まで、太宰は読者泣かせの作家だったらしい。


この作品については、どうしてもゆうひさんの舞台を忘れて臨むことはできなかった。
主人公の名前は、田島周二。これを昨年の舞台では、田島周二=津島修治(太宰の本名)により近づけるために、「田島」を「たしま」と濁らずに読ませた。が、そもそも、原作にはルビがないので、今回は、一般的な読み方として、「たじま」と読んでいた。
ユーモアとペーソスに溢れた作品は、これからさらに面白くなりそう…というところで、ブツっと終わる。
「未完」と、最後の文字を読み終えた田中の声は、少し怒っているようだった。
「続き読みたいですねっ[exclamation]」と呟いた言葉が、彼だけでなく、客席全員の思いだったように思う。
この作品も、一枚読み終わるごとに、原稿が客席にばら撒かれ、終演後にそれを見ることができた。会話のシーンなどは、カギカッコのところにマーカーで色を付けて、誰が喋っているかを分かりやすくしたり…と、この一度きりのステージのために、様々な工夫がされていたことを知ることができ、朗読+αの楽しみを感じる時間だった。


ほんの短い時間だったが、太宰作品をたっぷり楽しめ、身近で田中さんの朗読する姿を見ることができ、楽しい土曜の午後だった。


nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:演劇

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。